KDDI×Facebookインタビュー

サービスの“ソーシャル化”に向けて第一歩を踏み出したKDDI


 5月に開催された夏モデルの発表会で、KDDIはFacebookとの提携を発表した。取り組みの第1弾として、まずはAndroidスマートフォンにFacebookアプリをプリインストール。「INFOBAR A01」は、専用のウィジェットを内蔵している。また、7月には「au one アドレス帳」にバックアップしたデータで、8月にはEメールの送受信履歴で、それぞれ友人の検索ができるようになった。当初はアプリのプリインストールだけで、提携のインパクトは未知数だったが、新機能の投入でおぼろげながら両社の狙いが見えてきた格好だ。

 メール履歴による検索機能の投入に合わせ、KDDIの新規事業統括本部 新規ビジネス推進本部 オープンプラットフォームビジネス部 副部長の江幡智広氏および同本部 オープンプラットフォーム部 パートナーズ推進3グループリーダーの内田陽広氏と、Facebook Japanの代表・児玉太郎氏に、インタビューを行う機会を得ることができた。そこで、KDDIとFacebookの提携から現在に至る取り組みの背景や目的を、改めてうかがった。両社が目指す今後の展開についても、語ってもらった。

Facebook Japan代表の児玉太郎氏

――今まで投入してきた機能は、あくまで“友達を探す”という段階のもので、その後がありません。今後、何かauのサービスと連携させたものが出てくると考えていいのでしょうか。

児玉氏
 そうですね。これから、KDDIさんがお持ちになられているさまざまなサービスに、FacebookのオープングラフAPIを活用いただき、よりソーシャル化していくのだと思います。ただ、その前に、既存のお客さまの人間関係がFacebook上にプロットされている必要があります。実際、アドレス帳の中は、すでに“プチソーシャル”な状態になっているわけです。それをAPIで使えるような形にしていくのが、Facebookの役割だと思っています。このような機能を一緒に開発し、ソーシャルグラフを再構築すればするほど、KDDIさんにとってもデータが再利用しやすくなりますから、まずはここからアプローチしているわけです。

江幡氏
 この取り組みが進んでくれば、サービスの利用状況をFacebookで知人や友人とシェアできるようになります。誰かが音楽を聞いたから、それを買ったというようなアクションにつながるような仕掛けをしていきたいですね。

――メールの履歴から友達を検索できる機能に関しては、まずはフィーチャーフォンからの開始になっています。スマートフォン全盛の中、あえてここから始める意図を教えてください。

児玉氏
 時代の流れとしてはスマートフォンです。Facebookのグラフのデータを使ってさまざまなサービスを展開するときには、主にスマートフォンの上でということになると思います。とはいえ、実際にKDDIさんがお持ちになっている人間関係をプロットする上で、今一番必要なデータはフィーチャーフォンの中にあります。数も多いですからね。

――これはKDDIさんに伺いたいのですが、スマートフォンでは、キャリアとは別に、メーカーがUIの中にFacebookを統合していることがあります。そことの競合などは、どのように考えているのでしょうか。

江幡氏
 基本的にはケースバイケースで考えています。一番いいUX(ユーザー・エクスペリエンス)があればいいと思うので、その中で選択していくことになります。

KDDI、新規ビジネス推進本部の江幡智広氏KDDI、新規ビジネス推進本部の内田陽広氏

――とすると、フィーチャーフォンの時のように横展開で全端末一斉にとは考えていないのでしょうか。

江幡氏
 はい。個別、個別で考えていきます。

内田氏
 サービスのところは同じように使えるので、あくまでUIを変えるだけですからね。

江幡氏
 フィーチャーフォンだと、どうしても端末側のネイティブソフトで作りこまなければいけなかったので、どうしても1つにしていく流れがありましたが、スマートフォンではそういうこともありません。ですから、そこは臨機応変でやっていけると思います。

――スマートフォンでFacebookという観点では、アプリがまだ使いづらいように感じています。一部機能が利用できないため、どうしてもPC版を開かなければいけないこともあります。KDDIさんとの提携で、何かしらのフィードバックを得て、アプリ側に反映させることもあるのでしょうか。

児玉氏
 全世界で共通のアプリを展開しているので、KDDIさん向けの特別アプリという考え方にはならないかもしれませんが、まだまだ足りない機能があることや、至らない点は認識しています。また、日本市場からのフィードバックは、本国でも重視しています。これは、モバイルサイトでも、アプリでもそうですが、日本の意見が“超重要”という雰囲気になっているので、我々からも日々「こうすればもっと使いやすくなる」という声を上げています。

 たとえば、QRコードもそうですが、これを使って何か面白いことができないかというのも、よく話題になります。FeliCaもそうですね。新技術が日本から始まり、グローバルスタンダードになる例もあるので、KDDIさんとお話をしていく中で、全世界でスタンダードな機能を日本から提供できれば面白いかなと思います。

――たとえば、海外ではメーカーと組んでFacebookの社員が会見に登壇するということもありますが、その端末が日本で別のキャリアから出ることを妨げるような関係ではないと考えてもいいのでしょうか。KDDIさんとFacebookさんの提携は、排他的なものではないですよね?

