みんなのケータイ

スペイン・バルセロナで開催されたMobile World Congress。今年も、端末、ネットワーク、サービスなど、モバイルに関する新たな発表が目白押しだった

 今年も、無事にMobile World Congressが閉幕した。この“無事に”というのが重要だ。MWCといえば、世界中からキャリアやメーカー、コンテンツ・プロバイダーに勤務する人たちが集まるモバイルの祭典。犯罪者たちの立場からすると、「お金持ち」が一堂に会する場に見えるらしい。この時期のバルセロナには、欧州中からスリが集結すると言われるほどで、金銭やスマートフォンを盗まれたという声を必ずといっていいほど耳にする。

 かく言う筆者も、今年は背中にファンデーションのようなものをぶつけられた。直後に「背中が汚れてるよ。それふきなよ」と声をかけてきた優しそうな人が現れたが、あまり英語が一般的でないスペインでいきなり英語で話しかけてくるのはいかにも怪しい。バッグを体に力強く引き寄せ、すぐにその場を立ち去った。あとで知ったことだが、これは典型的なスリの手口とのこと。欧州に行くときは注意してほしい。それでも、今年は周囲でモノを盗まれた人もおらず、昨年よりも状況は少しだけマシになっていた気がしている。

現地SIMを挿すSIMフリースマートフォンとして、「Nexus 5」と「iPhone 5s」の2台を利用した。いずれも日本で買ったもの。ほんの1年前までは海外で調達する必要があったことを考えると、いい時代になったものだ

 そんなこんなで何とか乗り切ったMWCの模様は、本誌のイベントレポートをご覧いただきたい。取材時の情報収集や、記事の送信などに役立ったのが、SIMフリーのスマホと、現地のプリペイドSIMだ。残念ながらアパートのWi-Fiが使い物にならないほど遅く(欧州ではありがちなこと)、今年もモバイル回線に頼ることにした。たびたびこのコーナーで触れているとおり、SIMフリースマホと現地SIMは、海外出張に欠かせないアイテムになっている。今年はスマホを「Nexus 5」と「iPhone 5s」の2台体制にして(ローミング中の「Xperia Z1」を入れると3台体制)、Nexus 5では移動中に単体で通信を、iPhone 5sではテザリングをというように使い分けた。

 例年ならバルセロナに到着後、ホテルやアパートメントにチェックインしてから街中のキャリアショップを物色するところだが、今年は空港でSIMカードを販売するカウンターを発見した。実は乗り継ぎのフランクフルトでドコモの「海外1dayパケ」を申し込んでいたが、バルセロナに着いたとたんにアプリのアップデートで30MBを使い切ってしまっていた。であれば、SIMカードはいち早く手に入れておいた方がいい。そう思い、その場で契約することにした。

LebaraのSIMカード。MVNOだが、MNOであるドコモのSIMカードがそのまま使われる日本とは異なり、独自ブランドのデザインになっている

 カウンターで販売されていたのが、LebaraというキャリアのSIMカードだ。Lebaraは、欧州各地でサービスを行うMVNOで、スペインではVodafoneの回線を借りて事業を行っている。カウンターは、MWCに合わせて特別に空港内に出したものだという。購入したSIMカードは、25ユーロ払って、1.5GBのデータ通信がつき、10ユーロ強(正確な残高は失念)を通話に使えるという設定だった。あとからLebaraのサイトを見返してみると、1.5GBのデータプランは20ユーロだったようだ。おそらく、25ユーロ分をチャージして、チャージボーナスが50%つき、結果として10ユーロ強の残高になっていたことが分かる。

 通信方式は3Gだが、速度はまずまずといったところ。下りはアパート内で7~8Mbps出ていて、遅延も比較的小さい。アパートのWi-Fiが数十~数百kbps(メガではなく、キロだ)だったため、仕事用の回線にどちらを選ぶべきかは明白だ。ただ、何回か測ったが、上りの速度がとにかく遅い。バルセロナ入りしてVodafoneのSIMカードを買った同業者の方々に聞いてみたところ、上りの速度が遅いのはLebaraだけだと分かった。つまり、Vodafoneの無線区間が遅いのではなく、Lebara側が用意した設備で上りの速度を制御しているというわけだ。これだと、写真が多い原稿を送るのに時間がかかってしまう。

左がアパートの回線、右がLebaraの3G。3Gの方がはるかに速かったのは、なんとも複雑な心境だ。欧州だと往々にしてこのようなことがあるため、ホテル予約時のWi-Fi対応はあてにしてはいけない
Vodafoneのnano SIM。Lebaraと同じ回線のはずだが、制限がかかっていないためか、上りも数Mbps出ていた。nano SIMだと5ユーロ高いのは少々納得がいかないが、欧州でのiOSデバイスのシェアを考えると致し方ない気もした

 1.5GBというデータ量も、テザリングまでするには少々心もとない。そこで、追加でVodafoneのSIMカードを買い、PCやiPadなどの通信はそちらに集約するようにした。SIMフリースマホを2台体制にしたのは、そのためだ。ちなみに、Vodafoneも約20ユーロで1.5GBのデータプランが契約できる。ただし、iPhone用のnano SIMだと、「スペシャルSIM代」として5ユーロ余分に取られるため、こちらも合計は25ユーロになってしまった。

 図らずもMVNOとMNOの両方を使うことになったが、それぞれサービス事業者として特徴がしっかり出ていたと感じている。まずLebaraは、電話代がとにかく安い。Lebara同士が無料なだけでなく、国際電話も割安だ。日本への通話は、携帯電話宛てで1分0.109ユーロ。固定電話だと、0.061ユーロとなる。遠く離れたスペインと日本を結んでいるのにも関わらず、日本のキャリアの国内通話料より安いのは驚きだ。この料金設定のおかげで、日本の会社に確認の電話をするときや、バルセロナで日本のケータイを使っている人に電話するときに、お金を気にせずにすんだ。また、下りのデータ通信も満足できる速さで、スマホ単体で使う分にはそれほど困らなかったことも付け加えておきたい。

Lebaraの通話料スペイン宛日本宛
固定電話宛0.012ユーロ0.061ユーロ
携帯電話宛0.182ユーロ
(Lebara間無料)
0.109ユーロ
街中ですぐにショップが見つかるのは、MNOの強みと言えるだろう

 一方のVodafoneは、やはり上り、下りともに速度がしっかり出ることが魅力だった。ショップが街中に多くあり、SIMカードを気軽に買えるのもMNOならではのメリットと言えるだろう。ただしこちらは国際電話が高いため、テザリングに特化して使ったのは正解だった。

 日本でも、格安のデータ通信サービスを提供するMVNOが注目を集めているが、一方でMVNOでも通話料は各社横並びだ。MVNOに話を聞くと、今の回線の貸し出し方ではMNOと通話料で大胆な差別化をするのが難しいという。ただ、Lebaraのように、通話料に柔軟性を出せれば、市場がもっともおもしろくなるのではないだろうか。MVNOの営業努力だけでは限界があるため、回線を貸し出す側の工夫も期待したいところだ。