インタビュー

UQ野坂社長が語る「ぴったりプラン」の舞台裏

ライバルとの差別化、2016年度は最速の座狙う

 KDDIバリューイネイブラー(KVE)との合併を経て、新料金プランを発表したUQコミュニケーションズ。モバイルブロードバンドサービスに加えて、新たにスマートフォンとSIMカードというサービスを手がけることになった同社は、2月、手頃な価格でデータ通信や無料通話分を組み合わせた「ぴったりプラン」を発表した。

 格安スマホと大手キャリアの中間に位置するプランを提供した狙いはどこにあるのか。代表取締役社長の野坂章雄氏は、これまで男性ユーザーが中心だったWiMAXと比べて、女性ユーザーも獲得できている、と笑顔で語る。

「最も大きかったのはやはりKVEとの合併」

――新年度を迎えるタイミングですが、2015年度を振り返ると、UQコミュニケーションズはKVEとの合併、WiMAX2+への更なる移行促進、広告面でのユーザーからのネガティブな反応の盛り上がりなどがありました。

野坂氏
 最も大きかったのはやはりKVEとの合併です。これまでデータ通信サービスという世界で展開し、量販店でのシェアが5割、6割にまで来るなど、一定のポジションを占めるまでになりましたが、その一方で、ずっとモバイルルーターだけの一本足打法には限界があるとも思っていました。KVEとの合併は、質的な変化となって新たなチャレンジになるかなと。合併以前から、KVEのサービスは「UQ mobile」でしたが、組織としてKVE自体は大きなものではありませんでした。一方、UQは、量販店を中心に営業スタッフが1000人規模でいます。WiMAXとmobile、両方を提案したほうがいいだろうということで、合併にいたりました。

野坂氏

 合併した2015年10月の段階で「発表会をしないのか」という声をいただくこともありましたが、スマートフォンの世界をよく知らないこと、それから総務省で開催されたタスクフォースなどもあって業界が相当、動いていた時期であったことから、合併にあわせた花火を打ち上げるよりも、まずは動向をよく注視することにしたわけです。

――その知らなかった「スマートフォンの世界」、どう見ていますか?

野坂氏
 国内市場には3大キャリアが存在してiPhoneが発売されれば(ユーザーが)続々と動く。実質0円もありました。一般ユーザーのなかには、料金が高いと捉える人もいる。中国や韓国でスマートフォンが浸透する一方、日本では意外とフィーチャーフォンを選ぶ方もまだ多い。もちろん1年~2年ほど前から、格安SIM/スマホとしてMVNOのサービスは伸びてきていますが、3大キャリアを脅かすほどではなく、むしろ今年は格安市場では淘汰が始まるのではないか……つまり、大手キャリアと格安という両極は、どちらも違うんじゃないかと個人的に思っていました。そこでその間を埋める存在が必要だろうと。

――2月に発表された「ぴったりプラン」は、月額2980円で、1GBと無料通話1200円分という組み合わせです。データ通信で成長してきたUQが無料通話、というので、印象に残りました。

野坂氏
 通話放題などがありますけれども、どこまで電話を利用するのかというと、普段はチャットなどがあって、音声はLINEの無料通話を使う方は多い。一方、無料通話分も30分、60分ぶんあればニーズの7~8割を満たせるともわかっています。1GB/3GBのデータ通信料と30分、60分の通話に、安心安全につながるアプリ、そして端末代が含まれていれば気楽に利用できるかな、ということで設計しました。

 おかげさまで、WiMAXを通じてUQのブランドの認知は高まっています。トレンドとして、端末代と通信料の分離、あるいは実質0円の取り扱い、解約料などで議論がありましたが、ギリギリの線として考えたプランです。最近では、通信量を倍増するキャンペーンも開始しました(※関連記事)。

――「ぴったりプラン」で狙うターゲット層は、これまでのWiMAXユーザーとは異なりますか?

野坂氏
 WiMAXは、パソコンなどに詳しくITリテラシーの高い人がベースにいます。最近は裾野が広がったとは言え、男性が8割を占め、女性ユーザーは1割~2割です。ところが「ぴったりプラン」はそれより多くて、ちょうど半々くらい。女性ユーザーは30代~50代が多いくて、これは嬉しいサプライズです。UQなら知ってるという安心感もあって、料金プランは狙い通りにはまったと思っています。

 一方で、最近はルーターとスマートフォンの2台持ちというニーズもあるのかな、と個人的にちょっと思っています。

――UQ WiMAXとUQ mobileというセットも当然検討されたと思いますが、これは技術的な課題などがあるのでしょうか?

