【Mobile Asia Expo】
ZTE、上海で技術力と研究開発能力をアピール
Mobile Asia Expoの会期中、ZTEは上海において、日本のメディア向けにプレスツアーを催行した。ツアーではZTEの各部門の担当者へのグループインタビューが行われたほか、Mobile Asia Expoの同社ブースやZTEの上海の事業所(R&Dセンター)の紹介も行われ、それらも合わせてレポートする。
ZTEは、ファーウェイと並ぶ中国の携帯電話機器ベンダーだ。コンシューマー向け製品では、安価なスマートフォンやモバイルWi-Fiルーターで知られているが、実際にはファーウェイ同様、基地局やコアネットワークなどの製品に強い企業である。しかし昨年からはスマートフォンに力を入れ始めており、携帯電話の世界シェアは急激に伸ばし、4位にまで上昇している。
安価な端末を多く供給しているが、しかし基地局やネットワーク機器も手がけているだけに、LTEなど最新技術へのサポートは早い。通信事業者にしてみると、新しいネットワークを導入したとき、その新しいネットワークに対応した端末も必要になる。ネットワーク側と一緒に端末側も供給することは、ZTEのビジネス全体にとっても重要だ。例えばソフトバンクが提供する、AXGPと3Gに両対応したモバイルWi-Fiルーター「102Z」などはその典型的な例といえるだろう。
はっきり言ってしまえば、ZTEはまだコンシューマーに認知度が高い企業ではないが、LTEの拡大に従って大きな成長が見込まれる、注目すべき企業のひとつだ。
■「来年はTD-LTEが拡大する」と語るZTEのShi氏
基調講演のパネルディスカッション中のZTEのShi氏(右)と、インドの事業者Bharti AirtelのSingh氏(中)、チャイナモバイルのXi氏(左) |
まずはインタビューの前に、「Mobile Asia Expo」の基調講演セッションで、ZTEのPresident、Shi irong氏が同社の次世代の戦略を語った。
Shi氏は講演の中で、「モバイルの新時代にはTD-LTEが4Gのメインストリームになる」との考えを明らかにする。その理由として、周波数利用効率や導入コストがFDD-LTEよりも優れていること、そして日本や中国、インド、アメリカなど、人口が大きな国のキャリアが次々とTD-LTEを採用していることなどを挙げる。とくに人口が多い国では、周波数資源は貴重になるので、周波数利用効率が高いTD-LTEは有利となり、そうした国でTD-LTEが採用されることによりスケールメリットが生まれ、サプライチェーンが整うことも期待できるという。こうした動きからShi氏は、TD-LTEは商業的に多数派となり、来年にはもっと広まると述べた。
TD-LTEは人口が多く大きなマーケットのある地域で採用が進む |
同社がTD-LTEネットワークの製品を提供している事業者としては、現在トライアルを実施中の中国のチャイナモバイル、日本のソフトバンク、TDDとFDD両方のLTEを導入しているスウェーデンのHi3G、GSMとTD-LTEを組み合わせたネットワークを構築しているインドのAirtelなどの例を紹介し、TD-LTEが広まりつつあることをアピールした。
同じ基調講演のセッションでは、チャイナモバイルのChairma、Xi Guohua氏も、同社がTD-LTEに力を入れていることをアピールしていた。
■大幅に強化されるZTEのスマートフォン戦略
ZTEのLv氏 |
続いて、プレスツアーにて、ZTEのハンドセット(携帯電話の端末側)の戦略を担当するLv Qianhao氏に同社の端末戦略について話を聞いた。
まずLv氏は「2011年はZTEがスマートフォンにシフトする重要な一年だった」と説明する。ZTEは元々、基地局やコアネットワークを中心にビジネスを行ってきたが、2011年にZTEが全世界で出荷したスマートフォンの台数は1500万台となり、累計で400のオペレーターに端末を提供するようになった。さらに日本や米国など、参入しにくい市場にも参入するようになり、日本では防水端末(ソフトバンクのSTAR7 009Z)も発売した。そして中国国内では昨年、トップの端末ベンダーになったという。
直近では、今年の第1四半期において、1980万台のスマートフォンを販売し、マーケットシェアは4.8%でトップ4入りをしているという。1000元(約1万2000円)スマートフォンとして中国国内でも人気の「Blade」(日本ではソフトバンクの003Z)については、すでに1000万台を販売し、中国本土のメーカーとしては初めて、単一機種で1000万台を突破した機種になった。「Skate」についても好調で、Lv氏は「このBladeとSkateの成功があったおかげで、ZTEがグローバル市場においても250ドルクラスの端末である程度のシェアがとれるようになった」と分析した。さらに、「ハイスペックなGrandを発表したが、ZTEが安価なメインストリーム端末からハイエンド端末へと進化していくことが重要だ」と語った。
