インタビュー

日本通信の「合理的かけほプラン」、“かけ放題で2480円”で目指す新たなマーケットとは

 日本通信が7月14日、「合理的かけほプラン」を発表した。

 月額2480円(税抜、以下同)で、特別なアプリを使うことなく、一般的な通話機能でかけ放題を実現し、データ通信容量は3GB(チャージは1GBで250円)というプランだ。

 はたしてどんな考えで、プランが作られたのか。日本通信代表取締役社長の福田尚久氏に聞いた。

いつから計画していた?

――7月14日に「合理的かけほプラン」が発表されました。発表からまだ3日程度ですが(取材日は7月17日)、初速はいかがですか?

福田氏
 思っていたよりも、という感じですね。でも3日程度ですから、まだまだわかりません。

――日本通信から出されていた、NTTドコモに対するMVNO向け音声通話の卸料金について、6月30日に総務大臣が裁定が下っていました。裁定から2週間ほどでの料金発表です。前々から準備されていたのですか?

福田氏
 いや、実はそんなことはないんです。もちろんずっと検討はしており、いくつか準備していましたが、今まで検討していたものとは異なるものでいこうと。

福田氏

――それは社内の方にとっては、突然の話だったのでは?

福田氏
 ひっくり返したつもりはないのですが(笑)、決めていたものはなかったけど、社内でも印刷物などの準備を進めてきたようなので、ひっくり返った感じかもしれませんね。

 ただ、これまでの流れを振り返ると「合理的かけほプラン」の通話定額は当然の帰結かなとも考えています。私自身は、学生時代、西洋史を専攻していて、そのときの考え方や視点がとても役立った。かつて勤めていたアップルでも、スティーブとの議論にも役立ちましたが(※編集部注:福田氏はかつてアップル本社副社長を務めた)、歴史的に今回の裁定はとても大きなものです。

――と言うと?

福田氏
 音声通話が原価ベースで利用できるようになった、ということです。MVNOとして、ひとつの事業モデルの完成形に到達できるという意義があります。

 これまでは、卸してもらうために戦ってきましたが……。

――一般的には、そういう間柄だとビジネス上のパートナーですね。

福田氏
 はい、ところかMVNOは、MNO(NTTドコモのような自前でネットワーク設備を敷設する事業者)の競争相手でもある。MVNOは儲からない、サービス品質も落ちると厳しく指摘されてきましたが、原価が同じならMNOときちんと戦えると考えてきました。やっとイコールフッティング(平等な立場)で戦えるという気持ち。ようやくそこに至った。

なぜ通話にフォーカスしたのか

――なるほど。6月30日、裁定を受けた段階では「4割削減プランを投入」としていましたね。それもインパクトがありそうでしたが……。

福田氏
 そうです。でもちょっと待てよと。我々が提供したいものは本当は何なんだと考えたのです。これまでは、ある意味、ニッチなニーズに向けたサービスにならざるを得ませんでした。データ通信に特化して、2台目需要、あるいはタブレットでの利用といったサービスです。

 そうしたニーズは引き続き存在します。でも、その発想のままでよいのか。より多くの人に向け、ベストなプランは何だろう、と。

 もちろん、6月30日に至るまで、たとえば今年2月、総務大臣から裁定案が提示されたタイミングや、6月中旬に裁定案が妥当との答申が出たタイミングなどで、「より多くの人に向けたプラン」という考えになっていてもよかったのですが、実際に裁定が下って、やはり受け止めが違いました。

