【2015 International CES】

ソニー 平井一夫 CEOグループインタビュー

 ソニーは、米国・ラスベガスで開催されている「2015 International CES」に出展し、5日(現地時間)のプレスカンファレンスでいくつかの新製品を発表した。翌6日、日本のプレス関係者を対象に、代表執行役社長兼CEOの平井一夫氏がラウンドテーブル形式のインタビューに対応した。

ソニー 代表執行役社長兼CEOの平井一夫氏

 冒頭に、今回の発表内容について、簡単な説明が行なわれ、その後、Q&A形式でラウンドテーブルが進められた。

 ただし、昨年11月にソニーが、子会社のSony Pictures Entertainmentの映画「The interview」に対する抗議と推察されるサイバー攻撃を受けたこともあり、一部の一般メディアがその話題ばかりに固執した質問をくり返したため、新製品関連の話題には十分な時間が割かれず、スマートフォンについてもごくわずかに言及するのみに留まった。ここでは、スマートフォンに関連する話題などを中心に、ラウンドテーブルの内容をお伝えしたい。

生活空間をユーザー体験の場として活用

平井氏
 昨日のプレスカンファレンスでは、ソニーが独自に開発したプロセッサ「X1」を搭載した4K液晶テレビ「BRAVIA」シリーズ、ソニーとして力を入れているハイレゾオーディオの新製品ラインアップなど、ソニーのコンシューマー向け商品におけるイノベーションを着実に示す発表、紹介させていただきました。

 また、昨年のInternational CESの基調講演で発表した生活の空間をひとつのユーザー体験の場として活用しようという「Life Space UX」も引き続き注力しており、今年のCESでは光と音で部屋を満たす「Symphonic Light Speaker」など、新しいLife Space UX関連の商品を展示しています。なかでも4K対応超単焦点プロジェクターは昨年9月から米国で発売しており、日本向けにも今年度中に発売を開始する予定です。

 私が就任以来、申し上げているように、お客様の好奇心を刺激して、お客様の感動をもたらす会社でありたい、またそれをバックアップするような商品やサービス、コンテンツをお届けする会社でありたいという強い思いが入った商品を今回も発表することができました。

――Life Space UXについては今後、どのような展開を考えているのでしょうか。

平井氏
 先ほどもお話ししたように、昨年は4K対応の超単焦点プロジェクターを発売しました。じゃあ、次はどうするのかという話になりますが、限られた人数でやっていることもあり、なかなか一度に商品を展開するのは難しい状況にあります。そんな中、今回もいつかの商品を展示しているわけですが、個人的に気に入っているのは天井に映像を投影する「シーリングプロジェクター」ですね。昨日、ブースを視察した際、展示スペースのベッドに横になり、見てみたのですが、思ったよりイケるという実感で、これは寝る前に映画を見るなど、新しい提案ができたのではないかと思っています。

 また、オーディオに関してはソニーはさまざまな商品を出していますが、オーディオに対するこだわりはソニーの原点ですから、新しいハイレゾオーディオの世界は、ソフトもそうですけれど、ハードウェアでもドライブしていかなければならないという個人的な強い思いがあります。これまでハイレゾ対応の商品はハイエンドから展開してきましたが、お客様のハイレゾに対する反応も非常に良く、音がいいことはちゃんと評価されるんだということを実感しました。

 ウォークマンの新しいAシリーズでは、お手頃な価格で、外部のメモリーも入れられるようにして、若い世代の人たちにもハイレゾオーディオが受け入れられるようになってきました。これをサポートする意味で、DAC内蔵型ヘッドホンの「MDR-1ADAC」やスピーカーなど、周辺製品を揃えて、いろいろな場面でハイレゾオーディオを楽しんでもらえるように商品展開を積極的にやっていこうということで、今回も商品を発表しました。


5日のプレスカンファレンスで「Life Space UX」を紹介する平井氏
光と音で部屋を満たす「Symphonic Light Speaker」

Xperiaについて

――昨年、ソニーモバイルの社長が変わり、Xperiaの戦略を担当していた黒住吉郎氏も退職し、メディアからすると、Xperiaらしさはどうなっていくんだろうという不安があります。今後、Xperiaらしさは変わっていくのか、従来の路線を維持するのかをお聞かせください。また、国内では格安スマホがブームになっていますが、XperiaブランドでSIMフリー版を(国内で)出す気があるのか、あるいはスマートフォン参入を発表したVAIOにお任せするのでしょうか。

平井氏
 まず、VAIOは別会社ですので、お任せするもしないもVAIO株式会社さんが経営判断をなさると考えております。

 Xperiaらしさについては、どこにXperiaらしさを求めるのかによって変わってきますが、私なりに言えば、いろいろな要素がある中で、ソニーが持っているさまざまな資産をいい形で融合させていって、素晴らしいデザインとUXをお客様に届けるというのがXperiaらしさだと定義しています。

