法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

次なる10年のスタンダードを目指し、未来を追求した「iPhone X」

 9月12日、米国・サンノゼの新社屋敷地内に建設された「Steve Jobs Theater」において、スペシャル・イベントを開催したアップル。昨年のiPhone 7/7 Plusから進化を着実に遂げた「iPhone 8」「iPhone 8 Plus」も注目されたが、やはり、多くの人の心をひきつけたのは「One more thing……」というおなじみのキーワードと共に発表された「iPhone X」だ。10月27日からアップルや各携帯電話事業者、量販店などで予約が開始され、すでに数週間待ちとなるほどの人気ぶりで、11月3日の発売日が待ち遠しいところだが、ひと足早く実機を試すことができたので、スペックなどを確認しながら、レビューをお送りしよう。

次なる10年のスタンダードを目指し、未来を追求した「iPhone X」 iPhone X
iPhone X

積み重ねた10年から次なる10年へ

 今年は2007年に米国で初代iPhoneが発売されてから、10年という節目を迎える。ソフトバンクが国内向けにiPhoneを発売したのが2008年のため、国内市場への影響は9年分という見方もできるが、それでもこの10年近い期間に、iPhoneが市場に与えたインパクトは計り知れなく大きい。当初はiPhoneに可能性を感じつつも「国内市場への普及はなかなか難しいのではないか」と考える向きも多かったが、今や国内市場の半数を占めるところまで浸透し、日本のユーザーに広く支持されている。

 iPhone 8とiPhone 8 Plusのレビューでも触れたが、iPhoneがこれだけ市場に受け入れられてきた背景には、アップルがiPhoneに最新の技術をいち早く取り込みながら、ユーザーからのフィードバックにも積極的に応え、たゆまぬ進化を続けてきたことがある。本体のハードウェアで言えば、今や業界標準となったNano-SIM、多くのスマートフォンに搭載された指紋認証センサーのTouch IDなどをいち早く採用し、通信技術で言えば、LTEやキャリアアグリゲーションも積極的に推進してきた。その一方で、日本をはじめとした多くのユーザーから期待されていた防水防塵、日本市場にはなくてはならないとされたFeliCaを利用したApple Payなども取り込み、この9月に発売されたiPhone 8とiPhone 8 Plusではワイヤレス充電にも対応した。

 こうした10年間の積み重ねこそがiPhoneの人気を支えている要素のひとつだろう。一般的には、10年間の積み重ねがあると、思い切った変革ができず、仕様的に縛られてしまう製品も多い。スマートフォンに限らず、コンシューマー製品にはどうしても避けられない道であり、この部分に苦しんだ結果、勢いを失ってしまった製品やサービスはいくつもある。

 いよいよ販売が開始されるiPhone Xは、まさにこうした変革のために登場したモデルと言えるだろう。これまでiPhoneが積み重ねてきた10年をベースにしながら、その積み重ねの呪縛にとらわれることなく、今一度、スマートフォン、デジタルデバイスの進むべき道は何か、どんな形がユーザーに求められているか、どういうスタイルで利用するのかといったことを見つめ直し、まったく新たに創り出されたモデルとして仕上げられている。つまり、iPhone 8とiPhone 8 Plusがこれまでの10年を継承した正常進化の位置付けにあるモデルなのに対し、iPhone Xは次の10年の進化のために創り出された『次世代のiPhone』に位置付けられたモデルというわけだ。

意外にコンパクトで持ちやすい

 iPhone XがこれまでのiPhoneと大きく異なるのは、やはり、その外観にある。本体前面には「Super Retinaディスプレイ」と名付けられた5.8インチのOLED(有機EL)ディスプレイが搭載されており、これまでのiPhoneには必ず備えられていたホームボタンもなく、ディスプレイが本体前面のほとんどの占めるデザインとなっている。狭額縁を採用し、本体前面のほとんどをディスプレイが占めるデザインの端末は、すでに市場にいくつか登場しているが、iPhone Xの前面はまさにすべてがディスプレイという仕上がりであり、端末を手に持ってみると、画面だけを持っているような印象すらある。こうしたデザインを採用したことについて、アップルは「ユーザーにとって、デバイスの存在感が消え、画面のユーザー体験のみに集中できる」と考えているという。

