インタビュー

「スマホトクするプログラム」「5Gエリア強化」を発表したKDDI、キーパーソンに聞くその想い

 「iPhone 13」シリーズにあわせるかのようにKDDIは9月13日、「povo2.0」やau 5Gのエリア整備などを発表した。また16日には「スマホトクするプログラム」「スマホトクするボーナス」が発表されている。

 「povo」だけではなく、春夏秋とUQ mobileのサービス拡充、auでの新たな端末購入プログラムや5Gの整備なども図られてきた。折しも新しいiPhoneに注目が集まるなか、KDDIははたしてどのような考えでサービスの開発を進めてきたのか。今回、KDDIパーソナル事業本部マーケティング本部副本部長の村元伸弥氏と、マーケティング企画部長の門脇誠氏に聞いた。

村元氏(左)と門脇氏(右)

 なお、「povo2.0」の詳細については、別途、取材していく。

「通信ネットワーク」の大切さをあらためて

――9月13日の発表会は、iPhone 13の発表前でしたが、その後iPhone 13シリーズが発表されました。さまざまな発表がありましたが、iPhoneシーズンにあわせたというよりも今後に向けた取り組みという印象を受けました。

村元氏
 業界全体としては、2020年末ごろから、各社のオンライン専用プランやサブブランドが話題になり、その後、徐々に出揃ってきましたよね。

 KDDIとしては、au、UQ mobile、povoというマルチブランドをラインアップし、着々と準備を整えてきました。「iPhone」の時期への意識はもちろんありますが、それ以上に、これからのことを考えて準備してきたものになります。

――なるほど。今春、新料金プランで盛り上がりましたが、それ以外でもキャッシュレスなどさまざまな面で競争が起きていました。KDDIの中の人としては、どんな競争軸を意識されてきたのでしょう。

村元氏
 やっぱりウィズコロナ時代で、お客さまの利用スタイルの変化は、本当にものすごく激しかったんです。それをどう捉え、しっかりお客さまに寄り添えるか。ここがより一層、鮮明になったと思っています。

 その中で、「普遍的な価値」とあらためて位置づけたのが、当たり前なんですけど、ネットワークの重要性。使われ方やリテラシーなど世の中が変わっても、私たちKDDIがこれまで培ってきたネットワークが、一にも二にも重要です。

 お客さまが携帯電話会社を選び、利用し続ける際には、やはり「エリアカバレッジ」「通信品質」「安定性」が鍵になることが、さまざまなアンケート、調査でもわかっています。ここをしっかり整備していく必要があるわけです。

 仕事でもプライベートでもしっかりとした通信ネットワークが利用されます。その求めにしっかりとお応えできるようにするためのインフラ整備が必要になります。そこで、生活動線にしっかり5Gエリアを整備していこうと。

――そこで9月13日の発表では、山手線や環状線での駅間5Gエリア整備や、全国の80駅周辺でのエリア整備が発表されたわけですか。そういえば9月13日にKDDIが発表会を開催した翌日、ソフトバンクも発表会を開催しました。そのなかで「パケ止まり」への対策が言及されています。ソフトバンク自身にはユーザーからの問い合わせは多いわけではないとのことでしたが、auではいかがでしょう。

門脇氏
 (クレームは)ありません。技術陣もケアしている部分で、訴求している生活動線上での通話品質も入念にチェックしています。

ホームルーターのニーズは?

――ただ、ウィズコロナ時代を受けて、というわけであれば、リモートワークを踏まえて鉄道路線よりも、住宅地に向けた取り組みが必要そうに思えるところもあります。ユーザーの実態との食い違いはないでしょうか。

村元氏
 ご自宅での通信環境としては、モバイル通信もありますが、固定回線をお使いの方もいらっしゃいます。5Gだけに頼らなくてもいい状況があります。

 またどうしても外出されている方もいて、全ての方がリモートワークというわけでもありません。駅でのリモートワークステーションのような設備も整ってきています。

 今は5Gのファーストステップと言える時期と思いますが、5Gだけではなく、しっかりとしたネットワークサービスをお客さまに寄り添った形でご提供するというところで、今回の発表は一定のニーズに応えるものと位置づけています。