ZTEの端末販売の成長 |
こうしたことを背景に、ZTEでは2015年には1億台以上の端末を販売し、世界でトップ3のベンダーに入ることを目標としているという。
2012年についてLv氏は、さらにスマートフォンに力を入れる年になるとも語る。その今年のZTEの展開としては、4つのポイントを挙げる。
1つめは「スケールとプロフィット(利益)のバランスを取ること」。ZTEはこれまで、どちらかというと安価な端末を数多く販売してきたが、これからは利益とバランスを取ることを目指す。
2つめは「ユーザーエクスペリエンスの向上」。開発能力を高めるとともに、ハイエンド端末にも力を入れ、サービスなどにも力を入れる。ここで言うサービスは、エンドユーザーが直接利用するクラウドなどのサービスだけではなく、購入前のマーケティングや購入時のサポート、パッケージを開けるときの体験なども含んでいる。
3つめは「オペレーターとオープンマーケットのバランスを取ること」。ZTEはこれまで、主にオペレーター経由で端末を販売してきたが、今年はオープンマーケットでも展開をするべく、たとえば中国においてはSuning(日本のラオックスを買収したことでも知られる)やJingDongと、アメリカではeBayと提携しているという。
4つめは「ブランド力の強化」。ZTEのスマートフォンブランド力を高め、マーケットシェア向上につなげる。
これらのZTEの展開方針は、日本市場も無関係ではない。例えば、すでに日本において緊急地震速報や防水仕様への対応など、ユーザーニーズに従った製品を投入し、ユーザーエクスペリエンスの向上に努めている。さらに今後は、キャリアとの協力体制に加え、独自に販売チャネルを持つ企業と提携し、ユーザーとの接点を設けることで、ユーザーからのフィードバックを得やすくしたり、ブランディングを高めたりして、ユーザーエクスペリエンスの向上を目指すという。
またLv氏は、日本市場が「戦略的な市場」であるとも語る。日本の携帯電話市場は、グローバルから見てハイエンドモデルが多く、ユーザーの要求も高く、競争も激しい。この日本市場で、ローカルの要求にフォーカスした端末を提供することが、グローバルのマーケティング戦略的にも大事だと考えているという。
■TD-LTEとLTE FDDの両方でスケールメリットを生かす戦略
ZTEのWang氏 |
続いてはZTEで無線製品のプランニングを担当しているVice PresidentのScott Wang Shouchen氏にも話を聞いた。Wang氏が担当するのは移動機(端末)ではなく基地局側の製品だ。コンシューマには直接関係のない製品だが、ZTEにとっては、スマートフォンにシフトしつつある現段階でも、ビジネスの主力といって良い分野である。
特に現在、急増するトラフィックに対処するため、日本を含む各国のキャリアはLTE(4G)の導入を急いでいる。基地局・ネットワーク側のビジネスにとっては、非常に重要な時期にさしかかっているわけだ。このような中、ZTEでは、ソフトウェア無線技術を使ったシステム「UNI RAN」などを武器に、多くの通信事業者にソリューションを供給している。
LTEにはFDD技術を使ったもの(FDD-LTE)とTDD技術を使ったTD-LTEの2種類の方式がある。FDD-LTEは、NTTドコモがXiで採用しているなど、すでに商用サービスに導入しているキャリアが多く、TD-LTEに比べて先行して展開している。一方でTD-LTEは、中国のチャイナモバイルが主導して開発を進めてきたもので、これからLTEサービスを展開する事業者にはTD-LTEを採用するところも多く、日本ではソフトバンク(正確にはソフトバンク傘下のWireless City Planning)のAXGPがTD-LTE互換とされる。
各ソリューションで、ニーズに応じた幅広いカスタマイズの選択肢を用意する |
ZTEのソフトウェア無線技術を使ったUNI RANは、この両方の方式のLTEに、ほぼ同じハードウェアで対応できるという。すでに納入実績もあり、たとえばスウェーデンのHi3Gが提供しているLTE FDDとTD-LTEのデュアルモードサービスでは、ZTEのソリューションが活用されている。このUNI RANは、LTEだけでなく3Gや2Gとの組み合わせも可能で、インドのAirtelでは2GとLTEを組み合わせたネットワークが構築されている。
