【ワイヤレスジャパン2012】
ドコモ山田社長が中期経営ビジョン解説


NTTドコモ 代表取締役社長の山田隆持氏

 5月30日に開幕した携帯電話・無線関連の総合展示会「ワイヤレスジャパン2012」で、NTTドコモ 代表取締役社長の山田隆持氏による基調講演が行われた。「新たな成長に向けたドコモの取り組み ~スマートライフの実現に向けて~」と題し、同社の中期経営ビジョンを詳細に解説した。

中期経営ビジョン実現に向けて「ドコモクラウド活用」

ドコモの長期ビジョン「HEART ~スマートイノベーションへの挑戦~」の概要

 NTTドコモでは中・長期的な経営ビジョン(目標)を策定しており、それをもとにさまざまなビジネス・投資を行っている。その1つが2020年ビジョンの「HEART ~スマートイノベーションへの挑戦~」。2010年に発表されたもので、今後10年に渡って継続的に取り組んでいく目標が示されている。

 山田氏は「これまでの10年はモバイルの可能性を追求してきた。2010年からの新しい10年は、モバイルを核としながらも、NTTドコモは“総合サービス企業”への進化を目指していきたい」と、2020年ビジョンの狙いを説明する。

長期ビジョン達成に向けて、より具体的な「中期ビジョン2015」も策定

 この2020年ビジョンを実現するために、より具体的な目標を盛り込んだ“実行スケジュール”的なものが、今回の講演の主題となった「中期ビジョン2015―スマートライフの実現に向けて―」にあたる。この中では「顧客満足度の向上」を大前提としつつも、「モバイルのサービス進化に向けた取り組み」「産業・サービスの融合による新たな価値創造」を2大テーマに掲げ、これらを実現するためのツールとして「ドコモクラウド」を活用するとしている。

 このドコモクラウドは、「パーソナルクラウド」「ビジネスクラウド」「ネットワーククラウド」の3種類で構成されるという位置付け。この中で、山田氏が特に時間を割いて解説したのがネットワーククラウドだ。端末ではなくネットワーク(クラウド側)で、より高度な情報処理を行い、付加価値を提供するための概念という。

 山田氏は「実は、ネットワーククラウドというのはドコモの造語。世界にこのような言葉はなかったが、通信キャリアとしては非常に重要な概念」と強調。すでに正式サービスとして展開中の「しゃべってコンシェル」を、ネットワーククラウドによるサービスの実例として挙げている。

スマートフォン分野を強化、Xiサービスエリアの拡大も

中期ビジョンで示された「モバイルのサービス進化に向けた取り組み」についての、さらに詳細な内容

 ここで山田氏は、中期ビジョンの2大テーマのうちの1つ「モバイルのサービス進化に向けた取り組み」の現状について解説した。

 近年は急速にスマートフォンへのシフトが進んでおり、ドコモにおける2011年度のスマートフォン累計販売台数は882万台に達した。山田氏はこの方向性を継続しながら、「ドコモならではの総合力を活かした競争を推進していきたい」と説明。端末、ネットワーク、サービス、価格、安心・安全の各分野で一層の強化を図っていくとした。

 端末の面では、さきごろ発表された「らくらくスマートフォン」に言及。意図せずタッチパネルに触れて誤操作になってしまうという、シニア世代ならではの声などを開発に反映させたという。また、専用のパケット料金プランを新設した背景には、「従来型らくらくホンからスマートフォンに買い替えたお客様は、平均して200MB程度のパケットをお使いになっている。500MBまで定額の新プランなら、通信量的な面でも安心してお使いいただけるし、価格も抑えられた」と、山田氏は語る。

 なお、ドコモの2012年度スマートフォンの販売目標は1300万台。このうち約6割の750万台をXi端末とすることを目指している。Xiのサービスエリアについても、順次拡張を進める。累積投資額は約3000億円に上っているが、2012年度だけでも約1700億円の投資を見込む。なお、人口カバー率は2012年度末で約70%となる予定だ。

