インタビュー
「SH-01F DRAGON QUEST」担当者インタビュー
「SH-01F DRAGON QUEST」担当者インタビュー
「ドラクエ愛」で作られた、日常が冒険になるスマートフォン
(2013/11/28 15:51)
2013年冬に発売されるスマートフォンの中で、トップクラスの注目を集めている端末と言えるのが、NTTドコモの「SH-01F DRAGON QUEST」だ。1986年にファミリーコンピュータで発売された第1作「ドラゴンクエスト」以降、パッケージゲームの累計出荷本数は6000万本を超えるドラゴンクエストシリーズとのコラボレーションモデルについて、コンセプトやこだわりを担当者に聞いた。
「ドラクエ愛」にあふれたドラクエ世代が開発を担当
――はじめに、今回の端末における担当分野をお聞かせ下さい。
舞野氏
私はスマートフォン商品企画の担当で、2013年夏モデルでは「AQUOS PHONE ZETA SH-06E」を手がけました。今回は、どんな端末に仕上げるのかというコンセプトメイクやドコモ社内のチーム、スクウェア・エニックスさんとの橋渡し役として、1年ほど前から関わっていました。
滝本氏
私は端末デザインが仕事ですが、その一環として今回のようなコラボレーションモデルの企画や、コラボレーション先企業の開拓なども行っています。今回は2013年冬モデルとしてぜひドラゴンクエストとコラボレーションしたいよねという話が持ち上がり、スクウェア・エニックスさんにお声がけさせていただきました。
青海氏
私はドラゴンクエストシリーズのプロデューサーとして、ゲームのほかにグッズやコラボレーション商品などの担当もしています。今回もそういったつながりでドラクエスマホの開発に携わりました。
――みなさんのドラゴンクエスト歴は?
舞野氏
いわゆる「ナンバリングタイトル」(派生作品を除いた続編のみを示す言葉)はI~Xまですべてプレイしていますし、珍しいところではサテラビューの「BSドラゴンクエストI」もプレイしました。最近ではNintendo 3DSの「ドラクエVII」やWiiで「ドラクエX」を楽しんでいます。初めてプレイしたドラクエはIIIなので、「ふっかつのじゅもんは体験していない」世代です。
滝本氏
私は初めてドラクエをプレイしてから20年くらいでしょうか。初めてのドラクエは「ドラゴンクエストIV」からですが、一番心に残っているのはスーパーファミコンでリメイクされたIIIですね。ファミコン時代のI、II、IIIは兄のプレイを後ろからみて楽しんでいました。
青海氏
私は小学校中学年の頃にファミコンのIIから入り、その後、I、IIIとプレイしました。IVの時は発売に購入するために行列したのもいい思い出で、同窓会でも「あの頃ドラクエの行列に並んだね」と話題に上ることもあります。
――端末の開発はNTTドコモから打診があったとのことですが、その時、青海さんとしてはどのような印象でしたか。
青海氏
「難しい」というのが最初の正直な印象でした。これまで手がけてきたコラボ商品とは異なり、スマートフォンは長い間、日々使っていただくもので、大変高価です。これまでドコモさんがJOJOスマホやワンピーススマホなどを手がけていることは知っていましたが、はたしてドラクエでお客さまに満足いただけるスマホを成立させられるのか、というのは不安でした。
一方、端末のコアなターゲット層が20代~40代になるという話を伺い、ドラゴンクエストのファンが多い30代、40代とは非常に相性がいいという感覚もありました。そして何より重要だったのは「作り手のドラゴンクエスト愛」ですね。他のコラボ案件もそうなのですが、作り手に愛があれば、困難も乗り越えられますし、苦労も問わず、結果としていいものができる。今回もドラクエ愛にあふれた現場で、いいものが作れたなと思っています。
舞野氏
ドコモの社内にもドラクエのファンは多く、ドラクエスマホでやりたいこと、欲しい機能のアイディアをヒアリングして、かなり具体的にまとめた提案をスクウェア・エニックスさんに持っていきました。意気投合してからの開発のスピードは速かったですね。
「メタルスライム」製の本体でドラクエの世界観を日常につなげる
――コラボレーションモデルのスマートフォンは、ヱヴァコラボの「SH-06A NERV」のように作品中に登場するタイプと、ワンピースコラボの「N-02E ONE PIECE」のように作品の世界観を反映したタイプがありますが、今回のドラクエスマホはどういった位置付けでしょうか。
滝本氏