――なるほど。そういえば今夏、auでも5G対応のホームルーターが登場していますね。

村元氏
 宅内向けのネット環境のニーズは、(コロナ禍を受けた)1年前からかなり増えました。

 固定回線の引き合いがすごく増え、KDDIの固定通信サービスの契約数も伸びました。(固定回線とのセット割である)「スマートバリュー」も評価いただいた、という動きもありました。競合他社も続々と5G対応の据置型ルーターを投入しています。

 そうしたニーズを全て置き換えるほどではないのですが、「すぐに使いたい」「工事不要ですぐ設置したい」というお声に応えられるものとしてのホームルーターは非常に重要な製品ですね。

――固定回線関連では、UQ mobileで9月から「自宅セット割」が始まりました。ちょっと意地悪かもしれませんが、もっと前に導入できる割引なのかな? とも思えたのですが……。

村元氏
 UQでは、7月に「UQでんきセット割」を発表していましたが、ちょうど同時期に、auショップでのUQ mobileの取扱いを拡大しているところでもありました。

 良いものを早くお届けしたい気持ちはあります。

 でも、auショップスタッフの方々が新たにUQという商品、サービスを理解し、お客さまへご提案するための習熟も必要です。

 無理をするとお客さまへの提案力が落ちてしまいます。まずはしっかりと「UQでんきセット割」を提供し、スタッフの習熟度が十分仕上がったと今回判断して、サービス内容を拡充し9月から「自宅セット割」として提供するようになった、というわけなんです。

povo2.0

――9月13日の発表会で最も注目されたのは「povo2.0」でした。

村元氏
 今回発表した「povo2.0」は、基本料0円にトッピング(オプション)としてデータ通信量などを選んでいただく形です。しかし単に「バリエーションを揃えました」というよりも「今までにない形でアプローチできる」ことを意識したものです。

 「オンラインだからこそ自由にできることがあるんじゃないか」――つまりオンラインだからこその意味を追求して設計したものなんです。他社にない価値観をご用意し、選択の幅を広げるいい機会になりました。

門脇氏

門脇氏
 私がリードするマーケティング企画部は、au、UQ、povoでマルチブランド展開するなかで、料金だけではなくマーケティングの全てを担当しています。

 ウィズコロナ時代となり、世の中の環境が変わり、ライフスタイルもそれまで通りではなくなった面があります。ニーズも多様化しています。

 通信だけではなく、当社で「ライフデザイン」と呼ぶ、金融などの領域でも魅力的なサービスでも、複合的に(ユーザーへの価値提供を)捉えて、いかに“お客さま本位”にするか、という視点で、社内の各部署と連携しています。

 見た目を変えるだけではお客さまに評価していただけませんから、この半年、1年は、いかにわかりやすくお届けするか考えてきました。

――そうした視点が「povo2.0」を形成することになったんでしょうか。

門脇氏
 そこまでではないんですが、たとえば「料金をこうしました」「販売店でこうしました」とひとつずつご用意しても、お客さまに届きにくいことがあります。どうすればお伝えしやすくなるか、という点では頑張りました。

村元氏
 そうした中で「お客さまの価値観」を拝見していると、「提案されるよりも作りたい」ニーズもわかってきました。

 KDDI内のマーケティングチームだけではなく、「povo」をリードする秋山(KDDI Digital Life 代表取締役社長の秋山敏郎氏)のチームと一緒になって「どう自由を実現するのか」と考えてきたのですが、このあたりはマーケティングの発想だけでは生まれなかったものもあります。そのひとつが、パートナー企業と連携して、お客さまに通信量のプレゼントなどを実現する「#ギガ活」ですね。

