インタビュー
UQ野坂社長に聞く、「ギガMAX月割」を仕掛ける理由
2019年1月21日 11:00
UQコミュニケーションズが、携帯電話サービスとワイヤレスブロードバンドサービスを組み合わせたセット割「ギガMAX月割」を3月より提供する。
ワイヤレスブロードバンドのWiMAXから出発した同社は、サービス開始から今年で10年。3年前の2016年からはMVNOとして携帯電話サービスを手がけており、今回初めて、両サービスのセット割を実現させた。
新たな割引サービスを仕掛ける狙い、そして政治が介入の度合いを強める携帯電話業界に関してどう挑むのか、野坂章雄代表取締役社長に聞いた。
狙いは「自宅×スマホ」
――「ギガMAX月割」では、毎月のUQ mobileの利用料から300円が割引されます。たしかに家族3人でスマホと家のネットをまとめて月額9020円というのは魅力的かもしれません。
野坂氏
これまでの携帯電話業界に対して、総務省で議論されていますが、非常に複雑なプランがあると感じています。そこに対して、今回、きちんと当社の思いを伝えたいと本気で考えています。
こうしたセット割は、たとえば家電量販店さんからも「少しでいいから割引をしないか」と長きに渡り、リクエストをいただいていました。ただ、スマートフォン事業が3年経ち、ようやく時が来たということです。たとえば、販売時に1回5000円、という割引よりも、毎月300円の割引でも、売る側としては、熱意を持って販売していただけます。
たとえば大手キャリアさんでは、家族で利用した場合の1人あたりの料金で訴求されています。でもそれっていわば「割り算」です。これまでの歴史があるとはいえ、ユーザーからするとわかりにくさがあるように思えます。一方、僕らは「足し算」「引き算」だけ。年月が経って家族構成が変わっても、わかりやすい形です。
――割り算に対して、足し算と引き算。
野坂氏
その上で、今回、WiMAX 2+、つまりルーターとのセットにしたのは、スマートフォンの利用の大半が家の中、という調査データがあります。これまで宅内向けの高速回線は、光回線、ファイバー・トゥ・ザ・ホーム、FTTHでした。そこへワイヤレス、つまり“WTTH”でいいのではないかと提案したいのです。
――ワイヤレス・トゥ・ザ・ホームですか。
野坂氏
ちょうど、2018年12月、NECプラットフォームズ製の宅内向けWiMAX 2+ルーター「WiMAX HOME 01」を発売しました。従来も同様のモデルはリリースしており、ニーズが高まっていることはわかっていましたが、新モデルではサイズも小さくなり、使い勝手がよくなっています。コンセントへ繋ぐだけで工事せずにすぐ使えます。お引っ越しの際にも持っていくだけで済みます。これまでの固定回線の代わりになる商品だと自負しているところです。
――なるほど、WiMAXは登場した10年前の段階で、工事不要の自宅向け回線として一定の評価を得ていたように思いますが、それを今回あらためて訴求する形ですね。
野坂氏
はい、当初はガジェットが好きなITリテラシーの高い方々に評価していただきました。そこから徐々に拡がりを見せており、今回はファミリー層にという流れです。
「WiMAX HOME 01」は送信パワーを上げて通信速度を約50%改善させる「WiMAXハイパワー」に対応しているほか、アンテナを工夫しています。たとえば我が家でも、以前は寝室まで電波が届かなかったのですが「WiMAX HOME 01」に切り替えてからきちんと届くようになりました。
当社のルーターには、モバイル型と宅内型があります。それぞれ期待される役割は異なりますが、通信量がどんどん増える中で、その2つは相対的に近づいていきます。
過去3年、割安なスマートフォンを手がけてきた中で、もともと提供してきたモバイルルーターでは「自宅で使う場合に落ち着かない」といった声も寄せられるようになりました。たとえばクレードルからの脱着が面倒といった部分です。
宅内向けルーターはこれまでも提供してきたのですが、そのニーズがより強く出てきたようで、良い条件が揃ったのだと思います。
モバイルと宅内の動向
――モバイルルーターのニーズが薄れた面もあるのでしょうか?
