速報「着実な進化で一段と完成度を高めたiPhone 3GS」
6月9日に米国で開催されたWWDCで公開され、6月19日からは米国で販売が開始されたiPhoneの最新モデル「iPhone 3GS」。日本国内でも6月26日にソフトバンクから販売が開始されるが、ひと足早く実機を試用することができたので、そのファーストインプレッションをお伝えしよう。
■iPhone 3Gより最大2倍のパフォーマンス向上
iPhone 3GS |
2007年のGSM方式に対応した初代iPhone、2008年7月に日本や欧米などで販売が開始されたiPhone 3G。iPhoneそのものについては、今さら説明するまでもないが、MacやiPodを販売してきた米アップルが「電話を再定義する」と意気込んで開発した携帯電話であり、従来のケータイやスマートフォンとは一線を画したユーザーインターフェイスやデザイン、エコシステムは、世界中の携帯電話やそのビジネスモデルにも大きな影響を与えたと言われている。特に、昨年7月に販売が開始されたiPhone 3Gは、世界70カ国以上の携帯電話事業者と契約が結ばれ、iPhone 3Gが発売された最初の四半期に初代モデルを超える690万台の販売を記録している。
国内では昨年7月の販売開始時にける『お祭り騒ぎ』が記憶に新しいところだが、販売台数も着実に推移しているようで、今年に入ってからはソフトバンクの「iPhone for Everybody」キャンペーンの効果などもあり、販売ランキングでも常にトップクラスで争っている。販売から約1年を経過した現在でも人気を維持していることからも、iPhone 3Gが従来のケータイと大きく違うことがうかがえる。
今回発売される「iPhone 3GS」は、昨年7月に発売されたiPhone 3Gの後継モデルだ。ボディデザインなどの基本的な構成は変わらないが、iPhone OSが3.0にバージョンアップし、新たに3メガ・オートフォーカスカメラやビデオ録画、音声コマンドによるボイスコントロール、デジタルコンパスなどが追加され、全体的なパフォーマンスも最大2倍、向上しているという。
パッケージに同梱される付属品 |
6月19日から販売が開始された米国では、すでに3日間で100万台を超えるセールスを記録し、好調なスタートを切っている。国内では6月26日にソフトバンクから販売が開始される予定で、すでに予約の受付も開始されているが、iPhone 3GSが従来のiPhone 3Gと比較し、どの程度、違っているのか、個々の機能はどんな様子なのかが気になるところだろう。発売日を前に、ひと足早く、iPhone 3GSの実機を試用することができたので、ここではファーストインプレッションをお伝えする。
なお、本稿では最終版に相当する製品を使用したが、実際に出荷されるものとは一部に差異が残されている可能性もあるので、その点はご留意いただきたい。また、iPhone OS 3.0についでは、すでに本誌にてレポート記事が掲載されているので、合わせてご覧いただきたい。
■ボディの違いはごくわずか
左:iPhone 3GS 右:iPhone 3G |
さて、まずは外観からチェックしてみよう。ボディデザインは従来のiPhone 3Gとまったく同じで、液晶ディスプレイを前面にレイアウトしたフラットなストレートタイプのボディを採用する。初代iPhoneからiPhone 3G、iPod touchからiPhone 3Gは別の製品ということもあり、デザイン的にも別物だったが、iPhone 3GSはiPhone 3Gの後継モデルということもあり、ボディを構成するケースやパーツ類も含め、外見上の違いはない。ただ、背面の商品名などがプリントされている部分は、従来と若干、仕上げが異なるとのことで、今回試用したモデルがブラックということもあり、細かい文字ながらもプリントがクッキリと刻まれていた。
左:iPhone 3GS 右:iPhone 3G |
ボディのケースなどが同じであり、端子類なども同じということで、Apple Universal Dockを含め、アクセサリー類なども従来のiPhone 3G用をそのまま流用することができる。ちなみに、仕様で見ると、従来よりもわずか2gほど、重量が増えているが、手に持って、わかるほどの差ではない。
