インタビュー

シャープ「304SH」開発者インタビュー

シャープ「304SH」開発者インタビュー

EDGESTが進化、品位感にこだわり金属フレームを採用

 今回ご紹介するのは、ソフトバンク向けシャープ製端末「AQUOS Xx 304SH」である。初めて三辺狭額縁「EDGEST」を採用した302SHから約半年。その後、他キャリアでも対応端末がリリースされ、「EDGEST」は事実上シャープ標準ともいえる存在になった。その中において、ソフトバンク向けでは3代目となるのが304SHだ。製品としてどのような点を意識して開発したのか。

 端末のコンセプトやチェックポイントについて、開発を担当した通信システム事業本部 パーソナル通信第三事業部 商品企画室 室長 澤近京一郎氏、主事 吉田周太氏、デザインセンター 副参事 川充雄氏に伺った。

AQUOS Xx 304SH

反響が大きかった「EDGEST」

澤近京一郎氏

――昨年12月からソフトバンク版のSH端末で「EDGEST」という三辺狭額縁の製品を投入されました。反響はいかがでしたか。

澤近氏
 デザイン含め、各メーカーとの差別化がかなり難しいと言われているスマートフォンの世界の中で投入させていただいたのが、上辺と左右の額縁を極限まで細くしたという三辺狭額「EDGEST」を採用したモデル302SHでした。その後、2月にコンパクトでありながら同じく「EDGEST」の303SHも登場しました。

 もともとは、画面をいかに広く見せるか。お客様がその商品を手に取ったときに、いかに驚きを持って迎えていただけるかというところを強く意識して企画、商品開発を進めてきたものなんですが、実際販売して、お客様からも「これはすごい」「確かに画面が大きく見える」「新しく感じる」といった良い声をたくさんいただきました。正直、自分でもかなり良い製品だと思っていたのですが、お客様からの反響も大きく、大変喜んでおります。本当にやってよかったなと思っています。

――今回のモデルも「EDGEST」を引き継いでいますが、コンセプトを教えてください。

澤近氏
 せっかく「EDGEST」という名前で第1弾デビューさせていただいた後なので、今後その世界をさらに広げて強化していこうということで、さらに正常進化した「EDGEST」というのが今回のモデルのテーマです。

 「EDGEST」の進化ってなんだろうな、と考えてたどり着いたのが、狭額縁感をしっかり保ちつつ、筐体のデザインにより高級感を出してさらなる感動を届けようということでした。

――前回の302SHでは、「EDGEST」初登場ということで、ソフトバンク版の大きな特徴としてそれを強調する機能ともどもプッシュされていたかと思います。その後他キャリア向けにも「EDGEST」が採用されたわけですが。

澤近氏
 そうですね。「EDGEST」第1弾ということで、画面をいかに大きく見せるか、大きく見せるための特徴アプリとして「翻訳ファインダー」といったアプリを搭載してアピールさせていただきました。今回、「EDGEST」はシャープとしての考え方という定義づけになっておりますので、ソフトバンクさま向けの端末としては筐体デザインを第一の特徴として訴求していきたいと考えております。

金属フレームで品位感を表現

――具体的にはどのようなところにこだわられたのでしょうか。

吉田氏
 一番のポイントはズバリ、金属フレームですね。「EDGEST」の中でもどれだけ進化していくかというところで、今回突き詰めたポイントになっております。「EDGEST」は額縁が狭いところが魅力ですが、一方でデザインの幅も若干狭まってしまうというデザイナー泣かせなところもありまして。そこに対する新しいチャレンジが金属フレームの採用です。

川氏
 302SHでは、無駄をそぎ落としたデザインということで、極力その額縁の細いデザインを目指して、設計も含めて時間をかけてやってきました。今回のモデルは、その次のステップとして「高品位感」を重視しています。前回は樹脂とガラスでの表現でしたが、アルミを使った本物の質感を与えることで、新しい感動につなげようと考えました。

 金属感をいかに表現するか、金属のよさというのはどういうところなのか、を考えた末、まずキラッとしたダイヤカットを入れることで本物の金属感を出していこうということになりました。狭額感と金属フレームとのベストバランスを目指しました。仕上げとしては、金属ならではのサンドブラスト仕上げをして、ブラストのマット感とダイヤカットの輝きの対比をもたらすことで、より金属らしさを表現しています。

川充雄氏

――カラーバリエーションが、ゴールド、ホワイト、ブラック、レッドの4色ですが、ゴールドは珍しいですね。やはりこれは金属の質感から選ばれたのでしょうか。

川氏
 フレームにアルミを使うからには、アルミ素材が一番綺麗に見える色、金属感を訴及できるカラーを選定しようということで、この4色に絞りました。当初はオレンジとか、明るいピンクだったり。明るめのブルーとか、濃いめのブルーなど、他にもカラー候補はあったんですが、アルミの染色って、色によって全然見え方が違うんですね。今回は単なる色そのものよりも、染色後の見え方を重視しています。

 また、303SHが継続して販売されるということも踏まえています。あちらでは8色のカジュアルなカラー展開をしています。質感もブラスト調で、かなり明るい印象で彩度も高い。そこで、新しい304SHではそれとは異なる上質感、高級感を演出していこうということにしました。

――ターゲットとしてはどんな方をイメージされてるんですか?