児玉氏
 契約の細かな内容についてはお話しできませんが、KDDIさんを含め色々な選択肢を考えています。

江幡氏
 それぞれの会社の選択肢を狭めるような形にはなってないですね。

児玉氏
 正直なところ、Facebookは、どことでもまずお話をする会社です。ただ、その中でも、やはり熱い会社があるんですね。KDDIさんは、そもそも最初からお話がしやすかったですし、目指しているところも近かった。KDDIのお客さんがFaebookにいれば、オープングラフAPIを介して資産を再活用できるという点でも、きれいなエコサイクルを認識できました。我々としては、ユーザーが増えていく中で、日々のコミュニケーションの中に組み込まれたサービスをご提案できるので、ベストマッチだと思っていますし、この提携の中から日本初、世界初の取り組みが出てくることを期待しています。

――SNSという意味では、KDDIさんはGREEとも提携しています。今ではゲームに特化していて、Facebookとは役割が違うとは思いますが、住み分けはどのように考えているのでしょうか。

江幡氏
 今の段階ではまったく問題ないと思います。特に日本市場では、ユーザー層も利用スタイルも、まったく違いますからね。

児玉氏
 そうですね。特にFacebookの実名制という点はとても重要な違いだと思っています。“実名ソーシャルネットワーク”が生活に及ぼすことができる事例をしっかり作っていけるかどうかも、パートナーシップを展開していく上で重視しました。ゲームで人を連れてきたいわけではありませんし、その局面はまだ日本のFacebookに訪れていません。当たり前ですが、実名なら友達も検索できますから、そういったところに今は価値を見出していただければと思います。

――先ほど音楽が例に挙がりましたが、ほかにどのようなサービスをFacebookとつなげていけると考えているのでしょうか。何か具体的なサービスがあれば、教えてください。

江幡氏
 たとえば、スポーツはありえそうですね。走りながら、そのデータを共有するということもできると思います。ほかにも、エンターテインメント系なら、何でもできそうですね。健康系・ヘルス系はプライバシーの問題もあって難しいかもしれませんが……(笑)。

児玉氏
 そこを考えるのは、すごく楽しいことで、KDDIさんも盛り上がって色々と考えているようです。たとえば、今、健康系のお話が出ましたが、ダイエットもみんなに宣言してゴールすることはあると思います。それは、本を読みきる、家に毎日ちゃんと帰るというのと同じことで、体重が何kgという詳細まで開示しなくても、経過やゴールの達成を共有すれば、みんなから賞賛を得られますよね。逆に、妨害されてゴールできないこともありますが(笑)。ダイエットに役立つおいしいお店や、素敵なジムを見つけたという情報は、今でも共有しているわけです。そういう経験は、KDDIさんにフィードバックできることもありますし、逆に現実的に落とし込めさえすればKDDIさんが展開するサービスも、あらゆるものがソーシャル化する可能性があります。

内田氏
 今、ポータル上にもさまざまなサービスがありますが、その中からやりやすいもの、適切なものから仕掛けていこうと考えています。

江幡氏
 私たちも「3M」(マルチユース、マルチネットワーク、マルチデバイスの頭文字を取ったKDDIの構想)という話をしていますが、軸足はずっとフィーチャーフォンに置いてきました。今は、それをスマートフォンに移していますが、タブレットやPC、それにケーブルテレビもあります。そういう新たなウィンドウに出ていく過程でも、FacebookさんはPCのプラットフォームができあがっているので、一緒にやっていく時に上手く使っていけると思います。

児玉氏
 まさに最初にお話ししたとおりですが、フィーチャーフォンで構築したソーシャルグラフが、スマートフォンはもちろん、PCやケーブルテレビなど全然違う形で利用できることもあります。今までだと使いづらかったソーシャルグラフが、突然使いやすくなることも十分考えられます。

提携を機に、アプリのプリインストールや、jibeとの連携を強化してきた8月から新たにメール履歴からの友達検索に対応
KDDI側の狙いは、コミュニケーションやサービスの活性化にある

――ここ1~2年で、KDDIさんはさまざまなインターネットサービスと出資・提携していますが、その1つ1つがFacebookとつながっているわけではありません。その“ハブ”になるような考えはあるのでしょうか。

江幡氏
 Facebook自体はグローバルで当たり前の存在で、既存のサービスが最初からつながっていることもあります。ものによっては、FacebookのIDでログインできたりしますよね。ただ、今後個別のケースでそういった可能性があるかといえば、あると思います。KDDIがハブになるという言い方はおこがましいですが、どこかとFacebookさんがもっといい関係を築くために動くことは多分できますし、自社サービスでできていないことももっとやっていくつもりです。

児玉氏
 今は、少しずつですが、役割分担が再編されているところなのだと思います。認証やソーシャルグラフの部分はFacebookに任せ、その代わり自分たちが得意としている部分のサービスにリソースをかけて充実していくこともできます。たとえば、KDDIさんだったら、通信やWebサービス、コミュニケーションに強みを持っていますよね。少しずつ全世界で役割分担をしていきて、上手くパズルがはまっていくようになるのではないでしょうか。

――本日はどうもありがとうございました。




(石野 純也)

2011/9/7 09:00