――そこであらためて考えなおしたと。

福田氏
 これまでは、当社のお客様についての分析はできていました。でも、市場全体ではどうか。

 あらためて調べてみると、国内の携帯電話市場における音声定額サービスの利用者数は、2018年時点で、NTTドコモだけで4500万契約でした。

 ドコモさんはその後開示されていませんが、2年経った今、それまでの伸びを踏まえると、5500万契約ほどに達していてもおかしくはない。

 auやソフトバンクを含めると1億契約あるかもしれない。控えめに見ても8000万契約はあるのではないかと。

――規模が大きいですね。

福田氏
 当社のこれまでのお客様の動きを拝見していると、電話サービスはあまりお使いではありません。でも、市場全体を見ると、大規模な契約数になっている。

 契約件数だけではなく、総通話時間も調べてみました。総務省の統計を踏まえると、1カ月あたり、1人で3時間以上、通話していることがわかりました。

――そのなかにLINEのようなアプリの通話や、IP電話アプリは……。

福田氏
 入っていないんですよ。

――LINEなどを含めると、もっと使われていそうですね。

福田氏
 そうなんです。分析を進めると、お客様は、通話をある程度するかもしれない、それに備えよう、という保険をかけるような気持ちで音声通話定額を利用されている。そして実際に使っている。

――過去の取材では、テキストでのコミュニケーションに切り替わっているという印象もありました。

福田氏
 わかります。でも、たとえばケータイ Watchの読者の方々や、私たちの身の回りは、いわばITに詳しい、リテラシーの高い方々です。

 そうした方々は確かに通話していないでしょう。でも、市場全体を見ると、私たちのような使い方は少ない。

 MVNOのシェアは市場全体の1割程度になりました。でも、まだ9割はお使いになっていない。結局、電話の問題がすごく大きいのでは? ということなんです。

――通話を重視する方にとっては、確かにMVNOへ切り替えづらそうです。

福田氏
 量販店の方にお話を聞くと、「現実的に、格安SIMは提案しづらい」という声がある。どうして? と言えば、格安SIMと言っても、通話を含めると、必ずしも安くなるとは限らないから、だそうなんです。

 もちろん1カ月で、どの程度、通話するのかわかっていれば、大丈夫なんでしょう。でも多くの人はたぶんわからない。

――確かに。

福田氏
 そこを把握している方には、おすすめしやすいそうです。たとえばオプションサービスを活用するですとか。

――通話を安く使えるならそちらにしたいという潜在的なニーズがあるという見立てですね。

福田氏
 はい。通話料がもったいないから、かかってきたらLINEで折り返す、といった使い方をされる人もいます。

音声通話の利用予測は?

――ニーズについてはとても納得できます。一方で、料金以上に使われるリスクは、どう考えたのでしょうか?

福田氏
 正直言って、どの程度、利用されるかはわかりません。おそらく最初はたくさん使われるでしょう。いわば「元と取ろう」という心理が働く。でもそれは、やがて落ち着くと予測しています。

――NTTドコモはまだ、6月30日の裁定を受けた音声通話のMVNO向け料金を決めていませんよね。

福田氏
 はい。でも、音声の原価って、実はガラス張りなのです。電気通信事業法で、データ通信と音声は異なる役務としてきっちり分けられており、通常の決算とは別に、電気通信事業法に沿った財務諸表が公表されています。

 それらをきちんと分析すれば、もちろんリスクはゼロにはできませんが、対応できる範疇だと考えました。

 リスクと言えば、日本通信が過去手掛けてきたことのほうがよほど大変でしたよ(笑)。たとえば2008年、NTTドコモのネットワークを活用するサービスを、ZTE製のUSBドングルで提供しました。

 あのとき10万台調達しましたが、それは最小単位でのロットでした。

――すごい量ですよね。

福田氏
 ZTEさんからすれば、それまでキャリアさん向けにしか供給していませんでしたから、それくらいの感覚だったのです。ただ、私たちにとっては、そのときのリスクは高かった。なんとか売り切りましたしね。

データの品質も守りたい

福田氏
 データ通信料が高いため、MVNOはそこを安くしてきました。そこはキャリアとしっかり差がついていると思います。その上で、通話を安くする。

――確かに今回、1GB250円で追加できるのは値ごろ感があります。

福田氏
 日本通信は、これまで提供していたプランでは1GB200円にしていたのです。いや、これはちょっと安すぎたかな、とは思うのですが……ただ、通話定額で、3~10GB程度という方は多いのではないでしょうか。圧倒的なボリュームゾーンではないかと。

