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「同じ料金で同じ速度は実現できない」、総務省検討会でMVNOがサブブランド優遇を訴え
2018年1月15日 22:02
大手キャリアの“サブブランド”優遇は本当か、その争点はどこになるのかといった、最近の携帯電話市場の課題と解決を検討する、総務省が開催する有識者会合「モバイル市場の公正競争促進に関する検討会」の第2回が15日、総務省で開催された。
第1回は検討会の論点が案内され、座長や総務副大臣をはじめとした構成員から会合の意義が語られるにとどまったが、第2回からは各事業者からのヒアリングや質疑応答が行われ、本格的に議論が開始されることになる。
第2回に事業者として呼ばれたのは、MVNO事業者と、中古端末の取扱団体、および消費者団体の代表。MVNOは第3回でも呼ばれる見込みとなっている。
MVNOとして出席したのは、「IIJmio」のインターネットイニシアティブ(IIJ)、「楽天モバイル」の楽天、「mineo」のケイ・オプティコムの3社。中古端末ではリユースモバイル・ジャパン(RMJ)、ベイン・アンド・カンパニーの2社が出席した。また、消費者団体として全国消費生活相談員協会、全国地域婦人団体連絡協議会の2つも出席している。このほか総務省の事務局からは、MVNOの61社から回答を得たアンケート結果も紹介され、主要なMVNOの意見・傾向も紹介された。
検討会ではまずMVNOから、あらかじめ案内されていたヒアリング事項に基づき、各社の意見が述べられた。その後、中古端末の取扱団体からも課題などのヒアリングを行い、最後に消費者団体からの意見を聞いた。MVNO、中古事業者、消費者団体のヒアリングの後にそれぞれ、構成員からの質疑応答の時間も設けられた。
IIJ
IIJは、MNOとの競争、MVNO間での競争の、2つに絞って意見を述べた。出席者は取締役 CTOの島上純一氏。
サブブランド優遇を指摘「公平性に疑問は残る」
MNOとの競争については、データ通信の接続料の算定方法が改善され、低廉化や、「3MNO間での水準の近接化が進んだ」と、これまでの取り組みを評価。
一方で、MNOのサブブランド(Y!mobile)や、MNOのグループ会社によるMVNO(UQ mobile)の、通信速度などのサービス水準は、「MNOとMVNO間の競争環境の公平性を担保できる水準であるかについて疑問は残る」と指摘、課題解決に向けた取り組みを継続することを要望した。
MNOの囲い込み施策を問題視
IIJはMNOサブブランドとの競争について、競争自体は歓迎するものの、イコールフッティングの確保は重要とし、電気通信事業法第30条(禁止行為等)の適用事業者の拡大を検討するよう要望した。
これは、ユーザーの囲い込みを目的としたサービスやプロモーションについて、ユーザーの利益を不当に阻害しているか検証し、大手事業者による、サブブランドを使った反競争的・差別的なと取り扱いを抑止するためのガイドラインなどが必要と訴えるもの。
IIJでは例として、MNO自身の囲い込みの強化策で、プライムブランド(ソフトバンク、au)からサブブランドへMNPで転入する場合に、割引を減少するケースを指摘。また、プライムブランドからMVNOに転出を希望するユーザーに対しては、店舗や窓口でサブブランドを紹介するケースも問題視する。
後の質疑応答の時間には、神奈川大学経営学部 教授の関口博正氏から、IIJの指摘に対し、「メインブランド(プライムブランド)とサブブランドが渾然一体となって提供しているケースもある。ワイモバイルがソフトバンクよりも安くて速度も速いのは、社内で決めるもので、コスト構造は不明。30条ではこうしたケースは規制できないのではないか」と意見し、問題点のさらなる整理が必要であることを窺わせた。
楽天
楽天からは、執行役員の大尾嘉宏人氏、楽天モバイル事業 事業企画・管理課の小田祐己氏の2名が出席した。
サブブランドは「MVNOの2~3倍の容量」
大尾嘉氏は、接続料が高すぎるという指摘で、その論拠として、サブブランドが提供している品質は、大手MVNOの3倍の帯域の確保が必要になるという試算を示した。
音声回線の卸料金は基本料が700円近いコストになるため、データと音声を合計すると、MVNOが1980円では提供できない品質(平均の通信速度など)になっているという。
