法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」
iPhone 11シリーズは買いか? 待ちか? どれを狙うか?
2019年10月8日 06:00
9月11日に米国で発表され、国内では9月20日から販売が開始されたiPhone 11シリーズ。2年前に登場したiPhone Xシリーズの流れをくむ新世代のiPhoneもいよいよ3代目となった。すでに本誌では解説記事やレビュー記事などが掲載されているが、それらを踏まえ、今回のiPhone 11シリーズが買いなのか、待ちなのか、買うとすればどれを狙うかなどを考えてみよう。
高価格路線を走るiPhone
グローバル市場では三番手ながら、国内市場ではトップシェアを獲得しているアップルのiPhone。統一された世界観と洗練されたユーザビリティもさることながら、国内主要3社の販売施策による強い後押しもあり、順調にシェアを伸ばしてきた。
ここ数年、そんなiPhoneの人気が少し転換期を迎えたかもしれないと言われることが増えてきた。一昨年のiPhone X、昨年のiPhone XS/XS Max/XRは、予想よりも高い価格設定が影響してか、従来ほど、販売に勢いが感じられなかった。国内市場での反響は不調というほどではなかったものの、グローバル市場では予想を上回る販売の落ち込みが伝えられ、ディスプレイパネルを供給するメーカーをはじめ、さまざまな部品メーカーへの減産指示が報じられるなど、あまり風向きは芳しくなかった。
もちろん、製品そのものの完成度は非常に高かったが、Androidプラットフォームを採用するライバルメーカーの競争はさらに激しく、カメラを中心とした機能では「すでにiPhoneは周回遅れ以上」という厳しい指摘も聞かれていた。
こうした状況に対し、今年のiPhoneがどのようなラインアップを展開してくるのかが注目されたが、今回は「iPhone 11」「iPhone 11 Pro」「iPhone 11 Pro Max」の3機種が発表された。ネーミングが従来のローマ数字を使った「X(テン)」から、一般的なアラビア数字の「11(イレブン)」に変わったことで、少し世代が新しくなったような印象も受ける一方、iPhoneのシリーズ製品としては、はじめて「Pro」の名を冠したモデルをラインアップに加え、普及モデルとハイエンドモデルの2つのシリーズに区別しようとしている。
各機種の特徴をチェック
それぞれの機種の項目別の特長を順にチェックしてみよう。まず、主力機種になることが予想される「iPhone 11」は、昨年のiPhone XRの後継モデルで、ディスプレイには6.1インチの液晶パネルを採用する。ボディはアルミニウムのフレームをガラスで挟み込んだ構造を採用し、ボディカラーはパープルやグリーンなどの新色を加えた6色をラインアップする。ボディサイズはiPhone XRとまったく同じで、重量は194g。同クラスのディスプレイを搭載したスマートフォンに比べると、ややヘビー級の印象は否めない。
次に、iPhone 11 Proは従来のiPhone XSの後継機種に相当し、ディスプレイには5.8インチの有機ELディスプレイを搭載する。フレームは従来モデルに引き続き、ステンレスフレームを採用し、背面にはテクスチャードマットガラスと呼ばれるマットなガラスを組み合わせており、指紋も付きにくくしている。
ただし、ボディは従来のiPhone XSから、幅、高さ、厚さともわずかに増え、重量はさらに11g増え、188gとなっている。同クラスのディスプレイを搭載したライバル機種と比較しても重いのが気にかかる。ボディカラーは新色のミッドナイトグリーンを加えた4色がラインアップされる。今のところ、新色のミッドナイトグリーンの人気が高いようだが、マットなガラスの効果もあってか、従来モデルに比べ、各色とも落ち着きのある仕上がりとなっている。
iPhone 11 Pro Maxは従来のiPhone XS Maxの後継機種に位置付けられ、ボディサイズやディスプレイサイズ、バッテリー容量などを除けば、後述するカメラも含め、基本的にはiPhone 11 Proと共通仕様となっている。ディスプレイはiPhone最大となる6.5インチの有機ELディスプレイを搭載する。フレームとガラスの構成はiPhone 11 Proと共通で、カラーバリエーションも同じく4色展開となっている。