そういう意味では中間に近いですね。端末の中身のデザインやコンテンツについてはイメージが膨らむ中、外装についてはなかなか決まらず、カバーでもいいのではというアイディアも出ていたのですが、青海さんに相談したら「装備できる」という今回のコンセプトをいただきました。
青海氏
メタル素材は私がプッシュしたもので、実際にキービジュアルの写真を撮ってお見せしてアイディアを説明しました。1人のドラクエユーザーとして考えた時、ただドラクエのキャラクターが乗っているだけの端末では面白くないですし、作り手としてもお客さまから「デザインだけで買った」と言われるのも悔しいところがあります。
今回のドラクエスマホは「素材がメタルスライムでできていて、冒険者がメタルスライムを狩って集めたかけらを鍛冶職人が作った」という設定です。単なるキャラクターのコラボだけでなく、ドラクエの世界観が日常につながる物語性が欲しい、という思いで開発しました。
舞野氏
外装に金属を使うというのは電波特性に影響があるのでハードルが高いのですが、製造担当のシャープさんに「こんなものができないか」と相談しました。シャープさんには何度か試作を重ねていただき、最終的に量産の目処が立ったのは今年の夏前ごろです。
滝本氏
実際の製品は「不連続蒸着」という特殊な方法によって、ゆがみがない、なめらかな金属調の表面を再現でき、「しっかりとメタルスライムの金属感を実現できました。
――装備できるメタル素材というと、「はぐれメタル」シリーズのイメージが強いですが、なぜメタルスライムだったのでしょうか。(※IVから登場したはぐれメタル製の武器と防具。Vではさらに強化された「メタルキング」シリーズの武器と防具が登場する)
青海氏
ドラクエのキャラクターで知名度が一番高いのはスライムで、ドラクエをプレイしたことがない人でもスライムなら知っている人が多い、ということでメタルスライムを採用しました。周りに見せびらかしたい時に自慢となるポイントも重要で、スマホを持って「これメタルスライムでできてるんだぜ」という会話をして欲しかった、という考えですね。
――デザインを見ているといわゆるロトシリーズが中心に見えますが、ターゲットとしているドラクエ世代はどのあたりなのでしょうか。
(※ロトシリーズ: 勇者ロトとその血を受け継いだ子孫が主人公となるI~IIIまでの作品群)
青海氏
基本的にはナンバリングタイトルで登場する代表的なキャラクターを選んでいて、シルエットを見るだけでどのキャラクターかわかるような、世代を問わないデザインにしています。とはいえ今回のターゲットとなるファン層はやはりI、II、IIIの世代が多いので、パッケージや同梱品にロトの紋章を使うなど、ロトシリーズは手厚くしてはいますね。
端末を持ち歩くだけで冒険できる「いつでも冒険ダイス」
――コンテンツ面で力を入れた部分は。
舞野氏
なんと言っても、このSH-01F DRAGON QUESTでしか遊べない、サイコロを振って進むオリジナルゲーム「ドラゴンクエスト いつでも冒険ダイス」ですね。
滝本氏
日常的に持ち歩くスマートフォンとドラクエで親和性があるものが何かできないか、と考えてできあがったのが、この「いつでも冒険ダイス」です。元々は青海さんから「日常が冒険になるスマホ」というコンセプトをいただいていて、歩数や着信回数、メールの受信回数といったスマートフォンを使っていれば行うであろう日々の行動に応じて「DP(ダイスポイント)」が貯まります。このDPを使ってサイコロを振り、冒険を進めていくことで壁紙や絵文字などを手に入れることができます。
青海氏
スマホを日々使えば使うほど冒険が進んでいくという、日常の中に冒険を取り込んだ仕組みになっています。
――アイテムだけではなくキャラクターも成長していくのでしょうか。
青海氏
最初は戦士や僧侶、魔法使いといった基本職ですが、冒険を進めてレベルアップしていくことでドラクエでもおなじみの上級職に転職することができます。転職は自動的に行われるのではなく、ゲームと同様、ダーマ神殿から転職することができるようになっています。
――転職すると何が変わるのでしょうか。
滝本氏
キャラクターの見た目はもちろん、職業によって出会えるモンスターが異なります。「いつでも冒険ダイス」は出会ったモンスターを図鑑に記録していくというのが1つの目的なので、上級職に転職していかないと全部のモンスターを記録することができません。
青海氏
もう1つ、ゲームを進めていくともらえる“ちいさなメダル”を集め、壁紙やデコメ絵文字などを入手できます。モンスター図鑑とは違って頑張れば比較的早めにコンプリートすることができます。
――壁紙やデコメ素材はプリインストールされているもののみで、追加コンテンツを有料販売することはあるのでしょうか。