楽天では通信速度について、MMD研究所の調査結果なども引用、「接続料を勘案するとコスト面でMVNOでは提供不可能な水準」と指摘し、「検証および不公正の是正が必要」とした。
音声、定額用の卸提供を要望
また、音声回線についての接続料も、実質的に「MNOの言い値で高止まりしている」と指摘する。回線当たりの基本料金と通話料金という考え方が、MNOが提供する5分定額や完全定額ができない体系になっており、不公正であるとし、「早急に準定額・定額プランの卸料金プラン提供を実施すべき」と訴えた。
店舗の出店施策も優遇と指摘
大尾嘉氏はまた、サブブランドの店舗展開についても言及する。「サブブランドは過半をメインブランドとの併設店とすることで、いち早く良いロケーションで店舗展開しており、不公正」とし、MNOによるサブブランド店舗の展開支援を抑制するルールが必要と訴えた。
MVNOの中では比較的、実店舗が多い楽天とあって、店舗展開の重要性や難しさを実感している同社ならではの視点といえるが、質疑応答の時間に、構成員の神戸大学大学院法学研究科 教授の池田千鶴氏から「企業努力でなんとかできる部分に規制は不要ではないのか」と問われると、大尾嘉氏は、MNOにとって店舗販売はセットであり、競争上も強力であるとし、「MVNOでは出店できないような場所や空き物件がない人気のエリアにどんどん出店している。少なくともイコールではない」と訴えた。
自動更新や残債免除
大尾嘉氏はまた、複数年契約の自動更新や、「合理性がない」とする高額な契約解除料の設定が、MVNOへの移行の障害になっていると指摘。MNOが提供している、48回払いの割賦と24カ月目の機種変更で残債免除となる施策も、「新たな縛りになっていないか、確認が必要」とし、複雑で分かりにくく、同意の取得にルールが必要とした。
高額キャッシュバック「横行してますから」
大尾嘉氏はこのほか、中古端末についても「ニーズはある」とし、販売した端末もユーザーには好評とする一方、入手可能台数が限定されている現状を指摘。MNOが買取後に海外に流す点や、SIMロック解除ルールに、中古で購入した端末が漏れている点を「阻害要因」として挙げた。
同氏はさらに、「代理店による高額キャッシュバックが横行している。ガイドラインにそった運用が行われているか検証が必要。横行してますから」と強調。当日配布された資料にも、店頭の「iPhone 8 一括0円」といったポスターや、SNSの店舗アカウントで一括0円を紹介する投稿などを紹介した。
mineo
「mineo」を提供するケイ・オプティコムからは取締役 常務執行役員の久保忠敏氏、執行役員の浜田 誠一郎氏が出席した。
混雑時にサブブランドと同じ速度「到底困難」
同社はこれまでの総務省の取り組みを評価する一方、「料金と速度の関係が重要、同等性を確保することが重要」として、IIJや楽天と同じく、現在の接続料では、サブブランドと同じ内容を提供できないと訴える。
同社は自社で作成した、混雑する昼間時の速度調査結果を示し、サブブランドは混雑時でも安定して高速な通信が可能であるなど、通信速度の差が顕著であることを指摘。こうした品質面で、MVNOは「厳しい状況になっている」とする。
さらに、「mineo」の一部のユーザーに提供している、帯域を別に確保したプランでトライアルを実施、サブブランドと同程度の速度を実現するため、必要な帯域を確保したところ、1ユーザーあたりのデータの利用料は「極めて高額になることを確認した」とし、(近い料金体系で)「サブブランドと同程度の速度を実現するのは到底困難」と結論付けている。
ケイ・オプティコムでは、「同じ料金で同じ速度を実現できない。常時高速なのが、なぜ実現できるのか」と疑問を呈し、公正競争のための対応を速やかに検討すべきと訴えた。
質疑応答の時間には、総務大臣政務官の小林史明氏から、要望が見えづらいとして、「結論って何ですか?」と単刀直入に質問が。ケイ・オプティコムの久保氏は「どうしたらいいのかは、私どもも悩んでいるところ。ただ、MNO次第では太刀打ちできないことになる」と答え、MVNOとして争点を絞ることの難しさも滲ませた。
期間拘束、中古端末