 これは、ソニーがエレクトロニクスビジネスを続けている限りは、いろんな技術革新が出てきますので、それをスマートフォン、もしくはXperiaに余すところなく、注入していくというのは続けていかなければいけませんし、それがXperiaらしさのひとつの部分じゃないかなと考えております。こうした部分の考え方は、マネジメントが変わりましたけど、根本にある「ソニーのスマートフォンとは?」という部分になるので、そう変わるものではないと思います。「マネージメントが変わったから、この技術アセットは使わずに、他の道に行こうよ」といったことはあまりないと思います。

 また、今回の展示でもスマートフォンを組み合わせて楽しんでいただけるいろいろなウェアラブルを出品していますが、そこで描かれる世界観や拡がりというのもXperiaらしさというか、ソニーのポータブルの世界らしさを演出していく方向性のひとつじゃないかなと考えています。

――今回のInternational CESのプレスカンファレンスのプレゼンテーションですが、例年だと、必ず何かしらの形でXperiaがあったわけですが、今回は言及がありませんでした。その意味合いを教えてください。また、ウェアラブルやIoTが今回のメインになってきてますが、そのあたりのお考えをお聞かせください。

平井氏
 Xperiaが今回のプレスカンファレンスであまりフィーチャーされなかったのは、ひとつはXperia Z3がVerizon向けに投入されたばかりで、そこで新しい商品を発表というのもなかなか難しいという事情がありました。また、モバイルというところで言えば、Xperiaの一部として、これからウェアラブルのラインアップの厚みをどう深めていくかがポイントになってきます。さらに、今回はテレビでAndroid TVを採用したモデルを発表しましたが、そことの親和性という部分を強調した形になりました。意図的になくしたり、触れなかったわけではありませんし、マネージメントが変わったから、話す量が減ったというようなことでもありません。

――これまではInternational CES、Mobile World Congress、IFAで発表してきたわけですが、ラインアップの見直しなどもあり、フラッグシップ的なものは出す必要がないと言う判断をされたのでしょうか。

平井氏
 社内ではフラッグシップの在り方はいつも議論をしています。フラッグシップというのは、フラッグシップたる機能が搭載されていることが大前提になってきます。それがタイミング良く実現できれば、年に数回の発表はあるでしょうし、もし、待った方が携帯電話事業者さんやお客様から喜ばれるのであれば、それは商品サイクルを遅らせるといったことも考えていいんじゃないかなと思っています。結構、柔軟に考えています。必ず年2回やらなければならないとか、年1回にするとか、そういった考えがあるわけではありません。各携帯電話事業者さんとの相談の中で、どういう機能が評価していただけるかという部分だと思います。

自動車産業への参入、社内の新規ビジネス支援体制について

――昨年、ソニーのイメージング技術をさまざまな分野に応用していくという話があり、今回はそのひとつとして、車載用センサーの話がありました。確か、レーダーがなくても暗所で見えるという話だったと思いますが、今回の話は具体的に進んでいるものなのか、あるいは技術デモのような形のものなのでしょうか。

平井氏
 自動車に関しては、すでにリアビューカメラなどで、いろんなメーカーさんにデバイスを納入しています。プレスカンファレンスでお見せしたのは、ADAS(Advanced Driver Assistance System)などを視野に入れ、自動車産業に入っていく方向性を示したものです。実際にどこという話はできませんが、すでにいろいろなメーカーと話していて、ファーストティア(自動車メーカーのパートナー企業)と呼ばれる関連メーカーさんともお話をしています。

 イメージセンサーについてはいろいろな技術がありますが、クルマに採用するということになると、そこにはいろいろな条件があります。同じイメージセンサーでもデジタルカメラに使うものとは、求められる要件が違ってきます。そういった部分も含め、自動車業界のメーカーと議論しながら参入していくという形になります。また、こういったデバイスでも自動車メーカーとのビジネスについては、一般的に今日、話を始めても最短でも3年後、4年後の採用というタイミングです。ただ、採用されれば、数が出るわけですから、時間をかけて、じっくりと取り組んでいきたいと考えています。


自動車関連の取り組み

――自動車業界との長いスパンのビジネスに対し、短いスパンで製品化し、世に問うような形のビジネスもあると思います。昨年、スマートロック「Qrio」もいち早く商品化されました。こういった製品化のスピード感はどうなっているのでしょうか。

平井氏
 社内には新しいビジネスを作っていくための「シード・アクセラレーション・プログラム」(SAP)があり、その第一弾として、ソニー不動産をスタートさせ、ソニーらしさを発揮できるような取り組みをしています。

