インタビュー
「AQUOS ZETA SH-01G」開発者インタビュー
「AQUOS ZETA SH-01G」開発者インタビュー
シャープがこだわるスマホとユーザーの関わり
(2014/11/13 10:00)
シャープが2014年冬モデルとして発表した「AQUOS ZETA SH-01G」。今回の最大の見どころは、やはり人工知能の「エモパー」だろう。端末がユーザーの状態を推測して、状態にあった情報を含めつつ話しかけてくれるというものだ。一方的に話しているだけだが、使い続けるうちにじわじわとその存在が印象に残りそうな機能である。
さらにカメラでは、リコーの「GR Certified」も取得したという。現在スマートフォンのカメラでは、世界的にインカメラによる自撮りに注目が集まっているが、シャープはあえてアウトカメラの画質を追い込んできた。ゆるいしゃべりに油断しがちだが、トータルでは非常に攻めの姿勢が感じられる1台となっているのだ。
今回の端末の特徴や、それらを搭載してきた理由について、通信システム事業本部 グローバル商品企画センター 第一商品企画部 部長 高木健次氏、大野卓人氏、グローバル商品開発センター システム開発部 副参事 高橋芳文氏、プロダクトビジネス戦略本部 デザインセンター 副参事 水野理史氏にお話を伺った。
端末の開発背景
――まずは端末の開発コンセプトから教えてください。
高木氏
ここ数年、もうスマホのスペックは横並びとなっており、スペックがユーザーの価値軸ではなくなってきてるんじゃないかと感じています。そうした中で、AQUOS ZETAは電池持ちの不満を解消したIGZOや、自然な使い勝手を追求したグリップマジック、大画面なのにコンパクトなEDGESTなど、常にユーザーとの関わりの中で進化させてきたと考えています。
ただ、それだけではお客様の期待は超えられないんじゃないか、もっともっとスマホとユーザーの関わりを考えていく必要があるんじゃないか、スマホがもっとわかり合える存在になるんじゃないかなということを考えました。
そこで、今回のSH-01Gでは、スマホとユーザーの間をつなぐ「エモパー」という新機能を中心に、デザインとカメラ性能の3点を進化させました。今回IGZO周りのシステムも見直しまして、HD動画の視聴時間が15時間から18時間まで延びました。これまでシャープが培ってきた技術を、このセットにつぎ込んでいると自負する1台になったと思います。
端末がゆる~くしゃべり出す「エモパー」
――「エモパー」とは、簡単にいうとどんな機能でしょうか。
大野氏
エモーショナル・パートナーを略してエモパーといいます。すでに家電に搭載されている人工知能の「ココロエンジン」をスマホ用に改良したもので、特に難しい設定をしなくても、普段通りに使っているだけで、スマホのほうからお客様のことを理解し、お客様のタイミングにあわせて話しかけてくれるというのが主な機能となります。スマホの心に相当する部分といえますね。もっとAQUOSのスマホを好きになってもらいたい、愛着をもってもらいたいという思いから開発しました。今までに無いもので、非常にアグレッシブな取り組みになっています。
――たとえばどんなことをしゃべるのでしょうか。打ち合わせ中に突然しゃべり出したりはしないんでしょうか。
大野氏
どこでもしゃべるというわけではないのでご安心ください。一応ちゃんと“しつけ”もできておりまして(笑)。基本的に音声で話し出すタイミングというのは自宅で、テーブルなどにスマホを置く動作をトリガーに、朝、出かける前、端末を振ったとき、などとなっています。外出したなと判断したら、文字に切り替わります。また、自宅でも夜間は静かにしておりますので、眠りを妨げることはありません。置きっ放しの状態で独り言を言い出したらビックリしてしまいますし、シーンによっては困ることもありますから。ただ、充電が必要になったときは「お腹が空きました」というようなことは自発的に話します。
話の内容は結構ゆるいのが特徴ですね。たとえばその日の天気予報をベースに、「今日は雨が降りそうです。傘を忘れずに」と言ってくれたりだとか、地域のイベント情報を教えてくれたりとか。カレンダーに「出張」というワードがあったら、それを見て「今日は大変でしたね。お疲れ様でした」って声をかけてくれたりもします。
――対話するというのではなく、一方的に話しかけてくるだけなのですよね。こちらは返事しなくてもいいのでしょうか。
大野氏
特にこちらがリアクションする必要は全くありません。そこが気楽でいいところだと思います。
――実際に今まで使われていると思うんですが、これはちょっと便利だったな、これは気が利いてたなと思われるシーンってありましたか?