iPhone 3GSが従来モデルともうひとつ異なるのは、ガラス面のコーティング処理だ。iPhone 3Gに限ったことではないが、現在の多くのケータイはディスプレイが大型化してきたことで、ディスプレイ部分を手で触れることが多くなり、手あか(指紋や掌紋)の付着が気になることが増えてきている。そこで、iPhone 3GSではガラス面に耐指紋性撥油コーティングを施すことにより、手あかを付きにくく、拭き取りやすくしている。耐指紋性撥油コーティングがどういう技術なのか詳細は不明だが、親油性のコーティングとも呼ばれており、タッチ操作によるユーザーインターフェイスを採用しているiPhoneならではの工夫と言えそうだ。筆者が発売以来、愛用しているiPhone 3Gには、液晶保護シートが貼られているが、指先でタッチしたときの感触は明らかにiPhone 3GSの方がなめらかであり、手あかも付きにくく、拭き取りもカンタンな印象だ。ケータイなどのモバイル機器には国内外ともディスプレイ保護シールを貼る傾向が多いが、iPhone 3GSではコーティングのメリットを活かすのなら、敢えて、ディスプレイ保護シールを貼らない方がいいのかもしれない。ちなみに、コーティングが施されているのはガラス面のみで、背面側は特に何も処理がされておらず、今回試用したブラックのボディは従来同様、手あかなどが目立ってしまう。
ディスプレイのスペックは従来同様、480×320ドット表示が可能な3.5インチのハーフVGA液晶を採用する。ただ、液晶パネルの部品は従来のiPhone 3Gと異なるようで、実際に端末を見比べてみると、複数のiPhone 3GとiPhone 3GSでは、若干色味が違うように見受けられた。視野角も若干、異なるようだが、前述のコーティング処理の影響で外光の反射が違っていたり、後述する省電力設計でバックライトの明るさなどが変わっていることも関係しているのかもしれない。ただ、iPhone 3GSの画面が見えにくいというわけではなく、視認性そのものは非常に良好で、快適に使うことができる。
また、外見ではわからない部分だが、グラフィックライブラリの規格として、OpenGL ES 2.0に対応しており、ゲームをはじめ、3Dグラフィックを利用するアプリケーションが数多く登場することが期待される。
■動画撮影も可能なオートフォーカス対応300万画素カメラを搭載
カメラ部の外観もiPhone 3G(右)と同様 |
従来のiPhone 3Gが、同時期に登場した他のハイスペックなケータイと比べ、スペックや機能面でやや見劣りがするのではないかと言われていたのが、カメラだ。今回のiPhone 3GSではオートフォーカスに対応した300万画素カメラに変更され、新たに動画撮影の機能も追加された。
300万画素カメラというと、世界的にもかなりハイスペックだと言われる日本のカメラ付きケータイと比較すると、やはり、スペック的には一歩も二歩も譲ってしまう感があるが、アップルではできるだけカンタンにきれいな写真を撮影できる工夫を凝らしている。まず、フォーカスは従来モデルのパンフォーカスに対し、今回はオートフォーカスに対応する。カメラ起動時は中央にフォーカスが合っているが、ファインダー(画面)上の対象物にタッチをすれば、特定のものにフォーカスができる「タップ・トゥ・フォーカス」を搭載する。撮影時のホワイトバランスや露出などはすべて自動で処理され、設定を切り替えることなく、10cm程度の接写(マクロ)撮影にも対応する。静止画の場合、イメージセンサー(明らかにされていないが、おそらくCMOSと推察される)で得たRAWデータから画像ファイルを生成する画像処理の部分は、iPhotoやApertureなどのMac OS用アプリケーションで培われた技術も活かされているという。
ビデオについては、iPhone 3GSで新たに搭載された機能で、H.264/AACによるVGAサイズの動画(QuickTime形式)を撮影することができる。フレーム数は30fpsで非常になめらかで、本体に内蔵されている加速度センサーの働きにより、iPhone 3GSを横向きに構えた状態での撮影では、ムービーも横向きで保存される。
撮影したムービーはメニューを呼び出し、メールやMMSでの送信、MobileMeでの保存、YouTubeへのアップロードなどができる。MMSでの送信については、ファイルサイズが大きいと、自動的にリサイズと変換が行われる。約7MBのムービーを通常のソフトバンク端末にMMSで送信したところ、端末側には176×144ドットにリサイズされた約150KBの3GPP形式のムービーファイルがメールに添付される形で届いた。
ムービーで秀逸なのは、撮影したムービーの編集機能だろう。ムービーの再生画面の上部にスライドバーが表示され、その部分をなぞって、ムービーの再生部分を選ぶことができ、左右のゲージをドラッグすることで、必要な部分を簡単にトリミングができる。細かい設定などはできないが、このあたりの割り切ったユーザーインターフェイスのわかりやすさは、アップルらしいと言えるだろう。
