【ワイヤレスジャパン2012】
クラウドサービスの提供を模索するドコモ


NTTドコモ 執行役員 スマートコミュニケーションサービス部長 阿佐美 弘恭氏

 東京ビッグサイトで開催されている「ワイヤレスジャパン2012」で31日、NTTドコモ 執行役員 スマートコミュニケーションサービス部長の阿佐美弘恭氏が講演。「スマートフォンの新たな進展 ―コモディティー化への対応―」と題し、同社の2011年度のスマートフォンに対する取り組みと、今年度の事業方針について解説した。その中で同社は、“総合サービス企業”に向けた取り組みを加速させるとともに、クラウドを利用したサービスの提供を行うことを明らかにした。

“モバイルを核とした”総合サービス企業へ

 阿佐美氏は冒頭で、同社のスマートフォンの契約数が急速に右肩上がりで伸びてきていることを報告。前日の30日に総務省から発表された“情報通信機器の世帯保有の状況”に関するデータを引用し、「近年、フィーチャーフォンは軒並み90%以上の世帯が保有しているという状況で大きな変化はないが、パソコンは下降気味。一方でスマートフォンは2010年度の9.7%から2011年度には29.3%と、1年でおよそ3倍に急上昇しており、スマートフォンが世間に浸透してきていることがよくわかる」と現状を説明した。

スマートフォンの契約数は2012年度末で全体の20%超。2014年度末には過半数を超える見込み総務省の発表によると、スマートフォンの世帯保有率は1年で3倍に増加した
2012年度は、「クラウドを利用したサービスの提供」と「モバイルを核とした総合サービス企業への進化」を主要な事業方針とした

 2011年度の決算では8期ぶりの増収増益を果たした同社だが、スマートフォンの販売数が882万台(前年度比3.5倍)に達したことや、Xi対応端末の販売数が230万件(同87.9倍)となったこと、さらに契約純増数も212万件(同10%増)を達成するなど、スマートフォンの台頭が増収増益の大きな要因になったという。

 同社ではこれを受けて、2011年度の事業方針にもあった「総合サービス企業に向けた取り組み」をより発展させ、2012年度は「モバイルを核とした総合サービス企業への進化」を目指すとし、クラウドサービスの積極的な提供を行うことも主要な事業方針として掲げた。

スマートフォンが“潜在市場の顕在化”を果たす

スマートフォンによる“潜在市場の顕在化”が期待される

 それら事業方針に沿った同社の具体的な施策を解説する前に、阿佐美氏は、“これまで”と“これから”の業界の動きを推測して見せた。同氏によると、これまでの“フィーチャーフォン・PCの時代”から、“スマートフォン・タブレットの時代”に移り変わることによって、「“潜在市場の顕在化”が起こる」という。

 フィーチャーフォンにはあらゆる機能が詰め込まれ、それによりさまざまな可能性が広がるだろうという期待は大きかったというが、同氏は「たとえばフィーチャーフォンは動画を見るには画面が小さかったり、課金・決済機能があるのに実質的に使える支払い手段は限定的であったりなど、機能とサービスそれぞれに一長一短があったせいで、当初我々が思っていたほどの可能性がコモディティー化するまでには至らなかったのではないか」という反省を口にした。しかしながら、従来のフィーチャーフォンでは一般化されにくかったサービスも、昨今のXiをはじめとするネットワーク環境の改善と、大幅に進化した機能・性能をもつスマートフォンやタブレットによって課題が一気に解決し、実現できるようになる可能性が高まったという。

“潜在市場の顕在化”をダムにたとえた

 今後大きく広がる可能性の高いコンテンツとして、動画などの「映像系」、電子書籍・コミックなどの「書籍系」、オンラインやリアルのショップにおける決済サービスの「購買系」の3種類を挙げた。この3種類とフィーチャーフォン、スマートフォンの関係を、同氏はダムにたとえた。フィーチャーフォンの性能や環境という厚い壁がそれらコンテンツの放出をせき止めていたものの、スマートフォンやタブレットの出現によって壁を突き破り、ブレイクするのではないか、というのだ。

 2011年11月にリリースした「dマーケット」では、すでに「MUSICストア」や「BOOKストア」、「VIDEOストア」といったサービスを提供しており、同氏の言う“潜在市場の顕在化”に対応した施策を早々と打ってはいるが、今後、さらにサービスラインナップを追加していくことで、よりいっそう“総合サービス企業”に向けた取り組みを加速させていくという。

