本日の一品

真鍮製で「和」テイスト、鉛筆のようなボールペン

 決して人のことは言えないが、世の中には予想外に変なモノが好きな人が多いようで、それに応じて変なものを作ったり企画したりする人も多いようだ。筆記文具の世界だけを見ても、「普通」の文具はほぼ全ての人に行き渡ったからか、きわめて個性的な商品が世の中の注目を集めるようになってきた。

金色の雨が真鍮の路面にポタリと落ちた「アスファルトに雨」

 そんな現代は商品の企画や素材の選択に関しても手間のかかる一工夫や特別なウンチクが求められる時代のようだ。個性的であろうとすれば、商品には特別のストーリーが必要なのかもしれない。

“えんぴつのような”筆記具は今や流行なのかも
形だけを見ればオート社の鉛筆のような木軸ボールペンに近い

 今回ご紹介するのは、京都に活動拠点を置く金属加工工房の創作筆記具だ。素材は真鍮で、一見したところ“鉛筆のように見える”ボールペンという変態系の筆記具だ。工房では「山鳥」シリーズとして、軸の柄違いで数種類の商品を提供している。

 筆者の購入したモノは「山鳥」シリーズの中でも“アスファルトに雨”というなかなかロマンチックなニックネームが付けられている商品だ。

筆者は神保町の三省堂本店で手に入れたが、通販もあるようだ

 鉛筆のように見えるボールペンは、老舗のオート社が何十年も昔から販売している。一見すると同じように見えるが、「山鳥」シリーズは多少アプローチが異なる。真鍮から削りだされた軸の先を捻ると、鉛筆の芯のような先端部分が外れて、ボールペンの芯先が見えるという凝った構造を採用しているのだ。

ペン先をひねるとキャップが取れてボールペンが顔を出す

 高級なボールペンなので、当然のことだが、リフィル内部のインクを使い切るとリフィルの交換が必要となる。リフィルの交換は鉛筆軸の後ろ7mmほどをひねると後部のキャップが外れ、そこからリフィルのお尻をつまんで引き出すことが可能となっている。

 このエレガントな「アスファルトに雨」にはあまり似合いそうにないのだが、筆者は「自分使いのボールペンは全て青いボールド(太字)」を求めるわがままな性格ゆえ、今回の製品にも、無理やりパイロット社の“超極太”リフィルを押し込んでみた。幸い何とか無事に入ったようだ。

リフィル交換の際は、この後ろ側のキャップを回転して外す
青のボールド(太字)が好きな筆者は、買ったボールペンは全てリフィル交換している

 「アスファルトに雨」のすごさは、先端と後端のねじ込み式キャップの精度だろうと思う。商品名の通り、アスファルトの道路にポタポタと落ちた降り始めの雨の丸い跡の模様だが、それがねじ込みのパーツが2つに別れる部分にまたがって付けられている。購入後何度もネジを緩めたり締めたりしたが、幾分の誤差もなく、雨の跡はずっと綺麗に真ん丸だ。真鍮ネジの加工精度がしっかりしているからだろうか。

軸から芯まで綺麗に“鉛筆のように”作りこまれている

 真鍮の精度についての専門知識のない筆者には知る由もないが、机の上を転がしてみても、その工作精度にはきわめて心地よい。時間をかけて大事に使っていけば、いずれ真鍮の地金の色が部分的に表面に現れ、ビンテージのライカカメラのような雰囲気を醸しだしてくれるかもしれない。

 世の中がモノからコトにゆっくりと移りつつある現代、筆記具も長く大事に使って、自然なエイジド効果を楽しむ時代になってきているのかもしれない。

製品名販売元購入価格
真鍮えんぴつ山鳥3780円

ゼロ・ハリ