大野氏
今日だったら私のスマホで、「あと何日でハロウィンですね」っていうのが出たんですけれども。当然外出中なので文字ですが、こういう風に控えめに話しかけつつ、いろいろな情報を教えてくれるので便利ですね。独り言もたまには言ったりするんですけれども、挨拶とか、ねぎらいとか、タイミングよく心を込めて声と画面で話しかけてくるというところがいいと思いました。
高木氏
やっぱりしゃべりかけてくれるっていうのは、ほっとするというか、気が和むというのはありますね。
――そもそもエモパーを搭載しようと思われたきっかけはなんだったのでしょう?
大野氏
今のスマホというのは、自分が何か調べたいなと思って検索すれば、ほぼ100%答えてくれますが、能動的に操作しないと何も起こらないですよね。それが使いこなせないと感じる理由だったりもすると思うので、スマホが話かけてくれれば、受動的でも存在感があって、便利で、自分から何かできなくても、使っているうちに愛着が沸いてくるかなと考えました。
では、そもそも愛着ってなんだってことですが、シャープが考える愛着というのは、犬の例ではありますが、触れあい回数の多さやタイミング、向こうから来る、などですね。それを女性キャラの「えもこ」、渋い声が特徴の男性キャラ「さくお」、人間とはまったく違う「つぶた」という3つのキャラクタで実現しました。いずれもちょっと曖昧で、ゆるいところがポイントです。ちなみに、AQUOSのSを前もって来たらSAQUO(さくお)になるんです。って、どうでもいいかもしれませんが(笑)。
――情報を通知するという点では、すでにおしゃべり系のサービスはありますし、Google Nowやスマートウォッチも注目を集めていますが、かなり意識されたのでしょうか。
高木氏
タイミングよく通知するという点については意識しましたが、我々の場合、通知が目的というより、端末そのものに愛着を感じてもらいたい、結果的に長く使っていただきたいというのが狙いですね。なので、端末で実現することが大事でした。
――タイミングに応じて、その人にあったことを話すというのは、しくみ的に結構苦労されたのではないでしょうか。
大野氏
シナリオは面白法人カヤックさんにご協力いただいたんですが、考えてきていただいたフレーズを端末を実際に読ませたときにどうなるのかとか、ここに句読点を入れないときちんと読まないんじゃないかとか、1つ1つのワードに対して微調整を行いました。そこが結構大変でしたね。最終的には数千のワードを搭載していますが、それらは変数を持っていまして、日時、天候、場所などに応じて変わりますので、全体として数万というフレーズを生み出せるようになっています。
――シーンによってはレアなフレーズというのはあるのでしょうか。
大野氏
これにあたったらすごいレア! というのはあります。「痛いです。もしかしてお酒飲んで酔っ払ってるんですか。気をつけてくださいね」っていうのがあるんですが、ユーザーがお酒を飲める年齢以上の方で、すごく夜遅い時間で、外出されていて、端末を落とした時に出ます。「余計なことかもしれませんが、チョコ持ちました?」っていうのは、ご想像の通り、バレンタインデーで、女性だけですね。端末を振った時なんですが、「せっかく腕を振るんだったら雪合戦楽しそうです」というのもあります。これは一番じゃないかなというくらい条件が厳しいんですが、雪が降っていて、ユーザーがお休みの日で、お昼くらいのタイミングで家にいる時に出ます。
――かなり細かいですよね。自宅も含め、ユーザーのことをどうやって知るのでしょうか。最初にプロフィール設定を行って、ある程度それを元にしているのでしょうか。
大野氏
性別は情報として設定できるようになっていますが、特に難しいアンケートなどは一切ありません。エモパーを使い始めたとき、3~4日自宅を学習させていただく期間があるんですが、普通に使っていただくことで、「低消費駆動センサー」と「状態推定エンジン」の2つで独自に分析、学習する仕組みになっています。自分でここが自宅だと分かったとなれば、「じゃあ、今からしゃべりますね」といって話し始めます。
自宅の位置を推定できたら、今度は今日この人は9時39分に自宅を出ました、次の日は9時30分くらいに出ました、というような活動データを細かく見て、その方がどんな方か、行動パターンや日常生活圏を推定することを目指しています。時間はかかりますが、時間をかけるほど学習する仕組みです。