こうした基地局・ネットワーク設備のビジネスにとって、日本は大きな市場となっている。Wang氏による、LTEへの投資額で比較すると、欧州全体よりも日本の方が多い状況だという。とくにソフトバンクについてWang氏は、「世界的にもスケール力があり、ZTEにとっては重要なマーケットのひとつ」と説明する。スマートフォンなどの端末側においても、日本はZTEにとっての戦略的なマーケットとなっており、「FDD-LTEの端末は北米からリリースするが、TD-LTEの端末は日本で最初に発表したい」とも語る。
FDD-LTEとTD-LTEの両方の基地局システムを手がけるZTEだが、TD-LTEにおいてはナンバーワンのマーケットシェアになるなど、現在の売上はTD-LTEの方が良いという。現在のところ、世界的に見てもFDD-LTEが先行して商用サービスが提供されているが、Wang氏によると、今後はTD-LTEへの投資の方が多くなる見込みとのことだ。
社長が基調講演で「TD-LTEが主流になる」とも語っているが、Wang氏は、TD-LTEへの投資が増えると見込みつつも、「TD-LTEとFDD-LTEは必ず両方が残ると考えている」とも語る。そして両方に同じ機器で対応できるソリューションを持つZTEにとって、どちらが主流になっても、ビジネス上のメリットは大きい。片方のスケールメリットを両方式の製品で得られることになるからだ。
ちなみに基地局側の製品だけでなく、ZTEのFDD-LTE端末も両対応のチップを使って開発されており、「FDD-LTEの数が増えれば、TD-LTEの端末も安く作れる」という。もちろん、すべてが両対応の端末になるわけではなく、両対応のチップを使いつつも、それぞれの市場で必要な方式を実装して発売される形式となる。そしてFDD-LTEとTD-LTEの両方が求められている市場では両対応の端末が発売されるわけで、例えば両方のサービスが提供されているスウェーデンのHi3Gでは、両対応のモバイルWi-Fiルータ製品が提供されている。このような市場の環境に合わせ、柔軟に対応できることも、ZTEの戦略というわけだ。
■「親」「新」「簡」「思」のコンセプトでデザインされる端末
ZTEのGao氏(右)とChen氏(左) |
最後に、端末のデザインを担当するIndustrial Design Department(工業デザイン部門)デザインディレクターのPeter Gao氏とChen Zhi Yuan氏に、ZTEの端末デザインについても話を伺った。
まずGao氏は、ZTEの製品デザイン哲学には、4つの文字によるキーコンセプトがあると説明する。日本の漢字で表わすところの、「親」「新」「簡」「思」の4文字だ。去年から採用されたキーコンセプトだという。
「親」はフレンドリーさや人に優しい製品であること、「新」はイノベーションや先進性を、「簡」はシンプルで簡単であることを、「思」は社会貢献やエコなどを意味している。
4つの文字のコンセプト |
たとえばZTEではボタンが大きく、非常にシンプルなフィーチャーフォンを数年前からグローバルで発売している。この端末は価格が安いことはもちろんだが、使いやすさも考えられている。これは「親」や「簡」などのコンセプトの表われたものというわけだ。
実際に販売していないコンセプトデザインも多数発表しており、国際的なデザイン系アワードで受賞歴もある。すでに発売中の端末でも受賞実績があり、たとえばソフトバンクの「みまもりケータイ 005Z」は、ドイツのreddotを受賞している。
シンプルなデザインのZTE-G S202 | 海外版みまもりケータイとも言えるZTE S210 |
一方、「親」「新」「簡」「思」以外にも、ZTEにとってはもっと重要かつ基本となる社是がある。それは、市場や納入先のニーズに合わせて製品を柔軟にカスタマイズすることだ。ZTEブランドで流通する端末もあるが、納入先となる事業者に合わせ、デザインもカスタマイズして製品を作ることもある。日本も事業者(キャリア)に端末を納入する形なので、事業者のニーズに合わせて端末の仕様・デザインをカスタマイズしている。
最新のチップセットの技術に対応した3D UI。ニーズに応じたカスタマイズをするために、こうした技術開発を続けている |
また、ユーザーインターフェイスについても、ZTEは市場や納入先ごとにカスタマイズしている。独自の「My favor」というUIプラットフォームは持っているが、これをベースに、カスタマイズを施しているという。
カスタマイズの例としては、ソフトバンクの「STAR7 009Z」がわかりやすい。同端末は防水仕様になっているだけでなく、カラーバリエーションも7色が用意され、さらにUIもフィーチャーフォン風の3×4ランチャー画面を搭載するなど、日本向けに大きくカスタマイズされている。
■最新端末「Grand」も展示するMobile Asia ExpoのZTEブース
ZTEブース |
