法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」
“「+d」の協創”で新しい価値の提供を、ドコモ2015年夏モデル
(2015/5/20 20:57)
5月13日、NTTドコモは「2015夏 新サービス・新商品発表会」を開催し、夏商戦へ向けたスマートフォン8機種、タブレット2機種、フィーチャーフォン2機種の計12機種の新商品、新サービスを発表した。
昨年来、NTTドコモは新料金プランの発表やVoLTEサービスの開始、受信時最大225Mbpsの「PREMIUM 4G」の提供など、新しい時代へのアプローチに取り組み始めていたが、今回の発表では「+d」(プラスディ)と銘打つ新たなコンセプトに基づく展開として、ローソンとの提携や「dポイント」という新ポイントサービスの発表など、携帯電話事業者を超える領域の発表が注目される内容だった。発表会の詳細については、本誌の速報(※関連記事)をご覧いただきたいが、ここでは今回の発表内容の捉え方とそれぞれの製品の印象などについて、解説しよう。
携帯電話事業者から「付加価値協創企業」へ
今月、国内の携帯電話業界で注目されるトピックの1つに、「SIMロック解除義務化」が挙げられる。かつて、2007年のモバイルビジネス研究会でSIMロック解除の議論が始まったとき、携帯電話事業者のビジネスは「土管屋になってしまうのではないか」と言われたことがあった。2000年代前半の国内の携帯電話業界は、携帯電話事業者が回線を提供するだけでなく、オリジナルの端末を開発し、iモードをはじめとする多様なサービスを展開することで、大きく発展を遂げたが、SIMロックが解除されると、各携帯電話会社の独自サービスが展開しにくくなり、国内の携帯電話事業者は回線だけを提供する存在になってしまいかねないことから「土管屋になってしまう」と言われたわけだ。
はじめてiPhoneが国内向けに発売され、Androidスマートフォンを出始めたときにも同様のことが指摘された。アップルやGoogleといった「OTT(Over The Top)」と呼ばれる企業が独自のスマートフォンやプラットフォームを開発することで、それまでの携帯電話事業者が展開してきたコンテンツサービスに代わる存在となり、携帯電話事業者は回線を提供するだけの存在になってしまうことが危惧された。これは日本に限ったことではなく、国と地域によって異なるものの、海外でも同じようなことが今なお指摘されている。
こうした状況に対し、NTTドコモは携帯電話事業者の生命線であるネットワークを強化する一方、「dビデオ(現dTV)」や「dマガジン」などのコンテンツサービス、「iコンシェル」や「しゃべってコンシェル」などのコンシェルジュサービスをスマートフォン向けにも提供し、自らの強みを活かそうとしてきた。最近では「スマートライフのパートナーへ」をキーワードに、「はなして翻訳」や「ペットフィット」など、ケータイ時代にはなかった新しいサービスも提供し、注目を集めている。回線を提供するだけの「土管屋」になるのではなく、スマートフォン時代に入り、OTTが存在する業界においてもユーザーに選んでもらえるように、土管だけではない何かを創り出そうと取り組んできた。
今回の発表会では「協創」という造語を掲げ、新たにパートナー企業とのコラボレーションによる新しい付加価値を生み出す取り組みをスタートさせようとしている。その具体的な取り組みがローソンとの提携であり、NTTドコモとしてはこれをきっかけに、携帯電話事業者から総合サービス企業への一歩を踏み出そうとしているようだ。ユーザー視点で見た場合、後述するローソンでの割引など以外に、どういうメリットや利便性が生まれてくるのかは未知数だが、今回の発表がNTTドコモにとって、ひとつのターニングポイントになるかもしれないことは、ユーザーとしても頭の片隅に置いておいた方がいいかもしれない。
dポイント拡充とローソン提携
これまでNTTドコモが冬春商戦や夏商戦前に行なってきた発表会は、「新商品・新サービス発表会」と題されていたが、今回の発表会は冒頭でも説明したように、「2015夏 新サービス・新商品発表会」と銘打たれていた。この順番を裏付けるように、今回は端末よりも新サービスとローソンとの提携の説明に、かなりの時間が割かれた。
まず、ひとつめのトピックは「dポイント」だ。NTTドコモはこれまで「ドコモポイント」という名称で、それぞれのユーザーに対し、月々の利用料金に応じたポイントを付与してきた。利用料金以外にも長期契約者やキャンペーン、アンケートなど、さまざまなサービスに紐付く形でポイントを付与し、NTTドコモとユーザーにとって、もっとも重要な資産のひとつとして扱われてきた。このドコモポイントを「dポイント」という名称に改めると同時に、NTTドコモでの商品購入やコンテンツ決済以外にも利用できる方針を打ち出した。