端末とネットワークの主従関係が逆転する

クラウドサービスは、マルチデバイス化、パーソナル化、ストレージがキーワード

 一方、クラウドを活用したサービスについては、「すでに世の中ではそういう流れができつつあるが」と断ったうえで、同社でもマルチデバイス化、パーソナル化、リモートストレージという流れに対応できるクラウドサービスの提供を行っていくと話した。

 1人1端末という時代が終わりを迎え、スマートフォン、タブレット、PC、テレビなど、ネットワークにつながる複数の機器を1人で所有していることも珍しくなくなった。そのため、どの端末でも同じサービスを受けられること、同じプライベートデータを参照できること、といった点がますます重要になってくる。また、ユーザーの趣味嗜好に合わせたサービスの提供なども利便性向上には欠かせない。これらの課題を解決するための取り組みとして「クラウド」を活用するというわけだ。

 フィーチャーフォンでは“主”が端末で“従”がネットワーク、という関係になっていたのが、今後のスマートフォン・タブレットでは“主”がネットワークで“従”が端末と、全く正反対の関係になる。クラウド側に電話帳やメール、スケジュール、コンテンツなどのデータを置き、使用している端末ごとにそれらのデータのコピーを受け取る、あるいはネットワーク経由でデータにアクセスする、という構造だ。

 こういったサービスを展開していくにあたって、同氏は「料金体系も変えていく必要があるのではないか」と述べ、今年中にも何らかの動きがあることを示唆した。

スマートフォン時代は、ネットワークが“主”となり端末が“従”となるクラウド環境の整備を進めることで、ユーザーの利用の仕方も変化する。それに合わせた料金体系の確立も急務となる

今後の課金モデルは“質の高い顧客基盤”を持てるかどうか

広告モデルだったコミュニティサービスが、コンテンツ課金やアイテム課金へと軸足を移し始めているという

 最後に同氏はビジネス環境の変化について言及した。現在大きな注目を集めている企業は、いずれも世界をまたにかけている“グローバルプレーヤー”であり、ユニークなアイデア、英語によるサービス提供、自らが中身を作らないUGC(User Generated Contents)、広告モデル、といった点が共通の特徴であるとした。そして、最近ではこれらの企業が提供するサービスでは、徐々に広告モデルからコンテンツそのものに課金する“有料モデル”、その後“課金モデル”へと移行し始めているという。

 同氏は「最終的にはアイテム課金のようなデジタルコンテンツなどの無形の課金モデルから、物販を行う有形の課金モデルを目指すことになるのではないか」と語る。ただし、「デジタルコンテンツから物販へ移行するには、“正確な個人情報”が必要であるという大きな壁がある」という。たとえば、広告モデルだったFacebookも課金モデルに手を伸ばしつつあるが、実名登録が基本であるとはいえ、リアルな商品を扱えるほどの正確な個人情報ではないという意味では“底の浅い顧客基盤”だ。Facebookに限らず、多くのサービス提供企業が物販系課金モデルを展開するにあたっては、正確な個人情報である“質の高い顧客基盤”を持てるかどうかが重要なファクターになるだろうと語った。

 それに対して同社は、「dマーケット」を中心的なプラットフォームとして活用し、デジタルコンテンツだけでなく、証券取引などのトランザクション系、通販などのリアル系といった“質の高い顧客基盤”を用いる多彩なサービスを拡充していく方針だ。また、すでに韓国向けにコンテンツ配信を行っているほか、中国のキャリアと提携したコンテンツ配信も今年度中に開始予定としているなど、グローバル展開も順次進めている。

「dマーケット」では、デジタルコンテンツだけでなく、トランザクション系、リアル系のサービスも拡充していく予定韓国、中国をはじめ、世界各国へのグローバル展開も進める
今夏にはGoogle Walletの継続課金対応も予定。ドコモ側での対応も行われることになる

 7月に「dマーケット」のさらなる拡充が予定されているだけでなく、今夏にはGoogle Walletが継続課金(月ごと支払いなど)に対応し、同社もそれに伴って新たな課金サービスの提供を開始することになる。それらサービス・機能の充実とともに、ユーザーはもちろん、コンテンツプロバイダーにとってもより利用しやすいプラットフォーム作りを推進していくと語り、講演を締めくくった。




(日沼諭史)

2012/6/1 11:26