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KDDIも出展、モノ作りの祭典「Maker Faire Tokyo」
2016年8月9日 17:23
8月6日と7日の2日間、東京ビッグサイトで「Maker Faire Tokyo 2016」という、物作りをテーマにしたイベントが開催された。
Maker Faireでは、物作りをするサークルや個人のための、開発機材やソリューションが展示されている。3Dプリンターや卓上加工機、IoT機器の開発を容易にするマイコンボードやセンサーキットなど、さまざまなものが展示されており、それらの多くは会場で販売もされているなど、開発者のための展示・即売会としての側面もある。
一方で、物作りの成果も展示されており、大手企業の社内ベンチャーによる製品から、小規模スタートアップ(いわゆるメイカーズ)による製品、サークルや個人による成果物など、さまざまな規模の展示が一堂に会している。ジャンルも全長数メートルの固体燃料ロケットから小型マイコンを使ったIoT機器まで、いろいろなものが展示されているのも、Maker Faireの特徴だ。
携帯電話業界の話題としては、今回はKDDIがHAKUTOやCHIRIMENの開発グループと共同でブースを出展し、同社の物作りに対する取り組みを展示している。ほかにもスマートフォンに関係のある展示があり、それらを中心としたレポートをお届けする。
子ども向けイベントも開催したKDDIブース
KDDIが参加する共同ブースでは、「Web×宇宙×Make」というテーマで、同社が協力する民間月面探査チーム「HAKUTO」や、個人向けマイコン開発ボード「CHIRIMEN」が展示されていた。また、会期の1日目には、一般から公募した女子中高生などを対象に、簡易プラネタリウムを作るという「私だけのプラネタリウム作り!」というイベントを開催した。
このイベントは理系女子を応援するという趣旨のもので、女子中高生に物作りを体験してもらい、理工系に興味を持ってもらうことを目的としている。物作りだけでなく、理工系出身の女性によるトークセッションも行われた。
参加者が製作するのは、星座早見のようなもので、日付と時刻を合わせてのぞき込むと、その日時に見える星空が見えるというもの。構造はきわめてシンプルで、中高生にも原理がわかるような仕組みになっている。
不慣れな参加者でも作れるように、部品は事前に切り出されるなどある程度は仕上げられている。小学生も参加していたため、予定よりも製作時間はかかっていたが、それでも参加者全員がちゃんと稼働するものを完成させていた。
トークセッションには、HAKUTOを運営する株式会社ispaceの米澤香子氏、合同会社techikaで乙女電芸部部長を務める矢島佳澄氏、KDDIでホーム・IoTサービス企画部に所属する森田恵美氏の、3人の“リケジョ”が登壇した。
3人は「理工系の面白いところ」について、いずれも「これがあったらいいな、と思うことを実現する力」だと説明する。KDDIで商品企画を担当する森田氏は「商品企画でエンジニアと一緒に物作りをするにあたり、理工系のバックグラウンドが生きている」と実体験をベースに語った。
参加者から寄せられた「女性だと結婚や出産でキャリアに影響があるのでは」という質問に対しては、米澤氏は「理系でも文系でもどこにでもある問題」と指摘し、森田氏は「理工系には技術という強みがある。これがある限り、産休明けでも仕事が与えられる」と説明、矢島氏も「自分にしかできないことをやっていれば、仕事がやってくる」と語った。
KDDIのブースではこうしたイベント向けスペースに加え、「HAKUTO」や「CHIRIMEN」の展示も行なわれていた。
「CHIRIMEN」はBoot to Gecko(B2G、Firefox OSと同一だが、Mozillaのブランド許諾を得ていないもの)というOSを採用する、組み込み向けのボードコンピューターで、ハードウェア・ソフトウェアともにオープンソースプロジェクトとして開発され、KDDIも開発に参加している。
Web技術をベースにしているため、Web開発者がJavaScriptでプログラミングできるのが特徴。まだ商品化はされていないが、ハードウェア・ソフトウェアともにオープンソースとして公開されているので、ほかのメーカーが互換ボードを開発し、商品化することができる。
個人レベルで作れるようになったIoT機器
最近は開発プラットフォームの整備やマイコンやセンサーの小型化・低コスト化により、個人レベルでIoT機器を開発することが容易になった。Maker Faireそうした個人のIoT開発者が利用するようなマイコンやセンサーなどを手がけるメーカーも多数出展している。
先ごろ、ソフトバンクが買収することが決まったARMは、同社が提供する開発プラットフォーム「mbed」などを展示している。
ARMアーキテクチャのプロセッサは、スマートフォンでも広く使われているが、IoT機器でも広く普及している。とくにスマートフォン向けプロセッサよりも低コスト・省電力・小型なCortex-Mシリーズは、IoT機器に最適で、さまざまな企業がARMからライセンス提供を受けてプロセッサを製造し、さまざまな製品に活用されている。