こうしたポイントサービスの拡充は、約1年前にauが「au Wallet」をスタートさせ、ソフトバンクも昨年7月からTポイントとの提携に移行しており、NTTドコモとしてもこれらに追随する形を取った。同時に、NTTドコモがこれまでクレジットカードサービスとして提供してきた「DCMX」も「dカード」という名称に改め、ここでもポイントを貯められる仕組みを継承する。
そして、この貯めたdポイントの具体的な使い道の1つとして、提示されたのがローソンとの提携だ。実際にポイントを利用できるのは12月1日からだが、すでにローソンが利用しているPontaポイントとも相互に交換することも可能になる。このdポイントのローソンでの利用に先駆けて、6月1日からはローソンでの買い物時に、DCMXやDCMX(iD)、DCMX miniで支払うと、3%割引(実際の割引はクレジットカード請求時)が受けられるため、6月から11月までは最大4%、それ以降は最大5%分、おトクになる計算だ。
この特典をどう評価するのかは難しいが、実際にローソンで買い物をする際、NTTドコモのユーザーであれば、DCMX(iD)などで支払った方がメリットがあるわけで、これまで現金や他のクレジットカードで支払っていたユーザーがDCMX(iD)などを使うケースが増えそうだ。ちなみに、クレジットカードに対する考え方は、人それぞれなので、一概に言えない部分もあるが、DCMXはNTTドコモのユーザーであれば、携帯電話料金の支払いを設定しておくだけで、実質的に年会費もかからず、ポイントも還元されるので、利用した方がおトクだと言えそうだ。ただし、より大きなメリットを得られるのは、年会費1万円のDCMX GOLD(dカード GOLD)になる。
一方、ローソン側もNTTドコモユーザーの来店に期待する部分が大きく、6月からは今回の提携を記念した商品も販売される。将来的に、NTTドコモのアクセサリー類などを購入できたり、ローソンのキオスク端末「Loppi」などと連動するサービスなど、新しい展開も期待したいところだ。
ローソンとの提携以外の部分では、新サービスとして、ABCクッキングスタジオ、クックパッド、食べログと連携する「dグルメ」、在宅確認や健康相談ダイヤルなどが利用できる「家のあんしんパートナー」、フォトブックが届く「フォトコレクションプラス」、dヒッツやdミュージック、dアニメストアのFacebook連携、インディーズを応援する「Eggs」などが発表された。いずれも既存のサービスを発展させたり、他のサービスと連動させることで、新しい価値を生み出そうとしているものの、今ひとつ目新しさに欠ける感は否めない。とは言え、「フォトコレクションプラス」は子育て世代に喜ばれるだろうし、「家のあんしんパートナー」は若いひとり暮らしの世代だけでなく、シルバー世代を抱える実働世代にも利用されそうだ。幅広いユーザー層を抱えるNTTドコモらしいサービスのラインアップと言えるかもしれない。
生体認証とPREMIUM 4G対応
今回の発表会では新サービスとローソンとの提携にかなりの時間が割かれたが、新商品にも魅力的なモデルがラインアップされた。全体的な傾向をチェックしてみよう。
まず、今回の夏モデルで、キーワードのひとつとして掲げられたのが「生体認証」だ。生体認証については、ケータイ時代から富士通が指紋センサーに積極的に取り組んできたり、顔認証などが搭載され、話題になったこともあった。スマートフォンではさまざまなサービスで認証手順が必要なこともあり、手軽な操作で認証できる生体認証のニーズが高まっており、富士通だけでなく、アップルは「iPhone 5s」から、サムスンも「GALAXY S5」から、それぞれ指紋センサーを搭載している。今回の夏モデルではすでに発売済みの「Galaxy S6 SC-04G」「Galaxy S6 edge SC-05G」に加え、「AQUOS ZETA SH-03G」も指紋センサーを搭載し、富士通は新たに虹彩認証を搭載した「ARROWS NX F-04G」を開発した。
虹彩認証については3月に開催されたMobile World Congress 2015で富士通が開発中のモデルのデモを公開したが、今回のARROWS NX F-04Gで早くも製品化された。虹彩は眼の瞳孔の周囲にある環状の膜で、2歳頃で形成されたパターンがそのまま変わらないという特長を持っており、本体上部に備えられた赤外線照明と赤外線カメラで読み取ることで認証する。実際の操作も非常に簡単で、あらかじめ虹彩を登録しておけば、端末の画面を顔の前に持ってくれば、一瞬でロックが解除される。「ARROWS NX F-04G」には虹彩認証を体験するためのデモアプリが搭載されているので、店頭などにデモ機があれば、ぜひ試していただきたい。