吉田氏
 302SHでは、30代男性をメインにしていましたが、そこは大きく変えていません。プラス、ものの良さ、金属の高品位感をより実感していただきやすい方を想定しています。メタリックな仕上がりになっているので、スーツ姿で持っていただくとかなり映えると思います。

――金属フレームというと、アンテナ性能が心配になります。そのあたり、どうされたのでしょうか。

澤近氏
 弊社として評価し、十分自信を持って商品化できるレベルになってます。無線や熱まわりで影響が出ることはありませんのでご安心ください。

――とはいえ、それなりの苦労はあったのではないでしょうか。

川氏
 金属は基本的にはアンテナを遮蔽する素材なので、金属とアンテナの特性っていうのは非常にバランスの難しいところです。アンテナの感度をいかに保ちながらこういったパーツを作っていくかという点では、機構、回路、無線の技術担当者の苦労には頭が下がります。

 一部切れ目があるのはアンテナの特性を持たせるためなんですが、メタルフレーム自体をアンテナにするという発想で、上の側面に関してはGPSのアンテナを、下の部分に関しては通信のメインアンテナ兼ねるような形になっています。ただ単にデザインを求めた金属ではなくて、機能性を両立させるというところが非常に技術担当者もこだわって仕上げています。

 今回の金属素材に関しては、単に金属の削り出しではなくナノモールディングテクノロジーといって、高度な技術である筺体樹脂との一体成形を採用しました。金属の表面に微細な凹凸をつけて、分子レベルで樹脂と蒸着させるという手法を取り入れています。ただ、工程数は多くなり50工程以上の手間がかかっています。

アルミの採用で軽量化を実現

吉田周太氏

――金属フレームを採用したことで生じたメリット、デメリットなどがあったら教えてください。

吉田氏
 まずメリットですが、軽さですね。302SHが147gだったのに対して、今回の304SHは約137g。樹脂から一体成形することで、あくまでも外観としての金属を使いつつも、重さを感じさせない仕上がりを実現しました。また、端末の剛性を持たせるため、従来ですと中に板金などを入れるんですが、今回外に使っているアルミを中の板金としても使っていますので、軽くすることができました。

 厚みに関しても今回9mmということで、これも302SHよりも薄くなっています。基板の部分の設計を工夫することで電池容量は2600mAhと302SHと同じなんですけど、同じ容量を保ちながらも薄型と軽量化ができています。これは技術的に開発メンバーががんばったポイントです。

 デメリットですが、金属を周りに這わせることで、一定の距離を保たなきゃいけない部分等もでてきますので、幅と高さに関しては302SHよりわずかに大きくなっているというところはあります。ただトータルでは軽くなっていますが。

――今回「グリップマジック」非対応とのことですが、それは金属フレームの影響と考えてよろしいでしょうか。

澤近氏
 そうですね。商品の全体のバランスを考えてのことなんですが、非搭載になっています。ただ不可能ではないので、そこは今後どうしていくかということですね。

「EDGEST」と親和性の高い機能

検索ファインダー

――前回は英日変換が可能な「翻訳ファインダー」を搭載してEDGESTをアピールされていました。今回はいかがでしょうか。

吉田氏
 もちろんあります。「翻訳機能」の強化と、新たに「検索ファインダー」というアプリを追加しています。

 「翻訳ファインダー」というのは、額縁が細い「EDGEST」だからこそ、まるで英語が日本語に置き換わっているかのように感じさせるというところを狙った機能でした。旅行に便利だったこともあってか、その後韓国語と中国語への強いニーズが寄せられまして、ソフトバンク様側の対応によって「かざして翻訳」という別アプリを追加しています。

 「検索ファインダー」は、カメラで映し出した文字をなぞると、ネットから情報を引っ張ってきて、AR的にファインダー上に重ねて表示するというものです。これも端末、ディスプレイの内と外の世界を融合して、新しい価値観を提供するという「EDGEST」の考え方と相性が非常にいい機能だなと思っております。