滝本氏
プリインストールされているコンテンツを、ゲームを進めていくことで解除していく仕組みですね。追加コンテンツの有料販売は今のところ予定していません。
――図鑑はどれくらいでコンプリートできるのでしょうか。
舞野氏
詳しくはお伝えできませんが、スマートフォンの契約は2年間が前提ですので、少なくとも1週間、2週間でコンプリートできてしまう、ということはありません。
滝本氏
ゲームを進めるには、端末を持ち歩いたりメールを受信したりしながらDPを貯める必要があります。ずっとダイスを振ってゲームをプレイし続けられるわけではないので、かなり長い間に渡って楽しんでいただけると思います。
青海氏
ゲームというと身構えてしまうかもしれませんが、「いつでも冒険ダイス」はとてもライトな作りになっています。テレビの前で腰を据えてプレイするゲームと異なり、スマートフォンのゲームは日常のちょっとした合間にプレイして楽しむものですし、そのあたりは意識していますね。
舞野氏
狙ったのは日常にドラクエ感が出る仕組みです。スマートフォンを日常で持ち歩くことで、通勤していたらポイントが貯まっていて会社に着いてアプリを見たら敵が現れたというように、日常でドラクエの冒険感を楽しんでいただきたいですね。
着信画面や電源オンオフ時も作り込み
――日常に冒険、という意味では着信も作り込まれていますね。
滝本氏
着信画面は11月に開始した新サービス「きせかえコール」を使って、着信を受けるとドラクエのモンスターが襲いかかってくる仕組みになっています。登場確率は乱数で決められていて、着信相手にかかわらずランダムで表示されます。着信画面は「でる」「でない」の二択になっていて、本当は「たたかう」「にげる」というアイディアもあったのですが、今回は純粋に、着信応答の利便性を優先しました。
舞野氏
こうした新サービスを組み合わせるのが私の役目ですね。今回も新たに「きせかえコール」というサービスが始まる情報を得て、これをドラクエスマホにうまく組み合わせられないか、と提案しました。
――着信画面で登場するキャラクターの種類はすべて公開されてるのでしょうか。
滝本氏
Webサイトなどでは一部しか公開していませんが、新製品発表会の端末にはすべてのキャラクターが組み込まれていました。発表会を取材したメディアの記事をすべてチェックすると、もしかしたらコンプリートできるかもしれませんね。
――電源オフや電源オンの時もカスタマイズされているのでしょうか。
滝本氏
画面がオフになる時はスライムのシルエットとともに画面が消えるようになっています。また、電源を入れたときにもちょっとした工夫があります。ぜひ端末を手にして試してみて欲しいですね。
――その他に端末でカスタマイズされている部分はありますか。
滝本氏
電池アイコンや電波アイコンなどもドラクエ用のデザインになっていますし、変わったところではホームボタンのアイコンがスライムになっています。ホーム画面はドコモの「docomo LIVE UX」がベースになっていますが、アイコンや着メロなどは他のホームアプリでも使えるようになっています。
青海氏
着信音もドラゴンクエストシリーズの名曲がプリインストールされています。すぎやまこういち先生の楽曲自体がすばらしく、何百回、何千回と聴けば聴くほど、より魅力的に感じていく楽曲ばかりで、着信音にとても向いていると思います。
――隠し要素のようなコンテンツはあるのでしょうか。
滝本氏
「いつでも冒険ダイス」を進めることで入手できるコンテンツはありますが、隠し要素というものは特にありません。「いつでも冒険ダイス」を進めれば“ちいさなメダル”が集まり、それによって“ドラゴンクエストの世界観がさらに充実するコンテンツ”というご褒美がもらえる。それがお客さまに一番喜んでいただける要素だと思って企画しました。
――ドラゴンクエストIXでは「すれ違い通信」が人気でしたが、そうした機能の実装はお考えになったのでしょうか。
青海氏
台数の問題から難しいですね。一般的にすれ違いは100万台を超えるとすれ違いやすくなる、という肌感覚がありますが、今回の端末は3万台限定のため、すれ違うことがなかなか厳しいと思います。
ドラクエVIIIをプリインストール。同梱品もこだわりの限定品
――Android向けの「ドラゴンクエストVIII」がプリインストールされていますが、ナンバリングタイトルの中でVIIIを選ばれた理由は。
青海氏