ボディサイズは従来のiPhone XS Maxよりも幅、高さ、厚さが0.4mmずつ増え、重量は18g増の226gとなっている。同クラスのディスプレイを搭載したスマートフォンで、150gを切る製品が登場していることを考慮すると、かなりのヘビー級であり、カバーなどを装着して利用するときはさらに重く、扱いにくい端末になってしまう。
iPhone 11 Pro Maxに限った話ではないが、やはり、毎日持ち歩き、日常的に手にする商品であることを鑑みると、ここ数年のiPhoneの重量増は端末の使い勝手を損なうレベルに達しつつあり、とても歓迎できるものではない。これでは既存のiPhoneユーザーも機種変更や買い換えを躊躇してしまうかもしれない。
超広角カメラ、広角カメラを共通で搭載
今回のiPhone 11シリーズが従来のiPhone XS/XS Max/XRなどに比べ、大きく異なるのは、やはりカメラだろう。結論を先に書いてしまうと、このカメラ機能にどれだけの魅力を感じるのかによって、従来のiPhoneからの乗り換えを判断してもいいくらいだ。
まず、iPhone 11シリーズ3機種で共通しているのが超広角カメラと広角カメラで、いずれも12Mピクセルのイメージセンサーを採用し、超広角カメラはF2.4、広角カメラはF1.8の明るいレンズを組み合わせている。
広角と超広角の2つのカメラに加え、iPhone 11 ProとiPhone 11 Pro Maxの2機種には、同じく12MピクセルのイメージセンサーにF2.0のレンズを組み合わせた望遠カメラが搭載される。そのため、背面には超広角カメラ、広角カメラ、望遠カメラの3つのカメラが三角形に並び、かなりカメラモジュールの主張が強いデザインに仕上げられている。ちなみに、アップルによれば、3つのカメラの距離は等間隔に配置されているため、ポートレートモードなどで被写界深度の違いなどを算出しやすいとしている。
この3つのカメラの焦点距離は、焦点距離は35mm換算で、超広角カメラが13mm、広角カメラが26mm、望遠カメラが52mmとなっており、広角カメラを基準とした場合、超広角カメラが光学0.5倍、望遠カメラが光学2倍となっている。この等間隔の倍率で構成されていることは、画像処理や編集などでもアドバンテージがあるとしている。
デジタルズームについてはiPhone 11が最大5倍、iPhone 11 Pro/Pro Maxが最大5倍に設定され、光学手ぶれ補正なども搭載される。暗いところで撮影するとき、複数枚で被写体を捉えて、写真を生成するナイトモードも新たにサポートされる。
実際の撮影については、従来モデルに比べ、かなり進化を遂げたと言えそうだ。なかでも従来のiPhoneがライバル機種に比べ、大きく出遅れていた感のある暗所での撮影が改善され、通常の暗めの場所から夜景まで、全体的にバランス良く、自然に撮影できるように仕上げられている。筆者がよく暗所での撮影を試す薄暗いバーでも照明などに引っ張られることなく、グラスなどもきれいに撮影することができた。
一方、ライバル機種では子どもが寝ている真っ暗な部屋でも被写体を認識できるほどの高感度撮影に対応するなど、日常を撮影するスマートフォンのカメラならではの独自の進化を遂げているが、iPhone 11はどちらかと言えば、自然な写真を撮る方向を目指しているようで、人によっては物足りなさを感じるかもしれない。
また、今回のiPhone 11シリーズでは、超広角カメラと広角カメラによる広角撮影が注目を集めている。広角撮影は背景を活かしながら人物を撮影するときをはじめ、室内など、十分に被写体との距離が確保できないようなシーンで、かなり有効だ。超広角カメラは街や旅先などで風景を撮るときに役に立つ。
