本日の一品

音色を楽しむ真空管搭載のポータブルヘッドホンアンプ

フロントパネルの赤とアルミ筐体の銀梨地が印象的なEK-JAPAN「TU-HP01」。真空管を使用したポータブルヘッドホンアンプとしては極めて薄く設計されている。天面にある6つの穴は真空管の放熱対策と言うよりもデザイン上のアクセントと思われる

 ポータブルオーディオプレーヤーにポータブルヘッドホンアンプを接続し音楽を楽しむという人達が増えている。筆者も幾つかのヘッドホンアンプを利用しているが、それらは概ね、ポータブルオーディオのドライブ能力不足を補い、インピーダンスの高いヘッドホンや、能率の低いヘッドホンをちゃんと鳴らすために使用する場合が多いと思う。

 今回ご紹介するEK-JAPANの「TU-HP01」は、真空管を使用したポータブルヘッドホンアンプで、オーディオプレーヤーのドライブ能力を補うと言うよりも、真空管独特の音色で、より音楽を楽しもうという趣旨の製品だ。

 真空管の音の善し悪しについては、さまざまな意見や見解はあるが、筆者の個人的感想として、「TU-HP01」を使用することで非常に心地よく音楽を楽しむことができるようになった。

 弦楽器、ピアノ、管楽器の響きがとても心地よく、特にギターの音はなんとも色っぽく感じられるようになった。また、女性ボーカルもほんの少しかすれる感じがする(標準搭載のオペアンプ「MUSES 8830」使用時)が、とても色っぽい、と感じた。

 「TU-HP01」は本当の意味での真空管アンプではなく、入力段のみに真空管を使用し、出力段(ヘッドホンを駆動する部分)にはICのオペアンプを使用している。そんなわけで、真空管ヘッドホンアンプというよりは、真空管のテイストを加味するエフェクターと考えた方がいいのかもしれない。

 真空管と聞くとスピード感の無い、まったりとした鳴り方を想像するかもしれないが、本機にそのような印象は無く、むしろビートの切れは良いように感じる。音色に関しては、出力段のオペアンプの特性が支配的なのかもしれない。

 真空管を使用していることもあり、本体サイズは少し大きめだ。しかし厚みは薄く仕上げられているため、鞄などに入れて持ち歩くのには全く問題のない大きさだ。操作部、入出力端子も全て前面に配置されており、音量調節も大型の回転式ボリュームが前面中央に配置されていて、適度な重さの操作感が良い。電源スイッチもボリュームに連動するタイプなので鞄に入れた状態での操作性は非常に良い。

 ケースには真空管の搭載位置に合わせて放熱用の穴が6個開けられているのだが、本機の真空管はほとんど発熱しないため、デザイン的アクセントの要素が強いと思われる。実際、数時間連続使用したあとでこの穴の近辺に触れても全く熱を感じることはなかった。

 真空管自体が極めて低消費電力であるが故に、「TU-HP01」は単四電池4本で約10時間の使用が可能だ(ニッケル水素充電池の使用も可能。真空管というと管内のヒーターがぼーっとオレンジ色に光る様を思い起こすが、本機の真空管(サブミニチュア管 JAN6418)はほとんど光も熱も発しない設計のようだ。調べてみると、この真空管のヒーター定格電流は10mAということなので、ヒーターが赤く光ることは無さそうだ。しかし、暗い場所で本機の電源を入れると、放熱穴の中にオレンジ色の灯りを確認できる。不思議に思い内部を確認すると、驚いたことにこの灯りは演出用のLEDの灯りであった。

全ての操作部及び入出力端子は前面に配置されていて、入力ゲインもHigh/Lowの2段階切り替えがある。大型のボリュームは操作しやすく、かつ適度に重い操作感なので鞄の中で勝手に回ってしまうこともない
背面には電池ケースが納められており、電池の交換時は背面パネルを外し電池ケースを引き出す。パネルを固定するネジは工具なしで開閉できる親切設計
前面のパワーインジケータはVACUUM TUBEという文字が緑色に光る。電池の電圧が規定以下になるとこの文字が赤色の点灯に変わる
TU-HP01の内部基板。右上に真空管が実装されている。中央部にソケットを利用してOPアンプが実装されている

 本機の出力段のオペアンプは、ユーザーの手で交換できるようになっていて、規格が合えば他のオペアンプに交換でき、音色を自分好みに調整することが可能だ。出荷状態では新日本無線(JRC)製の「MUSES 8820」というオーディオ用オペアンプが搭載されているが、製品にはもう一つ、バーブラウン製の「OPA 2604」も付属しており、好みで交換できる。

 EK-JAPANはエレキットという電子工作キットのメーカーとして有名で、この「TU-HP01」は完成品としての販売だが、このようにユーザーがある程度調整する余地を設定してくれている。手持ちの幾つかのオペアンプを試してみたところ、Linear Technology製の「LT1112」が筆者の好みと一番マッチした。

 「TU-HP01」はヘッドホンアンプとしては駆動力が弱く、対応するヘッドホンのインピーダンスは16~32Ωとなっており、大型のヘッドホンや一部のインピーダンスの高いイヤホンは上手く鳴らすことができないようだ。筆者の手持ちのヘッドホンでは、AKGの「K-701」やオーディオテクニカ「ATH-AD1000」、ETYMOTIC RESEARCHのイヤホンが、今ひとつな印象だった。出力特性やポータブルという特徴を考えて、筆者はAKGの「K-404」を使用している。

 「TU-HP01」は音色を自分の好みでカスタマイズして音楽を楽しめる、とても素敵なヘッドホンアンプだと思う。

真空管のアップ。外部からの振動により「キーン」という発振ノイズを発する真空管特有のマイクロフォニック現象を低減するため、真空管はフレキ基板を利用してフローティングマウントされている。光っているのは演出用のLED
TU-HP01はELEKITブランドのため、他の組み立てキットと同様の素っ気ない感じの箱で、本体の説明図とスペック表が印刷されている

田中 宏和