スマートフォンの販売目標Xiのサービスエリア拡大目標

 また、dメニュー、dマーケットをはじめとしたコンテンツ販売プラットフォームにも注力。角川書店グループと合弁会社を設立して「アニメストア」などの展開も始めているが、ゲームやショッピングなどの分野でも独自ストアを構築していきたいという。

他産業とモバイルの連携で、新市場を開拓

 中期ビジョンで触れられている2つめのテーマが「産業・サービスの融合による新たな価値創造」。山田氏は「既存の市場にドコモがそのまま入っていくということではなく、他の分野とモバイルを組み合わることで、新たな市場を作っていきたい」とし、2015年にはこの分野で1兆円の売上を達成したいという。

メディア事業など8つの分野で集中的に他産業との融合を図り、新規市場開拓を目指す取り組みの具体例

 ビジネスの世界では「融合」が象徴的なテーマとして度々取り上げられており、山田氏もその代表例が、固定電話と携帯電話の融合だと説明。モバイル分野は、ITSや健康管理などとの融合も期待できることから、ドコモとしてもしっかり取り組んでいくとした。

 ドコモが4月1日に開始したマルチメディア放送サービス「NOTTV」は、“通信と放送の融合”の代表例だ。当初2機種だったNOTTV対応端末も、2012年夏モデルの発売により7機種に増加したが、より根本的には、NOTTVを特殊機能と位置付けることなく、ドコモ端末標準機能として提供したいという。山田氏は「そうなると、機能搭載のためのコストを抑える必要がある。1000円札1枚、2枚、3枚くらいで載せられるようにならなければ」と、おもに価格面を課題とした。

“土管化”をも防ぐ?! ドコモのクラウド戦略

 ここで再び山田氏は、講演冒頭で触れた「ネットワーククラウド」の重要性を改めて語った。「さまざまな機能をネットワークに埋め込んでいきたい。さらに端末と連携することで、お客様から見た場合に、あたかも端末単体で処理が完了しているように思ってもらえることが理想」という。

 サービスの提供実態をクラウド側に置くことは、ドコモにとってのメリットも大きい。サービスを提供するためのサーバーが高機能・高価格であったとしても、ネットワーク経由でこれを共用することができれば、コストは抑えられる。結果、顧客1人1人に対しての提供価格がリーズナブルになる。

 そしてもう1つの理由が、端末への依存性が低くなることだいう。「しゃべってコンシェル」は、原則としてドコモと回線契約をしたAndroid端末でさえあれば、開発メーカーは問わずに利用できる。

 近年、国内の携帯電話キャリアをめぐっては“ネットワークの土管化”についての懸念が沸き起こっている。Android端末の普及によって、キャリア主導で行われていた端末開発の役割が相対的に減っており、さらにはオンラインコンテンツの販売代行による手数料収入が、端末OSの開発元に流れるという構図が固まりつつある。携帯電話キャリアは、単に通信インフラだけを提供する“土管”に成り下がってしまのではないか、という問題だ。

 ドコモのネットワーククラウドは、この“土管化”を防ぐための1つの答えだ。クラウドにアクセスするためにはドコモ回線が必要だが、一方で端末の種類は問わない。山田氏は「なんとしてもネットワークにインテリジェンスを付けていき、土管化を防ぎたいと強く願っている」と話す。

「ネットワーククラウド」によって高度な機能を安価に提供する一方、端末依存性を抑える。“土管化”を防ぐための1つの方策という「ドコモクラウド」の機能強化方針。spモードメールや電話帳のマルチデバイス対応も計画されている

 ネットワーククラウドをベースとした「しゃべってコンシェル」は、すでに7400万アクセスを集め、一定の成功を収めつつある。今後も継続的にバージョンアップを行っていくという。また「通訳電話」「メール翻訳コンシェル」などの提供も今後予定されている。

 山田氏はまとめの言葉として「ネットワーククラウドはドコモが独自に提唱する概念だが、通信事業者がお客様に付加価値を提供するための重要な手段になると思う。パーソナルクラウド、ビジネスクラウドとともにしっかり磨いていきたい」と語り、講演を締めくくった。




(森田 秀一)

2012/5/30 14:25