法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

薄さや軽さ、速さに磨きをかけた実力派モデル「iPad mini 4」

 9月9日、アップルは米国サンフランシスコで発表会を開催し、iPhone 6s/6s Plus、iPad Pro、Apple Watchなど、同社の主要製品のラインアップを一新する発表を行なった。その発表会のプレゼンテーションではほとんど触れられなかったが、いち早く市場にお目見えしたのが「iPad mini 4」だ。iPadシリーズのコンパクトモデルとして、2012年に初代モデルが登場して以来、4代目のモデルになるが、実機を試すことができたので、実際の印象などを踏まえながら、iPad mini 4のレビューをお伝えしよう。

アップル「iPad mini 4」、Wi-Fiモデル、Wi-Fi+Cellularモデルがあり、ストレージ容量は16/64/128GBの3タイプ。カラーはスペースグレイ(写真)、ゴールド、シルバーの3色。

コンパクトなiPadとして

 2010年にアップルから発売された初代「iPad」は、それまでのパソコンやスマートフォンとは違った「タブレット」という新しいコンピュータデバイスを市場に定着させることに成功した。初代モデル以降、CPUやディスプレイなどのスペックを向上させながら進化を遂げてきたが、2012年に派生モデルとして生まれたのが「iPad mini」だ。

 オリジナルのiPadが9.7インチのディスプレイを搭載していたが、iPad miniは7.9インチのディスプレイを搭載し、オリジナルのiPadよりもひと回りコンパクトな筐体のモデルとして開発された。

 ただ、初代iPad miniが1024×768ドット表示のディスプレイを搭載していたのに対し、同時期に販売されていたiPad(第三世代)が2048×1536ドット表示に対応したRetinaディスプレイを搭載していたため、より高解像度を求める声が聞かれるようになってきた。そんなユーザーの声に応えるべく、2013年10月には「iPad mini Retinaディスプレイモデル」(後に「iPad mini 2」に改名)が発表された。厚さわずか0.3mm、重量は約23g(Wi-Fiモデル)が増えただけで、2048×1536ドット表示が可能なディスプレイを搭載し、コンパクトなボディながら、オリジナルのiPadにひけを取らないハイスペックなタブレットとして、進化を遂げることに成功した。2014年10月にはほぼ同じスペックながら、iPhoneにも採用された指紋センサー「Touch ID」を搭載した「iPad mini 3」が発売された。

 タブレットの定番的存在となったiPadに対し、iPad miniシリーズはディスプレイサイズが7.9インチということもあり、ボディがひと回りコンパクトで、ポータビリティに優れるという特徴を持つ。タブレットの使い方にもよるが、すでにスマートフォンを利用していて、少し大きな画面で映像コンテンツや電子書籍などを楽しみたいと考えたとき、オリジナルのiPadは宅内での利用に便利である一方、それなりサイズが大きいため、外出時にも持ち歩くとなれば、躊躇してしまう人もいる。これに対し、iPad miniは容積もひと回り小さく、重さも300g前後に抑えられているため、普段からパソコンなど、他の荷物が少し多い人でも手軽に持ち歩くことができる。かく言う筆者自身もまさにこのパターンで、仕事柄、常にパソコンを持ち歩いているが、iPad miniシリーズを代々買い換え、仕事先に旅先にと持ち歩いている。

スリムになったiPad mini 4

 今回発表されたiPad mini 4は、オリジナルのiPadシリーズがそうであるように、ぱっと見の外見は従来モデルとあまり変わらない印象だが、実はボディサイズも含め、細かい分が変更されている。

 まず、縦横のサイズは従来モデルと比較して、以下のような違いとなっている。横幅の0.1mmの違いはともかく、縦の長さは3.2mm長く、厚さは1.4mmも薄く、重さはWi-Fiモデルで32.2g、Wi-Fi+Cellularモデルで37gの軽量化を実現している。実際に手に持ったときの印象としては、やはり、薄さと軽さが明確にわかるほどの違いだ。

iPad mini 4iPad mini 3及びiPad mini 2
高さ203.2mm200m
134.8mm134.7mm
厚さ6.1mm7.5mm
重さ(Wi-Fi)298.8g331g
重さ(Wi-Fi+Cellular)304g341g
正面から見たときの印象はほとんど変わらないiPad mini 3(左)とiPad mini 4(右)。