 Qrioについては、ビジネスと商品のコンセプトを最初に見たのが去年の夏前くらいかな。それこそ、「こんなに早く回せるのか」というくらいの短期間で商品のプロトタイプを作り、実際に会社を立ち上げて、ビジネスモデルも作ったわけです。実際には約7カ月なので、最近の規模のソニーで言えば、非常に早くできたという印象です。シリコンバレーのベンチャー企業から見れば、「7カ月?」と思われてしまうかもしれませんが、ソニーの規模感の中ではかなり早いと思います。もちろん、これからもスピードアップしていかないとダメですけど、スピード感は出てきたなとみています。

 それからLifespace UXやスマートロックがすぐに収益に貢献できるのかという点ですが、すぐに貢献できるものではないでしょうけど、これまでソニーはそういうことをやらなさすぎたんですね。安全なことしかやらないという姿勢を続けていると、どうしても企業は伸びなくなってしまいます。次の卵を作る、種を作るということは非常に大事だと考えています。そのためには、エンジニアやデザイナーが持っている夢や「こういうものは面白いよね」という思いをどうやってシステムとして吸い上げて、それを外部の知見も入れて、ビジネスにしていくか、もしくは商品にして、CESなどに出品して、評価を受けていくというものも大事だと思います。そういったものの中からソニーの次の軸になる商品、もしくは商品カテゴリーができてくるんじゃないかなって思っています。

 昨年のInternational CESに展示した卓上で投影できるプロジェクターも社内の技術交歓会で見て、「これ面白いから、CESに持っていく」と伝え、開発者は目が点になりながらも年末年始に開発を進め、信頼性を高めたものをInternational CESに出品したんです。あとでエンジニアたちの話を聞いたところ、かつてはそういった技術交歓会で見せても「いいね」と言われるだけだったそうです。ところが、最近は技術交歓会に出して、いいものはすぐに平井から「CESに持っていけ」という指示が飛んでくるので、いい意味での緊張感が出て、サイクルが回り出したようです。

――そういう意味ではエンジニアやデザイナーの方々も含め、社内の意識改革は進んできたということでしょうか。

平井氏
 特に、先ほどお話ししたSAPに関して言えば、ソニー不動産やQrio、それから今回も出品している「MESH」(2014年5月に発表した現代版電子ブロック。ソニーモバイルが開発)などが表に出てきて、どんどん外へ出て行って、CESのような場所で展示され、モノによってはプレスリリースまで出し、会社まで作ってしまう。こうした流れの効果が段々、見えてきました。今までは新規事業のプロジェクトを始めるというと、「また半年で終わっちゃうんだろうな」的な雰囲気がありましたが、私自身が言い出すと引かない頑固な人間なので、新規事業を創出するという方針を打ち出したら、いかにそれをフォローして、外に出すところまで持っていくかが大切です。みなさんにご評価いただくことも大事ですが、社員にも「あ、これって、マネジメントを真剣にやっているんですね」と思われるような姿勢を見せることも大事です。今、SAPは第2回が開催されていて、応募数もスゴいですし、レベルも高くなってきました。いい意味でスパイラルが回ってきた感じですけど、やはり、実績を出さないと、社員も最初は半信半疑だったというもあると思います。

――大手の企業が新しいものを打ち出して、事業を成長させていくことはスピード感も含め、難しいと言われることが多いですが、今のお話を聞くと、そうでもなくなってきたということでしょうか。

平井氏
 特にソニーがそうだったのかもしれないですけど、これまではすべて社内でやるという形で成功を収めてきました。技術からプロトタイピングからマーケティングまで、すべてを社内でやってきました。ただ、今の時代は外部の知見やソニーが持っていないようなナレッジをうまく活用していくが重要になってきていると考えています。

 SAPについてもアイデア出しから始まり、いろんなステージがあるんですが、各ステージをクリアするときに社内の事業本部長とか、平井のような者が「あーだこーだ」と言っても若い人たちにしてみれば、「どういうことをやろうとしているのかがわからないオジサンたちに評価してもらいたくないよね」という意識があるわけじゃないですか。ですから、社内の知見も大切ですが、シリコンバレーで長く仕事をしてきた人など、いろんな外部の知見を「評価委員」のような形で入ってもらって、外部の視点から「これはいい」「これを考えなかったら、この商品はうまくいかない」といったことをどんどん指摘してもらいます。その結果、物事が早く回るようになります。たとえば、「次のプロトタイプは3年後に作ります」と言うと、「何考えてるんだ。3日後だろ」って言い返され、スピード感が出てくるわけです。いい意味での外部からの知見や空気を取り入れ、ソニーが持つ技術的な資産や社員が持つアイデアなどを組み合わせることで、新しい事業やビジネス、商品を早く展開できるようになってきたのだろうとみています。