かざして翻訳

――「翻訳ファインダー」が中国語、韓国語に対応したのではなくて、別アプリとして独立した存在として追加されたということですか? それはなぜでしょうか。

澤近氏
 弊社としては英日翻訳をリリースさせていただいて、それをしっかり訴求していきたいとう流れがあったわけですが、ソフトバンク様にも、こういった翻訳系は面白いといっていただきまして。特に弊社の商品との相性もいいいうことで、韓国語、中国語対応はソフトバンク様が提供するということになりました。

――「翻訳ファインダー」でメニューや料金表を見たとき、ARで料理写真がでてきたり、日本円でいくらくらいかがわかるとさらに便利に使えそうな気がします。「検索ファインダー」との融合みたいな感じですが。

澤近氏
 それはありですね。検討します。

――ぜひご検討ください(笑)。

吉田氏
 先ほどの「検索ファインダー」や「翻訳ファインダー」は、ディスプレイの中に実際目の前にあるものを写して、そこに何かを付与していくような、ディスプレイの中に対して外から情報を与えていくような考えになります。逆に、ディスプレイの中から外へ、中に映っているものがあたかも外にあるかのように感じさせる機能として、ぜひ体験していただきたいのが「全天球撮影(Photo Sphere)」です。

 上下・左右360度のパノラマ写真が撮れるというGoogle様の機能なんですが、端末に搭載している9軸センサーによって、画面を動かすとその方向に広がっているように見えるんです。これも狭額縁だから違和感なく楽しめる機能だと思います。

――確かに額縁が狭いことと画面の広さのおかげで、とてもリアルに見えますね。

澤近氏
 そうですよね。弊社も従来機種がたくさんあるので実際入れて試してみたんですが、全然見え方が違うんですよ。同じことをしても、EDGESTとそうでないものでは感動が違う。この「全天球撮影」が存分に楽しめるのは弊社の端末だとと思いますし、我々もEDGESTだったからその楽しさに気づけたのかもしれないと考えてます。

――9軸センサーというのはどのようなセンサーですか?

吉田氏
 地磁気と加速度とジャイロセンサーの3つを組み合わせたセンサーです。加速度というのは動いている速度を検知します。地磁気は磁石情報ですね。東西南北がわかります。ジャイロセンサーは端末の傾きを判別するセンサーです。これらで見ている方向や向きなどがリアルに再現されます。

――撮影したものは簡単に共有できるんでしょうか。

吉田氏
 Gmailに添付して送信したり、Google+やGoogleマップで共有することができますね。ちなみにサンプルで撮影したパノラマ写真は1ファイル2.2MB程度でした。

――「EDGEST」を軸に、いろんなことが実現できそうですね。

澤近氏
 狭額縁の端末をもっていろいろやっていると、社内で話していても話が弾むんですよね。もっとこんなことができるんじゃないか、こうしたら面白いんじゃないかって。やっぱりかなり可能性を秘めてると思います。

「失敗しない」「ちゃんと撮れる」カメラ

――これまでカメラのファインダーを通した機能をご紹介いただいてますが、撮影そのものに関しての改良点があったら教えてください。

吉田氏
 カメラ機能は、フィーチャーフォンの時代からこだわりを持ってやってきてますので、毎シーズン進化させていきたいという想いが強くあります。今や、スマートフォンのカメラの利用率って非常に高いですよね。ふとした瞬間に使えて便利ですし、若い方でもスマートフォンのカメラは非常に重要なツールとして成り立っていると思います。そんな点を背景に、今回は誰でも簡単に綺麗な絵が撮れる。ここを非常に大きなポイントとして考えました。そこで、「リアルタイムHDR」と「フレーミングアドバイザー」という機能を追加しています。

 HDRとはハイダミックレンジの略ですが、逆光のときに光が明るすぎたり、逆に被写体が陰になって全然見えなくなってしまったりするシーンでも、補正することで全体が綺麗に残せる機能です。HDR補正自体は他社さんも搭載されてますし、弊社としてもやっていたんですが、今回のポイントは“リアルタイム”という点です。従来のHDR補正というと、明るさを変えた写真を2枚ないしは3枚連写し、それを合成してから補正しています。しかし今回は1枚の画像を、1ピクセルずつ碁盤目状に露出を変えて撮影することで撮影するので、1枚の画像の中で露出の高い物低い物の撮影ができるようになっております。1枚で済むので合成ブレは起こりませんし、処理も早いため、HDR連写というものが実現できるようになりました。