野坂氏
 いえ、技術的な問題ではありません。私からは「まずUQ mobile単品でちゃんと売ってくれ」と伝えています。この3月の春商戦で街頭イベントを実施しましたが、現場の声としてもWiMAXとスマートフォンの両方を持ちたいという方はいます。でも、最初からセット割のようなものを用意すると、営業スタッフはどうしてもそちらに注力してしまう。でも、まずスマートフォン単体でどこまでいけるかと話をしています。つまりWiMAXのユーザー層に加えて、スマートフォンで新たな層を獲得するという、“横”を拡げる時期だと考えました。もちろん、あまりゆっくりとした動きはできません。ある程度、スマートフォンとして売れるとわかれば、WiMAXと何らかの組み合わせという形も考えていけます。

競合MVNOの動向は

――「淘汰が始まるのではないか」という話がありましたが、格安スマホとして知られるようになったMVNOの世界へ本格展開することになり、WiMAXなしのプランで行くというのはある程度勝算があってのことでしょうか。

野坂氏
 UQとしては、月額980円といった世界に身を置くつもりはありません。ブランドと一定の価値を手がけなきゃいけない。

 MVNO業界を見ると、楽天さんやイオンさん、最近ではLINEさんといった事業者が出てきている。いわば“他業種参入型”で、本業があって通信サービスを手がける形です。でもUQは通信が本業です。このタイミングで、今一度、スマートフォンを適正な価格で、きちんと説明して売る、というのをやってみようと思った。

 イオンさんは(店舗が多く)カスタマーとの接点が多い一方で、説明要員をたくさん配置して、というのはこれからのチャレンジなのだろうと思っています。楽天さんはバーチャルモールで強みがありつつもリアル接点がこれからなのでしょう。LINEさんのサービスの発想はよくわかりますが、「通信の中身を見られているのか」という不安の声が挙がっています。

 ではUQの強みは、量販店さんに全国1000~1200人規模のスタッフがいます。適正でぴったりなものをいかにデリバリーしていけるかがチャレンジ。差別化したいし、できるんじゃないかというのが、過去5年、データ通信を販売してきたUQとしての考えですね。

キャリアショップ「今はない」

――いわゆるキャリアショップのような店舗を、UQでは展開しないのですか?

野坂氏
 社内でも「UQショップ論」はあります。でも、たとえばワイモバイルさんは、スマートフォンでもMNO(自社設備を持つ携帯電話事業者)ですが、UQはルーターではMNOですが、スマートフォンでは(au網を借り受ける)MVNOです。そういう存在が、いきなり全国1000店を展開するか、というとちょっと現実感はない。もちろん、MVNOのなかで店舗を展開して、シニア層、ジュニア層、あるいは訪日外国人向けとサービスを手がけているところがあって、その気持ちはあります。UQとしてやってみたいところもありますが、まず第一歩はそちらではないでしょうと。また、たとえばシニア層でも、60歳の前半くらいの方はパソコンにも通じていますから、たとえばWebを通じたコミュニケーションもできないか、などと考えてみたいですね。

――なるほど。一方、量販店やWebサイトにアクセスするユーザーは、購入意欲をきちんと持っている能動的な方が多いのでは? とも思えます。もしUQショップのようなものがあれば、駆け込み寺としての役割も果たせそうですが……。

野坂氏
 たしかに実店舗がひとつもないと実態がなく不安に思われるかもしれません。製品をお試しできるところもあっていいかもしれません。

 量販店に足を踏み入れる方も、購入意欲を持っている方と、たまたまふらっと入店する方がいる。勝手な仮説としては、リアル接点は量販店にありつつ中継役になって、ひっぱってこれないか。これから先はまだ言えないのですが何か考えられたら面白いなと。