ケイ・オプティコムからは長期契約と自動更新の仕組みについても指摘があがり、違約金が一律の設定になっていることや、利用者に意思によらず自動更新がデフォルト(初期設定で有効)になっており、これらがMVNOに乗り換える際の障壁になっているとする。
またSIMロック解除に関連して、MNOが中古端末の持ち込みのSIMロック解除に応じないケースなど、課題は残存しているとし、影響が顕在化しつつ有り、何らかの対応が必要と指摘している。
MVNOへのアンケート結果
総務省の事務局からはここで、12月5~19日にMVNOに対して行ったアンケート結果も紹介された。回答は61社。
主な要望や意見として紹介されたのは、サブブランドによるMNOと同等の品質や、大規模な営業活動には検証が必要、というもの。このほかにも、接続料を当年度に精算できるような仕組みや、キャリアのフィルタリングにかからないキャリアメール相当のメールの実現、音声定額サービスの卸提供、一部の端末でテザリングが利用できない、中古端末はユーザーの選択肢を拡大させる、値引きやキャッシュバックは流動性を阻害する、など。また、BWA設備(WCP、UQのWiMAX 2+など)をMNOと同じように利用できるようにする点についても要望があがっている。
検討会では「量や証拠、客観的事実にもこだわっていく」
MVNOからのヒアリングを終え、構成員の日本総合研究所 執行役員 法務部長の大谷和子氏は、「予想通り、定量的な情報がもらえた。検証して議論すればいいのではないか」と、ヒアリングであがった要望に前向きな意見を示した。
一方、楽天などが訴えたキャッシュバックの横行といった例には注文も付ける。「規模や行われた背景は? 散発的なのか大々的なのか、把握できない。検討会の中では、量やエビデンス(証拠)にもこだわって、(情報を)集めていくべきではないか。問題のファクト(客観的事実)を確かめながら、情報の確度を上げていきたい」と締めくくった。
中古端末、市場の構造がまだ不足
RMJ粟津氏、利用制限の仕組みの変更や部品提供を意見
中古端末の取り扱い事業者の代表として、リユースモバイル・ジャパン(RMJ) 会長の粟津浜一氏が出席、現在の問題点や要望を意見した。
リユースモバイル・ジャパンという業界団体自体が、中古端末の流通に関する拡大や課題解決、行政への提言を目的として組織されたということもあり、中古端末について、消費者が不安を感じていることや、認知度不足といった、基本的な課題は、これまでも同団体が訴えている。
粟津氏はこうした基本的な課題のほかに、キャリアが設定するネットワーク利用制限の仕組みについて、変更を要望した。「現所有者が安心して使えるように、前所有者の支払いが不履行になっても、(中古で流通し他者の手に渡った)端末は使えるように構造を変えてほしい」とし、中古端末がある日突然使えなくなるケースを構造的に解消すべきと訴えた。
また、先にヒアリングで意見を述べたMVNO同様、SIMロック解除ルールの不備の解消や、iPhoneの流通量の少なさを指摘。
加えて、バッテリーや補修部品についても、中古端末の品質保持のために、正規ルートで純正部品を提供するよう訴えた。
中古端末の中間取引市場の創設を提言
ベイン・アンド・カンパニー パートナーの大越一樹氏からは、専門家への聴取や調査による、米国や英国の中古端末市場と日本の市場の違いが紹介された。
大越氏は、中古端末の流通量の少なさから伸びの余地があるとする一方、キャリアの買取端末が海外に流れることや、海外の端末を日本で販売しづらいという、供給量の少なさの問題や、欧米の多くのケースと異なり、修理されずに販売されることで、中古端末に関するイメージの悪さが払拭できていない点をあげる。
海外の事例として、中古端末の流通を中間で担う取引市場が非営利団体によって創設されている点や、Verizonなどが、WebサイトでiPhoneの新品と中古を並べて販売している例、これらの中古端末には純正の修理用部品が提供され、安心できる品質や保証で販売されていることなどを紹介した。
こうしたことから、大越氏は、供給量の拡大を図るためには取引市場の創設が重要とし、キャリアは買い取った端末を取引市場に売ることでメリットも多いとした。また、安心できる販売チャネルとして、(Verizonなどと同様に)キャリアの販売網で販売できるようにするのもいいのではないかと指摘した。
修理用の純正部品、提供されないのはおかしい?
