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MVNOは“普及拡大期”に、浮かび上がった課題――「モバイルフォーラム2017」で識者語る

 テレコムサービス協会(テレサ協)のMVNO委員会が主催したイベント「モバイルフォーラム2017」では、総務省の担当者や業界の識者らが基調講演を行った。

 モバイルサービスに詳しくない消費者もMVNOに移行していく中で、大手キャリアのサブブランドへの対抗や、消費者保護への取り組みといった、新たな課題が浮かび上がった。

「MVNOは普及拡大期に」~三菱総研 西角氏

 三菱総合研究所で通信事業者を専門に研究している西角直樹氏は、「MVNOは普及拡大期に入ってきている」と指摘。最新の統計ではMVNOのシェアは9%を超える。これは自販機などのM2M通信を含むデータで、スマートフォンユーザーでのシェアは5%程度だ。

 機能や性能でMVNOを選ぶ、いわゆるアーリーアダプター層を中心に普及してきたが、今後の市場では「サービスが分かりやすい」「安心感がある」「友達が勧める」といった理由で選ぶマジョリティ層が増加すると話す。

 西角氏は、「これまでMVNOは、大手キャリアが抱えてきた問題点の裏をついてサービスを拡大していた。これは、大手キャリアが問題点を潰すと一気に不利になるいわば、“手のひらの上でころがされている”ビジネスモデルだ」と指摘する。

 その上で、今後のMVNOの役割として、将来的には「大手キャリアと似たような総合サービスで勝負する」と「フットワークを生かしてユーザーニーズの高いサービスをいち早く提供する」という2パターンを提示した。

「e-SIM」は何をもたらす?

 2016年以来盛り上がっている技術が「e-SIM」と呼ばれる埋め込み型のSIMだ。デバイスにSIMのユーザー認証機能を埋め込み、ネットワークから契約キャリアを切り替えられるという技術だが、西角氏は「コンシューマー向けに導入されると、モバイル業界の地殻変動が起きるかもしれない」とする。

 e-SIMでは端末(スマートフォン、タブレット、ロボット、家電など)を買ってきてから通信キャリアを選ぶことができることから、真の「通信と端末の分離」が実現できる。家にある数十の端末にモバイル契約があることになり、“家中まとめて乗り換え”という状況が起こりえると予測。MVNOも備えておく必要がある、と指摘した。

MVNO調査から浮かんだ問題点~ケータイジャーナリスト 石川温氏

 ケータイジャーナリストの石川温氏は、MVNO 10社のサービスを比較検証した結果を報告した。

 通信速度測定アプリを使った速度比較では、多くの企業で昼休みとなる12時代は軒並み低速化したとしている。その中で「1つのブランドと1つの子会社(Y!mobile、UQモバイル)は昼休みでも速度が際立っていた」(石川氏)と指摘した。

 また、調査したMVNO中で1社だけ、どの時間帯でも速度が変わらないMVNOがあり、その回線で動画をダウンロードしてみると、実感に近い値となったという。石川氏は「こういった会社が1社でもあると調査結果が信用できなくなる」と苦言を呈した。

「iPhone 6は使えますか?」問い合わせ対応に差

 また、石川氏は12社のサポート窓口に問い合わせ、その対応を検証したという。

 質問は大手キャリアから移行するユーザーを想定し、「iPhone 6でそちらのサービスを使えますか」というもの。さらに、「ソフトバンクのiPhone 6」という設定となっている。NTTドコモ網やau網のMVNOでは「SIMロック解除に対応していないので使えない」という回答が正解だ。

 電話での質問では、正解を迅速に回答するMVNOもあったが一部には不満が残る内容もあったという。「そもそも電話番号を見つけられない」「電話番号が有料ダイヤル」というもの。回答では、「ソフトバンクショップで聞いてほしい」というものや「SIMカードを挿してみないと使えるか分からない」と回答したワイモバイルの例があったという。

 LINEで問い合わせ窓口を用意するLINEモバイルを、石川氏は高く評価した。使えないという回答にあわせて検証済み端末のページを案内したという。

MVNOに求められるのは「わかりやすさ」

 石川氏は、あるMVNOが1日5時間使える時間制プランを発表したが、プランの条件がややこしく、多くの記者が間違えて報道した事例を紹介。MVNOは「シンプルでわかりやすくするべき」とした。

 MVNOでも一般化してきた、コンテンツサービスなどのオプションについては「申込みに時間がかかり、クレームがコールセンターに集中する。コールセンターの対応待ちで他のユーザーの不満も募る」とその弊害を指摘した。