 そして、ボディそのものは医療用にも使われるレベルの高品質なステンレススチールのフレームを採用し、前面と背面の両方にガラスをあしらい、ガラスとステンレスの継ぎ目もシームレスに美しく仕上げられている。側面のステンレススチールの光沢とディスプレイ消灯時の黒いコントラストは、どことなく、かつてのiPhone 3G/3GSの存在感を彷彿させる。

次なる10年のスタンダードを目指し、未来を追求した「iPhone X」
次なる10年のスタンダードを目指し、未来を追求した「iPhone X」
次なる10年のスタンダードを目指し、未来を追求した「iPhone X」
次なる10年のスタンダードを目指し、未来を追求した「iPhone X」

 前面と背面のガラスはスマートフォン用として、もっとも耐久性のあるもので、これまでのものに比べ、50%の深い強化層を持つという。背面はiPhone 8やiPhone 8 Plusと同じように、7層のコーティングで仕上げられており、見る角度によって、ボディの反射が変わってくる美しさだ。

 ボディサイズは、iPhone 8とiPhone 8 Plusの中間で、本体を手に取ると、意外なほどコンパクトに仕上げられていることに驚く。筆者自身が普段、利用しているiPhoneがiPhone 8 Plusである影響もあるが、スタンダードなサイズのスマートフォンと変わらないサイズ感にまとめられている。

次なる10年のスタンダードを目指し、未来を追求した「iPhone X」 iPhone Xと(左)iPhone 8 Plus(右)
次なる10年のスタンダードを目指し、未来を追求した「iPhone X」 iPhone Xと(左)iPhone 8 Plus(右)
iPhone Xと(左)iPhone 8 Plus(右)

 ディスプレイは前述の通り、iPhoneシリーズとして初のOLED(有機EL)を採用する。2436×1125ドット表示という高解像度で、100万対1の高コントラスト表示、HDR対応というスペックを実現しているが、アップルとしては色の正確さや再現性、広色域対応など、アップルが持つ基準を満たすパネルが開発できたことで、初のOLED採用に至っているという。なかでも色の正確さや再現性、広色域対応については、iPhone Xで映像や写真を見るとき、本来、カメラマンなどの作り手が意図した色合いが再現されるということあり、映像コンテンツなどを楽しむ機会が増えてきた現状を考えると、非常に重要なアドバンテージのひとつと言えそうだ。

 また、iPhone 8とiPhone 8 Plusも対応しているが、iPhone XもTrue Toneテクノロジーに対応しており、6つの環境光センサーにより、周囲の明るさや光によって、画面上のホワイトバランスを細かく調整し、自然に映像や写真、コンテンツを表示する。

 ボディは耐水、防沫、防塵性能を備えており、濡れた手での操作や雨の中での利用など、さまざまな環境で利用することが可能だ。ディスプレイが濡れた状態で操作すると、レスポンスがあまり良くないため、水滴などは拭き取ったうえで操作することをおすすめするが、iPhone 7やiPhone 7 Plusのときに比べ、濡れた状態での操作は改善されている印象だ。

 ボタン類のレイアウトについては、前述のように、本体前面のホームボタンがないことを除けば、基本的にこれまでのiPhoneのレイアウトを踏襲している。左側面に音量ボタンと着信/サイレントスイッチ、下面にLightning外部接続端子、右側面にSIMカードトレイを備える。右側面には従来のスリープ/スリープ解除ボタン(電源ボタン)と同じ位置に少し長くなったボタンが備えられているが、これはサイドボタンと呼ばれ、スリープ操作に加え、Siriの起動、Apple Payの起動、スクリーンショット(音量増ボタンとの組み合わせ)などに利用する。ちなみに、iPhone 7/7 Plus、iPhone 8/8 Plus同様、3.5mmヘッドセットコネクタは備えられていないため、音楽を楽しむときはBluetoothヘッドフォンを利用するか、Lightning - 3.5mmヘッドフォンジャックアダプタを介して、通常のヘッドフォンやイヤホンを接続することになる。

次なる10年のスタンダードを目指し、未来を追求した「iPhone X」
次なる10年のスタンダードを目指し、未来を追求した「iPhone X」
次なる10年のスタンダードを目指し、未来を追求した「iPhone X」
次なる10年のスタンダードを目指し、未来を追求した「iPhone X」
次なる10年のスタンダードを目指し、未来を追求した「iPhone X」
次なる10年のスタンダードを目指し、未来を追求した「iPhone X」
次なる10年のスタンダードを目指し、未来を追求した「iPhone X」
次なる10年のスタンダードを目指し、未来を追求した「iPhone X」
次なる10年のスタンダードを目指し、未来を追求した「iPhone X」
次なる10年のスタンダードを目指し、未来を追求した「iPhone X」
次なる10年のスタンダードを目指し、未来を追求した「iPhone X」

