【WIRELESS JAPAN 2009】
クアルコム、SnapdragonやLTEなど今後のロードマップ説明


クアルコムの須永氏

 「WIRELESS JAPAN 2009」のコンファレンスプログラムにおいてクアルコムは、CDMAテクノロジーズ部門でプロダクトマーケティング部長を務める須永順子氏が登壇し、同社が注力する事業分野や今後の製品ロードマップなどについて説明した。

 同社は3G携帯電話の基本技術であるCDMAに関して多くの技術を保有しており、CDMA2000/W-CDMA携帯電話用チップセットの開発・販売や、技術のライセンス提供を主力事業にしてきた。最近では、Snapdragonに代表される高性能な情報機器向けチップセットや、組み込み通信モジュールの分野にも力を入れており、これらは新たな事業として今後拡大していく方針だ。

 携帯電話等のモバイル情報機器向けには、モデムに相当するベースバンドプロセッサと、CPUに相当するアプリケーションプロセッサを1チップに統合した、MSMシリーズなどの製品を用意している。同社ではMSMシリーズ以外にもエントリークラスの携帯電話に向けたQSCシリーズや、Snapdragonのようなハイエンド製品を揃えているが、これらのスペックを検討する段階で出発点となるのが、ディスプレイの解像度であるという。

 

従来のコア事業である携帯電話用チップセットに加え、Snapdragonや内蔵モジュールの事業に力を入れる

 ターゲットとなるディスプレイの解像度が決まると、その機器がどんな使われ方をするのかがおおむね想定でき、どのような品質の動画を再生するか、グラフィック性能はどれくらい必要か、アプリケーションをストレスなく使うための処理性能はどの程度かといったことがわかる。その要求に応じて、搭載するコーデックやグラフィックコア、クロック周波数といった仕様が決まってくる。

 1GHz動作のアプリケーションプロセッサを備えるSnapdragonは、NTTドコモの東芝製スマートフォン「T-01A」に搭載されている。しかし、スペック上はXGA(1024×768)やWXGA(1280×720)といった解像度まで想定しており、実際にはミニノートPCのような、さらに大型の機器にも適用可能な性能となっている。

 一方、クアルコムでは通話とSMSしか機能を持たないようなローエンド携帯電話向けのチップも提供しており、このようなものの中にはわずか40MHz動作のアプリケーションプロセッサを搭載する製品もある。ただし、同社では位置情報機能はすべてのモバイル機器で重要と考えており、ローエンドのチップであってもGPSは必ずサポートしているという。

 

エントリークラスからハイエンドまで幅広い製品を用意スペックの決定にあたっては画面解像度がキーになる
KDDIが導入するマルチキャリアRev.Aは、この表では「EV-DO Rev.B Phase I」にあたる

 世界ではさまざまな周波数で多種多様な通信方式が利用されており、これらをサポートしていくことも大きな課題だ。特に周波数に関しては、日本の携帯電話は3Gの2GHz帯以外ほとんどが独自のバンドであり、「ずば抜けてユニークな周波数を使っている」(須永氏)国だという。このような独自バンドをいち早くサポートするための取り組みが日本法人の役割として重要としている。通信方式はマルチモードサポートの製品を基本としており、例えば、Snapdragonでは2GのGSM/GPRS/EDGE、3GのCDMA2000/EV-DOおよびW-CDMA/HSPAをすべてサポートする製品を用意している。

 CDMA2000方式の今後については、KDDIが導入を表明したEV-DO Rev.Aのマルチキャリア化(下り最大9.3Mbps)があるが、これはRev.Bで規定されている仕様の一部を利用するもので、須永氏によれば「EV-DO Rev.B Phase I」と言える方式だという。さらに、現在の変調方式である16QAMに加えて64QAMまで使用可能とした「EV-DO Rev.B Phase II」では14.7Mbpsまでの高速化が可能としている。

 LTEに関しては「当初はカバレッジに限界がある」(須永氏)とし、同社ではすべてのチップを3Gとのマルチモード対応にした。日本の携帯電話事業者は諸外国の事業者に比べ資金があるが、オークションで周波数割り当てを行っている国では事業者の設備投資余力が少ないことも多く、そのような地域ではLTEのエリア構築に相当の時間がかかると同社は見ている。

 LTE用のチップとしては、EV-DO Rev.B/HSPA+/LTE対応の「MSM8960」のほか、データ通信端末用にアプリケーションプロセッサを持たないMDMシリーズで、HSPA+/LTE対応の「MDM9200」、EV-DO Rev.B/HSPA+/LTE対応の「MDM9600」を用意している。

 Snapdragonは現在、W-CDMA/HSPAネットワーク向けの「QSD8250」と、CDMA2000/EV-DOにも対応する「QSD8650」を用意している。今後製造プロセスを45nm化することでパフォーマンス向上と省電力化を図り、今年後半にサンプル出荷を開始する予定。それにあわせて1.5GHzで動作するコアを2つ搭載したデュアルコア製品「QSD8672」も提供する予定となっている。

 同社では近年Googleとの関係を強化しており、特にAndroidは同社チップセットの適用分野を拡大しうるプラットフォームとして、大きな期待を寄せているという。Android搭載スマートフォンは現在HTCとSamsungが製造しているが、これまでリリースされたすべての機種がMSMシリーズを採用している。今後はさらに、ミニノートPCなどスマートフォンよりも豊かな表現ができる機器にもAndroidが広がる可能性があり、実際に今年6月に台湾で開催された展示会「COMPUTEX TAIPEI 2009」では、ASUSTeK ComputerとCompal Communicationsの試作によるAndroid搭載PCが展示された。

45nmプロセスにシュリンクしたSnapdragonを今年後半にサンプル出荷、デュアルコア版も投入現在のところAndroid端末のチップはMSMシリーズが独占

 このようにミニノートPCの形状ながら中身はスマートフォンのアーキテクチャを採用する機器を、クアルコムは「スマートブック」の名称で新たな商品カテゴリとして定義している。PCと同じような使い方が可能で、3G通信機能内蔵のためどこでもインターネットを利用でき、毎回起動・終了しなくても携帯電話と同様に終日スタンバイ状態で使えるといった点をメリットとしてアピールし、今年中には商品化する考えだ。

 そのほか、Windows Mobile端末では既に多くの採用実績があり、Symbianに関しても今年2月からNokiaと端末の共同開発に取り組んでいる。2010年中頃にはNokiaのS60プラットフォームに対応したMSMシリーズ搭載携帯電話が登場する予定だという。

 通信モジュールではノートPC内蔵用の「Gobi」が北米市場を中心に既に数十機種のPCに搭載されており、この秋には日本国内でも搭載製品が発売される見込みとしている。

COMPUTEX TAIPEI会場近くにクアルコムが設けたプライベートブースで展示されるSnapdragon+Android搭載のASUS EeePC3G通信モジュール「Gobi」を搭載したノートPCがこの秋には日本市場でも発売予定

 



(日高 彰)

2009/7/24/ 20:57