通信関連では、3月からサービスを開始された、LTE-Advancedによる「PREMIUM 4G」にスマートフォン5機種とタブレット2機種が対応した。受信時最大225Mbpsの高速通信が可能で、すでに全国38都道府県、128都市までエリアを拡大している。端末を長く使うなら、できるだけその時点での最新サービスに対応したモデルを選ぶことが望ましいが、受信時最大200Mbpsを超える速度になると、スマートフォンではなかなか体感しにくい面もあるので、ひとつの目安として考えるくらいが現実的だろう。同じく通信関連では国際ローミングに限定されるが、700MHz帯に対応したモデルが9機種、TD-LTE方式に対応した機種が3機種、ラインアップされている。海外での利用が多いユーザーはチェックすべきポイントだ。ちなみに、すでに4月にNTTドコモからも発表されている通り、今回発表されたモデルはいずれもSIMロック解除の義務化に対応しており、購入から180日後には基本的にSIMロックを解除できる。SIMカードについては、今回はスマートフォン、タブレット、ドコモケータイ(フィーチャーフォン)の全機種がnanoSIMカードを採用している。
ディスプレイについてはスマートフォン8機種中7機種が5インチ以上で、唯一、Xperia A4 SO-04Gのみが約4.6インチのパネルを搭載する。コンパクトなモデルが欲しいという声に応えたものだが、5インチ以上のディスプレイを搭載したモデルでもっともスリムなモデルと比較して、ボディ幅はわずか4mmしか差がない。最大サイズは「AQUOS ZETA SH-03G」の約5.5インチだが、それでもボディ幅は76mmに抑えられている。
ディスプレイの解像度については、スマートフォン8機種中、1440×2560ドット表示のクアッドHDが3機種、1080×1920ドットのフルHDが3機種、720×1280ドットのHDが2機種という構成になった。コストパフォーマンスで考えれば、HDが有利だが、フルHDのコンテンツが増えてきた状況を考えると、実勢価格の差をよく検討する必要があるだろう。クアッドHDについては対応コンテンツが非常に少ないが、画面を分割表示して、複数のアプリを切り替えながら使えるデュアルウィンドウが活用できるというメリットもある。ただ、省電力という観点では当然、クアッドHDがもっとも電力消費が多いので、その点も十分に考慮する必要があるだろう。
新世代のSnapdragon 810
今回の夏モデルで、少し気になるのがCPUの状況だ。昨年発表された冬春モデルではフラッグシップモデルを中心に、米クアルコム製のチップセット「Snapdragon 800 MSM8974」や「Snapdragon 801 MSM8974AB/MSM8974AC」などが採用されてきたが、今回は3機種が「Snapdragon 810 MSM8994」を搭載する。従来の「Snapdragon 800/801」は28nmというプロセスルールで製造された32bitのクアッドコアCPUであるのに対し、今回の「Snapdragon 810」は20nmのプロセスルールで製造された64bitのオクタコアCPUとなっており、内部的にはひとつ新しい世代のCPUが搭載されたことになる。プロセスルールの縮小と64ビット化で、全体的な性能向上が期待されるところだが、昨年終わり頃から海外のモバイル系サイトなどで、Snapdragon 810の発熱問題が指摘されていた。サムスンも従来モデルでは日本向けにSnapdragon搭載モデルを供給していたが、今回のGalaxy S6/S6 edgeでは自社製のExynos 7420に切り替えており、これもSnapdragon 810の発熱問題に起因したのではないかと指摘する向きもあった。
ただ、発表会後のタッチ&トライで試した限り、Snapdragon 810搭載モデルの本体が極端に熱くなるようなことはなかった。ボディの素材が異なるため、機種によって、多少の差はあるが、特に問題ないレベルと言えそうだ。海外サイトで話題になっていたのは、おそらくサンプル出荷の製品や開発中のモデルを試した情報ではないかという印象が残った。
とは言うものの、同じCPUでもメーカーごとに本体への実装方法に差があるため、最終的に発売された製品では機種ごとに熱に対する差が感じられる可能性も考えられる。かつてのNVIDIA製Tegra3のときのような発熱問題にはならないだろうが、気になるユーザーは発売後に店頭のデモ機などで試してみることをおすすめしたい。