 あとはビジネスの形態によっては、ソニー不動産やQrioのように、会社を別に作り、そこに経営のリソースも渡し、小さい会社で独自の判断をしながら、どんどん回してもらっていいと思っています。それがスピード感につながるでしょうし、場合によっては外部の資本を入れたり、会社を買収することで、ビジネスを展開するケースもあると思います。

――現状ではSAPはどのように動いているのでしょうか。目標などはあるのでしょうか。

平井氏
 SAPは6つくらいのプロジェクトが動いていて、時期が来れば、新会社設立なのか、商品発表なのかはわからないですけど、発表していくつもりです。1年にひとつではなく、同時進行で年の6個くらいのプロジェクトが動いています。元々は300くらいの案から始まり、いくつかの段階を経ているので、言わば、「狭き門」です。ただ、いいと思うのは、第1回で外部からも「これはちょっと違うよね」といった指摘を受けてダメになったアイデアでも、それを考えていた人たちが第2回のときもまた全然違うアイデアを持ってきたりして、とてもパワーを感じています。ソニーって、そういう燃える人がいるんだなっていうのを再認識しましたね。

――先日のプレスカンファレンスで、パナソニックが4Kブルーレイを発表しました。光ディスクに限らず、メモリメディアやテープメディアなど、入れ物という意味でのメディアは、今後、5年から10年というスパンで、どういう流れになっていきそうでしょうか。

平井氏
 実際に4Kのブルーレイソフトを出すかどうかというのは別の議論になりますが、私自身は、市場として、決して大きくなっていくものではないと思います。プリレコーデッドとでもいいましょうか、ダウンロードなどの手段を使わずに、いわゆる(物理的な)メディアを介してコンテンツを楽しむというスタイルは、市場によって、かなり長く続くんじゃないかと見ています。

 たとえば、国内では音楽CDの販売が押され気味で、減少傾向にあると言われている中で、昨年とその前の年は山下達郎、サザンオールスターズ、松任谷由実のベスト版CDが発売されたら、CD全体の売り上げが増加したといいたことも起きています。お客さんがCDを購入して、所有したり、あるいはお店に行って、いろいろな商品をブラウジングするという行為は、これもひとつのエンターテインメントの一部だと考えています。これらがすべてダウンロードでいいんでしょということには、なかなかならないだろうと思います。アーティストの作品を所有する喜びもあり、ダウンロードではすべてを置き換えられないんじゃないかと考えています。音楽のダウンロードでもストリーミングでも利便性という意味では、格段に高いわけですけど、CDというのはまだまだ市場があり、もっと言ってしまえば、アナログレコードで復刻版が出てしまうくらいの市場があるわけです。

――今年度中に中期計画が発表されますが、次年度以降も平井さんが牽引される形を取られるのでしょうか。また、エレクトロニクス事業について、どのように再定義していくのかをお聞かせください。

平井氏
 今度の3月で、私が就任してから丸3年が経つわけですけど、就任したときに3年かけて、ターンアラウンド(経営や構造の改革)をやっていくんだと話をしました。できたところ、できていないところがありますが、いずれにしても会社をターンアラウンドして、成長や新たなフェーズに持っていくというところまで来たわけですから、これからが本当にソニーらしさ、もっともっとソニーらしいソニーになっていくステージに入ることになります。

 私自身は商品が大好きですし、チームといっしょにそこをもり立てていきたいと思っています。ターンアラウンドを完遂することは大事ですが、それがゴールではありませんし、お客様に感動していただける商品を出すことにもっと力を注ぎ、時間を割いていきたいですね。また、エレクトロニクス事業については、エンターテインメント、金融と並び、重要なビジネスの柱だと考えています。その中でも各分野によって、テレビやモバイルのように、規模を追わず、安全運転をしていくことが求められるビジネスもありますし、ゲームやネットワークサービスのように、これからも必要に応じて、どんどん投資をしていって、市場を採っていくビジネスもあります。いろんなビジネスの持って行き方、どういう風に当たるかというのは、各分野によって、変わっていきますが、総じて言えば、エレクトロニクスビジネスはこれからも重要なビジネスのひとつだと思っています。

法林岳之

1963年神奈川県出身。携帯電話をはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるWindows 8.1」「できるポケット docomo AQUOS PHONE ZETA SH-06E スマートに使いこなす基本&活用ワザ 150」「できるポケット+ GALAXY Note 3 SC-01F」「できるポケット docomo iPhone 5s/5c 基本&活用ワザ 完全ガイド」「できるポケット au iPhone 5s/5c 基本&活用ワザ 完全ガイド」「できるポケット+ G2 L-01F」(インプレスジャパン)など、著書も多数。ホームページはこちらImpress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。