ドラクエスマホの話をいただいたタイミングで、ちょうど「ドラゴンクエストVIII」のプロジェクト(スマホアプリ版)があり、タイミングとしてちょうどよかったですね。ドラゴンクエストはI~VIIIまで、スマートフォン向けにリメイクしていきますが、せっかくのドラクエスマホですし、最初からプリインされていると嬉しいよね、という自然の流れでした。またドラクエスマホは5インチのフルHDという大画面ディスプレイです。広大で美しいフィールドを冒険できる「ドラゴンクエストVIII」と相性が良かったんです。
舞野氏
もともとドコモの端末では、FOMAの「N900i」で「ドラゴンクエストI」をプリインストールし、当時、好評をいただいた経緯もあり、ナンバリングタイトルのプリインストールはコンセプトとしても重要視していました。
――ドラゴンクエストVIIIのスマホアプリは、一般向けにも販売されますが、ドラクエスマホ版と違いはあるのでしょうか。
青海氏
ゲーム内容は同じですが、ドラクエスマホではゲーム内で使える特典としてアイテムコードが用意されています。獲得経験値が増える「元気玉」のほか、「超せいすい」「超スキルのたね」が4個ずつもらえます。これはすごく使えますよ。
――今回の端末はシャープが手がけていますが、ここ最近のコラボモデルは毎回メーカーが異なっています。シャープだった理由というのはあるのでしょうか。
滝本氏
シャープさんにはこれまでもいろいろなコラボモデルを手がけてもらっていて、相性がいいというのはわかっていましたし、実際に今回も非常に助けていただきました。
舞野氏
「シャープさんといえばツインファミコンだからドラクエと相性がいいはず」なんて社内でも話していました。背面のメタル部分を曲面にも施すといった技術的に難しい部分も解決された点、コラボ端末開発の高いノウハウを持っておられる、という点で決定しました。要求以上に応えていただいたおかげで、期待以上の仕上がりになったと思います。
――端末だけでなく同梱品も非常に豪華ですね。
青海氏
最初は端末本体だけのコラボというお話だったのですが、ドコモさんから「ぜひ追加で何かしたい」という要望をいただきました。弊社ではドラクエグッズも自社で企画開発していますし、ゲームの攻略本も出版しています。これらをうまく組み合わせたら面白いものができるのではないか、というアイディアから生まれたのが、この同梱される書籍「冒険の導き書」です。ドラクエスマホのバックグラウンドストーリー、スマホの使い方、ゲームの紹介など、これを読めばドラクエスマホがわかる、まさに攻略本的な一冊になっています。
せっかくの限定品なので、書店で販売しているものと同じではつまらないということで非常にこだわりました。特に担当編集者がノリノリだったので、表紙をエンボス加工、箔押し仕様にしたり、ページの裁断も金型を起こして抜いたりと非常に細かな点までこだわって作っています。まさに“リアル冒険の書”のような雰囲気です。
滝本氏
最初は通常の書籍を想定していたのですが、いつのまにか装丁や中身がどんどんすごいものになってきました。ちなみにシャープさんも非常に熱心に取り組んでくれていて、パッケージの中にスライムの形をした穴があるのはシャープさんのアイディアなんです。
青海氏
別売ですが専用のケース(スクウェア・エニックス e-STOREにて専売)も発売します。「冒険の書」をイメージしたブックタイプのデザインで、ドラクエスマホを購入した人にはぜひこのケースも検討して欲しいですね。
――開発者のドラクエ愛が本当に伝わってきました。最後に読者に向けて、ドラクエスマホへの想いをお聞かせください。
舞野氏
いよいよ発売日が迫ってきました。ドラクエファンとしても、ゲーム機がなくてもスマートフォンだけで「ドラゴンクエスト」がいつでもどこでも遊べるようになるのが楽しみです。商品企画担当者としては、「SH-01F DRAGON QUEST」の高精細なIGZOディスプレイと大容量バッテリーの組み合わせによる“最高のドラゴンクエストVIII体験”をお届けしたいですし、随所に仕込んだ、ドラゴンクエストの世界に没入できるさまざまなコンテンツを楽しんで欲しいです。
滝本氏
この端末のキャッチフレーズは「毎日が冒険になる」なのですが、本当に冒険になる端末ができあがったと思います。幼い頃にドラクエをプレイしてわくわくした気持ちを思いだして、毎日が再びあの頃のように冒険になればいいな、と期待しています。
青海氏
作り手のみなさんが本当にドラクエ愛にあふれていて、愛を込めて作った端末です。必ず満足していただけると思いますし、メタルスライムの素材で作ったスマホを装備して、みなさんそれぞれが勇者として日常の冒険へ旅立って欲しい、と思います。
――ありがとうございました。