【ワイヤレス・テクノロジー・パーク2010】
ドコモやKDDIが研究開発中の技術を展示


 5月13日と14日、パシフィコ横浜において無線通信の研究開発をテーマとしたセミナー・展示会イベント、「ワイヤレス・テクノロジー・パーク2010」が開催されている。

 研究開発にテーマを絞っているため、展示も研究開発ツールなどが多いが、NTTドコモやKDDIなどは研究・開発中の技術を出展しているほか、一部には一般にも関係するような製品も展示されていた。

 

LTE、メール定型文機能、マルチバンド増幅器を展示するNTTドコモ

ドコモのブース

 NTTドコモは今年開始される予定のLTE関連の展示をしている。エンジニアリングサンプルのLTE要チップを展示したほか、仮想的にLTE通信をするデモも実施していた。デモでは、無線は用いられず、本来は無線で通信する部分を有線にして行われていた。有線ではあるものの、使っている周波数帯域は実際のサービスに近い2GHz帯で、20MHz幅を使い、60~70Mbpsの速度で通信していた。

 実際のサービスでは、現在の3Gサービスを停止するわけにはいかないので、LTEには5MHz幅が割り当てられる見込みで、その場合の速度は最大で35Mbps程度になるという。もちろん、同時にネットワークを使用する人数などに応じ、通信速度は低下していく。

 このデモで用いられていた機器は、あくまで試験用のものだったが、移動機側の端末には、普通のノートパソコンが用いられていて、データカード形式の通信アダプタが使われていたようだった。しかし、通信アダプタ部分は目隠しされていて、どのような端末かはわからないようになっていた。

エンジニアリングサンプルチップを載せたモジュール有線によって疑似的に再現されたLTE通信のデモ
通信速度は60~70Mbpsくらいだった目隠しが施されたLTE端末
「ひつじ」ではなく、メールにちなんで「ヤギ」の執事がキャラクターとなっている

 このほかにもドコモブースでは、3つのフレーズから簡単にメールを入力する「3単語メール作成システム」のデモも行っていた。このシステムは、3つのフレーズを音声で入力することで、そのフレーズに加え、送信者と受信者の関係、時間や場所などの属性情報などを総合し、最適な定型文を呼び出すというもの。まだ実用化の予定のあるシステムではないが、普通の携帯電話やスマートフォンに搭載されることを想定していて、デモはAndroid端末の「HT-03A」で行われていた。

 音声認識や定型文提示はサーバー側で行われる。そのため、マルチプラットフォームでの展開や、コンテンツプロバイダによる定型文の提供などにもつなげられるという。

「10分」「遅刻」から作られた、目上に人に対する丁寧なメール本文「10分」「遅刻」から作られた、フランクな間柄のメール本文
マルチバンド電力増幅器の構成例

 このほか技術的な展示としては、複数の周波数帯域に対応した増幅器の技術「マルチバンド電力増幅器」の展示も行われていた。携帯電話は、必要な周波数帯域に対応した増幅器を搭載する必要がある。周波数が近ければ、1個の増幅器で対応できるが、離れた複数の周波数に対応するためには、効率の問題から複数の増幅器を搭載する必要がでてくる。

 たとえばFOMA端末では、ドコモ自身の3Gのために3個の増幅器を、さらにGSMにも対応する場合、2個程度の増幅器が必要になる。対応する周波数帯が増える場合、増幅器の数も増え、端末に搭載する上での問題となる。

 マルチバンド電力増幅器は、対応する周波数帯を切り替えられるという特性を持った増幅器で、1つの増幅器で最大9つの周波数帯域に対応できるという。原理的には、通常の増幅器よりもサイズが大きくはなるが、それでも5個の増幅器を搭載するよりは小さく作れる見込みだという。これにより、LTEなどで増える周波数帯域にも容易に対応できるようになるほか、たとえば1.7GHzのW-CDMAといった、日本でしか使われていない周波数帯域に対応した端末を、国外の端末メーカーも作りやすくなることも想定される。

 マルチバンド電力増幅器は、技術を開発したという段階で、実際のチップは作られていない。チップベンダーなどがドコモから技術ライセンス提供を受けることで、実用チップが作られる、という流れになるが、まだチップベンダーなどとの具体的な話し合いがされている段階でもなく、ドコモとしてはこうした展示会を通じて、この技術をアピールしていくという。

 