推定に扱う情報は歩数、位置情報やスポット情報、行動履歴くらいです。最初に細かく質問にお答えいただくことも考えたのですが、面倒になって途中で止めてしまわれるかもしれません。ですから場合によっては1週間から2週間くらいかかることもあります。でもメールの中を見るなどのプライバシーは一切侵害しておらず、データは全て暗号化されていて、また外部に出すこともありませんので、安心してご利用いただけます。
このスマートセンシングについては省電力のノウハウをつぎ込みました。たとえば、揺れをみて、この人は今電車に乗ってるんだな、と判断し、電車に乗っている間は情報提供は控えてて、歩き出したら再び測位機能を動かして、というようなことをして、できる限り新規にGPSを取りに行かないで、低消費電力で駆動するようなことを心がけています。
――家を出たというのは具体的にはどうやって知るのですか?
大野氏
先の電車の例と同じなんですが、何歩歩いている、歩き続けているから、位置情報を更新したほうがいいのではないか、ということで確認するわけです。GPSで位置情報をとってみたら、家を出ていたといった具合です。
――なるほど。ただ、この手のサービスは、基本的に自宅と勤務先が1対1で固定されたお勤めの方がべースというイメージがあります。フリーランスで活動が不規則な方、出張が多い方や、派遣の方、配達業の方、夜勤勤務が多い方など、いろんな職業の方がいらっしゃいます。それらを細かく正確に推定するのは結構難しそうな気もします。
大野氏
そうですね。そのあたりの精度を高めるというのは、これからの課題です。昼夜逆転されている生活の方も、今回の段階で入れたいところだったのですが、それ以外のセンシング部分を固めることを優先しました。今後対応で推定能力を向上させて、学習させていければと考えています。
――先ほど受動的な方でも、ということでしたが、将来的には能動的に活用できるようユーザーの使いこなしをサポートすることはあるのでしょうか。たとえば、なんとなくインストールしたまま起動していないアプリがあったら、使用または削除を促すとか。
大野氏
本体容量やmicroSDカードの容量をチェックして、足りなくなりそうなときは「microSD、写真とか動画とか多くないですか?」とか、「いらないアプリいっぱいあるんじゃないですか」といったことをお知らせすることはありますね。その流れでアプリ情報を見ていただけるようになっています。
――便利だと思われるシーンで「写真撮ってみたらどうですか」「今このアプリの出番ですよ!」なんて教えてくれたら便利そうです。
大野氏
そのあたりは次の進化点として考えたいですね。
――エモパーは今後の端末にも引き続き搭載されていくのでしょうか。キャリアごとのカラーなどは出てきそうでしょうか。
高木氏
エモパーは今後のシャープ製端末に搭載される予定で、基本はシャープのアプリなので、どのキャリアでも同じだと思います。
――いい感じに育ったあたりで機種変更となったとき、データの引き継ぎは可能でしょうか。
大野氏
シャープ製のエモパー対応機種なら、全て引き継げるようになっています。バックアップもmicroSDカードに保存できます。機種変更の際にはお別れの挨拶もしてくれます。
マテリアルにこだわった、触って欲しいデザイン
――デザイン面でこだわられたポイントについて教えてください。
水野氏
以前、2014年の夏モデルでシャープのスマートフォンとして統一した記号を作るというお話をさせていただいたかと思いますが、それを実現したのが今回のSH-01Gになります。
“統一した記号”とは何かを改めてご説明します。これまでのシャープ製端末は、半年ごとに全く違うデザインになっていました。そのため、ユーザーの頭の中に“シャープのデザインてどんなイメージがあるんだろう?”というのが記憶として残らないという問題がありました。これがブランドを築けていない1つの理由ということで、考えられたのが三辺狭額の「EDGESTデザイン」、六角形の断面を持つ「ヘキサグリップシェイプ」の2つです。これを継続しようと考えて作られたのが2014年夏モデルでした。
今回の2014年冬モデルでは、これらをベースに、素材の変化、マテリアルにこだわりを持ってデザインしています。裏側の素材、手に持ったときにどれだけ新しい触感を新鮮さをもって感じていただけるかにフォーカスしました。ホワイトは、マジックの汚れも拭くだけで落ちるくらいのサラサラ感が特徴です。ピンクは革っぽい触感です。ブルーは指紋が目立たない光沢のドットテクスチャ、ネイビーはしっとりとしたラバーテクスチャになっています。