プラットフォームについては、今回からスマートフォンもタブレットもAndroid 5.0が採用されている。これにより、ドコモメールなどのNTTドコモ製アプリがAndroid 5.0に対応したことになるため、今後、従来モデルの中からAndroid 5.0以上へのアップデートが始まりそうだ。
Androidのフィーチャーフォンも
また、機種別ではauの「AQUOS K SHF31」に続き、ドコモもAndroidを搭載したフィーチャーフォン2機種を発表したことが注目される。1月の「AQUOS K SHF31」の発表後、NTTドコモの加藤薰代表取締役社長が決算発表やインタビューなどで、開発中である旨を明らかにしていたが、早くも夏モデルとして、登場したことになる。
Android搭載フィーチャーフォンが登場してきた背景としては、「AQUOS K SHF31」が発表されたときにも触れたが、現状のLinuxやSymbianベースのフィーチャーフォンを構成する部品やソフトウェアが古くなり、将来的に開発・製造が難しくなってくることが考えられるうえ、フィーチャーフォンで利用していたコンテンツも徐々にスマートフォンに移行し、周囲のユーザーもスマートフォンに移行しているため、既存のフィーチャーフォンのユーザーがコンテンツを閲覧できなかったり、取り残されてしまう状況にある。そこで、Androidプラットフォームを搭載しながら、既存のフィーチャーフォンと同じ形状でデザインした「Android搭載フィーチャーフォン」が登場したと言うわけだ。ちなみに、NTTドコモのフィーチャーフォンは「iモードケータイ」と呼ばれてきたが、今回の2機種はAndroidプラットフォームを採用し、プロバイダ契約もスマートフォンと同じspモード契約になるため、「spモードケータイ」と呼ばれ、区別されている。
今回発表された2機種のドコモケータイについては、いくつか注目すべき点がある。まず、メーカーがシャープだけでなく、富士通も開発していること、両機種とも部品メーカーが少なくなり、ヒンジ部分の部品調達が難しいと言われていた、ワンプッシュオープンを採用したこと、「AQUOS K SHF31」と違いLTEやWi-Fiには対応せず、3GのFOMAハイスピード(HSDPA/HSUPA)のみに対応していることなどが挙げられる。メーカーについてはシャープがドコモ向けにも開発してくることは十二分に考えられたが、富士通も開発してきたのは少し意外だった。法人向けなどに強い富士通としては、ぜひ揃えておきたいラインアップだったと言えるのかもしれない。ワンプッシュオープンのヒンジについてはパナソニック製端末が広く知られ、一時は他メーカーも追随したものの、現在はヒンジを作っていたメーカーが撤退し、ここ数年はパナソニックが自社製品のみに製造していると言われていた。にも関わらず、今回、2機種が搭載できたのは、同様のヒンジを製造できるメーカーを新たに開拓したようで、おそらく両社がそれを採用したようだ。
対応する通信方式の違いについては、auとドコモの今後のネットワークの方向性が見え隠れするようで、少し興味深い。「AQUOS K SHF31」のときにも説明したが、auは将来的にCDMA方式を終息させたい考えを持っており、ユーザー層もタブレットと併用してテザリングを使うユーザー、LINEを使いたいケータイユーザー、スマートフォンの限られた機能のみを使いたいユーザーなど、かなり幅広い層をターゲットにしているため、Wi-FiやLTEに対応した仕様を採用した。これに対し、ドコモは、3月時点でFOMA契約のユーザーが3500万も残っており、当面は3Gサービスを継続する見込み。スマートフォンへの移行を望まない保守的なユーザーも多いため、できるだけシンプルでわかやすいAndroid搭載フィーチャーフォンを開発したようだ。ネットワーク対応が3Gのみということで、テザリング機能が搭載されていないのも潔い考え方だろう。両社とも将来的にフィーチャーフォンの部品が少なくなり、プラットフォームも新たな開発が難しくなることがわかっているため、新しい時代へ向けたフィーチャーフォンを開発したわけだが、それぞれに取り組み方やネットワークの考え方は少しずつ違いがあるということだ。
この選択は料金プランにも影響し、auが4G LTE向けのプランを選ぶようにしたのに対し、ドコモは既存のFOMA向けプランが適用されるため、比較的、維持費を安く抑えることができる。なお、翌14日にauはAndroid搭載フィーチャーフォン向けに、二段階定額のデータ通信料プランを発表するなど、ライトなユーザーにも配慮しようとしている。
