法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

マイクロソフトが「Surface Neo」と「Surface Duo」で狙う新しいモバイル体験

 マイクロソフトは10月2日、米国ニューヨークでSurfaceシリーズのイベントを開催し、最新の5製品を発表した。同時に、2020年に発売を予定している開発中の「Surface Neo」と「Surface Duo」という新しいモバイル端末をお披露目した。

10月2日のイベントで発表されたSurfaceシリーズのラインアップ

 本誌では現地からの速報記事で内容をお伝えしたが、今回は注目度の高い「Surface Neo」と「Surface Duo」の狙いと可能性などについて、考えてみよう。

マイクロソフトって……

 モバイル業界で連想される社名やブランドと言えば、Androidプラットフォームの「Google」、チップセットや通信技術の「Qualcomm」、iPhoneやiPadの「Apple」などがすぐに思い浮かべられる。各携帯電話会社で言えば、国内の「NTTドコモ」「au」「ソフトバンク」「楽天モバイル」、端末メーカーでは「ソニー」や「シャープ」、「京セラ」「富士通」などの国内勢、「サムスン」「ファーウェイ」「OPPO」「モトローラ」「ASUS」などの海外勢が知られている。

 これらに対し、「マイクロソフト」はどういう位置付けの会社となのだろうか。あらためて説明するまでもないが、マイクロソフトはもっとも広く利用されている「Windows」をはじめ、WordやExcelといった「Microsoft Office」などを手がける企業だ。モバイル業界から見れば、古くは「Windows CE」や「Pocket PC」、近年は「Windows Mobile」や「Windows Phone」で関わってきたが、残念ながら、コンシューマ向けのスマートフォンは実質的に撤退してしまった企業というイメージがあるかもしれない。おそらく、多くのユーザーにとっては「モバイル業界の企業」というより、「PC業界の企業」というイメージの方が強いだろう。

 しかし、こうしたイメージは、もはや過去のものになりつつあり、実はモバイル業界とも非常に関わりの深いポジションにいる。そのひとつがマイクロソフトが提供するオンラインサンービスであり、世界中のさまざまな企業が同社のオンラインサービスを利用し、モバイル向けにも多彩なサービスを提供している。

言わば、裏方的な立場としてもモバイル業界に関わっているわけだ。また、コンシューマーにとって、もっとも身近な例としては、オンラインストレージサービスの「OneDrive」やオンラインメールサービス「Outlook.com」などが挙げられ、なかでもOneDriveはOffice 365 Soloのユーザー向けに「1TB」もの容量を提供していることもあり、筆者の周りでも多くのユーザーが利用している。

 そんなマイクロソフトにとって、もうひとつモバイルにも関わる製品として注力してきたのが同社のハードウェア製品シリーズである「Surface」だ。2012年に初代モデルが発表され、2013年からは国内向けにも販売が開始。その後はほぼ毎年、新モデルが投入され、国内市場でも安定した人気を確保している。現在はクラムシェルタイプなどもラインアップを拡大したが、初代モデルから続くキックスタンドを備えた2in1スタイルのモデルは、このスタイルの先駆者として、ここ数年の2in1スタイルPCの市場拡大を牽引してきた。

 Surfaceが市場に登場して間もない頃、アップルは同社のiPadの新製品を発表する場において、「他社はタブレットだか、パソコンだか、よくわからないものを作っている」と揶揄したが、今やアップルもiPad Proなどにキーボードを用意し、iPadOSでパソコンライクな使い方を提案しているのは、何とも笑えない話だ(笑)。

マイクロソフトが提案するデュアルスクリーン

 そんなマイクロソフトが10月2日、米国・ニューヨークでSurfaceシリーズのイベントを開催し、最新の5製品を発表した。発表内容については本誌の速報記事でお伝えした通りだが、この5つの製品とは別に、2020年のホリデーシーズンをめどに開発を進めている新しいデュアルスクリーンのモバイルデバイス「Surface Neo」と「Surface Duo」をお披露目した。マイクロソフトがこうした形で開発中のモデルを先行して公開することは珍しいが、デュアルスクリーンという新しいフォームファクターを活かすためのアプリを開発して欲しいという意図があるという。