「サブブランド」に対抗するには

 また、石川氏は「大手キャリアのサブブランドや子会社MVNOに市場を奪われてしまう」というMVNOの懸念を紹介。「その可能性は大いにある」としつつも、「サブブランドは小回りが利かず、サポート窓口をMVNOと統合する方向で、SNSでの対応も手薄になりがち」と指摘。「MVNOは小回りの利いたサービス運営で対抗できる」とした。

政策は「競争促進」と「消費者保護」の2本柱~総務省 巻口英二氏

総務省 総合通信基盤局 電気通信事業部長の巻口英二氏

 総務省 総合通信基盤局 電気通信事業部長の巻口英二氏は、モバイル市場における通信政策の近況を紹介した。

 政策は「競争促進」と「消費者保護」の2本柱から成り立つ。「競争促進」については、事業者間で健全な競争ができる市場を目指す方針。新規事業者の参入を促すため、MVNOと大手キャリアの間で競争条件の差を埋めるような政策を打ち出している。

 その1つとして、巻口氏は接続料の適正化を紹介した。MVNOが大手キャリア(MNO)の回線を借りる際に支払う接続料は、総務省のガイドラインで提示された計算式にそって算出されている。

 この計算式は「適正な原価」+「適正な利潤」を「需要」で割ったもの。今までは「適正な利潤」の値付けで大手キャリアに裁量にを持たせていたが、2月に実施されたガイドライン改正によって、「適正な利潤」の計算式を明確化し、どの大手キャリアでも規模に応じて同じレベルの接続料金が算出されるようにしたという。

 また、SIMロック解除に関するガイドラインも改正し、SIMロック解除できない期間を、割賦支払いでは購入から100日以内に、一括支払いでは端末代金の支払い確認後までに短縮させる。

 MVNOのSIMが対応するキャリアの端末は、SIMロックの有無と関係なく利用できるようにすることで、中古スマートフォンの市場活性化も促すという。そのほか、紛争処理の事例として、日本通信とソフトバンクに対する接続協議再開の仲裁に入ったことを紹介した。

総務省の消費者保護政策、MVNOへのクレーム増加も

 モバイル業界に対する政策のもう1つの柱が消費者政策だ。クーリングオフ制度の整備のほか、通信回線の契約時に説明・文書交付義務を課すことで、ユーザーが納得して通信サービスを契約できる環境を整えてきた。

 実際のサービスで消費者保護義務が満たされているかをモニタリングするため、携帯ショップの覆面調査や、事業者への聞き取り調査、国民生活センターなどに寄せられた苦情の分析を行っているという。

 巻口氏によると、苦情はFTTH(固定回線)や大手キャリアに対するものが大半を占めるが、シェア拡大にともなってMVNOへのクレームも増加しているという。その内容は「きちんと説明がないまま契約させられた」「高齢者であまり使わないのに過剰なサービスをつけられた」といったものがあると紹介した。

MVNOも大手キャリア並の消費者保護を~MVNO委員会 消費者問題分科会 木村氏

 ニフティの木村孝氏は、MVNO委員会の消費者問題分科会主査として、消費者保護への対応を報告した。

 消費者問題分科会は、消費者問題に関するMVNOの意見交換の場となっている。下部組織として、料金滞納の情報を交換する不払者情報交換連絡部会があり、「これに参加するためだけにテレコムサービス協会に加入する事業者もある」(木村氏)という。

 青少年向けフィルタリングについては、「MVNOではフィルタリングがない」と思われがちだが、木村氏は、個人向けサービスを提供しているMVNOの多くがなんらかの形で提供しており、サービス利用者の確認も行っていると報告した。

 クーリングオフは、MVNOでは「契約期間が設定されたデータ通信専用サービス」のみが対象で、音声通話プランは対象外となっている。

オレオレ詐欺、MVNOが標的に

 昨年末には、「オレオレ詐欺」などの詐欺で、MVNOの通話サービスが利用されているという問題が発覚した。これらの詐欺ではレンタル携帯電話が使われていたが、大手キャリアが規制を強化した結果、IP電話に移行、そちらも対策されたためにMVNOが標的にされたのだった。

 テレサ協では会員MVNO向けに、本人確認や役務提供拒否(強制解約)に関するガイドラインを公開。警察当局との情報交換も行っている。

MVNOの実効速度が開示される?

 2月8日に日経新聞が「総務省がMVNOに対して実効速度の測定を開示するように要請」という記事を掲載した。木村氏は「実際にそのような要請はない」とした。

 ただし、総務省には実効速度測定のための予算として、2017年度に5000万円が割り当てられており、その予算を活用して測定を進めていく方針を示した。