野坂氏
利用動向を見ると、飽和というか横ばいです。一方、宅内型は伸びてきています。
――競合のワイモバイルは、かつて手がけていたモバイルルーター分野で勢いが弱まってきたようにも見えます。スマートフォンに切り替えた方もいらっしゃるでしょうし、WiMAXへ乗り換えた人もいると聞いています。
野坂氏
たしかにモバイルルーターはそうかもしれません。売り場を見ると、当社のモバイルルーターは支持していただいてる。一方で競合他社さんが先んじて、ワイヤレスのブロードバンドに対応した宅内向けルーターを手がけ、FTTH代わりに販売攻勢を強めてきたというのが現実だと思います。社内でも、モバイルルーターの実績で錯覚に陥らず、宅内向けのワイヤレス固定/据置ルーター市場へしっかり取り組むよう呼び掛けています。
5Gでも4Gでも
――宅内向けの動向については、たとえば北米では、5G(第5世代の携帯電話向け通信システム)をラストワンマイルに採用する動きがありますよね。UQではどう取り組みますか。
野坂氏
政府が割り当てる5G向けの新規周波数の獲得は「想定していない」というのが現時点でのお答えです。UQは4G、グループ会社のKDDIが5Gを進めるのでしょう。ただ、宅内向けのそうしたモバイル通信対応の固定/据置型ルーターという利用スタイルは、結構本質を突いていると思うんです。
5Gではなく4Gであっても、構造が大切です。後々、効いてくるのではないかと思うのです。ゆくゆくはIoTの世界にも繋がるのが理想的ですよね。
――デバイスを見ると、今回はNECプラットフォームズ製ですが、以前の据置型ルーターにはファーウェイ製もありました。昨今、ファーウェイ製品に対しては、政府が採用を控えるという報道が出ています。
野坂氏
競合他社のトップも触れていましたが、もし仮にセキュリティホールがあるのであれば、確かに販売はできないでしょう。しかし現実を見ると、弊社を含めて業界各社はファーウェイさんの製品を販売しています。セキュリティホールはまだ誰も目にしていないのではないかという認識です。
政府の方針にUQは
――5Gのほかに、業界動向としては、政府が携帯電話料金の低廉化に向けて動きを見せている点があります。
野坂氏
はい。ここまで、菅義偉官房長官の発言以降、NTTドコモさんの値下げ宣言や、ソフトバンクさんが4割の人員異動の方針を明らかにされたり、ワイモバイルさんで1~2割の値下げ方針と伝えられていますよね。
2019年は、NTTドコモさんが今春、新たな料金プランを出すタイミングがいわば「変わり目」になると思います。
いわゆる分離プランが義務化される形になるのであれば、UQも当然実施していかねばなりません。
――ドコモがどんなプランを打ち出すかまだわかりませんが、今の段階でどう受け止めていますか。
野坂氏
確かにまだ内容はわかりませんが、これまで明らかにされているところでは、「安さ」「シンプルさ」というメッセージがあります。安くするというのは、仕組みとしてはさほど手間がかからないでしょうが、多くの回線をお持ちですから、1回線あたりの値下げ幅を大きくドンとするのは、総額を考えるとどうなるのか。
一方で、僕たちからすれば「シンプル」をどう実現されるのか、注目しています。
現在のドコモさんの料金プランは、家族を基軸にされていますよね。さきほど「割り算」と言いましたが、そこをシンプルにするのは難しいように思えるのです。
――いわゆる格安SIM、MVNOの動向を見ると、2018年は、大手キャリアの取り組みにより、成長が鈍化した、という調査レポートもあります。UQはいかがですか。
野坂氏
当社は徐々に各プランの通信量をアップさせてもいますが、とある調査データでは、UQはMVNO市場でのシェアが5位から3位にアップしました。そうした中で、MNOさんの施策は、先の年末商戦でも積極的でした。政府の方針もありますが、今後は楽天さんも参入され、割安な料金体系の市場は競争が激しくなるでしょう。
――なるほど。本日はありがとうございました。
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