みんなのケータイ

スマホVRゴーグルで素晴らしい気晴らし

【Nexus 6】

<@著者1写真@>

 そろそろ? まだ早い? そんな手加減のさじ加減に迷っている人が多いと思われるのが、2016年前半における「VRコンテンツ」ではないだろうか。モバイル業界ではサムスン電子が「Gear VR」を提供し、ハードウェアとコンテンツで市場を牽引しているとすれば、GoogleのダンボールVRこと「Cardboard」系は、アプリやYouTubeの動画など、ユーザーが制作するコンテンツが主体の気軽なVRだ。

CardboardとNexus 6

 Nexus 6は約6インチの大画面ということで、電子書籍だけでなくこうした映像系コンテンツでも力を発揮する。現在のVRゴーグルの多くはiPhone 6s Plusまでのサイズをターゲットに設計されているので、サイズが同等のNexus 6は、VRゴーグルで楽しめる最大サイズということになる。

 パソコン界隈ではなにかと注目を集めるの「Oculus Rift」「HTC Vive」「HoloLens」などに触発されVRゴーグルが欲しくなった筆者は、まず東京・秋葉原に向かった。ダンボール製Cardboardはすでに手元にあったものの、ずっと手で持っていなければいけないので、ゴーグルらしいゴムベルト付きのものを探した。

 いくつか店頭で見た中から、上海問屋の実店舗(ドスパラの2階)にあった、外装が固めのスポンジでできた製品を1800円弱で購入してみた。レンズは二眼式で、距離や視度は調整できない固定のタイプ。初期のダンボール製Cardboardに搭載されていた磁石を利用する(磁力の変化をスマートフォンが検出する)スイッチが左側に搭載されている。ちなみに最新のダンボール製Cardboardのスイッチは、通電素材による画面タッチ式に変更されている。ゴムベルトが装備されている点以外は、ダンボール製Cardboardとあまり変わらない仕様ということになる。

 しばらく使っていると、明るい環境では、顔にあたる部分から光が漏れて中に入り、没入感を阻害することがあった。そこで、接眼部分がしっかりとしたパッドになっている製品をAmazon.co.jpで探し、追加で2製品を購入した。それぞれ3000円前後の製品だ。メガネありでもOKなもの、二眼タイプでも内側に仕切りがなかったもの、レンズの仕様で中央が樽型に膨らんで見えるもの、ダンボール製Cardboardと同じスイッチが搭載されているもの・されていないものなど、細かい点を見ていくと、どれも“なにかが足りない”仕様で苦笑してしまうが、やはり操作上、ダンボール製Cardboardの仕様に準拠したスイッチ搭載モデルをオススメとしたい。もちろんスイッチが無いことを前提にしたアプリもあるので、必須とまではいかないが、Cardboardモードに対応しているYouTubeなど、Google純正のVRアプリはスイッチによるポインターの決定操作が多く、十分に楽しむためにはスイッチはあったほうが良いと思われる。

スマホの装着は上からはさむだけ。カメラを使うアプリにも対応できるが、Cardboardのスイッチは非搭載
スマホを装着して蓋を閉じるタイプ。左側にCardboardのスイッチ搭載
左のモデルは中央に仕切がアリ。右のモデルは無い
左のモデルは左右のレンズの幅を調整可能。右のモデルは幅に加えて前後に動かして視度も調整できるが視界には樽型の歪みが大きめに出る。どちらもメガネ着用可

写真で名所にトリップ

 アプリはまずGoogleが提供している、ポータルアプリに相当する「Cardboard」アプリを導入。これを起動すると、デモ用のアプリを起動したり、Google PlayのVR系アプリのコーナーに移動したりできる。YouTubeも360度動画チャンネルとして、VR動画ばかりが表示される。もちろん、自分で「VR」などのキーワードでアプリや動画を探しても大丈夫だ。

ポータルっぽい「Cardboard」アプリ。自分でインストールしたVRアプリも表示される

 スマートフォンに単体アプリとしてインストールできる「ストリートビュー」アプリでは、VR対応でいくつかの観光地の様子などを楽しめる。好みの地点の写真を表示させ、右上のCardboardアイコンをクリックすれば、Cardboardモードになる。ストリートビューらしく、いくつかは立ち位置を移動することもでき、マチュピチュなど一度は行ってみたい有名な遺跡も360度の全天球の写真でその雰囲気を堪能できる。

 ある地点でユーザーが撮影した全天球の写真なら、観光地などを中心に、すでに豊富に公開されている。アメリカなら、自然公園として有名なヨセミテ国立公園などで、さまざまな場所の写真が公開されている。

「ストリートビュー」アプリでヨセミテ国立公園のあたりを表示したところ
美麗な全天球撮影の写真がその場に降り立ったかのような臨場感で楽しめる

全天球動画で“現場に介入”

 動画はどうだろうか。YouTubeでは、全天球撮影が可能な機材で撮影された、さまざまな動画が公開されており、VRゴーグルで見れば、本当にその場に立っているかのように、四方八方を見渡しながら風景を楽しめる。「フォーミュラE」のレース中に撮影された、コースやマシンからの映像が公開されているほか、レッドブルのF1マシンのテスト走行の模様などもオンボードカメラの映像で公開されている。正面を見ていればもちろんテレビの映像のような見え方になるが、後ろを振り返れば後続のマシンやコースを見られる。