 ちなみに、iPad miniシリーズを屋外に持ち出すことを考慮し、多くのユーザーは背面カバーなどのケースを装着するだろうが、今回のiPad mini 4は筐体のサイズが変更されているため、背面に装着するケースは専用のものを購入する必要がある。同様に、アップルが従来モデル向けに販売してきた「SmartCover」や「SmartCase」も流用できないため、新たに「iPad mini 4 SmartCover」「iPad mini 4 シリコンケース」が販売されている。どちらもカラーバリエーションが10色に増えており、ボディカラーとの組み合わせで、いろいろなコーディネートを楽しむことができる。

本体の厚みが異なるため、SmartCoverも変更されている。本体に磁石で付く部分の太さが異なる。

 サイズ以外のボディ周りでは薄型化を実現するためか、ボタン類のレイアウトが変更されている。iPad mini 3以前では本体の右側面の音量ボタンの隣に、消音/回転ロック切り替えスイッチが備えられていたが、iPad Air 2同様、音量ボタンのみになり、消音と回転ロックの切り替えは画面下からスワイプしたときに表示される「コントロールセンター」から操作することになる。

iPad mini 4(上)は側面の消音/回転ロックボタンがなくなっている。下はiPad mini 3。
底面の穴はiPad mini 3(下)の二列から一列に変更されている。

 ディスプレイのスペックはサイズ、解像度共にiPad mini2/3と共通だが、iPad mini 4ではiPad Air 2同様、液晶パネルやタッチパネル、ガラスを一体化させるフルラミネーションディスプレイが採用され、表面にも反射防止コーティングが施されている。

 カメラについては、前面のFaceTime HDカメラは従来モデルと共通であるのに対し、背面のiSightカメラは従来モデルの5MピクセルからiPad Air 2と同等の8Mピクセルに変更されている。カメラの基本機能に変わりはないが、新たに静止画撮影では連写が可能なバーストモードがサポートされ、ビデオ撮影もスローモーションビデオに対応している。

A8チップ搭載で画面分割表示に対応

 今回のアップルの発表では、12インチディスプレイを搭載したiPad Proが注目を集め、プレゼンテーションでも多くの時間が割かれていたが、発売は11月を予定しており、現段階ではそのポテンシャルを知ることはできない。ただ、iPad Proのデモで触れられていた機能は、9月17日に公開されたiOS 9で実現されているものが多く、その一部はiPad mini 4でもひと足早く体験することができる。そのカギとなるのがiPad mini 4に搭載された新しい64ビットCPUであるA8チップだ。

 iPad miniシリーズのCPUとしては、初代モデルがiPad 2と同じA5チップ、iPad mini 2とiPad mini 3がiPad Airと同じA7チップが搭載されてきた。今回のiPad mini 4に搭載されているA8チップは、iPhone 6/6 Plusにも搭載されている64bit CPUで、A7チップに比べ、CPUパフォーマンスが最大30%、グラフィック性能が60%向上しており、全体的な動作も1ランクアップしている印象だ。ちなみに、海外のサイトではiPad mini 4と同時に発表された新しいApple TVにもこのチップが搭載されていることが明らかにされた。

「Split View」への対応が大きな差

 これらのスペックだけを見ると、A8チップ搭載のiPad mini 4とA7チップ搭載のiPad mini 2/3は、数十%のパフォーマンスの差しかないように受け取られてしまいそうだが、実用上ではiOS 9でサポートされた「Split View」という新機能の利用の可否という大きな差が存在する。Split Viewは2つの対応アプリを同時に表示する機能で、メールを確認しているときにカレンダーを起動したり、SafariでWebページを閲覧中に地図を起動するといった使い方ができる。

 iOSではこれまでもホームボタンの二度押しで表示されるマルチタスク画面でアプリを切り替えたり、四本指でスワイプするマルチジェスチャーで切り替えることができたが、これらはいずれもバックグラウンドに回ったアプリが基本的に一時停止の状態になるうえ、操作も煩雑で、今ひとつ慣れない部分があった。これに対し、iOS 9のSplit Viewではアプリを起動中に右側の画面外から内側にスワイプし、表示された一覧から対応アプリを起動し、境界線を画面中央まで移動すれば、それぞれのアプリのウィンドウをタップするだけで、動作を切り替えることができる。