 UQの資産は、ブランド力、量販店、そしてWebサイトです。異業種から参入してくるMVNOさん、あるいはMNOのワイモバイルさんがいるなかで、我々の軸を築きたい。

ぴったりプラン「ワイモバイル、意識していない」

野坂氏
 ひとつお伝えしておきたいのは、ワイモバイルさんは僕らにとって良きライバルなのです。イー・モバイル時代、本格的にデータ通信端末を本格的に展開しはじめられて、そこへUQが参入しました。

 良きライバルとして意識しているのですが、今回、「ぴったりプラン」はどうだったか。意識したのか? と問われますが違います。ワイモバイルさんとUQではブランドイメージが同じではないと思います。これまでお客さまの会などを開催して対話をしてきたことで、UQを応援してくれるファンの方々もいらっしゃいますが、そういう方に語っていただいて、スマートフォンをまだ手にしていない人になんとかリーチできればと思います。

――ワイモバイルと言えば、最近、秋葉原のヨドバシカメラ店頭でのアピールの仕方が大きく変化したそうです。

野坂氏
 たとえばワイモバイルさんがiPhone 5sを発売された、というのは業界にとっては衝撃的でした。一方で、その後ソフトバンクさんからiPhone SEを発売することになった。1つの企業で2つのブランドはなかなか難しさがあるのではないかと思いました。

 ちなみにその店頭ではフロントにUQとワイモバイルさん、その後ろに大手3キャリアという並びです。タブレットやパソコンとルーターのセット販売をやっていましたから、UQに対しても、SIMロックフリースマートフォンとのセット販売をしてくれないか、という期待は大きいですよ。これは過去、タブレット、パソコンの販売で成功した方程式のイメージです。UQはそうした量販さんとの関係ができているのも強みです。

サブブランドという立ち位置は

――ソフトバンクとワイモバイルの関係性、という見方は、資本的にはだいぶ異なるものの、auとUQの関係も類似性がありませんか。

野坂氏
 そういう見方があるのは否定しません。でも、今はそんなことを言っていられる状況ではない、と思っています。総務省でのタスクフォース以来、これまでの流儀が変わってきた。行政が民間へ介入したという面はあるかもしれないものの、これまでの携帯電話業界にも行き過ぎたところはあった。格安スマホもこれから淘汰がはじまるかもしれない。もしauのサブブランドだと言ったところで、それだけでは売れません。きちんと強い存在にならないと。

 これはかつて、WiMAXを販売してきたときの経験で得た教訓です。資本的関係はあるからといって、KDDIのもと、ちょろちょろとやっていてもUQのシェアは伸びませんよ。自分たち自身で考えてお客さまが求めることをきちんとやれるかどうか。ギガ放題などを打ち出しつつ、店頭で営業するということがあったからシェア6割になった、とスタッフはみなわかっています。そこが本質なのかなと思います。

――UQに似た存在として、ソフトバンク系のWireless City Planning(WCP)がいます。でもWCPは自社ブランドのサービスは手がけておらず、ほとんどソフトバンクへ回線を提供する立場です。UQとて、au版のiPhone 6以降で契約者数が相当伸びている。自社ブランドの事業がなくても会社としてはやっていけるのでは。

野坂氏
 良い質問ですね。でも、事業ってのはそういうものではないんです。WCPさんは、完全にソフトバンクさんに回線を提供しています。UQは、確かにKDDIからの売上はありますが、全国の量販店で自社ブランドのサービスを売ってきた、ということが大きい。このDNAがあるからこそ、「UQ mobile」でスマートフォンを販売する際に、他社と同じようなことはしたくないのです。

独自ラインアップへの考え

――製品ラインアップについてはいかがですか。ワイモバイルのようにiPhone 5s、あるいはiPhone SEですとか、たとえばヒューレットパッカードのWindows 10 Mobileスマホ「HP Elite x3」といった機種はauのネットワークに対応しますがKDDIでは法人向けの提供としています。

野坂氏
 スマホはやっぱり端末だよね、どうするんですか、という質問は本当によく質問されますが……「端末の呪縛が強すぎませんか?」という思いはあります。たとえば僕はいま、UQ mobileの「arrows M02」を利用していますが、十分、使い勝手はいい。UQの立ち位置はそういう世界であって、SIMロックフリーでこれからいろいろ登場するであろうなかで、UQの感覚としては、WiMAXのルーターをタブレットやパソコンとセットで販売してきた、というものと同じなのです。量販店でなぜUQが受けているのかと言えば、タブレットやパソコンを売ってくれるからです。結局そこなんです。モバイルルーターだけを売っていても(結果は)ついてこないですよ。

――なるほど。一方、最近になって、データを全てクラウドで扱うことを前提にしたスマートフォンというのも海外で登場してきています。UQの手がける回線だからこその体験をもたらすような機種はいかがですか?