KDDIはネットワークからツールまでさまざまな研究成果を展示

KDDIのブース

 KDDIも消費者向け商品というよりは、将来に向けた開発研究中の技術などの展示を行っていた。

 「デュアルモードSDRモジュール」は、無線通信機能をソフトウェアで実現する、いわゆるソフトウェア無線(Software-defined radio=SDR)を使い、WiMAXとEV-DOを動的に切り替えられる通信モジュール。技術検証の段階ではあるものの、実際に動作する試験モジュールによるデモが行われていた。ただし試験モジュールは試験局などの認証を受けていないため、通信部分は有線に置き換えられていた。

 このモジュールは、EV-DOモードとWiMAXモードの2種類のソフトウェアを状況によって切り替える機能を持つ。いずれのモードでも、もう一方の通信方式の電波を監視する機能が組み込まれていて、どちらの通信方式が有利かを随時判断し、自動で切り替えが行われる。会場では、有線による疑似的な電波の入力をEV-DOからWiMAXに切り替えるなどのデモが行われていた。

 なお、ソフトウェア無線を実行するチップの性能がもっと高ければ、ソフトウェアの切り替えなしに、EV-DOとWiMAXの両方に対応させることが可能だという。しかし、使われているチップの性能が限られているため、現時点では方式を切り替える際、無線ソフトウェアをロードし直しているという。

 ちなみにこの種のソフトウェア無線機器の場合、実行するソフトウェアよって無線方式が変わるため、ハードウェアだけでなくソフトウェアごとに技適認証や実験局申請が必要になるという。

試験モジュール中央の銀色のチップがソフトウェア無線のチップ
測定ツールの画面。下が電波強度で上が混雑度

 変わったところでは、無線LANの混雑度合いを測定する「無線LAN混雑度測定ツール」も展示されていた。これはKDDIが総務省からの受託研究に基づき開発したもの。無線LANのチャンネルごとの混雑度合いを解析し、どのチャンネルを使うのが効率的かを判断できるようになるという。

 通常の無線LANは、アクセスポイントからの電波の強さを測定して視覚化するツールが提供されている。これにより、一番近い無線LANアクセスポイントを選ぶことができる。しかし実際には、一番強い電波でも、ほかに使っているユーザーが多ければ、通信速度は落ちることになる。この無線LAN混雑度測定ツールは、実際にどのくらいの電波が飛んでいるかまでを測定することで、どのチャンネルにどのくらいの余裕があるかを調べることができるという。

 このツールは完全なソフトウェアの形で提供されていて、会場ではソニーのモバイルパソコン、VAIO type PにOSとしてLinux(Fedora)を載せ、その上で動作していた。無線LANのドライバを操作する必要があるものの、多くのパソコンで対応が可能で、Windows 7やAndroidへの対応も検討しているという。

 ほぼ実用的に動く段階まで開発されており、将来的に一般へ提供する方向で検討しているという。しかし会場では注目度が高く、「欲しい」という来場者も多かった模様だ。

マルチサイトMIMOの紹介パネル

 このほかには、通信方式に関する研究も展示されていた。「マルチサイトMIMO」は、複数の基地局の電波をMIMOとして使うことで、セル境界での通信速度を上げるという技術。

 たとえば混雑している基地局で、セル境界にいるユーザーのために複数の局が電波リソースを提供すると、局近くにいるユーザーがそのリソースを使ったときに比べると、セル全体でのスループットは低下する可能性が高い。そのため、どのような条件でマルチサイトMIMOを使うか、といった基地局をまたいだインテリジェントな制御が必要となる。このような制御管理についても研究を行っているという。

 なお、この技術はLTE向けに開発されている。LTEの将来バージョンでは、セル境界での通信効率上昇のために、このマルチサイトMIMOないしは同様の技術が導入されることが見込まれているという。もともと複数の基地局と通信できるCDMAでは使う必要はない。しかしLTEと同じOFDMAを使うWiMAXでは、セル境界では同様の問題が発生するため、マルチサイトMIMOのような技術が必要になるという。

「ミニマム・コア」アーキテクチャの紹介パネル

 LTEなどよりももっと将来を見込んだ技術としては、「ミニマム・コア」アーキテクチャーというものも展示されていた。これは、現在はネットワークの中枢部のコアネットワークに集中する認証機能やセッション管理、移動管理などの機能のうち、移動管理やセッション管理の機能を基地局側に持たせるというもの。たとえば移動機間でVoIPなどの通信を行うとき、基地局間で通信セッションを設定し、コアネットワークを介さずに通信できるようになる。基地局は直接インターネットに繋がるフェムト基地局なども想定されている。