一部では今回のiPhone 11シリーズの超広角カメラと広角カメラを極端に礼賛する向きも見受けられるが、広角撮影はすでにファーウェイをはじめ、サムスンのGalaxy、ソニーのXperia、シャープのAQUOSなど、多くの他製品で数年前から搭載されており、上位機種だけでなく、ミッドレンジ以下のモデルでの搭載が増えている。超広角撮影についても焦点距離に違いがあるが、最新機種ではすでにGalaxy S10/S10+、HUAWEI P30 Pro/Mate 20 Pro、Xperia 1などがサポートしており、どちらかと言えば、ようやくiPhone 11シリーズがライバル機種に追いついたような状況だ。13mmという焦点距離についてはすでに一部で指摘されているように、実際には歪み補正でもう少しタイトに撮影されるため、実用面ではライバル機種と同等レベルだ。
iPhone 11 ProとiPhone 11 Pro Maxに搭載される望遠カメラについては、広角カメラを標準としての光学2倍、デジタルでは最大10倍までと、従来モデルと同じ仕様で、手堅くまとめた印象だ。デジタルズームについては優れた画像処理の効果もあり、画質劣化がうまく抑えられているが、夜景でのデジタルズームについては映像が粗くなってしまうことが多く、ライバル機種に比べ、まだ物足りない印象だ。
ライバル機種ではあまり見かけない新しい取り組みとしては、セルフィーのスローモーションが挙げられる。端末を横向きに構えれば、画角が拡がり、背景を活かしたスローフィー(スローモーションのセルフィー)が撮影できる。セルフィーはすっかり定番の機能になったが、スローモーション動画にすることで、SNSなどでは今までと違った反響が得られるかもしれない。
ちなみに、iPhone 11のカメラ部は従来のiPhone XSなどに近いデザインだが、iPhone 11 ProとiPhone 11 Pro Maxのトリプルカメラは、かなりインパクトの強いデザインで、ユーザーによって、好みがわかれそうだ。また、従来モデルからも気になっているが、iPhoneのカメラ部はリング部分が突起しているため、他の端末などと重ねて持つと、カメラ部と接する端末のガラスに傷が付いてしまうことが多い。アップルは「iPhone 11にはスマートフォンでもっとも頑丈なガラスを採用している」と謳っているが、iPhone 11のカメラ部がそのガラスを傷つけてしまうかもしれないのは、ちょっと皮肉な話だ。できることなら、市販の背面カバーなどを装着して、カメラ部が他のスマートフォンや机などと干渉しないように使うことを心がけたい。
Wi-Fi 6にも対応
さて、その他の項目もチェックしてみよう。ボディ周りでは従来モデルに引き続き、IP68相当の防水防塵に対応しており、iPhone 11 ProとiPhone 11 Pro Maxの耐水性能は水深4mでの30分(従来モデルやiPhone 11は水深2m)、iPhone 11はiPhone XRの2倍となる水深2mで30分に進化している。
ちょっと変わったところでは、空間認識のための超広帯域テクノロジーを利用するためのU1チップが搭載されており、同じU1チップを持った他のアップル製品の場所を正確に認識できる。具体的には、iPhone 11シリーズ同士でAirDropを使い、写真などを転送するときは、その人がいる方向に端末を向けると、相手のiPhoneが認識される。ただし、この認識する相手は連絡先に登録されている相手に限られている。今後、U1チップ搭載の端末や機器が増えてくれば、何か面白い展開があるかもしれないが、まだ用途は限定的だ。
通信関連では5Gに対応しないものの、最大30のLTE周波数帯に対応し、eSIMと物理SIMのデュアルSIMに対応する。eSIMについてはIIJが国内向けにサービスを提供するほか、海外では国際ローミング向けのeSIMサービスも増えているため、海外渡航が多いユーザーは昨年のiPhone XS/XS Max/XRを含め、対応機種を検討する価値がありそうだ。
Wi-Fiについては最新のWi-Fi 6(IEEE802.11ax)に対応しており、Wi-Fi 6対応製品が設置された場所では高速なWi-Fi通信を利用することができる。Wi-Fi 6対応製品は徐々に増えてきており、現在利用している無線LAN製品が古いようであれば、iPhone 11シリーズ購入後に、Wi-Fi 6対応製品に買い換えてみるのも手だ。
5G対応モデルがないから見送り?
