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楽天が携帯ネットワークのテスト施設公開、仮想・自動で検証を迅速化

 楽天モバイルネットワークは、2019年10月からサービスを開始する予定の携帯電話事業に関連して、自社で構築するネットワークを再現しテストなどを行う施設「楽天クラウドイノベーションラボ」を設立し、その内部を報道陣に公開した。

 「楽天クラウドイノベーションラボ」は、同社が構築する“完全仮想化クラウドネットワーク”を再現。試験はソフトウェア上で自動化され実施されるため24時間体制で行うことができ、バグの早期発見や、その結果としての品質の高いソフトウェアを継続的に商用ネットワークに提供できるとする。

 また小規模なソフトウェアの機能単位で、短期間かつ自動的に試験を繰り返す手法により、試験期間の短縮やコストの低減も実現、新サービス展開時の通信ネットワークの不具合を低減できるとしている。同施設はインドのTech Mahindra(テックマヒンドラ)、シスコシステムズの協力で設立されており、先端的な構成のネットワークとうたう。

三木谷氏、試験設備も先端的な試みとアピール

 施設を披露する発表会に出席した楽天 代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏は、「楽天が作る新しいネットワークは、今までの概念を根底から覆す、ITベース、クラウドベースのネットワーク。今までは専用のハードウェアを用いて構築していたが、5Gがすぐそこまで来ており、モバイルが全く違う次元に進む中、楽天は従来型のネットワークではなく、最初から5G型のネットワークを作り、その上に4Gを乗せる。こういう、まったく新しい形で進めている」と、5Gへの移行を前提にしたネットワークを構築していることを語る。

楽天 代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏

 またこの試験施設については、「完全にソフトウェア化された新しいサービスを、いかに迅速に、開発から実験、実装、商用化までスムーズにするかを実現するために完成された。今までであれば、専用ハードウェアの開発・交換やハードウェア用のソフトウェアを書き換えて実験していたが、リードタイムは数カ月や1年以上が必要になっていた。楽天の場合は、この施設を通じて、リアルタイムでできる。ネットワーク構造だけでなく、こうした仕組みも世界に先駆けた試みになるのではないか」と語り、商用ネットワークに迅速に適用できるという先端的な試みをアピールした。

 Network Services of Tech Mahindra CEOのマニッシュ・ヴィアス氏は、「新しい試験施設は、“鏡”のように、エンドツーエンドのネットワークを映し出す役割を果たす。もう一つの役割は、自動化された形で、煩雑なテストは不要ということ」と語り、商用ネットワークに近い環境を再現し、自動的で迅速にテストが行えると説明した。

 仮想化ネットワーク構築のデザインや仮想化プラットフォーム、EPCソフトの提供・構築を担当したというシスコシステムズからは、副社長 情報通信産業事業統括本部の中川いち朗氏が登壇。「世界に類を見ない、革新的なアーキテクチャを採用してもらった。モバイル網からコアまで完全に仮想化され、エンドツーエンドで自動化された、世界初のクラウドネイティブのネットワークの構築を手伝わせていただいている。シスコとして、全世界から100名を超えるエンジニアを日本に招集した。シスコ全社を上げて、この夢のある大プロジェクトを支援していく」と中川氏は語り、先端的な取り組みとして注力している様子を語った。

テックマヒンドラのマニッシュ・ヴィアス氏
シスコシステムズの中川氏
アンベールでサーバールームを披露した

ITネットワークの手法を適用、「高品質なサービスを迅速に提供」

 楽天モバイルネットワーク CTOのタレック・アミン氏からは施設のより具体的な内容が解説された。「完全に自動化されたモバイルインフラの試験施設。4G・5G網の完全なコピーをここに設置し、無人で、自動化された試験を繰り返し、バグの発見などを早める。ベンダーとの連携も図り、ベンダーのラボと直結して、複数のベンダーと平行して、自動的にテストが行える」と、アミン氏は仮想化・自動化のメリットを語る。

楽天モバイルネットワーク CTOのタレック・アミン氏(左)、クラウド部 部長のカーン・アシック氏(右)

 またIT企業としてのネットフリックスを例に出し、「ネットフリックスは1日に1000個以上のソフトウェアアップデート・パッチを当てるといわれているが、サービスには影響がない。ITにできてなぜテレコムにできないのか。楽天では、ここを変える。自動化されたテストにより、高品質なサービスを、迅速に提供できるようにする」と、商用サービスに迅速に適用できる様子を語る。

 「シスコシステムズとの連携により、すべての環境をテストできるようにしている。シスコの開発拠点は世界中にあるが、開発拠点の場所に関わらず、できあがったソフトウェアコンポーネントをこの施設でテストし、導入できる。また、ベンダーとの“健全な”関係も特徴。提供されるコードを紙の上で評価するのではなく、この施設でテストし、良い部分・悪い部分を定量化し、数値で、テスト結果として返す。これによりベンダーと共同で品質向上を図ることができる。一番の目的は、ユーザーに高い品質のサービスを迅速に提供できるようにすることにある」とアミン氏は語り、ベンダーと共同で取り組んでいく様子を語っている。

“IT企業”の発想やエコシステムに自信

 質疑応答の時間には、“最後発”として参入する点についてメリットはどこなのか聞かれた。三木谷氏は「既存のキャリアが事業を始めたのは15年以上前。この15年間の間にIT技術は革新的に進歩した。その間に携帯電話事業者もハードウェアベンダーと組んで進歩してきたが、我々が手がけているインターネットサービスは、完全にクラウドに移行している。ところが携帯電話サービスだけは、クラウドに移行していない。それには構造的な問題、技術的な問題がある。我々は、IT企業が手がけるから、オーバーカム(克服、打ち勝つ)できる」と語り、IT企業の手法で取り組んでいく様子を語る。

 「新しい技術が出てきたことも大きい。ほかの事業者は、5Gと4Gで違うネットワークを構築する。楽天は5Gも4Gも同じネットワークで提供できる。このあたりは、大変大きな、最後発のアドバンテージだ」と三木谷氏は、“5Gレディ”で構築できるタイミングであることもメリットとしている。

 既存のキャリアであるソフトバンクが、2018年末に大規模な通信障害を引き起こしたことを例に、ネットワークの信頼性が聞かれたが、タレック・アミン氏は「ソフトウェアに問題があったとしても、瞬時に解決できるのが強み。他社なら数週間かかるところを、我々は数分あるいは数秒間で解決できる」と語り、仮想化のメリットを語っている。

 政府や総務省が携帯電話業界を統制する方向で圧力を強めている現状に対し、料金以外の強みはどこにあるのかが聞かれると、三木谷氏は「料金、スピード、ポイントを含めた楽天のさまざまなサービス、エコシステム」と回答。「さまざまなサービスがネットワークに乗り、これらを柔軟に提供できるのがメリット。(既存の携帯電話事業とは)まったく違うサービスと思ってもらったほうが、もしかしたらいいのかもしれない。今の携帯電話事業者がさまざまな拡張をしているのは、いかに楽天のモバイルが革新的なことをやろうとしているのかの写し鏡ではないか」と、幅広いサービスの提供にも自信をみせた。

 三木谷氏はまた、MVNO(既存の「楽天モバイル」)では実現できなかったことなのかと問われると、「MVNOは、日本の場合はフルMVNOではなく、回線のリセラー(再販業者)。技術的な工夫はできないし、使おうが使わなかろうが帯域にコストがかかる。言い方は悪いが、MNOの奴隷みたいなもの」とやや恨み節も語り、柔軟な通信サービスの提供にはMNOになることが必然だったとした。