mbedはARMアーキテクチャのプロセッサ向けの開発プラットフォームだ。さまざまなメーカーがARMプロセッサを搭載したmbed対応の開発ボードを販売している。
mbedの特徴は、開発プラットフォームがWebをベースとしているところ。mbedのWebサイト上でプログラムのソースコードをコンパイルし、バイナリデータをダウンロードできる。mbed対応ボードはUSBストレージとして認識されるUSBポートを持ち、ダウンロードしたバイナリデータをパソコンからコピーすることで、プログラムが書き込まれる仕組みだ。
さらにmbedのWebサイトには開発コミュニティも集約されおり、開発に必要な各種情報やソースコードが共有されている。ほかのプラットフォームのように情報が分散せず、欲しい情報は基本的にmbedサイト上を検索すれば見つかる、という仕組みだ。
mbedはArduinoやRaspberry Piなどに並ぶ、個人レベルの自作・組込機器で広く使われている開発プラットフォームだ。開発ボードも安い物では2000円程度で、1個単位で購入できる。開発用の製品ではあるが、コンシューマー製品のように購入できるとも言える。
ちなみにmbedのWebサイトは基本的に英語となっているが、日本語化も進行しているという。現状ではソフトバンクによる買収の影響はmbed事業にはないということだが、ソフトバンクによる日本の若年開発者の支援など、好影響を期待したいところだ。
ARMのブースでは、mbedを使った腕時計型ウェアラブルデバイスのリファレンスデザイン機も展示されていた。このリファレンスデザインをベースとした製品はまだ登場していないが、オープンソースとして公開されているので、小規模なメーカーや他業種メーカーによるウェアラブルデバイス参入を容易にするものとして期待される。
ARMアーキテクチャのCortex-Mシリーズを採用する例としては、Dialog Semiconductorが同社のブースで「DA14580」というマイクロチップを展示していた。これはプロセッサ部にCortex-M0というARMコアを採用しているが、チップ内にメモリやストレージ、Bluetooth通信機能なども内蔵し、あとはアンテナや周辺回路を付けるだけで、Bluetoothスマート機器として動作するようになっている。
このDA14580というチップ、最小サイズのパッケージだと2.5mm四方、厚み0.5mmという小ささも特徴だ。さらにこのチップを使って村田製作所は「LBCA2HNZYZ」というモジュールを作っている。こちらのモジュールはアンテナを内蔵したパッケージになっており、日本や欧米の技術適合試験にも通過している。アンテナ内蔵にもかかわらず、7.4×7.0×1.0mmという小型パッケージとなっているのも特徴だ。
このようにARMからプロセッサアーキテクチャのライセンスを受けつつ、各社が自社の強みを生かしたマイクロチップ製品を開発し、さらにそれを使った製品を展開できるというのが、ARMのエコシステムの強みとなっている。とくにIoT機器ではARMベースのマイクロチップが幅広く使われ、ソフトバンクがARM買収に際し、「IoTにおける優れた能力」と評価したポイントともなっている。
ARMコアを使ったプロセッサメーカーとしては、NVIDIAもブースを出展し、同社が販売しているマイコンボード、「Jetson TK1」と「Jetson TX1」を展示・即売している。
上位モデルのJetson TX1はクレジットカードサイズながら、GeForce GTX 900世代にも採用されるMaxwellアーキテクチャで256コアを持つGPUを搭載する。画像認識やディープラーニングといった用途に利用可能で、たとえば自動運転車に搭載したりすることを想定している。CPU側にはARMの中でもスマートフォンなどと同等の高性能なARMコアを内蔵するが、どちらかというとGPUが主役の製品である。
福岡のメーカーBraveridgeのブースでは、同社の手がけた製品群が展示されている。中には現在発売中のスマートフォン連動メガネ「雰囲気メガネ」も展示されていた。
BraveridgeはOEM・ODM事業をてがけており、雰囲気メガネもBraveridgeが製造している。クラウドファンディングのような小規模生産の製品にも対応し、たとえば3000個といったロット規模の製品でも、製品の企画から設計、実装、製造までを請け負っているという。
IT機器の開発能力の低い小規模メーカーや他業種メーカーがIoT機器に参入するにあたっては、mbedのようなアクセスしやすい開発プラットフォームを利用するのも手だが、最初からBraveridgeのような開発能力の高いOEM・ODMメーカーに頼るのも、手っ取り早く確実な手段というわけだ。
ちなみにBraveridgeは小型Bluetoothモジュールを自社で開発しており、OEM・ODM事業でも活用しているが、そのモジュールにも当然のように、ARMコア搭載のマイクロチップが採用されている。