Surface Neoを手に新しいモバイルの利用スタイルを語る米マイクロソフトの最高製品責任者(CPO)のパノス・パネイ氏
プレゼンテーションで見た印象は「折りたためるタブレット」に近い

 まず、最初に公開された「Surface Neo」は、2枚の9インチディスプレイで構成されたデュアルスクリーン端末で、360度回転可能なヒンジで接続され、本体を開いた状態では13インチ相当の大画面で利用できる。プラットフォームは現在のWindows 10をベースにした「Windows 10X」を搭載する。今のところ、Windows 10Xがデュアルスクリーン対応のプラットフォームであること以外は明らかになっていないが、今後、LenovoやDell、HP、ASUSなどから投入が予定されているデュアルスクリーン端末にも搭載されるとされている。もしかすると、2020年のモバイルPCはWindows 10X搭載のデュアルスクリーン対応モデルが一挙に登場することになるのかもしれない。

実機を触ることはできなかったが、タッチ&トライコーナーに展示されていたSurface Neo

 実機については触ることができなかったものの、プレゼンテーションとタッチ&トライコーナーでの展示を見た限り、大画面タブレットを折りたためるようにしたようなサイズ感だった。ディスプレイサイズから考えると、2台のiPad miniをつなげたような印象だが、ヒンジのある内側はかなりの狭額縁で、外側もスリムな額縁に仕上げられていた。プレゼンテーションのデモでは2つの画面を別々に使うようなシーンが中心で、ディスプレイの継ぎ目にはそれほど違和感がなかった。

ちょうどコンパクトなディスプレイのタブレットを2つつないだようなサイズ感。大画面で見やすい
Surface Neoの製品写真。キーボードは手前側にあり、その上のエリアはセカンドディスプレイとして利用可能。手書き入力もサポートされる
キーボードの位置をずらすと、手前側にはタッチパッドに相当するものが表示される

 また、「Surface Neo」は大画面タブレットのような形状でありながら、マグネットで装着できるキーボードが用意されており、デバイスの片方のディスプレイ側に載せるような形で装着して、コンパクトなノートパソコンのようなスタイルでも利用できるようになっていた。

Surfaceペンは背面にマグネットで装着し、充電することが可能。現行のSurfaceペンに比べ、やや平たい形状を採用しているようだ

 キーボードの位置をずらすことで、露出したディスプレイ部分をタッチパッドのように使えるのもユニークなアイデアだ。Surfaceペンと同じようなペン(Surfaceペンよりも平たい形状)も背面にマグネットで装着できるようになっている。

 そして、「Surface Neo」に続いて、お披露目された「Surface Duo」は、まさかのAndroidベースのデュアルスクリーン搭載モバイル端末だった。Googleの「Androidスマートフォン」の定義との兼ね合いもあってか、マイクロソフトが「Androidスマートフォン」とは表現していないため、敢えて、記事中では「Androidベースのモバイル端末」と表記しているが、音声通話の機能も備えており、実質的にはAndroidスマートフォンと同等のものだと考えて、差し支えない。

タッチ&トライコーナーに展示されていたSurface Duo。Androidベースのプラットフォームで動作するが、マイクロソフトのアプリが搭載される

 「Surface Duo」は「Surface Neo」をひと回り小さくしたモバイル端末で、360度回転可能なヒンジで2枚の5.6インチのディスプレイが接続され、本体を開いた状態では約8.3インチ相当のディスプレイとして利用できる。プレゼンテーションのデモやタッチ&トライコーナーでの展示を見た印象としては、開いた状態がコンパクトなタブレットサイズで、閉じた状態は少しワイドなボディのスマートフォンに見えた。折りたたんだ状態の厚みもそれほど分厚い印象はなかった。

