【WIRELESS JAPAN 2009】
ソフトバンク蓮実氏、動画重視のコンテンツ戦略を語る


ソフトバンクの蓮実氏

 無線通信関連の総合イベント「WIRELESS JAPAN 2009」のセッション「コンテンツビジネス戦略最前線」で、ソフトバンクモバイルのマーケティング本部 副本長の蓮実一隆氏は「ソフトバンクモバイルのコンテンツ戦略」と題した講演を行った。

 まず蓮実氏は、同氏自身が2008年10月にテレビ朝日の編成制作局からソフトバンクモバイルへと転職したことを例に挙げつつ、「これからコンテンツの地殻変動が起きようとしている。これはユーザー側の話だけではなく、送り手側の話。まだこれからの話だが、人材が古いメディアからモバイル業界へ殺到しようとしている」と語り、大きな変革期が訪れていることを強調する。

コンテンツ地殻変動の「前夜」と表現する人材がモバイルに移ってくるという

 

ソフトバンクのARPU内訳

 さらに蓮実氏はソフトバンクでの1人あたりの月額料金内訳データを示し、「基本料と音声通話料金はどんどん下がっている。となると、収益はデータで上げるしかない。幸いソフトバンクのデータ収益は元々から高くはなかったので、2009年は伸び率最高。しかしさらに伸ばさなければいけない。そのためにリッチなコンテンツが必要」と語り、ソフトバンクにとって動画や音楽などのリッチなコンテンツが重要であると説明した。

 ソフトバンクの方針は、孫社長の言葉を引用し、「2008年に孫社長はインターネットマシン元年と言った。今年はインターネットコンテンツ元年。コンテンツを楽しむ時代になる。ソフトバンクでは『より多く』『より専用』『より簡単』の3つのキーワードで展開する。実はこれ、テレビではできない3つの要素でもある。ケータイがテレビと戦うかはわからないが、武器を探すとこれにたどり着くだろうな、と思う」と説明する。

孫社長の打ち出す方針ソフトバンクの掲げる3つのキーワード

 

元年コンテンツ
ケータイならではの特徴

 続いて「コンテンツ元年にふさわしく、次から次へと投入している」とし、「モバイルウィジェット」や「S-1バトル」、「コンテンツ得パック」、「選べるかんたん動画」、「かんたんミュージック」といったソフトバンク自身が最近開始したコンテンツサービスを紹介した。

 とくに「S-1バトル」については「ソフトバンクならではの、ほかのどこからも見ることができないコンテンツ。テレビではできないこともやっている。たとえば出し分けはその最たるもの。ユーザーの端末に合わせたコンテンツを配信する。さらにユーザーごとに毎日配信するコンテンツを変えることで、曜日などによる投票のばらつきを均等にする。あとはくじ・ポイント機能。動画を見て投票した人にその場でくじが当たる。どれもテレビ、あえて旧メディアと呼ぶが、その旧メディアのテレビではできない。地上デジタル放送ではある程度できるが、誰もやる気にならない」と、ケータイの優位性をアピール。

 さらにS-1をサポートする日本テレビの番組「億万笑者」というを紹介しつつ、「シェア20%のキャリアの1コンテンツをテレビがサポートする時代になっている。これは、ケータイキャリアが端末を売って儲からなくなったように、テレビ局が放送だけではそれほど儲からなくなったから」と説明する。さらに「僕がテレビ業界にいた頃は、呑みながら『5年後はないな』と言っていた。当時からリアルに危機感を持っていて、クリエーターは行き先を探していた。これらのクリエーターの行き先となったところが、勝者となると考えている」と持論を述べた。

選べるかんたん動画の特徴

 「選べるかんたん動画」からはプロ野球のコンテンツを紹介する。同サービスは、送って欲しい動画を登録しておくと、新作動画ができるたびにメールで動画に誘導してくれるというもの。プロ野球の場合、好きな球団を登録しておくと、その球団が試合に勝ったとき、1分半にまとめた試合のダイジェスト動画が見られる。

 蓮実氏は、「テレビ放送は人気チームばかり取り上げるので、野球ファンには物足りない。僕が報道ステーションの制作をやっていたときは、どうやって野球ニュースの時間を短くするかと言うことを考えていた。野球を見る人は少ないが、やらないわけにはいかない。とはいえ、人気のない球団は15秒も放送できない。視聴率を中心としたテレビ放送はマスにしか訴求しないモデル。一方、『選べるかんたん動画』だと、どのチームでも勝てば1分半の動画をいつでも見られる。マス向けのメディアではできないことが、ケータイならばできる」と述べ、携帯電話の特性が優れているとする。

ケータイとテレビの比較

 さらに最近では、ケータイで最初に配信するための番組が作られるようになったことを挙げ、「ケータイは今年、おさがり、つまり二次使用を脱出した。ドコモのBeeTVもそうだし、auのLISMO Videoでやっている革命ステーションもそう。『こんなこと当たり前』かと思われるかもしれないけど、これは“2009年がコンテンツ元年”だと、後々、振り返られるきっかけになるのでは」と説明する。

 また、ゲーム機のWiiで提供されている「Wiiの間」にも触れ、「僕はびっくりした。動画のプロが見ても、相当なものが提供されている。コンテンツ配信では、ケータイならでは、といった機能(に左右されるところ)もあるが、結局はコンテンツの質に帰着する。テレビが現在持っている高い制作能力を『どうやってモバイルの世界に持ってくるか』を本気で考えない限り、ケータイの動画コンテンツの未来は開けないと考えている」と述べ、テレビ業界が培ってきた能力は今後も求められるとの視点を示した。

 今後の展望としては、「これまでケータイやWebはテレビの代わりになる、という野心があって発展してきたところがあるが、コンテンツはおさがり(二次使用)だった。いまやそこから脱出せざるを得なくなっている。また、ただ楽しむだけではなく、“役に立つ”“知って得した”“感動した”“怒った”“泣いた”というところに達して初めてケータイのコンテンツは一人前になる。ドラマやゲームにとどまらず、ファッションや行動支援、教育などへどんどん裾野を広げて世界を作り上げていくことが、旧メディアから客を奪い、成長していくポイントになるのではないか」と語った。

ソフトバンクグループとケータイの特徴を結集する

 最後に蓮実氏は、「かつて映画がテレビに取って代わられる直前、映画業界はテレビをバカにしていた。最初、テレビは映画と同じことをやっていたが、しかしあるとき、スポーツ中継や連続ドラマなど、“映画にはできないこと”があると気がついた。そして今、テレビからケータイやWebへと動こうとしている。いままではテレビで見られるコンテンツがケータイで見られるだけだった。しかしケータイは持ち運べて、いつでも見られて、ただ見るだけでなく参加できるということが大事。コンテンツがおさがりではなく面白いオリジナルとなり、それをケータイの仕組みでユーザーの届けられるようになったのが今年」とし、ソフトバンク孫社長の言う「インターネットコンテンツ元年」が訪れようとしていることを強調した。

(白根 雅彦)

2009/7/23/ 15:36