Android搭載フィーチャーフォンに関連する両社の姿勢の違いは注目されるが、ドコモの場合はもうひとつコンテンツサービスという重荷も残されている。iモードサービスが成功したこともあり、現在もiモードケータイ向けには数多くのiモードコンテンツが提供されており、特定用途も含め、一定の利用があると言われている。ここ数年、ドコモが協力を得る形で、多くのコンテンツサービスはスマートフォン向けに移行したが、なかにはフィーチャーフォン向けのまま、ギリギリのコストで運営が継続されているコンテンツもあるようで、これらのサービスをどうしていくのかもドコモの課題として残されている。NTTドコモの加藤社長は発表会後の囲み取材で、「従来型のフィーチャーフォンも供給を続ける」と話す一方、冬モデルでは別の方向性のAndroid搭載フィーチャーフォンを投入する可能性を匂わせており、コンテンツの対応も含め、今後の展開が非常に気になるところだ。
夏商戦へ向けて、12機種をラインアップ
さて、ここからは夏モデルのスマートフォン8機種、タブレット2機種、フィーチャーフォン2機種について、個別に説明したい。各機種の詳しい内容については本誌の速報記事を参照していただきたいが、いつものことながら、最終的な製品とは差異があるかもしれないことをお断りしておく。
ARROWS NX F-04G(富士通)
3月のMobile World Congress 2015で公開された虹彩認証「Iris Passport」を世界で初めて搭載したモデル。あらかじめ登録しておけば、基本的には画面を見るだけでロック解除やパスワード入力を伴う認証などができ、認証の速度は指紋センサーや顔認識などに比べ、格段に速い。
ディスプレイの上の部分には、虹彩認証のための赤外線照明と赤外線カメラが内蔵されており、インカメラ利用時にどこを見ればいいのかをちょっと迷いそうだ。ディスプレイは今回発表された夏モデルで、もっとも高解像度の1440×2560ドット表示が可能なWQHD対応の5.5インチIPS液晶を採用する。メインカメラも最高スペックの2150万画素の「Exmor RS」CMOSイメージセンサーに、5群5枚のレンズを組み合わせている。
少し変わったところでは非接触高速データ通信規格の「TransferJet」に対応する。TransferJetが開発中であることは、以前から展示会などで披露されてきたが、ようやく対応機種が発表されたという印象だ。ただ、対応する機器があまり多くないため、当面は同じARROWS NX F-04G同士の利用が中心になりそうだ。全体的に見て、今回発表された夏モデルの中で、もっともハイスペックでかなり楽しめる端末と言えそうだ。
AQUOS ZETA SH-03G(シャープ)
今回発表されたモデルで、もっとも大きな約5.5インチのIGZO液晶を搭載する。シャープ製スマートフォンでおなじみの三辺狭額縁によるEDGESTデザインだが、ボディは新たにメタルフレームを採用し、側面にイルミネーション、背面には指紋センサーを内蔵するなど、従来モデルとは違った雰囲気を持つ。指紋センサーはメインカメラ下にレイアウトされており、端末を手に持ったとき、側面のグリップセンサーで画面がオンになり、背面の人さし指で指紋認証をして、ロックを解除するという連動した操作が可能。
機能面で注目すべきは、スマートフォンとしては世界最高となる2100fpsのスーパースロー映像に対応する。FWVGAサイズで210fpsの動画を撮影し、再生時にフレーム補完により、2100fpsのスーパースロー映像を再生できるというもの。プールやテーマパーク、スポーツなど、動きの多いアトラクションやシーンで役に立ちそうな機能だ。カメラは従来モデルに引き続き、リコーのGRシリーズの開発チームが認めたGR Certifiedを取得。
昨年来、AQUOS ZETA SH-01Gをはじめ、シャープ製スマートフォンに相次いで搭載され、話題となった「エモパー」は「エモパー2.0」にバージョンアップし、少し対話ができるようになったり、外出中もイヤホン接続時に話しかけてくるなどの改良が図られている。
Disney Mobile on docomo DM-01G(LGエレクトロニクス)
スワロフスキー・クリスタルのストーンをちりばめ、ミッキーマウス型のウィンドウをあしらった「ミッキーウィンドウカバー」を同梱したDisney mobile on docomoの最新モデル。ミッキーウィンドウカバーを装着したときの画面は、時計だけでなく、通知や音楽再生の操作、カメラでの撮影などの機能が利用できる。
ベースモデルはLGエレクトロニクスがグローバル向けに展開する「G3」だが、ディスプレイは5.2インチのフルHD対応IPS液晶を搭載する一方、防水防じんやおサイフケータイに対応し、ワンセグ/フルセグチューナーを搭載するなど、日本仕様も盛り込まれたオリジナルモデルとなっている。