■日本語で音楽も発信もコントロールできる音声コントロール
iPhone 3GSに搭載されているiPhone OS 3.0は、6月17日からiPhone 3G向けに提供されており、iPhone 3GSの新機能の多くはすでにiPhone OS 3.0をインストールしたiPhone 3Gでも利用できるようになっている。しかし、iPhone 3GSのみで利用できる機能もいくつかある。
たとえば、音声でiPhone 3GSをコントロールする「音声コントロール」もそのひとつだ。ホームボタンを長押しすると、音声コントロールが起動するので、「法林に電話をかける」「○○(アーティスト名)を再生」といった音声コマンドを発すると、それに合った動作をするというものだ。人名はアドレス帳に登録されている名前を参照するが、表現は意外にゆるやかなようで、単純に姓を呼ぶだけでなく、「○○さん」「○○ちゃん」といった表現でも認識し、音楽も「音楽を再生」「ミュージックを再生」「再生」「プレイ」などのいずれでも認識する。アーティスト名やアルバム名なども認識するが、こちらは洋楽などが中心になってしまうと、今ひとつ認識率が良くないようだ(発音が良くないというのもあるが……)。同様に、筆者がよく聞く映画のサウンドトラックなども扱いが難しい印象だ。逆に、邦楽などであれば、認識もしやすいようだ。ちなみに、音声コマンドの言語設定を英語や他の言語に切り替えれば、他の言語でコントロールすることも可能だ。音声コントロールは、iPhone 3GSの動作をコントロールするだけでなく、iPod shuffleのVoiceOverと同じように、再生中の曲名をたずねたり、似た曲を探すといった操作もできる。こうした音声コマンドはケータイをはじめ、さまざまな機器でもトライされてきたが、携帯電話としてのコントロールと音楽プレーヤーとしてのコントロールを統合した環境はなかなか新鮮な印象だ。
音声コントロール同様、もうひとつiPhone 3GSならではの機能として、新たに地磁気センサーを利用したデジタルコンパスが搭載されている。デジタルコンパスを起動して、方位を知るだけでなく、iPhone 3GSに標準で搭載されている「マップ」を参照すると、現在地でどちらを向いているのかを地図を回転させながら表示することができる。方位も磁北と真北の両方を切り替えることができる。デジタルコンパスについては、開発者向けにAPIが公開されているので、今後、サードパーティのアプリケーションが数多く登場することが期待される。
その他、少し細かい部分についても触れておこう。まず、視力のハンディキャップユーザーを考慮し、ディスプレイ上に表示されている情報を読み上げるスクリーンリーダー(VoiceOver)などのアクセシビリティ機能が追加された。ホームスクリーン最上段には電波アイコンや電池アイコン、時刻などが表示されているが、右上の電池アイコンは設定を切り替えることで、いっしょに電池残量のパーセント表示をできるようにしている。
■iPhone OS 3.0で横型キーボードやFind My iPhoneを実現
iPhone 3GSに搭載されているiPhone OS 3.0では、新しい機能やサービスが実現されている。iPhone OS 3.0については、すでに本誌のレビュー記事が掲載されているが、iPhone 3GSで便利な機能について、ピックアップして紹介しておこう。
まず、従来のiPhoneで、もっとも不満が多かった「コピー&ペースト」については、OSレベルでサポートされ、アプリケーション間でもコピー&ペーストが可能になっている。使い方もなかなかわかりやすく、コピーしたい文字列付近をタッチ&ホールドして、離すと、「選択」「全選択」「ペースト」などのバルーンが表示される。「全選択」はその名の通り、すべてが選択されるのだが、「選択」を選ぶと、その前後の単語が自動的に選ばれる。たとえば、名前の入った文章なら、姓だったり、住所などの情報であれば、市区町村や電話番号の範囲が選ばれるので、すぐにカットやコピーができる。もちろん、選ばれた範囲をドラッグして広げることも可能だ。
また、文字入力では横画面での操作にも対応した。たとえば、メールの作成画面で横向きに構えると、画面の下半分に横長のQWERTY配列のフルキーボードが表示され、上半分のエリアに文字を入力することができる。もちろん、ダイヤルキーを表示してのマルチタップ入力も可能だ。