 「フレーミングアドバイザー」とは、構図を知らない人でも、綺麗に見える構図になるように促すガイド機能です。スマートフォンで撮る写真は、主に人や風景、建物、料理が主な被写体になると思いますが、撮影しようとしたときシーンに合わせたガイドラインを表示して、この辺にものを配置すると綺麗に見えるよ、これくらい近寄ったほうが美味しそうに見えるよ、ということを端末側でアドバイスします。

――「リアルタイムHDR」で1ピクセルずつ露出を変えるというのは、どういうことでしょうか。

吉田氏
 1枚の絵の中で、1ピクセルずつ明るい暗い明るい暗いみたいな感じで、交互に変えているんです。それを上下左右で情報を補正しあって、一番最適な明るさというのはどこかというのを処理して表示するんですね。ただ単に露出を変えて終わりではなくて、そのあとに上下左右の自分とは違う露出で撮られてる部分から、必要な情報を撮ってきて補完する。暗すぎるんじゃないか。本来あるべき色はこの辺なんじゃないかと。交互に露出を変えて撮れるセンサーじゃないと実現できないんですが、今回搭載しているカメラだからできる機能になっています。

――これまでもシーンは自動検出していましたが、「フレーミングアドバイザー」も自動的にあったものを教えてくれるんでしょうか。

吉田氏
 その通りです。顔検出機能がありますので、人だなと分かれば人が入った状態で綺麗に見える構図のガイドラインを表示します。料理の場合、丸いものを見つけると料理モードに入って、お皿のガイドラインを表示します。そうやって構図を案内しますので、撮る人がその案内に合わせて構図を決めてシャッターを着れば、カメラ側で検出したシーンにあった最適なモードとあわせて、ベストな写真が撮れるというわけです。

――なるほど。それはありがたいですね。

吉田氏
 それから、キャッチーなワードを並べさせてもらうと、4K2K動画の撮影にも対応しています。とにかく高画質です。ただ、端末自体はフルHD液晶ですので、4K2Kで撮ってもフルHDで撮っても、その場では正直変わらないんですけども、動画のプレイヤーがピンチイン・アウトによる拡大縮小をサポートしているので、動画の部分拡大という、スマートフォンならではの楽しみ方ができると思います。まだご家庭のテレビで4Kというのはハードルが高いですが、まずはスマートフォンでお楽しみいただきたいです。

――そういえばソフトバンクのハイエンド端末では久しぶりのIGZO液晶搭載となります。待っていた方も多いのではないでしょうか。

吉田氏
 新端末を出す度に「IGZOじゃないの?」という声があったのは認識しております(苦笑)。303SHでIGZOを搭載してますが、フラッグシップモデルという意味では、203SHから約1年半ぶりのIGZOとなります。もちろん搭載したからには進化点はありまして、「PureLED」という名称をつけていますが、バックライトを変えて、赤がより純粋な赤に見えるようになっています。色鮮やかなIGZOをぜひ体感していただきたいです。

――電池持ちについてはいかがでしょうか。

吉田氏
 今やIGZOといえば電池持ち、というくらいお客様にご好評いただいています。従来は2日間だったところが、今回は3日間を超える電池持ちを実現しています。ここも大きく訴求していきたいポイントですね。

――どのようにして3日間を達成されたんでしょうか。

澤近氏
 デバイス自身の効果もありますが、デバイスをどう使うかというところが大きかったりしますね。同じCPUを使っている状態でも、いかに早く立ち上げ、いかに早くクロックを落とすかという、これがとても重要なんですよ。早く立ち上げることでパフォーマンスはよくなるんですけど、高い状態を維持していると消費電力がどんどん流れる。ゆえに、いかに不要なところですぐカットするかというチューニング、これがキモになります。これまでの挑戦とノウハウの蓄積のおかげで、最近それがハイレベルで実現できるようになったというわけです。パフォーマンスと省電力化の両立という意味ではそこのところが一番大きいです。

ワンハンドアシスト

――最後に、このほかに店頭で手に取ったらぜひ試して欲しい機能があったらご紹介ください。

吉田氏
 「ワンハンドアシスト」をぜひ試していただきたいです。大画面になったことで、片手で使いにくくなったというお客様の声を反映した機能で、ワンフリックで画面を片手操作できるくらいまで縮小し、左右好きなほうに寄せられるというものです。面白いところは、画面を縮小した状態で、普通に操作できてしまうことなんですよ。同じ操作で簡単に解除できるので、文字入力など片手で操作したいシーンと、Webページや映像などのコンテンツを大画面のまま楽しみたいシーンを使い分けられると思います。大きな画面だと操作しにくいのでは、と思われていた方には、特に試していただきたいですね。

――本日はどうもありがとうございました。

すずまり