【WIRELESS JAPAN 2009】
ドコモ山田社長、動画・フェムトセル・LTEの推進姿勢示す


NTTドコモ 代表取締役社長の山田隆持氏

 無線通信関連の総合イベント「WIRELESS JAPAN 2009」にて22日、NTTドコモ 代表取締役社長の山田隆持氏による基調講演「ドコモの変革の取り組みと新たな成長に向けたチャレンジ」が開催された。動画サービスの一層の充実を図りつつ、そのトラフィックを支えるためにフェムトセルやLTEなどの各種技術を積極的に導入する方向性を示した。

1億台時代を迎えたドコモのチャレンジとは

 ドコモでは2008年4月、顧客満足度をより重視する姿勢を示すため「新・ドコモ宣言」を発表。利用者から寄せられた通話エリアに関する問い合わせへ原則48時間以内に対応、端末ラインアップを4+1カテゴリ制へ刷新するなどの施策を実施した。その成果は解約率の低減に現れており、2009年度第1四半期では0.44%にまで改善。「海外(のキャリア)からは、『この数値はサプライズだ』と言われるまでに至った」と説明する。

 国内の携帯電話純増数がすでに1億を突破している現状を踏まえ、山田社長は「市場はすでに成熟していると言われるが、“携帯電話の特性”を活かしたイノベーションを推進することで機能はまだまだ成長する。それが日本におけるICTの発展や豊かなライフスタイルの生活に寄与できるはずだ」と自信を見せる。

 山田氏が挙げる“携帯電話の特性”とは、24時間365日に渡って手元にある「リアルタイム性」、契約者の個人認証が容易なこと、さらにGPSを使った位置情報の取得という3つ。これに日本ならではのモバイルブロードバンド環境を組み合わせることで、さまざまな応用が可能と解説する。

 山田氏は講演中、すでに提供しているサービスのさらなる将来像、基礎研究事例などを10種類のチャレンジとして紹介。その筆頭に「パーソナル化の推進」を挙げ、個人向けの行動支援サービスをより進化させると説明した。2009年冬発売予定の新端末ではiコンシェルを強化し、位置情報との連携を可能にさせる予定。具体的には「登録したスーパーのそばにいるときだけタイムセールの情報を提供したり、いる場所に応じて終電案内を通知するといった用途が可能になる」と山田氏は語る。また地方ユーザーも役立つサービスを提供するとの観点から、地域コンテンツの充実も図っていくという。

 このほか、個別の携帯端末や基地局から構成されるNTTドコモの携帯電話プラットフォームを、社会的インフラとして活用するため、異業種各社とも協調していく。7月21日からスタートした「ドコモ ケータイ送金」もその1つだ。歩数計内蔵ケータイで収集した健康情報をサーバー側で集約、統計情報として外部企業に提供したり、大気観測や気象関連のセンサーを基地局に紐づける仕組みなども実施・検討していく。

 また秋には、家庭向けの小型基地局であるフェムトセルを使ったサービスも開始する。電波の届きにくい屋内深部などで安定した通信環境を実現できるものとして期待されるが、山田氏は生活行動支援サービスへの応用に期待を寄せる。具体例としてはフェムトセルと携帯電話を連携させての在宅確認などを想定している。


2007年以降、解約率は改善山田社長が示した10種類のチャレンジ

冬モデルではiコンシェルを強化。位置情報との連動が可能になるというフェムトセル関連サービスも秋スタート予定

「動画のドコモと呼ばれたい」

動画配信をエンターテインメント分野以外にも拡大させていく
LTEも積極的に導入する計画だ

 そして山田氏は、動画配信をサービスの大きな柱に据える。講演中にも随所で「『動画のドコモ』と呼ばれたい」と語り、注力の度合いを示した。エンターテインメント系の動画コンテンツ「BeeTV」の一層の充実はもちろんのこと、今後は観光案内や通販、ナビゲーションなどの分野でも動画を押し出したいという。

 大容量動画の視聴にほぼ必須となるパケット定額サービス「パケ・ホーダイ」の契約は2000万件を突破。そのうち約750万件が月々の初期費用を抑えたパケ・ホーダイ ダブルが占めるなど、増加傾向にある。

 しかし、より多くのユーザーが動画を視聴するようになるとトラフィックが急増。今度は無線ネットワークの品質に悪影響を与える事態が懸念される。その観点からもドコモでは、次世代の携帯電話規格「LTE」を積極的に導入する意向だ。現在の主流である3Gの高速通信規格「HSPA」などをそのまま利用する場合と比較して、最終的には電波効率の向上、通信単価の低廉化が見込めるためだ。動画配信を継続的に発展させる以上、LTEの導入は必須事項であると山田氏は指摘する。

 ただし規格の標準化にあたって、「(FOMAに採用されている)W-CDMAの導入に際しては業界の先頭を引っ張ったが、後ろを振り向いたら誰もついてきていなかった」(山田氏)という反省もある。単独導入ではなく、各社と連携する“先頭集団”に身を置きつつ積極的に取り組むとした。

 なおFOMAではサービス開始当初、通信エリア面での苦慮が多かったことから、LTEでは当初3Gとのデュアルモード端末を提供する計画だ。2010年12月にはまずデータ専用端末を、翌2011年にハンドセット型端末を続いてリリースする予定という。またLTEの低遅延という特徴を活かし、一部機能を端末側ではなくネットワーク側にて処理するという技術についても、基礎研究を継続させる。

Windows Mobile、Android向けの総合マーケットプレースを試作

 山田氏はこのほか、携帯端末の進化の方向性として注目される携帯電話向けOSについても言及。「Windows Mobile、AndroidなどのオープンOSを採用する端末は、いずれ既存のiモード端末とも融合していくだろう。ただしお互いの長所を打ち消しあうことのないよう、注意しなければならない」と語り、携帯電話とそれに対するスマートフォンという形で独自に発展、急激な一本化はないだろうと予測している。

 ドコモではT-01A、HT-03AなどのオープンOS系端末もリリースしており、山田氏も「自由なアプリケーション配信が魅力」と説明する。OSメーカーが独自に構築している「Windows Marketplace for Mobile」「Android Market」などのアプリケーション配信プラットフォームとは別に、複数のオープンOSに一括対応できる総合モールをドコモ独自で開発する計画もあるという。他キャリア端末からのアクセスも可能にさせる予定で、今年度中にはプロトタイプを完成させたいとしている。

 ドコモでは今後、2011年度をメドにネットワークのオールIP化を完了させる予定。通信インフラを活用して社会動態を可視化するために「ペタマイニング」技術の基礎研究も引き続き進めていく。

 また世界進出も大きな課題だ。「1年で1億台」という爆発的な伸張を見せるインドなど、アジア・太平洋地域の市場にも、現地企業への出資などの形で積極的に進出したいと山田氏はコメント。日本国内でも異業種他社との連携を図っていく。そして講演の最後には「ICTの発展、豊かなライフスタイルの実現に向けてドコモは頑張っていきます」と聴講者に語りかけ、まとめの言葉としている。


Windows Mobile、Androidなど携帯電話向けOS採用モデルと従来型端末の比較オープンOS向けソフトウェア配信プラットフォームをドコモ独自で試作予定



(森田 秀一)

2009/7/22/ 16:16