インタビュー

IoTサービス各社に聞く:インターネットイニシアティブ編

IoT向け接続サービスにおけるフルMVNOのメリットとは

 これまでのモバイルの世界では、当然ながら、自らインフラを構築する通信キャリアの存在感が非常に大きなウエイトを占めている。しかし、IoT接続においては、海外キャリアやMVNOなど、国内で自ら通信インフラを持たない事業者によるサービス提供も数多く登場している。

 そこで、国内通信キャリア以外の主なプレーヤーに焦点を当て、どのようなサービスを提供しているのか、インタビューから読み解いていきたい。

インターネットイニシアティブ 小路麗生氏(左)と高舘洋介氏(右)

 今回は株式会社インターネットイニシアティブ IoTビジネス事業部 ソリューションインテグレーション課長 高舘洋介氏と、同社 MVNO事業部 ビジネス開発部 ビジネス開発課 課長代行 小路麗生氏にお話を伺った。

IoTプラットフォームでは、センサーデバイスとクラウドを「つなぐ」部分をサービス化

――まずは、御社のIoTプラットフォーム「IIJ IoTサービス」の概要をご説明いただけますか。

高舘氏
 はい。インターネットイニシアティブ(以下、IIJ)はモバイルやWAN/VPNをはじめとしたネットワークサービスを古くから提供してきておりますが、IoTにおいてもデバイスとクラウド間のコネクティビティをサービス提供する部分は変わりません。「IIJ IoTサービス」では、ネットワークだけではなく、IoTシステムの構築に不可欠な、データの収集・蓄積・外部システム連携、デバイスの監視・制御・メンテナンス機能をネットワークに対する付加価値として提供しています。

 コネクティビティと同じように、デバイスとクラウドの間のレイヤーにIoTプラットフォームを介在させることで、データを生み出すセンサーデバイス類とデータを活用するためのクラウド等を「つなぐ」機能や、デバイスのリモート管理機能を提供しています。プラットフォームに実装している多数の機能要素の中から、お客様に必要なものを選んで利用いただける仕組みとなっています。

出典:インターネットイニシアティブ

――どのような機能があるのでしょうか。

図:「IIJ IoTサービス」イメージ図 出典:インターネットイニシアティブ

高舘氏
 まず前段となる部分ですが、ネットワークはモバイルであっても有線ネットワークであっても、デバイスが外部インターネットからアクセスできないよう、安全な閉域ネットワーク上に配置されるのがサービスの標準構成です。その上で、IoTプラットフォーム機能を利用できるようになっています。

 データに対する機能に関しては、デバイスから閉域ネットワークを経由して、IoTプラットフォームの「Gateway API」へデータ送信することで各種機能を利用することができます。

 監視の機能が「デバイスモニタリング」です。センサーデータのグラフ可視化に加え、閾値を設定して一定の条件でメールやチャットツールへ通知することができます。また、デバイスに対するPing監視機能を提供しており、設備が健全に稼働しているかどうかの監視用途に活用できる機能です。

 貯める機能は「データストレージ」で、蓄積したデータはS3互換のAPIで自由に操作することができます。ギガバイトあたり月額7円のオブジェクトストレージとして提供しており、監視カメラの動画ファイルの蓄積など、大容量データの保存においてコストメリットがあります。

 外部システム、クラウドサービスへのデータ連携を担うのが「データハブ」「クラウドアダプタ」です。低スペックなIoT端末向けに暗号化処理をオフロードしたり、転送先を複数登録することでデータをミラーリングして転送することが可能です。この機能に加えて、クラウドアダプタは、AWSやAzureのPaaS接続時の認証情報をデバイス上ではなく、プラットフォーム上に保持することで管理負荷を軽減します。

 また、ラベル機能を併用していただくことで、センサーデータに属性情報(例えば、デバイスの設置場所である工場/製造ラインの管理番号など)を付与したかたちで外部システムと連携させるデータエンリッチメント機能も提供しています。

 一方、デバイス管理の部分では「デバイスコントロール」が核の仕組みとなります。大量のデバイスに対してWebAPIまたはコンパネ経由で一括コマンド発行する制御機能と、閉域ネットワーク上にあるデバイスにリモートアクセスする2つの機能を提供しています。

