【Mobile World Congress 2013】

Jin-Magic、TCP/IP通信を最適化して輻輳を防ぐ技術を紹介

 日本のソフトウェア開発会社Jin-Magicは、Mobile World Congressにおいて、インターネット通信のトラフィックを最適化し、通信速度の低下を防ぐためのソフトウェア技術の紹介を、同社の提携先である英Ubiquiysと共同で行なっている。

 Jin-Magicの技術は、TCP/IP通信で1つの回線に多数の接続があったとき、過負荷状態になるのを防ぐためのもので、TCPトラフィックオプティマイザーと呼ばれている。通常のTCP/IP通信は、可能な限りのデータを送ろうとして、通信速度は自動的に限界まで上昇する。複数のセッションがはられた状態では、各セッションがこれを行い、帯域の取り合いが発生するため、回線の限界に達し、過負荷状態となると、安定した通信が不可能になるとともに、全体の通信効率も落ちてしまう。TCPトラフィックオプティマイザーは、この過負荷状態を防ぐために、TCP/IP通信を最適化する役割を果たす。

 Jin-Magicは、1台のLTE端末に複数のパソコンをテザリング接続し、2つのHD画質のYouTube、1つの生配信のUstreamを同時に再生させるテストを行い、通信の過負荷状態を再現して、TCPトラフィックオプティマイザーの効果を紹介している。

制御をかけない状態。YouTube接続が帯域を奪い合い、通信速度が安定していない
制御をかけた状態。ピーク速度が落ちるが、通信はかなり安定する

 通常、このような状態では、2つのYouTube接続が通信速度の限界まで動画をキャッシュしようとするため、その2つの接続で通信帯域を奪い合って過負荷状態となり、結果として全体の通信は不安定となってしまう。生配信のUstreamは、キャッシュをしないため、ある一定の通信速度さえ確保していれば十分だが、2つのYouTube接続のおかげで回線が過負荷状態になっているため、必要とされる通信速度が安定して確保できず、再生が不可能になってしまう。

 さらにこうした回線の過負荷状態では、データ通信にエラーが生じる可能性も増えてしまう。エラーを起こして不達となったデータパケットも、実際にはネットワーク上を流れているため、ネットワークには負荷をかけている。しかし不達となったデータパケットは到達するまで再送されるため、2重3重のネットワーク負荷になってしまう。

 1つの通信回線を複数の接続で共有し、それぞれが限界まで通信を行おうとするのは、TCP/IPの仕様だ。いわゆるベストエフォート的な考えで、回線に余裕があればそれを限界まで活用する仕様と言える。しかし多くのユーザーが回線を共有するとき、この仕様のおかげで、すぐに回線が過負荷状態となってしまう。

 Jin-MagicのTCPトラフィックオプティマイザーは、ソフトウェアの制御で、それぞれの接続を適切な通信速度に保ち、回線全体の過負荷状態を防ぐものだ。たとえば前述の例で言うと、それぞれの接続速度を回線性能全体の3分の1に制限すれば、過負荷状態を防ぎ、それぞれの接続は安定してその通信速度を得られるようになって、Ustream接続は安定した再生が可能となる。2つのYouTube接続は、キャッシュの瞬間的な最大速度が低下するが、安定してキャッシュすることが可能となり、結果として再生も安定する。

 過負荷状態が防げるので、データパケットの不達エラーも減り、速度だけでなく通信自体も安定する。動画ストリーミングだけではなく、たとえばメールやTwitterのような低容量の通信についても、不達エラーが減れば、より安定し、高速なレスポンスが期待できる。

 Jin-Magicの制御ソフトウェアは、通信経路のいずれの箇所にも設置できる。たとえばJin-Magicの提携先であるUbiquisysの携帯電話のスマートセル製品に導入することも可能だ。Ubiquisysのスマートセルは、インテルのアーキテクチャによるインテリジェント性能を備えており、Jin-Magicの制御ソフトウェアのようなアプリも任意で追加することができる。スマートセル以外にも、インターネット上のサーバーやネットワーク経路上の機器、端末側に制御ソフトウェアを組み込むことも可能だ。

 Jin-Magicの制御ソフトウェアは、TCP/IPの仕様を変更するものではない。通信経路のいずれかに設置し、データの転送速度制御するだけとなる。そのソフトウェア部分以外は従来のネットワークのまま運用できるのも特徴となっている。

 Jin-Magicのソフトウェアは、TCP/IPのネットワーク全般に利用できるが、多数のユーザーがネットワーク回線を共有する携帯電話のサービスには最適なものと言える。携帯電話サービスの場合、ボトルネックとなりやすい無線部分にあわせた制御を盛り込むことで、昨今問題となっている輻輳を通信品質の低下を最低限にすることが可能になるわけだ。Jin-Magicによると、Mobile World Congressにおけるソフトウェア制御のデモンストレーションは、携帯電話事業者には好評だという。

Ubiquisysのスモールセル。インテルのスマートセルプラットフォームが内蔵されていて、SSDなども搭載し、さまざまなアプリを走らせられる。PBXアプリを走らせ、携帯電話を内線電話化したりできる
こちらはいわゆるフェムトセル。家庭内やレストラン内など、限られた空間のエリア化に用いる。発注数によっては150ドル程度になるくらい安価だが、こちらは汎用アプリを走らせるほどの処理能力はない

白根 雅彦