ホームボタンがないiPhone Xの新しいユーザビリティ

 iPhone Xは前面のほとんどをディスプレイが占めるというデザインで仕上げられているため、本体前面にこれまでのiPhoneで必ず備えられていたホームボタンが存在しない。デザイン的には美しく仕上げられたが、iPhoneのホームボタンは「何かあったら、ホームボタンでホームに戻る」というiPhoneのわかりやすさを象徴するような存在だったため、ホームボタンのないiPhone Xのユーザビリティは、非常に気になるところだ。

 まず、基本的なところとして、何らかのアプリ起動中、従来のホームボタンの押下に相当するホームへ戻るための操作は、画面中央の最下部から上方向にスワイプする操作で戻ることができる。スワイプするスタート地点は、画面中央の最下部に表示されている横長のバーのようなところになる。使いはじめは少し戸惑うが、スワイプするスタート地点を意識するようになれば、数十分で慣れるだろう。

次なる10年のスタンダードを目指し、未来を追求した「iPhone X」 下部に表示されている横長のバーからスワイプ操作を行う
次なる10年のスタンダードを目指し、未来を追求した「iPhone X」 下部に表示されている横長のバーからスワイプ操作を行う
下部に表示されている横長のバーからスワイプ操作を行う

 次に、従来のiPhoneでホームボタンの2回連打で表示されるマルチタスキングの画面だが、これはホームに戻るときと同じように画面中央の最下部からスワイプしはじめ、途中で停止すると、表示される。この操作もホームに戻る操作同様、スワイプするスタート地点を意識しつつ、スワイプを止めたときの画面の変化を意識できれば、比較的早く慣れるだろう。

 このマルチタスキングの画面では左右にフリックして、アプリを選び、アプリの画面をタップして、切り替えることができるが、同じ画面でアプリの画面をホールドすると、左上に一時停止アイコンが表示されるので、これをタップすると、そのアプリを終了することができる。これまでのiPhoneのように、上下方向にスワイプすると、ホーム画面に戻ってしまうので、注意が必要だ。

次なる10年のスタンダードを目指し、未来を追求した「iPhone X」 ロック画面
ロック画面
次なる10年のスタンダードを目指し、未来を追求した「iPhone X」 マルチタスキングの画面
マルチタスキングの画面
次なる10年のスタンダードを目指し、未来を追求した「iPhone X」 マルチタスキングのアプリ終了操作
マルチタスキングのアプリ終了操作

 iOS 11で大きく変更されたコントロールセンターは、Wi-FiやBluetoothのオン/オフ、機内モード、明るさの変更などで利用するが、iPhone 8などでは下方向から表示しているのに対し、iPhone Xでは画面右上のアンテナピクトやバッテリー残量が表示されているところから下方向にスワイプして表示する。片手ではやや操作しにくい印象は否めないが、元々、iOSでは上方向からのスワイプで通知を表示していたため、それが区分されたと考えれば、わかりやすい。ちなみに、通知は左上の時刻から下方向にスワイプすると、表示される。

次なる10年のスタンダードを目指し、未来を追求した「iPhone X」
次なる10年のスタンダードを目指し、未来を追求した「iPhone X」

 Siriについては、従来のiPhoneではホームボタンの長押しか、「Hey Siri」の音声コマンドで起動していた。iPhone Xでも音声コマンドでの起動は変わらないが、ホームボタンの長押しの代わりに、右側面のサイドキーを長押しして起動する。

 Apple Payについてはエクスプレスカードに設定されているカードはすぐに支払いができ、それ以外のカードはリーダーにかざした後、Touch IDを操作して、支払いなどを実行していた。ところが、iPhone Xにはホームボタンがなく、Touch IDが利用できないため、ここの操作も変更になる。具体的な操作としては、右側面のサイドボタンをダブルクリックすると、Apple Payの画面が表示され、Face IDの認証を経て、支払いを行なうことになる。ちなみに、エクスプレスカードに設定されていれば、従来と同じように、リーダーにかざすだけで支払いなどを実行できる。