中古端末の課題に関連し、質疑応答の時間には、野村総合研究所 プリンシパルの北俊一氏から「海外の修理工場に取材に行った事があるが、大量に修理を請け負っており、純正部品を使っていた。なぜ日本では純正部品が提供されないのか。グローバルメガベンダー(Appleやサムスンなど)もいるわけで。アメリカでは実際に行われていることだ」と指摘が上がると、大越氏は「専門家への聴取では、メーカーが修理部品を提供することで(粗悪な修理を抑制し)、ブランドイメージが守られると考えていると聞いた」と回答している。
さらに構成員の池田千鶴氏からは、独占禁止法の観点から、エレベーターや多段式の駐車場では修理部品を提供しないことが取引妨害になった例があったと指摘され、「粛々と進めていけばいいのではないか」と述べ、携帯電話においても、純正の修理部品の市場への提供は可能であるとの見方を示した。
消費者団体、選択の難しさを訴え
全国消費生活相談員協会 理事の石田幸枝氏からは、具体的な相談例を上げながら、MNO、MVNO、双方について課題が指摘された。MNOについては、店頭ですすめられたものを契約することが多く、利用実態と乖離するケースも多いなど「まだまだ自分が選択できるようにはなっていない」と指摘した。
MVNOについては、解約できないと言われるケースが多いことや、2年契約と自動更新がネックになっていること、テレビCMや店舗もないのは安心できないのでは? という、消費者心理に近い指摘も。「MVNOにも知っていただく努力をしていただきたい」と意見を述べた。
全国地域婦人団体連絡協議会 事務局長の長田三紀氏も、2年契約後の自動更新に否定的な意見を述べたほか、「下取り価格が高額で、合理的とは思えず、引き止め施策やキャッシュバックと何が違うのかと思っている。キャッシュバックのようなものが形を変えて横行している。変えないでいる人には不公平な形」と、大きな金額が飛び交う店頭の施策に疑問を呈す。
また、「MNOの3社は、もっと理解しやすいサービスを提供すれば、ショップでの長時間の説明も改善できるのでは」とシンプルに指摘。一方のMVNOには、「低価格で良いが、説明が必要な初心者も多くなっている」とし、一層の分かりやすさやサポートが求められているとした。
質疑応答の時間には、「解約できない」というケースについて、池田千鶴氏の質問により、音声通話に対応した契約が「初期契約解除」の対象になっていないことが確認され、総務省の担当課から「(仕組みは)恒常的なものでない。必要に応じて対応していきたい」と回答、池田氏から「必要に応じてではなく、ぜひお願いしたい」と意見があがった。
MVNOはMNOを目指すのか
野村総研の北氏からは、消費者団体の代表からの意見を鑑み、「MVNOが(求められている)すべてをやると、MNOになる。ユーザー側にも、なぜ安いのか理解してもらう必要がある。ただ、そういう(MNO化する)戦いにMVNOは突入するのか、棲み分けるのか?」とMVNOに対して問われた。
IIJは、より一層の「分かりやすいサービスを重視していかなければならない」と回答。
楽天は、実店舗を多数展開するなど、MNOに近い体制とした上で、ユーザーからの意見の反映や、わかりにくさを排したサービスに注力してきた様子を語り、「欠けている所、ユーザー視点にたっていないところに勝機があると思っている」と、愚直に応えていく姿勢を示す。
mineoは、「安い理由を理解していただければ一番ありがたいが」と北氏の意見に同調した上で、市場の拡大に伴い、直営店だけでなく、相談して買えるという点で店頭販売の場所を増やしていることを紹介した。
小林政務官「いろんな観点で議論できれば」
総務大臣政務官の小林史明氏は、スケジュールの都合から、RMJの説明後に退室したが、その際の挨拶で、「問題をぜんぶ拾うという覚悟で開催している。出し惜しみをしないで意見をしてもらいたい。聞いていると、(接続料などの問題は)会計のところで、ここが有耶無耶になっていると、スッキリしない」と、接続料とそれに関連した品質の差については、大きな争点になるとの見方を示した。
また、「消費者の方に賢くなっていただくのも大事」と、ユーザー側の理解が進むことも重要であるとし、店頭窓口の対応の長時間化も「生産性を奪っている」と指摘、「いろんな観点で議論できれば」とした。
第2回はMVNOの要望、今後の争点は
今回の第2回は、事業者へのヒアリングが始まったばかりで、MNOやサブブランドのヒアリングが済んでいない現時点で、論点や争点の整理はまだ難しい。第1回であがった「テザリングができない」といった具体的な問題点は、配布資料に記載されたものの、口頭での説明と要望では触れられず、大きな論点にはならなかった。
MVNOの3社が共通して訴えたのは、すでに論点として設定されていた“サブブランド優遇”をMVNOなりに裏付けるもので、逆説的に、現在の接続料が高すぎると指摘するMVNOもあった。MVNOとサブブランドを分ける最大のポイントは、ネットワークを借りる際の料金である接続料とその取り扱いであり、今後も議論の中心になると思われる。
中古端末については、当初は別個の議論のように見えていたが、MVNOが中古端末の販売に積極的な姿勢を見せるなど、援護射撃をした形になっている。キャリアが買い取った端末が国内でほぼ流通しないなど、流通(本来あるべき供給)が歪められている面は否めず、MVNO+中古という意味では、このタイミングで是正すべき事とも感じられた。また、取引市場の創設や修理用部品の提供など、有意義な提言も見られたように思われる。
第3回以降はMNOからのヒアリングも行われると見られ、議論が本格化する。第3回は1月22日に開催される予定となっている。