両手の手のひらに乗る程度の大きさ。少し大きめの紙の手帳と変わらないサイズ感だ
既存のスマートフォンよりも少し大きいディスプレイを2枚、搭載した折りたたみデザイン。このスタイルなら、コンパクトなモバイルPCのように使えそうだ

 また、マイクロソフトがAndroidプラットフォームを採用したデバイスを製品化することには驚かされたが、米マイクロソフトの最高製品責任者(CPO)のパノス・パネイ氏によれば、このサイズのモバイル端末に、もっとも最適なプラットフォームを考えたとき、Androidプラットフォームが望ましいという判断に至り、Googleとの協業という道を選んだという。

 ちなみに、今年のGoogleの開発者イベント「Google I/O」ではAndroidプラットフォームが「折りたたみ」端末のユーザーインターフェイスをサポートすることが明らかにされ、当初、これはサムスンの「Galaxy Fold」やファーウェイの「HUAWEI Mate X」などを意識した対応と考えられていたが、実は「Surface Duo」への搭載も念頭にあったのかもしれない。

音声通話のアプリも搭載されているため、通話も可能
ペンによる手書き入力をサポートしているため、手帳に書く感覚で使うことができる

 「Surface Duo」はプラットフォームをAndroidベースにしているものの、端末にはマイクロソフトがAndroidプラットフォーム向けに提供している「Office Mobile」のアプリが搭載されている。音声通話をサポートするほか、ビデオコールにも対応しており、ビデオチャットを使いながら、もう片方の画面でOfficeアプリを参照するといった使い方も可能にしている。

 ちなみに、カメラについては本体の写真や動画を見る限り、背面側にはカメラが備えられていないため、おそらくディスプレイ側にカメラが備えられ、普段はインカメラとして使いつつ、対象物を撮影するときは360度ヒンジをフルに回転した状態(両方のディスプレイが外側になった状態)にして、アウトカメラのように使うことを想定しているのかもしれない。

Galaxy FoldやHUAWEI Mate Xとの発想の違い

 マイクロソフトという意外なところから製品が登場したことで、「デュアルスクリーン」や「折りたたみ(フォルダブル)」への注目が今まで以上に高まってきた印象だが、モバイル業界では今年、サムスン「Galaxy Fold」やファーウェイの「HUAWEI Mate」が相次いで発表された。過去を振り返ってもNECの「MEDIAS W」、その流れを継承したNTTドコモの「M Z-01K」とグローバル向けのZTE「AXON M」などが市場に投入されてきた実績がある。

 こうして見ると、今後のスマートフォンの進化形として、デュアルスクリーンや折りたたみが有力視されることになるが、筆者は今回、発表された「Surface Neo」と「Surface Duo」が「Galaxy Fold」や「HUAWEI Mate」と比べ、大きく異なる点があると見ている。たとえば、そのひとつが発想の違いだ。

 Galaxy FoldやHUAWEI Mate Xはディスプレイに有機ELを採用している。ディスプレイが本体の内側と外側という違いこそあるものの、両機種とも有機ELパネルの「曲がる」特性を活かすことで、「折りたたむ」スマートフォンを生み出した。これにより、使うときは本体を開いて、大画面で操作し、持ち歩くときは折りたたんでコンパクトにするという使い方を実現しており、Galaxy Foldについては外側にもディスプレイを搭載し、折りたたんだ状態での操作にも配慮している。しかし、ディスプレイを曲げることによるリスクもあり、Galaxy Foldはヒンジ部分を含めた改良に時間を費やし、発売は半年近く遅れることになった。

 これに対し、「Surface Neo」と「Surface Duo」はこれまでのスマートフォンやタブレット、パソコンの在り方を考え、それぞれの利用シーンにおいて、いかに生産性を高めるかを考えた結果、新しいフォームファクターが検討され、デュアルスクリーンで折りたたみという答えを導き出している。たとえば、プレゼンテーションのデモではビデオチャットをしながら、もう片方の画面でOfficeアプリを使うシーンなどが紹介されていたが、現在のPCやタブレットでもよく利用される使い方をもうひと回りコンパクトなデバイスで実現しようとしている。