――多くの機能が提供されていることが理解できました。では、実際どのように使われているのでしょうか。

高舘氏
 IoTサービスそのものが汎用的に作り込まれていますので、工場設備の稼働監視、農業の水田水位監視・制御、GPSトラッカー端末におけるハブ・プラットフォーム、ホームIoT向けサービスのバックエンドなど、様々な業種業態で活用いただいています。また、ネットワークカメラ向けのニーズも多く、IoTサービスを活用したソリューションも提供させていただいています。IIJでのいくつかの取り組みをご紹介いたします。

 農業の分野では、農林水産省公募事業から始まった水田水管理システムのビジネス化へ向けた取り組みが進められています。IoTサービスはこの水位管理プラットフォームのバックエンドで、センサーデータのクラウド連携や、LoRaWANゲートウェイ機器のリモートメンテナンスに利用されています。

出典:インターネットイニシアティブ

 ホームIoT分野では、中部電力様との合弁事業である「ネコリコ」サービスのバックエンドとしても利用されています。センサーデータのクラウド連携に向けたストレージ蓄積が主な利用用途です。

出典:インターネットイニシアティブ

 また、設備監視の用途として、自社データセンターのファシリティ監視でも利用しています。IIJの松江データセンターパーク設置のコンテナに対し、温湿度、電力、空調設備データを閉域モバイルネットワークで収集し、監視しています。工場/プラント設備も同様ですが、ファシリティ異常が大きなサービス影響を与えることもあり、モバイルを活用して工事作業費を減らし、簡易にスタートできるIoTサービスの仕組みにニーズがあると感じています。

――昨年8月、産業用コンピュータで世界トップシェアの台湾アドバンテック社と産業IoT分野での協業を発表されていますが。

高舘氏
 はい。アドバンテック社は、グローバルに展開している台湾の産業用コンピューターメーカーですが、産業IoTに特化したクラウドプラットフォーム「WISE-PaaS」も提供しています。ただ、香港や北京などの東アジアのリージョン展開のみであったため、日本リージョン「WISE-PaaS IIJ Japan-East」での展開において協業させていただくことになりました。

 今回の協業により、日本国内を中心とした製造業のお客様向けに、産業用ハードウェア/エッジデバイス、クラウドプラットフォームである「WISE-PaaS IIJ Japan-East」に加え、お客様設備とWISE-PaaSをつなぐ閉域ネットワークまでワンストップでご提供可能となります。サービス提供開始は2020年3月を予定しています。

出典:インターネットイニシアティブ

IoT向け接続サービスにおけるフルMVNOのメリットとは

――続いて、コネクティビティの部分についてお伺いします。御社は2018年3月よりフルMVNOとしてのサービスを提供されていますが、IoT通信との親和性はいかがでしょうか。

小路氏
 そうですね。フルMVNOになることによって、IoT通信においても大きく2つのメリットがあります。

 1つは、SIMの開通や中断、再開、解約などの状態を必要に応じてコントロールする「SIMライフサイクル管理」が可能になったことです。

 これまでのMVNOの場合、SIMを開通させた段階からMNOへの料金が発生し、解約するまでの間、払い続ける必要がありました。機器にSIMを組み込んで使うケースでは、工場でSIMをセット、テスト、出荷してからお客様の手元に届くまでに一定の在庫期間が生じます。その間通信機能は使っていないにもかかわらず、コストの発生が避けられませんでした。

図:SIMライフサイクル管理 イメージ図 出典:インターネットイニシアティブ

 SIMライフサイクル管理機能を使えば、工場でのテスト後、エンドユーザに渡って通信の必要が生じるまで非開通の状態でSIMを寝かせておくことが可能ですし、いったん使い始めた後も適宜サスペンドさせることでコストコントロールすることができます。

――もう1つのメリットはどのような点ですか。

小路氏
 自社で独自のSIMを発行できるようになったことです。MVNOの場合、SIMカードはMNOからの貸与品という位置付けのため、加工はNGでしたし、MVNOがMNO貸与品以外の独自のSIMカードの提供を企画することはできませんでした。

 フルMVNOとなったことで、従来のプラスチックのカード型SIMだけでなく、機器の基盤に組み込み可能なチップ型SIMも提供できるようになりました。弊社では2019年1月より提供をはじめています。