――今回4色展開で、それぞれの質感をすべて変えられたわけですね。なぜ質感に着目されたのでしょうか。
水野氏
1つはお客様がお店にきて、シャープの端末を手にとっていただくために、どうしたらそれが実現し得るかということを考えたんです。
今、情報はお店にいかなくてもほとんどインターネットで完結してしまいます。通り過ぎてしまう人をどうやって引き留めるか。スーパーの試食コーナーはいい例だと思いますが、あれは人間の五感の中でも嗅覚、味覚に訴えていますよね。同じことがスマートフォンでできないかというわけで触覚に着目しました。お店にいって見てみようかなと思ってもらえる、興味を持ってもらえるための触感をデザインに取り入れたいと考えました。
すべての触感が同じなら、1つ触って終わってしまいますが、4色ごとに質感とテクスチャーを変えていますので、じっくり触って違いを比較していただけます。
――確かにそれぞれ違うので、これは自分の手にはどうかなと、1つ1つ感触を確かめたくなりますね。
水野氏
実際、発表会のときも、石原さとみさんがネイビーの質感がすごいとおっしゃってくださったということもありましたし、アンケートでも好意的な反応は多かったです。
――アンケートで人気だったのはどれですか?
水野氏
男性は一番人気がネイビーで、女性はやっぱりピンクのサラサラとした質感が人気のようです。今回はモックアップも相当作りまして、どの色にどの質感を持ってくるかというのもシミュレーションした上、色ごとの質感も、微妙な違いの中から細かくチェックして選んでいます。会社ではお金使いすぎだって怒られましたが(笑)。
――ネイビーは確かにしっとりフィットして独特です。落としにくそうな感じがしますね。
水野氏
指紋も目立たないのでいいですよね。
――ここまでこだわると、カバーはつけてもらいたくないんじゃないでしょうか。
水野氏
できでばそのまま使って欲しいですね(笑)。
プラスチックレンズでGR認証に挑戦、5段分相当の光学手ブレ補正も
――続いてカメラについて教えてください。今回、リコーの画質認証ブログラム「GR certified」を取得されました。カメラ画質はリコーのお墨付き、という形になったわけですが、なぜそうしようと思われたのでしょうか。
大野氏
これまでも特に何も設定しなくても、いつでも簡単に最高の写真が撮れますよ、という部分は訴求してきました。そこをもう一歩、本質である画質もステップアップできないかと考えたんです。そこで、プロからも認められているコンパクトデジカメの最高峰、リコーのGRカメラの認証を取得できるレベルにしようということで開発を進めてきました。
――グローバルカメラのトレンドを見ると、セルフィに代表されるように、アウトカメラよりインカメラにどんどんシフトしてきていると思うのですが、その流れの中で、ここまでアウトカメラに注力される理由を教えていただけますか。
高木氏
実はインカメラもパノラマで広角撮影できたりしているので、両方ともバランスよくやっていると思います。ただ、今回はとにかくアウトカメラの画質を一段抜けたものにしていきたいと考えました。カメラを最初に携帯電話に積んだのは我々なので、そこはやはり一番でありたいなと。それに、今はもう画素数じゃないと思っているので、本質のクオリティをちゃんとお客様に伝えたいと思ったところが大きいですね。
――スマートフォンとデジタルカメラでは、求められるものや、こうあるべき的な絵の作り方の考えは根本的に違うような気もするのですが、そのあたりはいかがですか。
高橋氏
あくまでも私の意見になってしまうかもしれませんが、確かに最終的な絵の見せ方としては、携帯のほうが発色良くクッキリ見えるほうがいいなどの違いはあると思うんです。でも、誰もが見て綺麗という本質的な部分は共通していると思うのですね。まずはそこを目指しましょうと。その上で、お客様が好みそうなスマートフォン的な部分の味付けを被せて、という考え方で取り組みました。
――どんな写真が撮れるのか、どう変わったのか気になる方もたくさんおられると思います。
高橋氏
今回のモデルで実際に撮った作例なんですが、とにかく解像感やテクスチャーの出方が違いますね。ビルの写真なんかは、特に四隅の解像力がすごいんです。細かいテクスチャーがつぶれずにクッキリしています。中心と比べても遜色ないくらいに。