Xperia Z4 SO-03G(ソニーモバイル)
4月にグローバル向けに発表されたXperiaシリーズのフラッグシップモデルの日本市場向けモデル。基本的なデザインテイストはXperia Zシリーズのオムニバランスデザインを継承しており、サイズやボディカラーはXperia Z3の流れを受け継いでいる。周囲の4つの角には樹脂が採用され、側面のフレームはXperia Z3よりも光沢のある仕上げになっている。従来モデルまで採用されていた側面のマグネット式の充電端子がなくなり、底面にキャップレス防水のmicroUSB外部接続端子を備えるなど、内部設計は一新されているようだ。側面のmicroSDカード/nanoSIMカードスロットもユニークで、1つのトレイにmicroSDメモリーカードとnanoSIMカードを載せて、本体に装着する。
カメラは今回発表された夏モデルで最高峰となる2070万画素の裏面照射積層型CMOSセンサーを採用し、インカメラも510万画素とハイスペックにまとめられている。Xperiaシリーズでおなじみのカメラアプリも充実し、ARマスクなどの新アプリも提供される。オーディオはMP3形式の音楽データをハイレゾ相当にアップコンバートして楽しめる「DSEE HX」、Bluetooth接続時も高音質で音楽を再生できる「LDAC」に対応するなどの強化が図られている。
内部的には刷新されているが、このデザインとカラーなども含め、従来モデルと似通っている部分が多く、初代Xperia Zから2年以上、くり返し同じデザインテイストのものが何機種もリリースされていることから、やや新鮮味に欠ける印象は否めない。
AQUOS EVER SH-04G(シャープ)
コンパクトなボディに、5インチのHDディスプレイを搭載したミッドレンジのモデル。今回発表された夏モデルの中では、「Xperia A4 SO-04G」と並び、比較的、手頃な価格帯を狙ったモデルに位置付けられる。チップセットに「Snapdragon 400 MSM8926」を採用し、カメラはメインが1310万画素、インカメラが210万画素を搭載するなど、十分なスペックを実現する一方、ワンセグ/フルセグ/NOTTVチューナーは搭載せず、PREMIUM 4Gにも対応しないなど、スペックを抑えた部分も見受けられる。
おサイフケータイや赤外線通信、防水には対応し、VoLTEによる高音質通話にも対応しているため、実用上、不足を感じることはなさそうだが、ミッドレンジのスマートフォンとして、必要十分な仕様を絞り込んで搭載したモデルと言えそうだ。
Xperia A4 SO-04G(ソニーモバイル)
一昨年の「Xperia A SO-04E」以降、継続しているXperiaシリーズのコンパクト&普及モデル。昨年発表の冬春モデルのXperia Z3 Compactの後継モデルに位置付けられており、ボディの厚みなどがわずかに増えていることを除き、ハードウェアの仕様はほぼ共通となっている。
外見上の違いとしては、背面がわずかにラウンドし、マットに仕上げられていることが挙げられる。「Xperia Z4 SO-03G」では廃止されたマグネット式の充電端子などは残され、microUSBポートも従来同様のキャップ付きのままとなっている。
NTTドコモのラインアップとしては、「AQUOS EVER」 SH-04Gと並び、数少ないコンパクトモデルだが、ほぼ同じ仕様のモデルがわずかなデザインの違いで、「Z3 Compact」だったり、「A4」だったりと、変わってしまうのは、Xperiaとしてのブランド価値を今ひとつ大切にしていないようにも見えてしまう。
Galaxy S6 edge SC-04G(サムスン電子)
3月のMobile World Congress 2015で発表されたサムスンのフラッグシップの日本向けモデル。昨年の「GALAXY S5」からデザインを一新し、メタルボディに前面と背面のガラスを組み合わせ、両側面にエッジスクリーンを備えるなど、今までにないデザインを打ち出したモデル。
デュアルエッジスクリーンの影響もあり、ボディを持ったときの印象はかなりスリムで、カバーなどを付けても持ちやすい印象。チップセットとして搭載されている自社製のExynos 7420オクタコアは、業界最高水準の14nmプロセスルールで製造されている。microSDメモリーカードスロットはなくなったが、本体メモリーは64GBに拡張されている。
従来モデルと比較して、防水防じんは非対応になったものの、ワンセグ/フルセグチューナー、おサイフケータイなどの日本仕様は継承されており、デザイン的にもスペック的にもトップクラスのモデルとして仕上げられている。