SplitViewではアプリを起動中に右側からスワイプすると、起動できるアプリが一覧で表示される。
地図アプリを起動し、境界線を中央付近まで移動すると、画面が分割表示される。
SafariでWebページを表示しながら、メールアプリを起動して、文字を入力するといった使い方も可能。

 iOS 9ではiPad向けに画面を分割表示する機能として、「Slide Over」という機能が提供されている。基本的な操作の流れはSplit Viewと同じだが、境界線を移動することができず、アプリをタップして、切り替えながら操作する。Split Viewは複数のアプリをマルチタスクで利用できるが、Slide Overは他のアプリをちょっと参照するような使い方に適している。ちなみに、Split ViewがiPad mini 4をはじめ、iPad Air 2、iPad Proで利用できるのに対し、Slide Overはこれらに加え、iPad mini 2/3、iPad Airでも利用することができる。裏を返せば、iOS 9のiPad向け新機能をフルに利用できるのはiPad mini 4、iPad Air 2、iPad Proで、iPad mini 2/3、iPad Airは一部、機能が限定されるわけだ。

同じように、地図アプリとカレンダーを起動してもiPad mini 3(上)は「Slide Over」のみの対応なので、画面の1/3程度しか表示できないうえ、アプリを切り替えて利用する。iPad mini 4(下)はSplitViewで境界線を中央まで移動できる。

 また、iOS 9で追加された「ピクチャ・イン・ピクチャ」もiPadで利用するときに便利な機能のひとつだ。YouTubeやSafariで動画を再生したり、FaceTimeでビデオ通話をしているとき、ホームボタンを押すと、ビデオ画面が小さくウィンドウで表示され、その状態で他のアプリを起動すると、ビデオ画面はウィンドウ表示のまま、動画などを再生し続けることができる。ウィンドウ表示のビデオ画面は、ピンチ操作でサイズを二段階に変更することも可能だ。たとえば、YouTubeの動画をウィンドウで再生しながら、SafariでWebページをチェックするといった使い方ができるわけだ。

動画を再生中、ホームボタンを押すと、ウィンドウ表示に切り替わり、他のアプリを起動すれば、ピクチャ・イン・ピクチャで表示が可能。

 この他にもiOS 9にはいくつか新機能が搭載されており、出荷時にiOS 9がプリインストールされているiPad mini 4は、それらの機能をフルに利用することができる。iOS 9の新機能については、白根雅彦氏による「「iOS 9」ファーストインプレッション」が本誌に掲載されているので、そちらを参照されたい。

幅広いLTEネットワークに対応

 オリジナルのiPadシリーズはその筐体サイズから自宅やオフィスなど、宅内での利用も多いとされているが、iPad miniシリーズは前述のように、ポータビリティに優れているため、外出先にも持ち歩くケースが多い。そうなると、やはり、気になるのがモバイルデータ通信機能だ。

 今回のiPad mini 4にも従来モデル同様、Wi-Fiモデルに加え、Wi-Fi+Cellularモデルがラインアップされており、アップルが直接販売するSIMロックフリーモデルのほかに、NTTドコモ、au、ソフトバンクからも同じモデルが販売される。ちなみに、今回のiPad mini 4ではまだ動作が確認できていないが、これまで国内の携帯電話事業者が販売してきたiPad miniシリーズはSIMロックの対象が国内の携帯電話事業者に限られており、海外で利用する場合はSIMロックフリーの状態で、海外の携帯電話事業者のSIMカードも問題なく利用できている。最終的には動作確認の情報を待つ必要があるが、おそらく今回のiPad mini 4もSIMロックは国内の携帯電話事業者間のみになっている可能性が高い。いずれにせよ、国内の携帯電話事業者から販売されるiPad mini 4については、SIMロック解除義務化の対象になるため、一定の条件を満たした段階で、SIMロックは解除できるはずだ。

 iPad miniシリーズでは従来に引き続き、iPad mini 4にはWi-Fi+Cellularモデルがラインアップされているが、モバイルネットワークの仕様については従来モデルから変更されている。

 なかでも重要なのが対応周波数で、従来モデルが14バンドで利用できたのに対し、iPad mini 4は20バンドに対応しており、その中にはUQコミュニケーションズの「WiMAX 2+」と、Wireless City Planning(ソフトバンクグループ)の「AXGP」が互換性を保っているとするTD-LTE方式のバンドも含まれている。両社とも既存のLTEネットワーク(FDD-LTE方式)だけでなく、TD-LTE方式と互換性のある両方式のネットワークにも力を入れており、iPad mini 4ではiPad Air 2と同じように、これらのネットワークを利用できることになる。実際にどのバンドで接続され、その通信方式がFDD-LTEなのか、TD-LTE互換なのかは端末上で判別できないが、新たに対応バンドが増えていることは、iPad mini 4を選ぶ明確なアドバンテージのひとつと言えそうだ。