夜景も変なにじみがなく、コントラストがよく出ているんじゃないかなと思います。よく周辺の四隅の光量が落ちるんで、シェーディングといってゲインをかけて明るくしようとするので、ノイズが目立つんですが、そういうところもしっかりチューニングして目立たないようになっています。
逆光で撮影した花の写真も、これまでだったら全体に白いモヤがかかったようになりましたが、フレアやゴーストが極めて少なくなっています。リコーさんも、やっぱりこのフレア、ゴーストの処理にはかなりこだわられいて、そこが最後まで難しかった部分でもありますね。背景のボケ具合も、変な二重のボケはありません。しかもナイトバードと言われる、菱形にひしゃげるようなボケにならず、丸くボケてくる。相当レベルが高いものが撮れていると思います。
――リコーを選んだ理由を教えてください。
高木氏
やっぱり単焦点で一番で、そこでユーザーに評価されているというのはリコーのGRだと我々も思っていました。そのGRで我々の画質改善の取り組みにお墨付きをもらいたいなと思いました。また、リコーさんの方も新たな取り組みとして、GRの高画質をスマホユーザーにも体験してもらうことで、写真文化の裾野を広げたいと考えたようです。申し入れた際には「そんなに簡単じゃないよ。できるならやってみますか?」というところからスタートしています。
――カメラメーカーに挑む的なイメージがありますが、実際、かなり苦労されたのではないでしょうか。
高木氏
そうですね。レンズも並のレンズじゃだめだよ、ということをまず言われました。それから画質処理も。ノイズレベルですかね、これも非常に高度なものを要求されています。だから、レンズについては画質処理でごまかすような形ではなくて、レンズそのものの性能が求められました。また、あわせて画質処理のチューニングも求められました。まあ、本当に苦労してまして、高橋が何カ月も張り付いてがんばってくれました。ギリギリまで、認証をとれないんじゃないかなんて思ったりもしました。諦めなきゃいけないんじゃないか、みたいな話をしてたんですが、発表会の直前ですね、言えるようになったのは。
高橋氏
こういうハッキリした数値目標が出てくると、我々技術者というのは明確なターゲットができますので、やっぱりがんばって、そこを目指してやれるという面もあります。ベクトルが一致するんですよね。そういう点では今回のGRの認証を取りに行ったというのは、相当大変でしたが、かなり燃えました。GRの名前をもらっているので、それに恥じないものを作らなくてはいけないですし、ずっと作り続けなければいけないという気持ちもあるので、ちょっとまだ気は抜けないんですが。
――最終的な評価ポイントというのは、アウトプットされた絵で評価されるんでしょうか。どこが評価ポイントなのでしょう。
高橋氏
レンズと画質の2つですね。それぞれ細かく6項目ずつチェックポイントがあって、それをすべて満たすことが今回の課題でした。レンズで一番キモになるのは、単焦点レンズなどでよく出てくるMTFグラフです。オーディオでいう周波数特性みたいなものですが、左が画像の中心で、100と書いてある部分が画像の対角の一番端っこです。これが平均して高いことと、実線が示す同心円方向と、点線が示す放射方向とありますが、そこが変に暴れてなくて、スムーズにクロスするような形で通ること、というのがまずポイントになります。
グラフで非GR特製レンズとあるのは1世代前のレンズで、増光と呼ばれる場所を示すものなんですが、それが中心でほぼ9割近く出ることと、周辺部も赤線なんかはほぼ7割くらい。特に右側のものは最外角で中心に落ちちゃってますが、そういうものが無いというのが今回のキーポイントです。
赤い線と青い線はご存じかもしれませんが、赤い線は周波数特性の低い方を意味しています。よく抜けがいいとか言われますけど、コントラストがクッキリ出る特性を示しています。下の青い線は本当の解像力。細かい線がどれだけクッキリ見えるか、それを表したグラフになります。今回この特性について、設計した当初はここまで全然出ていなくて、この部分をもう少し上げなさいと言われました。その都度シミュレーションし直して、設計し直して、なんとかここまでもってきました。
――ここはこうしたらいいのでは、みたいなノウハウやアドバイスはリコーからもらえるんですか?