 非日常を見てみたいという意味では、戦闘機のコックピットから撮影された全天球動画も、男子として非常に興奮してしまう映像だ。ロール中なら左を向けば地上が、右を向けば太陽が、後ろを向けばパイロットが(!)というように、コックピットに同乗している(視点は抱っこされているポジションだが……)気分で空の様子を楽しめる。コックピット内のHUDや計器類の表示も興味深いが、操縦桿の位置やその持ち方、操作の仕方など、パイロットの操作と風景を一緒に見られるのも面白い。

 これらの動画では、見たい方向は、自分の顔の向きでいかようにでも変えられる。動画を再生しているだけのはずなのに、ゲームのようにその場に介入した感覚になれるのは不思議な体験だ。

YouTubeの全天球撮影の動画。VRゴーグルで再生すればまさに追体験といったところ

アプリ、ゲーム

 VR対応アプリもかなりの数が登場している。相性が良いと言われるのは、ホラー系のゲームアプリ。視界を覆うVRゴーグルでは、暗い部屋、廃墟などの不安を掻き立てる雰囲気は、テレビモニターでは味わえないレベル。一人称視点で、小さなライトひとつで暗い廊下を進んでいくだけでも、見えていない背中側に不安を感じるなど、VRコンテンツの疑似体験がかつてないレベルになっていることを実感できる。

 3Dグラフィックス×VRという意味では、キャラクターをウリにしたものもある。ニコニコ動画やMMDの界隈から流入したコンテンツを集めて、キャラクターのダンスを眺めるアプリ「Parallel Diver」などは若干の手探り感が残っているが、中には「PashaLoVR」のように、床の方向を向くと「しゃがむ」なるスイッチが出現し、視点が一段下がるという、とても大変なことになるアプリもあった。いや、実際にはそれほどパラダイスではなかったのだが、基本的にコンテンツは視界の中では等身大に感じられるため、VRコンテンツに潜む二次爆発力の一旦が垣間見えた。

「PashaLoVR」。パンチラインのソングデモは演歌である

 写真や動画ではない、3Dグラフィックスで制作されているゲームアプリでは、立体視に対応しているかどうかもポイントだ。全天球撮影の写真や動画は、VRゴーグルで見ると自分の周囲に広がっているように見えるが、写真・映像自体は平面のコンテンツであり、例えるなら球体の内側に自然に見える形で映像を投影しているような状態だ。

 これに対し、立体視に対応したコンテンツでは、遠くのものは本当に遠くにあるのと同じように見える。近く・遠くが立体視で正しく認識されるため、空中を移動するような描写・状況で下を見ると、本当に高所にいるような感覚を味わうことになる。Cardboardアプリのデモアプリにある、カモメを追いかけていくデモがそれ。ゲームアプリとして対応数はまだ少ないようだが、立体視はVRコンテンツでもさらに次元の高い体験になるのは間違いない。

Cardboardアプリの「Cardboardデモ」にある「飛行」。3Dグラフィックスが立体視に対応しており、距離感を知覚できるため、下を見るとちょっと怖くなる

 なお、Googleは立体視できるVR用の動画について「Jump」として取り組みを進めているところだ。

スマホVR、ちょっとした注意点

 このように、一連のVRコンテンツを探したり体験したりすると、サードパーティ各社が勝手に作っている「VRゴーグル」を使った“スマホVR”でも、なかなか侮れないレベルになっていると感じる。

 もっとも、映像によって品質やフレームレートが異なったり、顔の向きを変えた際に追従するディスプレイの描画性能が理想的ではなかったりと、注意したいポイントもある。

 「Oculus Rift」や「HTC Vive」が高額で、母艦となるパソコン側にも結構なスペックを要求しているのは、こうした点をクリアした結果とも思われる。つまり、向きを変えた際の残像や、低いフレームレートは、高確率で“VR酔い”につながるのだ。3D酔いの経験は無い筆者でも、VRゴーグルで映像を見ながら調子に乗って顔の向きをブンブン変えていたら、わりと短時間で気持ちが悪くなった。特に、顔の向きへの追従性がポイントになるようだ。

 VRゴーグルを使った“スマホVR”は、何時間も集中して遊ぶものというより、YouTubeの動画を見る感覚で、サッとゴーグルを付けて見て、終わったらサッと外す、ぐらいのカジュアルな使い方が正しい距離感のようだ。

カメラで360度撮影

 ちなみにGoogleが提供するCardboardカメラというアプリでは、全天球ではないものの、水平の360度撮影が手軽に行える。観光地をはじめ、珍しい場所を訪れた時は360度で撮影し、帰ったら家族や友人などに、VRゴーグルでその雰囲気を伝えられるというわけだ。

Cardboardカメラ

 筆者は試しに自宅(1K・7畳のアパート)の模様を360度撮影し、同僚にVRゴーグルで見せたところ、見るなり声を出して笑い出す、歓声をあげる、複数名が「どこから入るの?」とグルグルと入口を探す、などの奇行に遭遇した。このようにVRゴーグルは外から見ると奇妙だという点は、心に留めておきたい。

 ちなみに実際の筆者宅を訪れてくれたことのある友人・知人は残念ながら数は少ないが、これまでに「ビフォーアフターに応募した」「男子の憧れ」「部屋の中に獣道があった」「コックピット」「テーマパーク」「腐海の底」、連れてきた幼児の「胎内回帰願望が満たされた」など数々のAward Winningレベルであることは間違いがない。とはいえ、最も訪問回数の多い友人でも玄関からあがる際の足の左右を間違えて途中で詰んで動けなくなることはあるので若干敷居は高いようだが、筆者としては腐海の底はキレイという事実を告げるほかはない状況だ。