ところで、今回のiPhone 11シリーズについて、「5Gに対応してないから見送り」といった意見を見かける。ご存知のように、アップルは元々、インテルが開発を進めていた5G対応のチップセットを採用するつもりでいたものの、インテルが開発を中止してしまったため、米クアルコムと和解し、2020年以降に5G対応製品をリリースすることを目指していると言われている。
その後、アップルはインテルのモデム事業を買収するという形になったが、これは特許などの知的財産のためという意味合いが強く、必ずしも自らが5G対応モデムを開発するというわけではなさそうだ。アップルは過去に通信技術の特許などで苦しんできた経緯に加え、将来的に他社との交渉を優位に進められるなどの思惑があり、買収に踏み切ったと推察される。同時に、5Gが社会に浸透していくことを考えると、5GはiPhoneやiPadのためだけでなく、IoT製品などを開発するときにも役に立つだろうという判断も含まれる。
また、5Gの今後の展開については、アメリカや韓国など、一部の国と地域でサービスが開始されているものの、まだ利用可能エリアは限られているうえ、日本も正式サービスは来春となっている。日本はサービスが開始されれば、比較的早くエリアを展開できると予想されるが、それでも本格的に多くのユーザーが5Gの恩恵を受けられるには2~3年はかかると見られている。
しかも当初の5G対応製品はネットワークとの連携などが十分にチューニングされていなかったり、5Gモデムが4Gのチップセットとは別に搭載され、電力消費が大きいといったリスクも十分に考えられる。これらに加え、他のプラットフォームのスマートフォンの動向を見てもわかるように、当初の5G対応製品は当然、既存の4G対応製品よりも価格が高くなってしまうことが考えられるため、高価格路線のiPhoneはさらに高価になることが十分に考えられる。
これらのことを総合すると、2020年秋に発表が『期待』されている5G対応iPhoneのために、今回のiPhone 11シリーズを見送り、『待ち』という判断は、必ずしも堅実とは言えない。現在、自分が利用しているiPhoneの製品ライフサイクルを考えたうえで、判断する方が賢明だろう。
製品ライフサイクルについては、本誌の「iPhone 11はどれだけ高速? 歴代iPhoneのプロセッサー性能を比較」で少し触れられているが、搭載されているチップセットによって、iOSがいつまで使えるかが左右されることを踏まえて検討したい。
今回のiPhone 11シリーズに合わせて公開されたiOS 13では、A8チップを搭載したiPhone 6シリーズ以前のモデルがサポートされなくなっている。毎年、一世代ずつサポートされるチップが『足切り』されるわけではなく、最近は搭載メモリー容量なども関係する。ただし、アップルはメモリー容量を公開していないため、一般的なユーザーは判断しにくい。
現時点では何も確定的なことは言えないが、順当に行けば、2020年秋にはメモリー容量が2GB以下のiPhone 6sシリーズやiPhone SEがサポートされなくなる可能性が高く、iPhone 7シリーズも2021年に終了する可能性が考えられる。そのため、iPhone 6sシリーズ以前のユーザーは今回のタイミングで買い換えておき、2~3年後に5G対応モデルのiPhoneが手頃な価格で販売されていれば、買い換えを検討するのが堅実と言えそうだ。
難しいのはiPhone 7シリーズで、搭載されているA10チップセットは、今回、同時に発表されたiPad(第7世代)に搭載されているものの、チップセットとしてはすでに3世代前のものとなっている。メモリー容量はiPhone 7 Plusが3GB、iPhone 7は2GBであり、仮に将来のiOSのバージョンアップ対象に含まれていてもiPhone 7は利用できる機能が制限される可能性も考えられる。同時に、iPhone 7シリーズは主要3社以外から割安な価格で販売されているため、リセールバリューは急速に落ち込んでいくことが予想され、ある程度の価格で売却できる今のうちに、買い換えてしまうのもひとつの手だろう。
とは言うものの、今回のiPhone 11シリーズは冒頭でも触れたように、高価格路線を維持している。なかでもiPhone 11 ProとiPhone 11 Pro Maxは「値下げした」とは言え、全モデルが10万円を超えており、スマートフォンとして、かなり高い価格設定に機種変更を躊躇してしまうユーザーも多いだろう。
その点、iPhone 11は8万円台から購入でき、iPhone 11 ProとiPhone 11 Pro Maxとの大きな差が望遠カメラやディスプレイの方式などに限られているため、多くのユーザーの機種変更で手を出しやすいモデルとなっている。ただし、一部では来春、アップルがiPhoneの低価格モデルを出すのではないかという情報が伝えられており、どうしても予算的に厳しいのであれば、低価格モデルを待つという選択肢もある。もちろん、真偽のほどは定かではないが……。
また、いずれのモデルを選んだ場合でも「AppleCare+」などの補償サービスはしっかりと入っておくことを強くおすすめしたい。iPhone 11シリーズの前後面をガラスで仕上げたボディは、従来モデル同様、落下時にガラスを割ってしまう可能性が高い。特に、今回は背面のガラスをカメラ部だけ盛り上がった仕上げにするなど、凝った構造を採用しているうえ、iPhone 11 ProとiPhone 11 Pro Maxは重量も増えているため、落下時に今までと違った壊れ方をするリスクが考えられるからだ。
例年に比べ、やや静かなスタートを切ったiPhone 11シリーズ。すでに店頭には実際に操作できるデモ機などが並んでいる。これまで使ってきたiPhoneの下取りや買取なども考慮に入れながら、買うか、見送るか、どれを選ぶかを決めることをおすすめしたい。まずは各店舗に出向き、実機を手に取り、各機種を試していただきたい。