Galaxy S6 SC-05G(サムスン電子)
「Galaxy S6 edge SC-04G」と同じく、3月のMobile World Congress 2015で発表されたサムスンのもうひとつのフラッグシップモデル。「Galaxy S6 edge SC-04G」がフルスペックで開発されているのに対し、このモデルはディスプレイをフラットタイプにするほか、テレビチューナーはワンセグのみ、内蔵メモリーも32GBまでと、やや仕様を抑えている。
その効果もあってか、「実売価格はGalaxy S6 edge SC-04G」と比較して、約2万円ほど、割安に設定されているが、アプリなども含め、内部のソフトウェアは基本的にGalaxy S6 edge SC-04Gと共通で、その点を考えると、かなりお買い得なモデルだ。2年前のツートップ戦略の一角を担った「GALAXY S4 SC-04E」の買い換え向けにも適したモデルと言えそうだ。
AQUOS PAD SH-05G(シャープ)
2014年に発売された「AQUOS PAD SH-06F」の後継モデルで、ドコモ向けAQUOS PADとしては三代目のモデルになる。従来の「AQUOS PAD SH-06F」は7インチのタブレットとして、233gという世界最軽量を実現したが、今回はそれを更新し、約20g程度の軽量化が実現できるという。薄さは約8.0mmになり、手に持ったときの印象もかなり薄く、軽くなったことがわかる。
ディスプレイはおなじみのIGZO液晶を採用し、フルHDよりもわずかに広いWUXGAの解像度に対応する。従来モデル同様、音声通話にも対応し、おサイフケータイも利用できるため、1台目の端末としても活用できる。今回、同時に発表されたフィーチャーフォンの「SH-06G」と連携する機能として、従来からシャープ製タブレットで搭載されてきた「PASSNOW」が利用可能で、あらかじめ設定をしておけば、フィーチャーフォンの着信を「AQUOS PAD SH-05G」で確認したり、逆に「AQUOS PAD SH-05G」への通知を「SH-06G」に知らせることもできる。
ちなみに、ペアリングはタブレットにQRコードを表示して、それをフィーチャーフォンで読み取るだけで登録が可能。このほかにも拡大鏡など、便利な機能が搭載されており、フィーチャーフォンとの2台持ちを検討しているユーザーには魅力的なモデルと言えそうだ。
Xperia Z4 Tablet SO-05G(ソニーモバイル)
3月に開催されたMobile World Congress 2015で発表されたXperia Z4 Tabletの国内向けモデル。10.1インチのタブレットとしては世界最薄・最軽量を実現したモデル。薄さはわずか約6.1mmしかなく、手に持つと、本当に薄い板のような印象。重量は開発中で最終的な値が確定していないが、390g台に収まるという。他の10インチクラスのタブレットが500g前後ということを考えると、いかに軽いかがよくわかる。軽量化を実現できたのは、同サイズの従来モデルである「Xperia Z2 Tablet」に比べ、額縁部分を削り、筐体そのものをひと回り小さくできたため。
「Xperia Z4 SO-03G」同様、Xperia Zシリーズのオムニバランスデザインを採用するが、背面はシボ加工が施された樹脂素材で、指紋などの跡が付きにくくなっている。別売でBluetoothキーボードも用意されており、キーボードにスロットに本体をさし込むと、パソコンのように使うことができ、専用のランチャーも起動する。キーボードに本体をさし込んだまま、折りたたむと、そのままノートパソコンのように持ち歩くこともできる。
AndroidプラットフォームにマイクロソフトのOfficeアプリケーションが提供されるようになってきた現状を考えると、パソコンの置き換え的な活用も考えられるが、キー配列などに独特のものがあり、操作には少し慣れが必要かもしれない。
ARROWSケータイ F-05G(富士通)
同時に発表された「SH-06G」と並び、Androidプラットフォームを採用したフィーチャーフォン。折りたたみデザインを採用し、側面のボタンをワンプッシュするだけでオープンする構造を持つ。トップパネルには有機ELによるサブディスプレイを搭載し、赤外線通信にゃワンセグなどに加え、防水・防じんにも対応する。インカメラがなかったり、GPSによる位置情報を対応していないなど、機能は絞り込まれている。
