【mobidec 2009】
ソフトバンク蓮実氏が指摘する“かんたん”と“付加価値”とは


 25日、都内で携帯コンテンツプロバイダ向けイベント「mobidec 2009」が開催された。特別講演の「ソフトバンクモバイルのコンテンツ戦略」として、テレビ畑出身で携帯キャリアに転身したというソフトバンクモバイル マーケティング本部副本部長の蓮実 一隆氏が2009年の取り組み、そして今後に向けた施策について、個人的な考えを含めながら語った。

2つの要素でサービス展開

ソフトバンクモバイル蓮実氏

 今夏の「WIRELESS JAPAN 2009」でも熱弁を振るった蓮実氏は、同社社長の孫氏の写真を示しながら「(孫氏は)ぶち上げるのが大好きなもんですから、2008年はインターネットマシン元年、今年はインターネットコンテンツ元年とわかりやすそうな言葉だが、何かわからない感じだったが、結局は難しいことではない。歴史的に振り返ると『ここから始まったんだな』と言えるのだろう。単純にこの2つのキーワードだけを考えてやってきた」と述べ、「かんたん」「付加価値」とだけ記された資料を示した。

 同氏は、「うちの会社で“かんたん”というのは、70歳くらいの方でも使えるようにしろと考えている。もちろん現実は違って、40歳でも難しい。ともあれ、そういったことを強く念頭においてやってきた。もう1つの“付加価値”とは、ケータイモバイルだからこその体験をしてもらいたいということ。偉そうに聞こえるかもしれないが、誰にとっても面白いと感じられることをやってきた」と説明する。

 その具体例として「S-1バトル」を紹介した同氏は「これらのサービスで付加価値とは、“私も審査員になりたい”ということ。賞金1000万円といった点はあるが、一番の付加価値は、ユーザー1人1人が1票を持っていることに意味がある。Webサービスであれば、星いくつ、とか引き分け、といった要素を取り入れるだろうし、実際そういった話はあったが、全てぶっ飛ばして『どっちが面白かったか』ということだけにした。来年3月には2時間の特番をテレビでやる予定なので、そろそろご覧になっていただけると……」とにこやかに語った。

インターネットマシン元年に続き、今年はインターネットコンテンツ元年とされたが……蓮実氏は「かんたん」「付加価値」を意識してきたという

 もう1つの具体例が「選べるかんたん動画」というサービス。特にスポーツについては、マス向けの媒体であるテレビの場合、巨人など人気チームにばかり情報が偏りがちだが、携帯向けのオンデマンド配信であれば、好みのチームの情報をきちんと得られる。蓮実氏は「好きなチームが勝ったときだけ通知するようにしたら非常に好評。人気がないチームほどクリック率が高い。テレビ側からすると、視聴率のため、人気チームを取り上げるのは当たり前の世界で、“CMの後に巨人のニュース”と紹介してから、2回ほどCMが流れて、やっと肝心のニュース、とユーザーフレンドリーではない世界になってきた」と語り、メールで通知するという利便性やテレビでは味わえない体験などをアピールする目的で展開してきたと説明する。

選べるかんたん動画は「好みのプロスポーツチームがテレビに取り上げられない」というニーズを満たせるメールで届くことから、ITリテラシーに関わらず、誰でもアクセスできる

 そして具体的なサービスの一例として紹介されたのが「号外メール」というサービス。これは、社会的に話題になるような事件が発生した場合、メールで通知し、動画などで詳細を確認できるというもの。頻繁に送ってしまってはスパム扱いされる可能性もあるため、「厳選して送る」(蓮実氏)というが、今年は既に「酒井法子被告が涙の謝罪会見」「酒井被告に1年6カ月求刑」「松井秀喜、ワールドシリーズMVP」「酒井被告に懲役1年6カ月、執行猶予3年」と4回もメールを配信。そのうち3回が同じ話題となったが、蓮実氏は「5年に一度のニュースだから配信した。こういったニュースは、リテラシーが高いユーザーはすぐ見つけられるだろうが、70代のうちの母親はたどり着けない。そういった人でもたどり着けるサービス」と述べ、利便性に注力しているとした。

号外メールのサービス概要。厳選したニュースを配信するというケータイWi-Fiもすぐ利用できるよう、利便性に配慮したという

 このほか、新サービスの「ケータイWi-Fi」については、「ITリテラシーが高い人にとっては高速通信こそメリットだが、そうではない人にとって3G通信が遅いとわからない人もまだまだいる。単純に体験して、産経新聞が無料で読めるといった点で喜びを体験してもらいたい」と述べ、同じ線上にあるサービスとしした。

 また、プレゼンテーション中に動画~新聞・雑誌とケータイWi-Fi向けコンテンツを紹介した蓮実氏は「後半にかけて動画じゃないサービスを紹介した。リッチコンテンツと言えば動画と言われるが、動画元年の次は、動画じゃないとちょこっとだけ思っている。これは誰にも相談しておらず、ソフトバンクの考えではない」と語る。

ケータイとテレビの違い

 蓮実氏が考える「動画の次」とは何か。

 サービス事例として、テレビ業界との違いが指摘されたのは、「選べるかんたん動画」で配信するコスメ関連の動画。同コンテンツでは、“スリーピース”というプロ集団によるメイク手法をわかりやすく解説するというものだが、蓮実氏は「同じ美容でもモバイルとマスメディアはこうも違うのか、と強く実感した」という。

 テレビ向けであれば、個性的なアーティストを探し出し、容姿がさえない人に対して化粧を行い、ものすごく美しくなる、という流れにするという。しかし同コンテンツでは、「まっとうな方が、よくあるタイプの顔に、誰でもできるメイクを紹介する。テレビプロデューサーならこの内容は怒る」(蓮実氏)というもので、万人受けを目指すテレビ業界と、個々人のツールとなっている携帯電話向けでは作り手の意識改革が必要と指摘した。

 また、同氏は、テレビと携帯電話、映画という3つの存在を対比させて例える。

映画、テレビ、ケータイを対比して説明コスメを題材にした「選べるかんたん動画」コンテンツは、携帯とテレビの違いを鮮明にした

 かつて娯楽の王様とされた映画は、テレビの登場・普及によって一時、斜陽産業に転落した。「当時、映画の人たちは、テレビを指して画面が小さく誰もいない。何を見るんだと揶揄した。しかし、テレビは映画にできないニュースや連続ドラマ、スポーツ中継をやって、価値を上げていった。映画は一時低迷したが、その後人気を取り戻した」(蓮実氏)。

 同じことが携帯電話とテレビの関係にも言えるとして、ソフトバンクモバイルへの転職前、テレビ局時代の蓮実氏は「あんな小さな画面で誰が見るか」と思っていたという。しかし今や、携帯電話では十分映像コンテンツを楽しめるとして、他社がプッシュするサービスである「BeeTVにもお世話になっている」と述べ、会場を沸かした。

 今は、携帯電話がテレビに憧れている時代、と表現した蓮実氏は、ドラマやニュースに注力している携帯向け動画も「コミュニケーション」「発信できるツール」など携帯電話だからこそと言える要素を活かす時代が来ると予言し、動画と携帯電話の特性をいかに組み合わせて答えを見つけるかが、大きなポイントになるとした。

 



(関口 聖)

2009/11/25/ 18:10