 また、2019年5月から、香港のLinks Field Networks Limitedと協力して「SoftSIM」の提供も開始しました。通信モジュールの一部領域にSIMカードの情報を書き込み、あたかもSIMカードがささっているかのような状態にできる機能で、物理的なSIMカードが不要になります。昨年10月には同社と業務提携し、SoftSIMの利用拡大を進めています。

――プロファイルの書き換えができる「eSIM」とは異なるのでしょうか。

小路氏
 フルMVNOとして、いわゆるeSIMである「eUICC」にも対応していますが、現状IoT向けには提供していません。コンシューマ向けにはデータ通信専用の「IIJmioモバイルサービス ライトスタートプラン(eSIMベータ版)」を提供しており、eSIMが搭載されたスマートフォンやパソコンでサービスが利用できます。ベータ版をお使いいただいたお客様の声をもとに、もっと試しやすく利用しやすいサービスを検討しており、今春から正式にサービスの運用を予定しています。

――なるほど。では、IoT向けの通信料金体系について教えて下さい。

小路氏
 月額固定の「定額プラン」と、複数の回線でデータ通信容量を共有する「パケットシェアプラン」の2種類をご用意しています。細かく言えば、上り下り最大256kbpsの通信速度で1GBまで月額300円の「ISDN乗り換えプラン」など他にもプランがありますが、大きなくくりでは定額とシェアの2つになります。

 パケットシェアプランは、デバイスによってデータ通信量が異なるケースや、データ通信を行う頻度が低いケースに適したプランとなっています。

――お客さまは、定額とシェアのどちらを好まれる傾向にありますか。

小路氏
 現状、おおむね半々に分かれています。それぞれにメリット、デメリットがありますので、利用ニーズによって使い分けられているのではないでしょうか。

――料金プランの中には、「IoT応援パック」という気になる名前のものもありますが。

小路氏
 ありがとうございます。これは、大量のデバイスをつなげたいお客様向けにパケットシェアプランをベースに作ったプランです。1000回線単位の契約を前提としており、例えば1000回線で1GBをシェアした場合は1回線あたり90円と、価格を前面に押し出しました。もちろんこの場合は1回線あたり平均1MBしか使えない計算になりますが、IoTであればこの程度のデータ量でも十分というケースも多く、ニーズにマッチした内容だと考えています。

――ちなみに、これらのサービスは海外でも利用できますか。

小路氏
 はい、対応しています。海外で利用されたいお客さま向けに「国際ローミングオプション」を提供しています。

 実は、国際ローミングの部分にもフルMVNOならではのメリットがあります。MVNOであっても、フルMVNOでない場合は、海外キャリアからはあくまでMNOであるNTTドコモの回線として扱われます。そのため、海外からのデータは、全てNTTドコモのネットワークに流れてしまい、MVNOでは自ら通信をコントロールしたり、閉域網にデータを流したりといったことができませんでした。

 フルMVNOによって、海外キャリアからIIJに直接データを流してもらうことが実現しました。我々のネットワークに通信が流れるようになったので、国際ローミングの閉域サービスだったり、閉域で特定のデータセンターにデータを渡したりといったことも簡単にできるようになりました。

図:国際ローミングの閉域サービス イメージ図 出典:インターネットイニシアティブ

――フルMVNOにならないと実現できなかった機能なんですね。

小路氏
 正確に申し上げると、フルMVNOでなくても国際ローミングの閉域サービスは提供可能です。ただし、お客様ごとにMNOのネットワークと直接繋ぐための専用線を用意する必要がありました。フルMVNOになることによって、1パケット当たりのローミングのコスト低減のみならず、この専用線のコストが不要になり、コストを大きく下げることができました。

――よく分かりました。それでは最後に、今後の展望についてお聞かせ下さい。

小路氏
 プライベートLTEやローカル5G、5Gなど、新たなテクノロジーへの対応は、まさに議論を進めているところです。

 フルMVNOとは、つまるところ基地局というか、電波以外の部分は全部自前で持ちましたよと言い切ってよい枠組みだと思っています。そうなると、我々が持っていない部分をどうするかという話で、今はLTEの部分でNTTドコモと相互接続しています。電波以外のネットワークはフルMVNOでしっかり構築しましたから、電波としてプライベートLTEやローカル5G、5Gなど、どれを選ぶのかという世界なのかなと感じています。

 電波の部分を柔軟に選択できる、フルMVNOの可能性を最大限に発揮したサービス提供に今後も取り組んでいきたいと思います。

――本日はありがとうございました。