野坂氏
 UQはこれまでWiMAXを手がけ、今はスマートフォンへ参入した形です。そしてその先を考える必要もある。ルーター、スマートフォンとはまた違うものとしてたとえばクラウドですよね。そうなるとパラダイムシフトがある。だからこそ今のタイミングでは、これまでのWiMAXのユーザー層とは異なる層に広げていきたい。次の新しいデバイスが出てくるでしょうから、そこは考えたいし発見したい。

 でも、「A社さんから〇〇が出ました」と話題になってそれをUQが扱うかどうか、というのは、今のUQの実力から言っても数字から見ても違うんじゃないかなと思う。ルーターについては、何か面白いものがないか、とメーカーさんには声をかけていますよ。自分ではそれが何なのかわからないですけども。

――たとえばBluetoothは今後、スマートフォンがなくても、ゲートウェイ装置を介してネットに繋がる、という発想を採り入れ始めています。個人の持つ宅内などのルーターがハブになることもあり得ますよね。

野坂氏
 先のCES(米国での展示会)を訪れてホームコネクトのような製品も見て来ましたが、ちょっとまだイマイチですね。たとえば米Amazonさんの「Amazon Echo」(アマゾンエコー、Bluetoothスピーカーと音声認識を組み合わせた製品)といった端末もあって、ホームハブとしての存在になり得ます。これまでの音声通話、テキストメッセージといった発展からすると、音声認識はひとつ可能性としてあるのかなとは思います。

2016年度、スピードトップの座狙う

――2016年度、どこに注力されますか。

野坂氏
 WiMAX 2+は一部地域を除いて、2波のキャリアアグリゲーションが完成しました。2016年度は、通信スピードという面で、業界最高速へ返り咲きたいと思います。具体的には、4×4 MIMOと2波キャリアアグリゲーションといった技術で440Mbpsを、2016年度後半には実現したい。

 また昨年は「3日で3GB」という表記でお騒がせしました。UQとしてて「上限なし」は間違っていなかったものの、制限速度のところで混乱をもたらしてしまいました。今、広告を通じて「ぴったり」「ちょうどいい」といったメッセージをお伝えしていますが、UQとしては真摯に、ユーザーに寄り添いたいと思っています。

 いま、暫定的に通信速度の制限がかかっていてもHD動画を視聴できるようにしていますが、施策開始から1年後くらいをめどに恒久的な措置として発表したいと思っています。

――ネットワークの進化として、2016年度以降はどうなりますか。

野坂氏
 まず440Mbpsですね。2017年~2018年にはその倍というのを目指したい。技術としては8×8 MIMOと256QAMという話もありますが、今ちょうど検討中です。2016年度は440Mbpsを実現させる一方で、2017年度以降に向けた研究も進めます。

 WIMAX 2+の販売については、もう少し7GBプランのニーズがあるかと思いきや、新規契約の99%が「ギガ放題」(月間通信量は無制限、3日で3GB制限あり)です。

――WiMAX 2+への移行状況は? また既存ユーザーの機種変更はまだできないと思いますがどうされますか?

野坂氏
 全国ほぼ2波化はできましたが、WiMAXからWiMAX 2+へ乗り換えも進んで、圧倒的にWiMAX 2+のお客さまのほうが多いです。

 2013年10月にWiMAX 2+の提供を開始しましたが、利用期間が2年を超える方が出始めています。WiMAX 2+のお客さまに新しい機種をオススメできるよう、2016年度の施策として考えています。

――機種変更できるようにすると。

野坂氏
 はい、まさに検討中です。

 それからスマホのほう(UQ mobile)は、とにかく、ワイモバイルを脅かす存在にならないとと思っています。

――UQ mobileの契約数はまだ非開示でしょうか。

野坂氏
 そうですね。マイルストーンを迎えれば、ですね。ただ、日々、量販店での実績がわかります。ワイモバイルさんの動向を意識してやっていきます。

――本日はありがとうございました。

関口 聖