高橋氏
彼らはガラスでレンズを作っています。我々はプラスチックで作るので、そこは大きな違いでした。ですから、誰も分からないということで、プラスチックでどう性能を上げていくかというのが非常に難しいところでした。
1世代前の光学手ブレ補正の入ったモジュールと、今回のモジュールを持ってきましたが、今回のモジュールは、たった0.5mmなんですが背を低くしています。とにかく薄い方向にもっていってくれという要求もありました。0.5mm縮めるために、レンズの設計ってものすごく難しくなるんですね。このMTFとか、そのほか周差と呼ばれるひずみの特性も全部変わってきてしまうので、そこを追い込んでいくのがとにかく時間のかかる作業でした。
――今回認証をとりましたが、今後も継続されますか。
高橋氏
常に進化させていくことになると思います。ただ、GRの規格そのものも毎シーズンレベルが上がっていきますし、作る側としてはハードルがどんどん上がって、条件はすべて厳しい方向に行きます。社内からはサイズは薄くしてくださいって言われますし、正直、今回はほんとギリギリのバランスでできている感もありますので、次を目指すには、かなり工夫が必要になってくると思っています。
――先ほど光学手ブレ補正も入っているとおっしゃいました。
高橋氏
はい。また久々に光学手ブレ補正も載せています。基本的な設計は変えていないですが、性能を改善させています。今までは水平垂直のブレに関してはきっちり抑えられるような特性だったんですが、手ブレって斜め方向もあるので、斜めに動いた時の特性がさらに出るように、個別のチューニングをかけました。
カメラの世界では一般的には“何段分シャッタースピード改善できますよ”という言い方していますが、それで前の機種に比べて、1段分は性能が上がっています。公称値では言ってないですが、実力的には前のモデルでも4段分くらいの補正性能がありましたので、今回の改良で5段分相当の手ブレ補正が可能になりました。
――その手ブレ補正は、動画撮影時も効果が得られるのでしょうか。
高橋氏
動画の撮影時にはあまり皆さん気づかないんですが、シャッタースピードが短ければブレないでしょって言われるんです。しかし、実はCMOSセンサーってフォーカルプレーンシャッターで、順次画素を読むので、その読む時間によって画像がひずんじゃうんですよね。手ブレしているときに撮ると被写体そのものもひずんでいるんです。この手ブレ補正なら、ひずまずに元の形を残したまま絵が撮れるので、実は動画にも効果的な仕組みです。
――なるほど。今回のSH-01Gは、受動的なビギナーでもゆるく楽しめる「エモパー」と、玄人志向で攻めのカメラ性能が、三辺狭額デザインの中にぎゅっと入った端末、ということですね。持ってテクスチャを感じ、置いてしゃべらせてと常に存在を感じられそうです。最後に読者に一言コメントをお願いします。
高木氏
シャープのAQUOSスマホは、これからはエモパーを中心に、もっと愛着をもってもらえるようなスマートフォンに仕上げていくようにしていきますので、ぜひ応援をよろしくお願いいたします。
――本日はどうもありがとうございました。