本日の一品

“お守りパワー”で蚊よけブレスレットを買ってしまった!

 今月(9月)は産卵前のラストスパートで、蚊が人の血を求めて最もしつこくなる時期である。屋外イベントや夕暮れの散歩で耳元をかすめるあの羽音に辟易し、筆者はTemuで腕時計型の電子蚊よけ「TS-25」を衝動買いした。

 見た目はスマートウォッチ然としているが、透明窓からのぞくのは液晶ではなく基板とLED。テクノロジーで蚊を退散させる夢を、腕に巻いて実地で試してみた次第である。

 まず仕様を整理しておく。背面刻印によれば内蔵バッテリーは90mAh、充電はUSB-C。充電中は赤、満充電で緑のLEDが点灯する。

 側面ボタンの押下回数でモードを切り替える仕立てで、取説上は、屋外モード:62kHz固定・屋内モード:34/50/154kHz可変・睡眠モード:18.8~70kHzでの自動スイープとある。

 ただし説明書には「34Hz」などHz/kHzの取り違えが散見され、パッケージの「18.8~154kHz」表記も含め、中華風の盛り気味のスペックと見るのが現実的である。

 構造は素直だ。本体前の四角いアクリル窓から見えるのは制御ICと表示LEDの載った基板。実際に音を出すのは基板背面に取り付けられた圧電スピーカー。腕に装着していると裏側の小さな音孔が塞がれるのでかなり小さな音になる。

 このサイズの小型ピエゾで高域まで十分な音圧を保つのは難しく、民生では20~40kHz近辺に山が立つ個体が多い。表示どおりの広帯域スイープを鵜呑みにするのは避けたい。

 ここで重要なのは、機能がウリの蚊対策デバイスなのに取説にこの製品の「目的」と「機能」の因果関係が明記されていない点だ。モードの切替方法や点灯表示は詳しい一方で、「どの周波数がどの蚊種にどう作用するのか」「屋外/屋内/睡眠という区分が何を意図するのか」は全く説明がない。

 よく見るとモード名は、蚊の生態に合わせた“撃退アルゴリズム”というより、装着者の使用シーン(屋外=最大出力、屋内=断続弱め、睡眠=高域スイープ&減光)を説明するラベルだ。実戦効果の差は乏しく、体感と電池のさじ加減と捉えるのが現実的である。

ミニ検証:スマホで“音の出方”だけを可視化してみた

 今回、音の測定アプリとしてAndroid版の「Spectroid」を使ってみた。設定はSample rate 48kHz、FFT 16384。

 ひとまず静かな室内でスマホ内蔵マイクと本機の背面音孔を約5cmの距離で向かい合わせ各モードを10秒程度録音してみた。スマホ内蔵マイクは概ね20kHz前後でロールオフするため、40kHz以上の超音波は測れない。ここでは“何かが鳴っているか”“可聴域近傍に漏れがあるか”だけを確認してみた。

屋外モード
12~14kHz帯に連続的なピークとスペクトログラム右端の持続的な帯が現れる。=出力・デューティとも強め。
屋内モード
同帯域のピークが間欠的に弱く現れる。スペクトログラムは点々とした筋になり、デューティを落としている様子。
睡眠モード
可変スイープのはずだが、スマホで可視になるのはたまに現れる細い筋程度。聴感・光量とも最も穏やか。

 この3枚から言えるのは、「周波数を“蚊向けにチューニング”した証拠」はどこにも見当たらず、強さ/間欠/スイープという“人間の快適さ&電池”寄りの差しか観測できない。

 なお、可聴域近傍(12~18kHz)に筋が出るのは高域の漏れか倍音/エイリアスの可能性が高い。超音波本体の有無はスマホでは判定できないが、少なくとも“人間にも少し聞こえる成分”は出ている。

 肝心の効き目はどうだろう。蚊が人に寄る主因は二酸化炭素・体温・皮膚の匂いとされる。古典的には「雄の羽音に似た周波数を嫌う」という仮説があるものの、超音波単独で有意差を一貫して示すデータは乏しい。よって本機は“お守り”の域を出ないと考えるのが妥当だろう。

 実戦では忌避剤(ディート/イカリジン等)、蚊取り線香(ピレスロイド系)、送風といった従来策との併用が現実的で安心そうだ。

 きっと蚊くんのイメージは、「クンクン、二酸化炭素の柱だ。そばに温かい皮膚の匂いもする。ピピピ、近くの腕から変な音が聞こえてちょっと耳障り。でも風は弱いし、匂いは濃い。獲物は近くにいるな」だろう。

 蚊にとっては匂いと体温が正義で、腕時計の音は気になるけれど決定打ではないというのが正直なところだろう。

 一方でガジェットとしての見どころは少しはある。USB-Cでどこでも充電でき、スケルトン風の見た目は“効いている感”を演出する。

 きっと蚊は気にも留めないがモードが「屋外/屋内/睡眠」と選択できるのも遊び心があってよい。ただし実用品としての満足度を求めるなら、同系の腕時計機能付きモデルの方が、最後に“時計として使える”という分だけ所有価値は高いだろう。

 昨今、都市部では「蚊が少ない」と感じる場面もあるが、これは雨水枡の停滞水(水たまり)対策や住環境の密閉化、緑地の点在などによる遭遇機会の減少に過ぎない。

 ワンコとよく散歩に行った上野公園や不忍池周辺には普通にいた。本機だけに頼るのではなく、環境と対策を組み合わせて使うのが賢い落としどころだろう。

 LEDがチカチカ光るたびに「効いている!気がする」ので少し安心できる。それがこのデバイスの唯一のビジュアル系価値である。だが、夏から初秋の実戦で頼りにする最終兵器は、やはり煙と薬剤というレガシーで実績のある“実体”だ。

製品名購入場所実売価格
サウンドウェーブ技術の蚊よけブレスレットTemu824円