このほかにもMaker Faireには個人レベルの開発者でも導入できるような開発機器や工作機器などが多数展示されていた。
そのほか見つけた変わった物
Maker Faireは個人やサークルで物作りする人たち向けの展示会という側面もあり、そうした人たちが使うための開発プラットフォームや製品も展示されている。一方で。企業やサークル、個人による、ユニークな成果物も展示されている。コミックマーケットやワンダーフェスティバルのような同人イベントのノリにも近いが、頒布・販売が目的ではなく、展示を通してほかの開発者と意見交換することを目的とするケースも多い。
ここではMaker Faireで見つけた、ちょっとスマートフォンに関係がありそうなユニークなものを紹介していく。
「MESH」はソニーの社内ベンチャーで生まれた電子工作キットだ。ボタンやLED、モーションセンサ、温度センサ、GPIOなどがそれぞれ単機能のBluetoothモジュールとなっていて、iPhone/iPadとつながり、iPhone/iPad上のアプリでそれらのモジュールがどのように動くかのロジックを組むことができる。
アプリ上ではフローチャートのようなUIでブロックをドラッグしながらロジックを構築可能で、子どもでも簡単に扱うことが可能だ。GPIOモジュールはアナログ入力やPWM出力も可能など、かなり応用が利く仕様で、「子どもの夏休みの自由工作・研究のため」という名目で購入しつつ、お父さんが楽しんでしまうというのもアリだろう。ただしモジュールひとつひとつが数千円なので、たくさん揃えるとけっこうな金額になる。
あまりスマホは関係ないが、東芝のWi-Fi内蔵SDカード、「FlashAir」も展示されている。FlashAirは、東芝自身の手により、開発プラットフォームとして扱えるように内部のソフトウェアが公開されており、個人がFlashAirを活用してIoT機器を開発することが可能となっている。内部のプロセッサ自体はそれほど高性能なものではないが、Lua言語で開発でき、Wi-FiやWebサーバーの機能があったり、GPIOも使えたり、そもそもSDカードなので組み込みマイコンとしては破格のストレージ容量を持っていたりと、ユニークな特徴を持っている。
Maker Faire会場ではFlashAirを使った個人の制作物が展示されているほか、FlashAirやFlashAirをマイコンとして使うための開発ボードなども販売されていた。
Engadgetのブースでは、IoTけん玉「電玉」が展示されていた。けん玉の剣側に各種センサーとBluetooth機能を内蔵し、スマートフォンやタブレット上でけん玉のワザを判定したりできる。これはEngadgetらがサポートするKDDIのハッカソンで誕生したもので、KDDIのアクセラレータープログラム、KDDI∞Laboで事業化し、makuakeでクラウドファンディングが行われている。
Bluetoothでスマホからコントロールできる単三乾電池型IoTデバイス「MaBeee」も展示されていた。MaBeeeはクラウドファンディングで商品化され、Maker Faire会期直前に一般販売が開始されたばかりの製品だが、会場では特別価格で販売もされていた。
こちらは現在makuakeにてクラウドファンディング中の「BLINCAM」。まだ出資者を受け付けているが、すでに1400%を超える金額が集まっている注目製品だ。メガネに付けるウェアラブルカメラで、瞬きを検知して撮影するという特徴がある。撮影した画像はスマホに転送される。
まだ開発中で、この筐体はモックアップだが、試しに装着したところ、普通のメタルフレームのメガネのテンプルに装着でき、重さも気にならなかった。開発は順調とのことで、出資者には最速で年末から出荷される予定。
のうぐらぼは、釣り竿の先端にセンサーを付けるIoT機器「魚キャッチセンサー」を展示していた。これは魚がかかったかどうかを釣り竿の先端の角速度センサーで判定し、つながっているマイコン(Rapsberry Pi)で通知音を出したり、スマートフォンなどに通知を送ったりするというもの。冬場に釣りをするとき、仕掛けを投じてから車などで暖を取りつつ待つ、といった用途を想定している。こうした個人レベルで開発されたユニークなアイディアのIoT機器が多数展示されているのがMaker Faireの魅力でもあり、個人レベルでユニークなアイディアを実現できるのが、昨今の自作IoT機器の凄いところでもある。
ちょっと変わったところでは、動腦工作室は真空管ラジオを利用したBluetooth/Wi-Fiスピーカーを展示していた。これは本物の真空管ラジオをBluetoothスピーカーに改造したもので、Bluetoothオーディオ部分は最新のデジタルIoT機器だが、音を出力する部分にはICアンプなどは使わず、ちゃんと元のラジオと同じく、真空管をアンプとして使っているという。
個人が「趣味で作ってみました」というものであり、商用化はされていない。そもそも材料の調達性の悪さ、真空管の扱いにくさから製品化や量産はしにくいものとも言える。