Google Playには非対応だが、LINEアプリは出荷時にプリセットされており、アップデートにも対応する。カーソルなどの操作は基本的にすべて方向キーを使い、「AQUOSケータイ SH-06G」のようなポインティングデバイスは搭載されない。富士通製端末らしく、「スーパーはっきりボイス4」「あわせるボイス」「ゆっくりボイス」などの音声サポート機能はしっかりと搭載されており、らくらくホンなどを持ちたくないシニアユーザーのニーズにも応えられそうだ。
AQUOSケータイ SH-06G(シャープ)
「ARROWSケータイ F-05G」と並び、Androidプラットフォームを採用したフィーチャーフォンモデル。折りたたみデザインで、ヒンジ部分にボタンを押すだけで端末を開くクイックオープンを搭載し、端末を開いたときに相手の名前を呼んで、発信したり、開くたびに壁紙を変更する機能なども搭載される。赤外線通信やワンセグを搭載し、防水やGPSによる位置情報にも対応する。
カメラはメインが500万画素CMOSセンサーを採用し、インカメラは搭載されない。カメラにはAQUOSスマートフォンで好評を得ているフレーミングアドバイザーなどの撮影機能も搭載される。Google Playには非対応だが、LINEアプリが提供され、LINE向けスタンプなども購入できる。その他のSNSについては、ブラウザでの利用になるが、ボタン部をタッチパッドに見立てて操作できる「タッチクルーザーEX」を搭載しており、フルブラウザの環境を使いやすくしている。
魅力的な端末とサービスで「協創」を推し進められるか
改めて説明するまでもないが、NTTドコモは国内の携帯電話事業者として、最大のシェアを持つ。それだけに同社の顧客基盤を活かせば、さまざまな新しいサービスやソリューションが提供できる可能性は高いと言われてきた。ただ、これまでにそういった基盤を活かし、新しい事業を展開できたケースはあまり多くなく、「実質的に成功したのはiモードサービスくらいだろう」という指摘もある。
NTTドコモの加藤薫社長は、4月の決算会見において、「+d」を掲げ、さまざまなパートナーと新しい事業を「協創」していきたいという方向性を打ち出した。今回の発表はまさにこの「協創」を具現化した最初の発表であり、その最初のパートナーとして、かねてから交渉を進めていたローソンを選んだという格好だ。これに加え、既存のサービスもドコモポイントをdポイント、DCMXをdカードにするなど、NTTドコモの顧客基盤を軸にした経済圏を再構築する構えを見せており、今後、さらに多くの業種との連携により、新しいサービスを打ち出していくことが期待される。
今回、ローソンとの提携以外に発表された新サービスについては、やや地味な印象は否めないものの、一定のユーザー層が見込めるサービスとも言える。課題としては、こうした新サービスを発表するだけでなく、ドコモショップなどできちんと説明し、対象となるユーザーに使ってもらえるようになるかどうかだろう。ドコモに限った話ではないが、各携帯電話事業者の新サービス発表を見ていると、サービスの提供を開始したものの、十分にユーザーに訴求できず、結局、市場に根付かなかったり、ユーザーに妙な誤解を受けてしまっているケースがいくつも見受けられる。自社の閉じた環境でサービスを提供していたケータイ時代ならともかく、冒頭でも触れたように、OTTが存在する今日の業界においては、ユーザーに使ってもらわなければ、あっという間に忘れ去られてしまう。ましてやパートナー企業との協創ということになれば、なおさらNTTドコモとしての提案力や販売力を期待するはずだ。それが実践できなければ、せっかくのパートナー企業が離れて行ってしまうかもしれない。ドコモ全体として、そのことをもっと意識すべきだ。
一方、端末については、非常に手堅く揃えたという印象で、新たにAndroid搭載フィーチャーフォンもラインアップに加え、既存のフィーチャーフォンユーザーをフォローする体制も整ってきた。Androidを搭載したフィーチャーフォンということで、どこかの会社のように意味不明の言葉を使うのではなく、確実に存在するユーザー層に対し、堅実な製品を提案した形であり、料金プランも含め、これならば、保守的なユーザーも安心して、手を出せそうな印象だ。その他の端末については、XperiaやGalaxyは他事業者でもほぼ同じモデルがリリースされるため、差別化が難しいが、その他のモデルは独自色を出しており、端末のプレゼンテーションやタレントとのトークでもARROWS NX F-04Gの虹彩認証を社長自らデモをするなど、しっかりとアピールしており、好印象だった。
今回発表されたモデルはすでに一部のモデルの販売が開始されており、その他のモデルも順次、ドコモショップなどの店頭にデモ機が展示される予定だ。本誌では今後、各機種の開発者インタビューやレビュー記事が掲載される予定なので、こちらも参照いただきつつ、ぜひ、この夏の一台を見つけていただきたい。