また、MobileMeとの連携サービスになるが、iPhone 3GS(iPhone 3Gを含む)を紛失したときなどに、ブラウザのある環境から簡単にiPhone 3GSを探し出す「Find My iPhone」というサービスが利用できる。端末側であらかじめ探索を受け付けるように設定しておけば、MobileMeにログインし、「iPhoneを探す」を選ぶと、ブラウザ上で自分のiPhone 3GSがどこにあるのかを地図上で表示することができる。位置は大まかな範囲なので、自宅なのか、会社なのか、どこかのお店なのかがわかる程度だが、ブラウザさえあれば、どこでも利用できるので、なかなか便利なサービスと言えそうだ。同様に、探している自分のiPhone 3GSに対し、メッセージを送って表示し、音を鳴らすといったこともできる。このメッセージと音はサイレントモードでも表示したり、鳴らすことができるので、「このiPhoneをなくして、困ってます。○○○○にご連絡ください」といったメッセージを送り、拾ってくれた人にコンタクトしてもらうといったこともできる。さらに、万が一、大切なデータが第三者に見られてしまうことを防ぐため、MobileMeにログインした画面からiPhone 3GSのデータを完全に消去し、初期設定に戻す「リモートワイプ」も利用できる。できることなら、お世話になりたくない機能だが、iPhone 3GSを安心して利用できるという点では、個人ユーザーにとってもうれしいサービスのひとつだ。
ホーム画面 | メールはMMSをサポート | 動画の添付も可能 |
ところで、iPhone 3GSは従来のiPhone 3Gに比べ、2倍高速であると謳われているが、実際のところはどうなのだろうか。まず、iPhone 3GSそのものの快適さについてだが、いずれの機能についてもほぼストレスなく使うことができている。ブラウザも快適だし、日本語入力もタッチ操作への慣れが必要であるものの、昨年7月に発売された頃のiPhone 3Gから考えれば、かなり快適な環境だと言って差し支えないだろう。
ただ、正直なところを書いてしまうと、従来のiPhone 3Gが快適だったのはiPhone OS 2.X時代で、先週、公開されたiPhone OS 3.0をインストールすると、一部で動作がやや重たく感じられるケースに出会うことがある。たとえば、無線LANのある環境でSafariを起動したり、AppStoreを参照しようとすると、少し反応がもたつくような印象があるのだ。ところが、まったく同じことをiPhone 3GSで行うと、そういったストレスやもたつきがまったく感じられない。非常にスムーズに、快適に利用できるのだ。
この点を考慮すると、iPhone 3GSは同じバージョンのOSをインストールしたiPhone 3Gよりも確実に高速であり、操作のレスポンスも快適だ。正確な数値として、表現できるかどうかはわからないが、最大2倍というのもうなずけるレベルの違いと言えそうだ。
しかし、基本的に同じバージョンのOSを搭載しながら、処理が高速になっているということは、当然、その分ベースバンドチップやアプリケーションプロセッサなども高速化されているはず。ところが、実はバッテリー駆動時間はほぼ同等で、Wi-Fiでの利用時間やオーディオやビデオの再生時間は逆に延びているくらいだ。この部分について、アップルに聞いてみたところ、電力消費については従来のモデルからハードウェアとソフトウェアの両面で省電力機能の見直しを行ない、処理の高速化を実現しながら、省電力を達成できたのだという。冒頭で液晶ディスプレイの明るさや色味が従来のiPhone 3Gと異なることに触れたが、もしかすると、省電力を達成するためにバックライトも見直され、そのことがディスプレイの表示に影響を与えたのかもしれない。
■着実な進化で完成度を高めたiPhone 3GS
昨年7月、世界でもっとも激戦と言われる日本のケータイ市場に参入し、この1年間、さまざまな形で国内外のケータイ業界に影響を与えてきたiPhone。6月26日、その最新モデルとなる「iPhone 3GS」がいよいよ国内でも販売が開始される。短い時間の試用だったが、全体的に見て、従来のiPhone 3Gで培われてきたものをうまく継承しながら、OSのバージョンアップとハードウェアの進化によって、さらに完成度を高めたという印象だ。外見はほぼ同じであり、ユーザーインターフェイスも従来モデルを継承しているが、着実に楽しさや使いやすさ、面白さを進化させており、スマートフォンなどとは違った新しいデジタルツールの使い方を体験させてくれる端末と言えそうだ。26日の発売日以降、ぜひ、店頭で実機に触れて、iPhone 3GSの進化と完成度の高さを体験してみて欲しい。
2009/6/24 23:01