【WIRELESS JAPAN 2009】
ドコモ尾上氏が語る、LTEの現在と今後の4G


尾上誠蔵氏

 WIRELESS JAPANの2日目、3.9G/LTE & 4G ネットワークインフラ構築フォーラムでは、「実現が近づくLTEとその後の発展シナリオ」と題して、NTTドコモ 執行役員 研究開発推進部長 尾上誠蔵氏が登壇し、同社のLTE実験結果や今後の展開などについて講演した。

今後も益々データ通信需要は増加

 尾上氏はまず、「モバイルブロードバンドのトレンド」として、総務省の提供する資料「ユーザ当りパケット使用量の変遷」をもとに、2Gユーザーと3Gユーザー、一人当たりのトラフィックの違いについて触れた。グラフによれば、サービス開始当初の2Gは若干伸びを示していたが、途中で横ばいが続いてる。一方で2001年から登場する3Gユーザーのパケットトラフィックは、2004年を境にダイナミックな伸びを示している。これは2Gの性能限界と3Gの能力限界が高いことを示しているという。

 海外キャリアのプレゼンテーション資料でも同様の動きが見られるとして、尾上氏は「古い資料ではあるが、一番重要なのはキャパシティを提供すれば もっともっと使いたいと思うということ。これは一番大きなメッセージだと思う。固定のサービスに追随するためには、その先の発展が必要で、よりよいサービスを提供するためにはネットワークの進化が必要」と述べ、今後もますますデータ通信需要は増加していくとした。

LTE実験は成功、商用化に向けた動きへとシフト

 次にLTE実験の結果について報告。ドコモは2006年にLTEの開発に着手し、2007年7月から実験を開始している。ハンドオーバーを含め、すでに横須賀、 甲府、札幌の3カ所でフィールド実験を実施済みだ。「実験なので、最大性能で確認したい」として、帯域幅20MHz、アンテナも4本で検証したという。3GPPで狙った性能は、ピークデータ速度は下り100Mbps以上、上り50Mbpsだが、スペック的にはピークデータ速度(下り)は300Mbps(4×4 MIMO)まで達成しているとのこと。

 尾上氏は「強いて言えば遅延が非常に大きな要求条件である」として、3Gの際は遅延はあまり重要視されなかったが、LTEの議論を開始する際は、共通認識として厳しすぎるくらいの要求条件となったことを明かした。

 実験の様子について、リアルタイムで対戦するオンラインゲームや、実験室と測定車の中の状況を双方向でビデオ伝送で中継し、遅延のないことを確認する場面などが紹介された。移動しながらの映像表示では、基地局が変わる瞬間にも映像に何も問題が起きておらず、ハンドオーバー実験も成功しているため問題はないとの認識を示し、「現在は商用化に向けた動きがメインになっている」と述べた。

LTEは“世界の先頭集団として”2010年から導入する

 ドコモでは、LTEを“世界の先頭集団として”2010年から導入する方針だ。尾上氏があえて“世界の先頭集団として”と語るのは、3GやW-CDMA導入時の反省があるようだ。

 尾上氏は、ドコモの2Gから3Gへの移行状況をグラフで紹介。3G開始から1年半までの鈍い伸び率を示し、「お客様から必ずしも受け入れられたサービスになってはいなかった」と指摘。さらに、W-CDMAを導入したオペレーターの数も紹介し、「W-CDMAは2001年の10月から開始したが、最初の2年ほどまではほとんどいない。一生懸命やってきたが、振り返ったら誰もいなかったという状況だった。これは結果論だが、我々はダントツ一位を狙ってやったわけではない。早めにやりたいと思っていただけだが、結果としてそうなった。周りをあまり見る余裕がなかったのかもしれない」などと振り返った。

 こうした反省を踏まえ、ドコモはLTEにおいて“世界の先頭集団として”他のオペレーターやベンダーとの協調体制を整えながら2010年を目指すとした。

 なおエリアについては、費用対効果に従い順次展開する予定。既存3Gエリアにオーバーレイする形で導入し、LTE対応移動機は既存3G機能をサポート。LTEエリア外では既存の3Gでサービスが受けられる。最終的にはLTE上で全ての回線交換サービスを提供するのが目標だが、当初は音声サービスはCSフォールバックにより、既存システムで提供し、その後VoIP/LTEを導入する。

 周波数については2GHz帯の最低5MHz幅から導入し、次いで新規周波数となる1.5GHz帯、5~15MHz幅で導入する。LTE対応移動機の普及とともに周波数も拡大していく予定となっている。

 データの速度は移動機の能力と、帯域の2つの要素で決まってくる。LTEの場合、LTE用移動機のカテゴリは1~5までの5つに分かれている。「いきなり高いカテゴリの端末から始めると端末市場に普及するまでに時間がかかるため、徐々にあげたほうがいい。現在は中間のカテゴリ3で開発を進めている」という。カテゴリ3のピークレートは、5MHzで37.5Mbps、20MHzで100Mbps、15および20MHzで100Mbpsとなっている。2GHz帯でのLTEについても準備されている。

 「商用システムのテストベッドは構築済み。LTE対応光張り出し子機は2009年の秋頃から商用導入され、2010年頃にはベースバンドの商用導入を考えている」として基地局展開の仕組みやシナリオも紹介された。

4Gへのシナリオは元々のSuper 3Gコンセプト通り

 尾上氏は最後に、「4Gへのシナリオ」と題して5年前当時のドコモの取り組みや考え方を紹介した。もともとドコモは5年前に「Super 3G(3.9G)」というコンセプトを提唱しており、4Gを一番意識していたという。

 「下手なやり方をすると3Gの二の舞になる。スムーズに4Gを導入するにはどうしたらよいかを考えていた」という尾上氏。同氏は、ドコモの元々のコンセプトとして、LTEが4G(LTE-Advanced)への進化パスを持つことが自然であるという考えを紹介した。3Gオペレーターにとっては、3Gが4Gの時代でも他の技術に対して競争力を維持し続けることが大きな狙いであり、4Gへのスムーズな導入パスを提供することが必要とした。同氏は、「元々のSuper 3Gのコンセプト通り、LTEから4G(LTE-Advanced)へスムーズに進化するだろう」と自信を見せていた。

 

(すずまり)

2009/7/23/ 19:50