Mobile Asia Expoの展示会場にもZTEはブースを出展している。といっても、端末の展示は少なく、最新のスマートフォンもひっそりと数台並べられている程度だった。やはりMobile Asia Expoは業界関係者向けの展示会で、ZTEにとっては事業者に対して、ソリューションと端末を売り込む機会、という側面が強いからだろう。
とはいっても、ZTEにとっては自社の技術力をアピールする機会なので、最新のLTEに対応した端末などはしっかりと展示されていた。
最新端末のZTE Grand X LTE。UIは現段階ではカスタマイズ前の標準仕様 |
とくにZTE Grand X LTE(T82)は、Mobile Asia Expoの会期前日(6月19日)にシンガポールで開催中のイベント、「CommunicAsia 2012」にて発表されたばかりの、最新のLTE対応スマートフォンだ。560×960ドットの4.3インチディスプレイやデュアルコアチップセット(Snapdragon S4)を搭載している。第3四半期に欧米やアジアで発売される予定。ちなみにGrandは単一機種の名称ではなく、同社のハイエンドスマートフォンのシリーズ名称で、すでに中国本土ではGrandシリーズの端末が発売されているという。
Grand X LTEの側面 | Grand X LTEのスペック |
最新機種としては、タブレット端末の「V96A」も展示されている。こちらも第3四半期に欧米やアジアで発売される予定。このほかにも固定環境向けのLTE端末「MF28D」やLTE対応のモバイルWi-Fiルータ「MF91」など、LTE対応端末が多数展示されていた。
このほかにもブースでは、既存のスマートフォン・フィーチャーフォンや、同社の各種ソリューションも展示されていた。
タブレット端末のV96A | V96Aのスペック |
固定環境向けのMF28D | MD28Dのスペック |
モバイルルーターのMF91 | MF91のスペック |
基地局側のソリューションの展示 | ZTEのフィーチャーフォンは安価で事業者にとっても導入しやすい |
■大規模なR&Dセンターを各地に多数持ち、研究開発に力を入れる
ZTEの上海R&Dセンターの一角。敷地内には建物が多数建っている |
プレスツアーでは、上海にあるZTEのR&Dセンターも紹介された。上海のR&Dセンターは、携帯電話関連の端末や無線技術、固定ネットワーク関連製品について開発が行われている。
上海のR&Dセンターには約6000人のスタッフが働いている。場所は、上海の中心部からは10kmほどの場所の、さまざまな企業の工場や事業所、あとは学校などがある、少し郊外寄りの地域だ。
敷地内には新人社員向けの社員寮も用意されているが、そこを使えるのは入社1年目までで、それ以降は「給料も出ているし、近くに住居を確保してね」という考えだという。周囲には多数の大型アパートが建っているが、そういったアパートから通勤する社員のために、通勤用のバスも運行されており、見学中た昼の時間帯は、待機中とおぼしき多数のバスが敷地内に駐車していた。さすがに発展めざましく、土地不足になりつつある上海だけあって、広大な土地を使っている、という感じではないが、敷地内には大きな池があるなど、余裕のある作りになっていた。
ZTEの本部となる事業所があるのは、中国南部、香港に隣接する深セン(Shenzhen)だ。深センにはZTEの工場や顧客にネットワーク設備の運用方法などを教えるための「ZTE University」という教育施設もある。ちなみにライバル企業であるHuawei(ファーウェイ)も、本拠地は深センだ。
しかし、ZTEのR&Dセンターは、上海も深センも同社として最大規模ではない。現在最大のR&Dセンターは南京(Nanjing)にあり、そちらでは主にコアネットワークの研究開発が行われ、1万2000人のスタッフが働いている。
また、さらに巨大なR&Dセンターが西安(Xi'an)に建設中で、3~4年後にはそちらがZTE最大規模になる見込みだという。このほかにも全世界で合計18カ所ものR&Dセンターがあり、まだまだ増設中だという。
ZTEでは利益の10%を研究開発に投資しており、2011年の投資額は約13億ドルになるという。研究開発スタッフ数は合計で2万7600人となり、こちらも中国本土では最大規模となる。特許取得や標準化にも積極的に取り組んでおり、2011年の特許取得数は全世界でトップになったという。
中国企業というと、「人海戦術」「安かろう悪かろう」というイメージを抱く人も少なくないと思うが、ZTEのような先端企業を実際に見てみると「人海戦術」は確かにその通りなのだが、その豊富な人材を研究開発にあて、新技術へ積極的に取り組んでいることが、成長の要因のひとつであることがわかる。これからZTEがLTEなど携帯電話分野でどれだけ大きな役割を担うか、今後も注目していきたい。
(白根 雅彦)
2012/6/22 19:46