――はい。

福田氏
 もちろんヘビーユーザー向けに今後、1GB単位のチャージではなく、10GB単位で追加できるようにする、といったアイデアはあります。

 ただ、どうして今回、料金プランに含めるデータ通信量を3GBに留めたのかと言えば、通信品質を守りたいからです。

――つい大容量プランのほうがいいのでは? と考えてしまいますが……。

福田氏
 プランを設計するとき、お客さまの使われるであろう量を想定します。その想定以上に使われると、品質に影響します。

 今年1月、MVNO向けの接続料が将来原価方式になることが決まりました(編集部注:それまでの実績原価方式と比べ将来原価方式はMVNOにとって当年度の接続料が示され、調達額を試算しやすくなる)。

 これで、品質を落とさず快適さを維持しながら、料金も合理的な価格にできます。これが我々の提供すべきものなんだろう、ということなんです。

サービス名の由来

――日本通信のMVNOサービスとしては、b-mobileというブランドで提供されてきました。

福田氏
 はい、しかし「合理的かけほプラン」はb-mobileブランドの商品ではありません。これは、新しいブランドを立てたいというよりも、これまでと違うんだ、ということを内外に示すためです。

 とにかくこれまでと別物だということです。もちろんそれを社員全員が認識しないといけないと思っています。

――音声通話定額で狙うマーケット、ユーザー層がこれまでと大きく異なるということですね。

福田氏
 はい、その通りです。これまでMVNOのサービスを副回線で利用する、という方が多かった。ですので、今後はMNPの比率が高まるはずです。使い方はこれまでと変わらず、料金が安くなる。

販路とマーケティング

――より幅広い人に向けた商品ということであれば、今後の販路も気になります。

福田氏
 家電量販店も多いでしょう。ただ、いま、量販店さんは新型コロナウイルス対策のほうに注力されているところもありますので……。

 このほか、中小規模の法人からの関心は高いですね。これは単純に経費が安くなりますので。

――では、「合理的かけほプラン」を届けたいユーザー層に、どうリーチしていきますか?

福田氏
 どう安心していただけるか、どう欲しいと思っていただけるか……サービスは目に見えません。体験していただくしかない。それも1日だけではだめですよね。

 それらを踏まえると、鍵は口コミでしょう。そのあたりは飲食店の口コミに似ているかもしれません。あのおいしさがあの価格で、と。かつてと比べ、口コミによる広がりも変化しています。

端末セット販売は

――では、「合理的かけほプラン」と端末のセット販売についてはいかがでしょうか。

福田氏
 一般コンシューマーに向けて、私たちの独自製品を作って投入する、ということは注力しないほうが良いと思っています。私たちの強みはそこではありませんから。

 もちろん、わかりやすさはあります。どこかとパートナーシップを組みながら、となればいいでしょうか。

MVNEとして

――MVNEとして、他のMVNOに「合理的かけほプラン」をもとにしたサービスは提供していきますか?

福田氏
 パートナー企業から、求める声はあります。もちろん前向きに取り組みますが、これは順番にやっていきます。

 今回、大臣裁定が出てから2週間で発表しました。早く出すことにこだわったのです。調整が要らないため、自社製品として出しましたが、問い合わせはいただいており、順次対応していきます。

競合他社の動きは

――他のMVNOに真似される、キャッチアップされる可能性についてはどう見ていますか?

福田氏
 真似はしてこられるでしょう。ただ、ビジネスはネットとリアル、両方大切にすることが基本だと思います。日本通信はその両方を大切にしてきました。そこをうまく真似できないと結構難しいのではないかと思います。

 今回は第1弾です。ほかの料金も検討していきます。似たようなプランが登場するでしょうから、そのときに比較検討されて、どうなっていくのか。そこはきちんと競合と戦っていこうと思っています。

 かつてのMVNO市場は、私たちだけしかいませんでした。MVNO関連の団体へ積極的に関わり、MVNO市場を育てる戦略がありました。でも今は、私どもよりも大きなMVNOさんはたくさんいらっしゃいます。積極的に戦っていきます。

 そんな風に戦える商品にできたかなと思いますが、お客様からどう評価していただけるか、ですね。

――ありがとうございました。