生体認証の新しいスタンダードを目指すFace ID

 さて、iPhone Xではホームボタンがなくなったことと並んで、もうひとつ発表直後から関心を集めているのが「Face ID」だ。Face IDはその名の通り、顔を使った生体認証だが、これまで他機種で採用されてきた顔認証と違い、写真などではごまかすことができないセキュアな生体認証として仕上げられている。

 Face IDは本体前面上に備えられた「True Depthカメラ」によって実現されている。True Depthカメラは一般的なフロントカメラと違い、フロントカメラの他に、赤外線カメラや投光イルミネータ、ドットプロジェクタなどで構成されており、これらの内、ドットプロジェクタで3万以上の目に見えないドットを顔に投射して、顔のマップを作成し、認証時には赤外線カメラがドットのパターンを読み取り、赤外線画像を撮影して、そのデータをiPhone Xのチップセットである「A11 BIONICチップ」を使って、照合しているという。暗いところでの認証についても投光イルミネータを利用することで、ユーザーの顔を特定しやすくしている。

次なる10年のスタンダードを目指し、未来を追求した「iPhone X」

 Face IDを登録するには、設定画面の[Face IDとパスコード]から操作する。[Face IDとパスコード]の画面で[Face IDを設定]を選び、説明画面で内容を確認後、[開始]をタップすると、実際の登録画面が表示される。画面中央に自分の顔が表示されるので、頭部を上下左右に回すように動かすと、顔の凹凸なども含めた三次元的なマッピングデータが記録される。登録時の読み取り操作は2回、行ない、生成されたデータはiPhone内の独立したSecure Enclave(セキュア領域)に保存される。このデータは本体のみで利用し、iCloudにはアップロードされないので、安全に使うことができるわけだ。実際の登録にかかる時間は、2回の登録操作を合わせても数十秒程度で、意外にあっさりしたものだ。

次なる10年のスタンダードを目指し、未来を追求した「iPhone X」 Face IDの登録操作
次なる10年のスタンダードを目指し、未来を追求した「iPhone X」 Face IDの登録操作
次なる10年のスタンダードを目指し、未来を追求した「iPhone X」 Face IDの登録操作
Face IDの登録操作

 続いて、実際にFace IDで本体のロックを解除するときの操作だが、iPhone Xが机などに置かれ、画面オフの状態から手に持つと、自動的に画面がオンになる。ロック画面の上部中央にはカギ(錠前)アイコンが表示されていて、端末を目の前に持ってくると、カギのアイコンが解錠された状態に変化し、ロックが解除される。あとはホームに戻るときと同じように、画面中央の下部から上方向にスワイプすると、ホームが表示される。文章にすると、長く感じられるかもしれないが、認証はほんの一瞬であり、ストレスなく操作できる印象だ。認証がうまくクリアできれば、「手に持つ」「顔の前に持ってきながら、スワイプ」くらいのタイミングでもホームを表示できる。ただ、使いはじめて数時間の状態では、そもそもスワイプでホームを表示する操作に慣れていないので、少々、操作がギクシャクしてしまうシーンもないわけではない。このあたりは慣れてくれば、操作感も変わってくるだろう。

 端末を顔の前に持ってくる操作についても虹彩認証などのように、できるだけ正対に近い状態が必須というわけでもなく、少し斜めの状態でも画面を見れば、認識され、ロックが解除される印象だ。たとえば、机の上にiPhone Xが置いてある状態で、端末を持たずに画面をタップして、画面がオンに切り替えると、ちょうど顔がFace IDの認識される範囲内にあったので、解錠された状態になるということが何度もあった。ちなみに、アップルによれば、Face IDはTouch IDと同じように、くり返し認証をしていくことで、認識精度が高まるそうで、実際の操作感は利用期間に比例して、向上していくことになりそうだ。

 また、Face IDはロック解除のときだけでなく、通知の表示も連動させることができる。たとえば、ロック画面に通知が表示されているとき、第三者が見たときは通知のタイトル名しか表示されないが、Face IDを登録したユーザーが見ると、通知の内容が表示される。その状態からコントロールセンターを表示し、明るさなどを変更することも可能だ。

次なる10年のスタンダードを目指し、未来を追求した「iPhone X」

 ところで、Face IDを使ううえで、もうひとつ気になるのは、本当にセキュアなのかという点だろう。指紋認証を利用したTouch IDは、元々、「指紋認証は安全」という潜在的な認識もあるうえ、これまでのiPhoneで継続して採用されてきたこともあり、信頼性は高いとされている。これに対し、Face IDはiPhone Xが初採用であるうえ、これまでの顔認証が写真でもクリアできる簡易的なものが多かったため、あまり安全ではないと解釈する向きも多い。

