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「Windows on Snapdragonはテストの最終段階」、クアルコムのイベントで明らかに
IoT、クルマ、Qi関連技術やF1.4カメラモジュールなども
2017年10月25日 12:09
米クアルコムが10月17日~19日にかけて香港で開催した、メーカーおよびパートナー向けのイベント「2017 Qualcomm 4G/5G Summit」。基調講演やセミナーを通して、クアルコムのもつ製品や技術、トップ企業の動向などを説明するというものだ。一方で、メディア向けには別途、ラウンドテーブルも設けられ、担当者から各分野における同社の最新の取り組みについて語られた。
ここでは、IoT、自動車、モバイルPCと、ほとんど全方位の産業に向けてアグレッシブな戦略を展開するクアルコムの姿勢を鮮明にしたそのラウンドテーブルの概要を紹介したい。また、同じ会場で開催された「4G/5G Summit Expo」に出展していた日本企業の技術をはじめ、興味深い展示のいくつかをピックアップしている。
「グローバルマルチモード」でIoT向けLTE通信を網羅する「MDM9206」チップセット
日本でも商用化が間近に迫るIoT向けLTE(LTE IoT)について、クアルコム・テクノロジーズ プロダクトマーケティングのピーター・カーソン氏が解説した。
現在は主に高速通信技術として用いられているLTEだが、これをIoTに応用するための仕様として、クアルコムではスマートフォンなどに用いる「LTE Cat-1」に加えて、「Cat-M1(eMTC)」と「NB-IoT(Cat-NB1)」の2種類を推進している。しかし、カーソン氏は「どれをどの用途に使えばいいかがわかりにくいという声もある」とし、使い分けの例を挙げた。
Cat-M1については、あらゆる機器・アプリケーションへの応用力や低遅延が重視される、ある程度容量の大きいバッテリー(電源)が搭載されることを前提としたものに用いる。たとえばウェアラブルデバイスや自販機、セキュリティシステム、シェアサイクルなどに向いている。
NB-IoTは、通信のリアルタイム性は求めない代わりに、徹底的な低コスト、低消費電力を追求しなければならない機器に用いる。数分や数時間ごとに通信し、少なくとも数カ月間以上はバッテリー交換なしで連続稼働するようなもの。たとえば工場や農場、街中に設置するセンサーに最適だとした。
このような違いのあるCat-M1とNB-IoTだが、クアルコムではそれぞれに対して別のチップセットを用意するのではなく、両方に対応する1つのIoTモデムチップセット「MDM9206」のみを用意する。Cat-M1とNB-IoTのそれぞれのモードに切り替えて使用できる「シングルモード」と、それぞれの弱点を補完し、利点をある程度活かす「マルチモード」や「グローバルマルチモード」を選ぶことも可能になっている。
MDM9206はすでにリリースされており、China MobileやシェアサイクルのMobikeと協業して、中国国内での実証実験を計画中。また9月には、同様にMobikeがAT&Tと共同でMDM9206を使用したシェアサイクル事業を米国内でスタートさせる計画を発表したばかり(※関連記事)。
日本国内ではキャリアによってCat-M1とNB-IoTのどちらを採用するかは異なるが、現在は各地でデモや実証実験が進められている最中。商用サービス開始後は、機能やコストの面でメリットの大きいMDM9206搭載機器を我々ユーザーが目にすることになる可能性は高いだろう。
自動運転を見据え、5Gを活用する車車間・路車間通信用「9150 C-V2X」チップセット
クアルコムはコネクテッドカー分野にも新たな次世代チップセットを提供する。クアルコム エンジニア部門のドゥルガ・マラディ氏は、2018年後半にサンプル出荷を予定している車車間通信、路車間通信などを可能にする「9150 C-V2X」チップセットを紹介した。
9150 C-V2Xチップセットは、4G LTEや5Gなどのネットワークを用いるセルラーV2Xを実現するもの。セルラーV2Xは現在開発が急ピッチで進む自動運転技術の一要素とされ、悪天候時や夜間の見通しの良くない環境で、死角にある車両や人の接近に気付くことができたり、前走車の挙動の意図を察知して前方の障害物をスムーズに回避したり、といったことが可能になる。
こうした情報のやり取りは、従来型のモバイルネットワークを介して行なう方法と、セルラーV2Xの機器をもつ車両・人同士がダイレクトに通信する方法、あるいは道路脇に設置したRSU(ロードサイドユニット:路側機)を介して通信する方法のいずれかがとられる。
9150 C-V2Xチップセットは、後者の2つの方法を強力にサポートする。ダイレクト通信やRSUを介した通信はITS(高度道路交通システム)における5.9GHz帯の周波数が用いられ、SIMなしで通信できるのが利点だ。
クアルコムは、当初は標準化団体3GPPの定める「3GPP Release14」の規格に則った形で、車車間通信による「ベーシックな安全」を実現し、その後「Release15」「Release16」と規格がアップデートされるに従って、段階的により「高度な安全」を実現していく計画。Release16の時点では、5Gによる高速な通信が必要になる複数車両などとのコミュニケーションが可能になるとしている。
クアルコムでは、Snapdragon 602A/820Aといった自動運転プラットフォーム用のチップセットや、電気自動車向けワイヤレス充電技術の「Halo」もリリースしている。これらの技術とも組み合わせ、自動車産業においても存在感を高めていく方針だ。
「Windows on Snapdragon」が“平行宇宙”にあった電話とPCが共に歩んでいくきっかけに
WindowsをSnapdragonのプラットフォーム上でも動作させる、という発表があったのは2016年末。当初は搭載PCの2017年内の登場が期待されていたものの、いまだ何も見られない状況だ。マイクロソフト Windows部門グループプログラムマネージャーのピート・バーナード氏、クアルコム・テクノロジーズ プロダクトマーケティング部門のバイス・プレジデント ドン・マクガイア氏、英国の通信事業者EE and BTのトム・ベネット氏の3人が、現在の進捗について解説した。
最も気になるのは「Windows on Snapdragon」のPCがいつ登場するかだが、現在はテストの最終段階にあるとし、製品のリリース時期や参画するメーカーについては明言を避けた。バーナード氏は「電話とPCはこれまで数十年間にわたってある意味“平行宇宙”にあったが、クアルコムとマイクロソフトは命令セットもマーケットチャネルも共にしていく」と述べた。
PCにSnapdragonを採用する主なメリットは、バッテリー持続時間の大幅な向上と、モバイルPCを常時ギガビットネットワークに接続できること。対応する国・地域やネットワークについて、「名前は出せないが、多くのモバイルオペレーターと話し合っている」(バーナード氏)としつつも、「PCをモビリティへと向かわせる絶好の機会となる」と意気込んだ。