MVNOでの利用

 ところで、Wi-Fi+Cellularモデルを国内の携帯電話事業者の主要3社ではなく、MVNO各社のSIMカードで利用するときは、少し注意が必要だ。9月17日に本誌に掲載された「MVNOユーザーはiOS 9アップデートの前に対応の確認を!」で詳しく解説されているが、これまでMVNO各社はiOS向けに、設定情報を記録した「プロファイル」を提供し、これを端末にインストールする形で、iPhoneやiPadを利用できるようにしてきた。

 ところが、iOS 9ではこれまで利用されてきた「APN Payload」と呼ばれる形式に代わり、「Cellular Payload」と呼ばれる形式が必須となったため、MVNO各社が配布しているプロファイルが旧形式のままだと、SIMロックフリー版のiPad mini 4にSIMカードを装着してもモバイルデータ通信が利用できない状態になってしまう。すでに、ほとんどのMVNO各社は、iOS 9公開後「Cellular Payload」形式のプロファイルを配布しはじめているので、iPad mini 4のSIMロックフリー版を購入したユーザーは自分が契約するMVNOのWebページなどで確認することをおすすめしたい。

mineoはすでにiOS 9に対応したCellular Payload形式のプロファイルを配布。au回線を利用したauプランでも利用可能。
OCNもiOS 9に対応したCellular Payload形式のプロファイルを配布中。

 また、iPad mini 4は従来のiPad mini 3やiPad Air 2に引き続き、アップルが昨年来、提供している「Apple SIM」に対応する。Apple SIMは海外旅行中にオンラインサインアップすれば、現地の携帯電話事業者などと短期間の契約をすることができる。筆者自身もiPad mini 3で利用したが、各携帯電話事業者の国際ローミングよりも料金が割安なうえ、1枚のApple SIMでさまざまな渡航先の携帯電話事業者と契約できるので、非常に便利に使うことができている。国内のApple StoreでApple SIMが販売されているかどうかは未確認だが、海外渡航の多いユーザーはチェックしておきたいところだ。

 それ以外の通信機能については、Wi-FiがIEEE802.11a/b/g/n/ac対応になり、BluetoothもBluetooth 4.2対応になった。なかでもWi-FiのIEEE802.11acについては、すでにiPad Air 2とiPhone 6/6 Plusが対応しており、市販の無線LANアクセスポイントもかなり充実してきている状況であり、活かしやすい環境が整っている。

iPad mini 4は多彩に活用できる実力派タブレットだ!

 スマートフォンに続くモバイルデバイス、パソコンに代わるコンピュータデバイスとして、拡大が期待されているタブレットだが、これまでは宅内での利用を中心とした比較的サイズの大きいデバイスが注目を集めてきた。しかし、iPad mini 4はコンパクトなボディながらもひと回りサイズの大きいiPad Air 2に相当する機能を持ち、毎日、カバンに入れて持ち歩くことにもストレスを感じさせない製品だ。Webページやメール、SNSなどはもちろん、電子書籍やゲームといったコンテンツの利用をはじめ、最近、急速に増えてきた定額制の音楽配信サービスや映像配信サービスなども快適に利用でき、ビジネスからプライベートまで、多彩なシーンで活用できるデバイスとして仕上げられている。これからタブレットをはじめたい人はもちろん、オリジナルのiPadシリーズの買い換えユーザーなど、幅広いユーザーにぜひ試して欲しい一台と言えるだろう。

法林岳之

1963年神奈川県出身。携帯電話をはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるWindows 8.1」「できるポケット docomo AQUOS PHONE ZETA SH-06E スマートに使いこなす基本&活用ワザ 150」「できるポケット+ GALAXY Note 3 SC-01F」「できるポケット docomo iPhone 5s/5c 基本&活用ワザ 完全ガイド」「できるポケット au iPhone 5s/5c 基本&活用ワザ 完全ガイド」「できるポケット+ G2 L-01F」(インプレスジャパン)など、著書も多数。ホームページはこちらImpress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。