 しかし、Face IDは前述のように、3万以上に及ぶドットを照射し、顔のパターンを三次元的に捉えているうえ、ハリウッドなどで映画用に制作されるマスクについても機械学習によって得られた判別の情報をA11 BIONICチップで処理できるため、写真や映像などでは解除することができない。指紋認証についてはユーザーが寝ている間に、指先をスマートフォンの指紋センサーに当てて解除したり、画面などから採取した指紋の跡を使って解除できたといったケースも報告されているが、Face IDは[Face IDとパスコード]の設定画面に[Face IDを試用するには注視が必要]という項目があるように、認証するユーザー自身が端末を見ていなければ、解除することはできない。たとえば、ユーザーが寝ている状態で端末を顔の前に持ってきても解除はできないし、無理やり目を開けた状態にさせても解除できない。あるいはユーザーが起きている状態でも端末から目をそらしていれば、これも解除できない仕様となっている。さらに、Face IDでiPhone Xのロック解除を試みることができるのは、画面オンから5回に限られており、失敗したときはパスコードの入力を求められるため、十分に安全な状態で利用できるわけだ。

 ただし、Face IDの利用が推奨されない環境もある。ひとつは双子のように顔がほぼ同じケースで、アップルとしては対策をしているものの解除できるケースがあるため、Face IDの利用は推奨されていない。13歳以下の子どもについても成長期で顔ができあがっていないため、同様に利用が推奨されていない。

 逆に、ユーザー自身の状態が変化した環境については、ある程度、対応しているようだ。たとえば、今回の試用ではメガネを掛けた状態で登録してもメガネを外した状態で認識され、ロックを解除することができた。サングラスも2種類ほど、試してみたが、比較的、色の濃いサングラスでもロックを解除することができた。アップルによれば、髪の長さの変化や年齢による変化にも対応しているとのことで、継続して利用していれば、ほぼ問題なく、Face IDでロックは解除できるとしている。男性のヒゲについては、剃る前と剃った後の状態の違いが大きいケースは、Face IDで解除ができず、数回、パスコードでの解除が必要になるかもしれないとのことだが、もっともそれだけ大きく変わってしまうのであれば、Face IDを登録し直した方が確実とも言える。

 このFace IDについてはTouch IDのときと同じように、アップルのアプリだけでなく、サードパーティのアプリにもAPIが開放されているため、今後、Face ID対応のアプリが登場してくる可能性も考えられる。

次なる10年のスタンダードを目指し、未来を追求した「iPhone X」 サングラスごしでも解除可能
サングラスごしでも解除可能
次なる10年のスタンダードを目指し、未来を追求した「iPhone X」 ロックが解除された画面
ロックが解除された画面

ポートレートライティングにも対応したフロントカメラ

 iPhone XはiPhone 8 Plusと同じように、背面に2つのカメラを搭載している。イメージセンサーのスペックなど、カメラの基本的な仕様は共通で、iPhone XもiPhone 8 Plusと同じ12Mピクセルセンサーによる広角と望遠のカメラが搭載されている。

 ただし、少し仕様が異なるのが望遠側で、レンズがF2.4のものに変更され、光学手ブレ補正も広角と望遠の両方に搭載されている。iPhone 8 PlusやiPhone 7 Plusは広角側のみに手ブレ補正が搭載されていたが、望遠で撮影するケースの方が手ブレの影響を受けやすいため、iPhone Xで望遠側に手ブレ補正が搭載されたことは非常に意義が大きい。撮影機能や仕様についてもiPhone 8 Plusと同等で、光学ズームや最大10倍のズーム撮影(写真)、Live Photos、ポートレートモード、ポートレートライティングなども同じように利用できる。

次なる10年のスタンダードを目指し、未来を追求した「iPhone X」 リンク先は4032×3024ドット
次なる10年のスタンダードを目指し、未来を追求した「iPhone X」 リンク先は4032×3024ドット
リンク先は4032×3024ドット
次なる10年のスタンダードを目指し、未来を追求した「iPhone X」 ポートレートライティング
ポートレートライティング

 iPhone Xのカメラで大きく変わったのは、前面に搭載されたTrue Depthカメラだ。True Depthカメラは前述のように、Face IDの認証に使われるところがクローズアップされているが、実は1つのイメージセンサーによるカメラでありながら、他のセンサーからの深度情報を活かすことができるため、自分撮りで自分自身にしっかりとピントを合わせつつ、背景をぼかす「ポートレート」モードでの撮影も簡単にできる。最近では前面にデュアルカメラを搭載する機種も登場したが、iPhone Xなら、1つのイメージセンサーでも背面のデュアルカメラと同じように、ボケ味を活かした撮影ができるわけだ。