 この技術は無線部分は関係なく、ネットワークアーキテクチャ部分に関するものとなる。LTEなどはすでにネットワークアーキテクチャが設計されているので、もっと将来の無線通信ネットワークシステムに向けて研究されているものとなる。

 

固定環境向けWiMAX端末や安価な電波シールドも展示中

広域ユビキタスネットワークの概要。端末は残念ながら撮影禁止だった

 NTTはドコモとは別にいくつかの展示を行っている。その中のひとつ「広域ユビキタスネットワーク」は、総務省の「ユビキタス特区」事業の一環として、東京東部で実証実験が行われている、無線通信ネットワークシステム。これはポケットベルが使っていた周波数帯域を用いた独自の通信方式を採用していて、低速・小電力な機器間通信用のシステムとなっている。たとえばガスや電気などのメーターに搭載しての遠隔検針など、通信頻度の低い用途に用いられる。

 このシステムでは、通信速度をかなり低くすることで、端末側は無線局免許が不要な特定小電力無線局の出力に抑え、電池でも5年程度稼働できるようにした。一方で、3.5~5kmに渡る通信距離を確保し、基地局の数を抑えることが可能となっている。NTTの場合、各地に電話局を持っているので、都市部ではその一部の屋上に基地局を建てるだけで、エリアカバーが可能になるという。

WiMAX屋外設置型CPE。円形のアンテナ裏にルータなど内蔵されている

 日本無線は「WiMAX屋外設置型CPE」を展示している。これはアンテナが一体となった特殊なWiMAX端末で、移動環境というより、固定環境で固定回線の代用として使うことが想定されている。ブロードバンドルータ機能も搭載していて、そのままLANケーブルを繋ぐだけで、WiMAX経由のインターネット接続が利用できる。この製品は一般向けに販売されるというよりも、MVNOなどを通じて業務用途などに提供される可能性が高いという。

 このほかには、さまざまなメーカーが無線システムの開発や検証に使う機器を展示していた。変わったところでは、電波を遮断するシールドルームなども展示されていた。シールドルームは、電波を外に出してはいけない機器を試験するときや、あるいは意図的に携帯電話の電波が弱い環境を作り出すために用いられる。

 たとえば東京計器アビエーションは、金属製のメッシュ板を使ったシールドルームと布状の素材を使ったテントタイプのシールドルームを展示していた。
テントタイプのシールドルームは、高さ2mで2m四方のもので40万円程度となっている。2×1mのコンパクトなタイプも製品化が予定されているという。オプションとして送風ファンなどがあり、卓上タイプなどのバリエーションも用意されている。

布タイプの電波シールドルーム。これは2×1mのもの金属メッシュ板タイプのシールドルーム内では、携帯電話は圏外になった
小さな袋状の「シールド袋小D-1」。M702iGは圏外となった

 計測機器を販売する東陽テクニカでは、計測テストなどをサポートするツールとして、繊維を金属コーティングした布を用いた電波シールド製品を展示している。もっとも小さい製品は10×30cmの袋状になっていて、ちょうど携帯電話を収納できるようになっている。この袋に携帯電話を入れ、口を締めれば、電波が遮断されて圏外状態を作り出せる。電波暗室に持ち込む機器の簡易シールドにも用いることができる。直接注文すれば一般人も購入可能で、10×30cmの「シールド袋小D-1」は、1個の価格が8000円となっている(多数買う場合は割引される)。このほかにも、ノートパソコンが入るようなサイズや、卓上テント型、風呂敷サイズなどでも販売されている。

テスト用のUSIMカード。本物のSIMカードと同じくジェムアルト社が製造している

 変わったところでは、東陽テクニカではテスト用のUSIMカードも販売している。これは存在しない番号が書き込まれたテスト用のUSIMカード。3GPPで規定されているもので、このUSIMカードではいかなる事業者のネットワークにも接続できないが、原理的にはSIMロックがかかった端末でも認識され、その動作を試験することができるという。開発段階において、端末をネットワークに繋ぐことなく機能を試験する際などに用いられる。このテスト用USIMカードも一般人が購入可能で、1枚8000円となっている(多数買う場合は割引される)。なお、このカードは3GPPの規定するテスト用のUSIMカードであるため、3GPP2系のauのケータイでは動作しないという。


(白根 雅彦)

2010/5/13/ 19:33