 この2製品に限らず、今回の発表イベントのプレゼンテーション全体でも強調されていたが、マイクロソフトは「人(ユーザー)」を中心に据え、その人がいかに便利に活用できるか、仕事などに活かすことができるかを考えたうえで、製品やサービスが開発された印象だ。このあたりはマイクロソフトが企業ミッションとして掲げる「Empower every person and every organization on the planet to achieve more.(地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする)」にも相通じるものがあると言えるだろう。

パネイ氏はSurfaceシリーズを交響楽にたとえ、1つ足りない楽器があるとして、Surface Duoを紹介した

 こうした考えに基づいているからこそ、「Surface Neo」と「Surface Duo」は「ディスプレイを折り曲げる」というチャレンジをするのではなく、より現実的な解である「2枚のディスプレイをつなぐ」という形状によって、フォルダブルの可能性を追求しているわけだ。しかも2枚のディスプレイはいずれもフラットな液晶パネルでもかまわないため、解像度やサイズ、仕様などを自由に選ぶことができ、コスト面でも有利になる。

 ちなみに、この「2つのディスプレイをつなぐ」という形状は、NTTドコモの5Gプレサービスでも採用されたLGエレクトロニクス製「LG V50 ThinQ 5G」、ASUSのゲーミングスマートフォン「ROG Phone II」でもアクセサリーという形で提供されている。なかでもゲームは片方でゲームのプレイ画面、もう片方でタッチパネル対応コントローラーといった使い方ができるため、デュアルスクリーンの有効性を活かすことができる。アクセサリーという形であれば、比較的、コストも抑えられるため、今後、他メーカーも参入してくるかもしれない。

 発売の一年以上前にお披露目するという異例の発表を行なったマイクロソフトの「Surface Neo」と「Surface Duo」だが、今のところ、それぞれの製品の詳細な仕様や内容については、開発中ということもあり、まだ明らかにされていない。マイクロソフトでは両製品のプロダクトムービーを公開しており、より実際の利用シーンなども思い浮かべやすい内容となっているので、興味のある人はぜひ一度、ご覧いただきたい。

【Introducing Surface Neo】
【Introducing Surface Duo】

 また、価格についても明らかにされていないが、他のSurfaceシリーズ製品の米国市場向け価格を考慮すると、「Surface Neo」はおそらく1000ドル前後からスタートすると予想されている。ただし、現行の国内向けに販売されているSurfaceシリーズは、国内市場向けがOfficeプリインストールモデルということもあり、数万円、高い価格になるかもしれない。

 一方、「Surface Duo」はどういう経路で販売されるのかにもよるが、同じフォルダブル端末でもGalaxy FoldやHUAWEI Mate Xなどの2000ドル前後といった価格帯ではなく、高くても1200~1300ドル程度、安ければ、他のSurfaceシリーズのエントリー価格と同じ1000ドル程度で販売することになるかもしれない。

Surface Duo(左)とSurface Neo(右)はモバイル端末の新しいトレンドを作り出せるだろうか

 スマートフォンの新しい進化の形として期待されるデュアルスクリーン端末。既存のモバイル端末メーカーとは違った軸からマイクロソフトの「Surface Neo」と「Surface Duo」。2020年以降、モバイル業界の端末のトレンドがどのように変わっていくのか、あるいは変わらないのか。今後の各社の動向が注目される。

法林 岳之

1963年神奈川県出身。携帯電話・スマートフォンをはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるゼロからはじめるiPhone XS/XS Max/XR超入門」、「できるゼロからはじめるiPad超入門 Apple Pencil&新iPad/Pro/mini 4対応」、「できるゼロからはじめるAndroidスマートフォン超入門 改訂3版」、「できるポケット docomo HUAWEI P20 Pro基本&活用ワザ 完全ガイド」、「できるゼロからはじめるAndroidタブレット超入門」、「できるWindows 10 改訂4版」(インプレス)など、著書も多数。ホームページはこちらImpress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。