――あ、そうだったんですね。

村元氏
 povo2.0は、リテラシーが高い人に適した格好かもしれません。ただ、ここでKDDIがマルチブランドを展開してきたことが生きてきます。

 今秋まで、UQ mobileの料金を発表し、店頭対応を含めたサービスの拡充を図ってきました。UQがあるからこそ、povo2.0を発表できる側面があります。

――その順番は狙ったものでしたか。

村元氏
 そうなんです。ここの順番を間違えると、オンライン専用プランへ行き着けない方も出てきてしまいますので、そこはしっかり意識してサービスをお届けするか、とても考えた部分です。

スマホトクするプログラムとスマホトクするボーナス

――16日には「スマホトクするプログラム」と、同プログラム利用時に適用されるポイント還元の「スマホトクするボーナス」も導入されますね。端末購入プログラムについては、これまで公正取引委員会などから、「次回端末購入時」の問題の可能性が指摘されていました。

村元氏
 そうした指摘は、「お客さまにとってどうすれば、もっと利便性が向上するのか」という提案だと理解しています。

 つまり総務省や公正取引委員会からの指摘は、「お客さま目線で何が最善で、ニーズが高い物事なのか」という気付きになっています。指摘を踏まえた改善というよりも、ニーズに気づいて設計したという形です。

 auとしては「スマホトクするプログラム」と「スマホトクするボーナス」で「iPhone 13」シリーズを購入しやすい環境を整えました。

 またauならではの部分として、Apple Watch向けに48カ月、ナンバーシェアを無料にします。Series 7も5000円引きになります。

 あわせてApple Musicが6カ月無料でご利用いただけますので、「Apple製品を買うならau」という格好だと自負しています。

――なるほど。「スマホトクするプログラム」発表の翌日には、NTTドコモが「いつでもカエドキプログラム」を発表しています。今回のユーザーのアクションにどんな影響を与えると見ているのでしょうか。

村元氏
 ある程度高い端末を購入する際、端末購入プログラムがあれば、購入に踏み切りやすいというニーズがあることは確かです。

 その点は踏襲し、お客さまに気持ちよく購入していただけるよう新プログラムでも実現しています。

 さらに次の購入については、各社の魅力がどう受け止められているか、という勝負になります。お客さまに支持され、継続的に利用していただけるか。

 今回の商戦期の前に、ネットワーク品質、料金のバリエーションなどでしっかり準備してきた自負があります。そういう意味で、他社さんの取り組みが劇的な影響与えるとは見ていません。

――なるほど。一方で、端末購入プログラムについて、「2年後の下取りによる実質価格の割安さ」という点を、否定的に捉える向きもあります。レンタルのように受け止める人もいるようです。

村元氏
 残価設定型は、自動車でも導入されているモデルですが、「そういう買い方で新しい製品を手にしたい」というニーズもあります。

 もし端末購入プログラムしか選択肢がないのであれば、厳しい声も頂戴するのかなと思うのですが、長く所有したい場合は残価設定以外の手段もありますし、(プログラム料が無料なので)ひとまず加入して2年後に気持ちが変わるかもしれないけど保険的に利用するという方もいらっしゃいます。

 サービスをより良くしていく部分についてのお声は引き続き頂戴してまいります。ただ、プログラム自体が買い方の制約をかけているわけではないのです。

――確かに24回後に返却しないという手段もあり得るわけですね。「スマホトクするプログラム」ではポイント還元も導入されますね。

村元氏
 「スマホトクするプログラム」をご利用される際、端末代金の支払い方法に「au PAYカード」を設定いただければ、支払総額の最大5%相当のPontaポイントが還元されます。

 これまでも、auのお支払いで「au PAYカードゴールド」を設定していただければ11%のポイント還元を提供してきましたが、「スマホトクするプログラム」は、au経済圏内での連携をもう一段高めるようご提案できないか、と考えたものです。

 割賦での端末購入時にau PAYカードでお支払いいただければ、通信回線へのポイント還元に加えて、端末代金にもポイントを還元することになります。

――通信回線での還元に加えて、ですね。今日はありがとうございました。またいずれpovo2.0の詳細についても取材させてください。