 また、True Depthカメラは背面のデュアルカメラと同じように、ポートレートライティングモードによる撮影ができる。ポートレートライティングについてはiPhone 8 Plusのレビュー記事でも説明したが、ポートレート撮影時にライティングのテイストを変更できるというもので、「自然光」「スタジオ照明」「輪郭強調照明」「ステージ照明」「ステージ照明(モノ)」という5つのパターンが用意されている。ポートレートライティングで撮影した写真については、撮影後にライティングを変更することもできるため、今までにない自撮りを楽しむことができるわけだ。

次なる10年のスタンダードを目指し、未来を追求した「iPhone X」 アニ文字
アニ文字

 さらに、True Depthカメラのポテンシャルを活かす機能として、「アニ文字」も搭載されている。アニ文字はTrue Depthカメラが認識した顔とあらかじめ用意したキャラクターのグラフィックを連動させることで、あたかもキャラクターがしゃべっているようなアニメーションを作成でき、それをiMessage経由で送信できるというものだ。今のところ、利用できる対象はiMessageに限られているため、基本的にはiPhone同士での利用ということになるが、音声を含めたアニメーションを送信できるだけでなく、キャラクターにいろいろな表情(自分の表情)をさせた静止画をスタンプのように送ることもできるため、今後の利用拡大が期待できそうだ。ちなみに、同様にTrue Depthカメラの顔認識の機能を利用したアプリは、すでにいくつか登場しており、海外で高い人気を得ている「SnapChat」もすでに対応バージョンを公開している。

次なる10年のスタンダードを目指した「iPhone X」は買い!

 国内外のスマートフォン市場において、iPhoneは独特の立ち位置を持っている。自らプラットフォームを開発しながら、端末も開発し、必要であれば、端末内のデバイスなども開発したり、投資をすることで、他のプラットフォームの製品にはない独自の進化を遂げてきた。初代モデルからの10年間、独自性をうまく活かしながら、同時に他のトレンドなども積極的に取り込みながら、進化を続けてきたからこそ、現在のiPhoneの立ち位置が成立し、それが市場での広い支持に結び付いているわけだ。

 しかし、冒頭でも説明したように、進化を続けてきたiPhoneにも新しい時代へ向けた取り組みが求められる時期を迎えている。その新しい時代、次なる10年のスタンダードを目指し、開発されたのが今回のiPhone Xということになる。これまでのiPhoneで培われてきたものはしっかりと継承しつつ、ハードウェアからプラットフォームまで、自らが開発するという特長を最大限に活かし、まったく新しいiPhoneを開発したわけだ。かつて、初代iPhoneが発表されたとき、スティーブ・ジョブズは「電話を再定義する」としていたが、今回のiPhone Xは「iPhoneを再定義する」とも言える内容で、数々のチャレンジが随所に見られ、ユーザーとしても非常にワクワク感の高い端末に仕上げられていると言って、差し支えないだろう。

 気になるところとしては、やはり、十数万円という価格設定で、ユーザーとしては購入になかなか勇気のいるところだが、この価格設定に見合うポテンシャルは十分に持ち合わせているうえ、各携帯電話会社の購入サポートプログラムも充実していることから、日本市場はiPhone Xが買いやすい市場であるという見方もできる。しばらくは品薄が続くと言われているが、各社の店頭にはデモ機も用意されるようなので、ぜひとも新しい時代へ向けたiPhone Xを試し、次なる10年のスタンダードを目指した未来を体験していただきたい。

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法林 岳之

1963年神奈川県出身。携帯電話・スマートフォンをはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるゼロからはじめる iPhone 7/7 Plus超入門」、「できるゼロからはじめるAndroidスマートフォン超入門」、「できるポケット HUAWEI P9/P9 lite基本&活用ワザ完全ガイド」、「できるWindows 10b」、「できるゼロからはじめる Windows タブレット超入門 ウィンドウズ 10 対応」(インプレス)など、著書も多数。ホームページはこちらImpress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。