みんなのケータイ

Chordが打ち出した、ハイレゾプレーヤーとスマホが連携するスタイル

【Nexus 6】

 例年、年明け早々に米国ラスベガスで開催される「CES」では、家電やオーディオで注目の製品が多数発表される。モバイル関連はさすがに2月にスペインで開催される「MWC」(Mobile World Congress)に発表の場を設ける形が多いが、近年盛り上がっているデジタルオーディオ界隈では、最新の製品・規格の発表の場としてCESは要注目のイベントになっている。

 今年のCES 2017では、英Chordが、「Hugo 2」などと一緒に、人気のDAC内蔵ポータブルアンプ「Mojo」に接続し、音楽プレーヤーとして使えるようにする「Poly」を発表した。(※AV Watchの記事

Chordの「Mojo」と、新たに発表された「Poly」

 「Mojo」は、既存のDACチップを使用しない、FPGAによる独自の開発手法(と奇抜なデザイン)でその筋では有名な、英Chord Electronicsが開発したDAC内蔵ポータブルアンプだ。

 基本的にハイエンド・オーディオ製品を作っている同社なので、数多ある競合製品と同じ価格帯で送り出された「Mojo」は、一気に市場で人気の製品になった。発売は2015年末で、1年と少しが経過しているが、DACの仕様などのスペックは未だ見劣りしない十分なもの。

 大型のヘッドホンや駆動方式が独特なヘッドホンは、ポータブル機器との接続をあまり想定しておらず、感度やインピーダンスなどの仕様の面でも“鳴らしにくい”といわれるが、「Mojo」はどのボリュームレベルでも大型のヘッドホンを安定して力強く駆動させることができ、こうした出力特性への評価が高いのも隠れたポイントだ。

 前述の「Poly」は、実は「Mojo」発表時(2015年10月)に開発が表明されていたもので、当時は「SDカードリーダーを追加で装着でき、Mojoがプレーヤーにもなる」程度の言及だった。筆者はこのSDカードリーダーとやらが発売されたら、「Mojo」とセットで購入しようと考えていたが、待てども待てども正式に発表されず……別途、USBデジタル出力が可能な、超小型ハイレゾ・ポータブルプレーヤーが発売されたため、2016年末に「Mojo」の購入に踏み切った。

DAC内蔵のポータブルアンプ「Mojo」(中央)。USB OTGケーブルとハイレゾ対応のプレーヤーアプリを使うとスマホからデジタルで出力が可能。デジタル出力が可能な小型ハイレゾ・ポータブルプレーヤー「Shanling M1」(右)は、実売約1万5000円と安価で、「Mojo」などのDACとのセットにも最適

 そして年が明けて2017年1月になり、CESで発表されたのが「Poly」である。発売はもう少し先のようだが、価格は、本国の公式Twitterアカウントが質問に返信する形で499ポンド(約7万円)と案内されている。

 最初期の情報が“SDカードリーダー”程度のものだったので、開発表明から正式発表まで1年以上かかるのは、さすがに時間がかかり過ぎでは……などと思っていたが、実際に発表内容を見てみると、DLNA対応だとか、Wi-Fi、Bluetooth対応、Roon対応とかの、ネットワーク関連の機能がてんこ盛りで、驚かされた。世に数多くあるハイレゾポータブルプレーヤーでも実現していない機能が搭載されるなど、かなり意欲的な内容なのだ。

 そのくせ、公開された画像を舐め回すように見ても、比較的小さな追加ユニットである「Poly」には、液晶や有機ELのディスプレイが搭載されていないように見える。電波を通すためと思われる、素材の異なる部分やインジケーターがあるぐらいで、公開された基板などの分解イメージを見てもやはり、ディスプレイは存在しない模様。いや、ディスプレイどころか、再生ボタンとか曲送りボタンなども付いていないように見える(隠れて見えないだけかもしれない)。

 「Mojo」がネットワークに接続できるようになり、家庭内のネットワークで柔軟に運用できるのはなんとなく想像できるが、ではポータブルプレーヤーとして持ち運んだ先で、一体どうやって操作するのか? 飛び込んできた「Poly」の製品画像を見た人の多くは、次にそう考えたと思う。ニュースリリースではサラッと触れられているが、その答えが「MPD」のようだ。

 SDカードに保存した音楽データにはMPDを使います、とニュースリリースには書かれているわけだが、これはいくつかの指摘もあがっているが、「Music Player Daemon」を指していると思われる。「Poly」はその柔軟なネットワーク運用ができることからも想像できるように、内部はRaspberry Piのような超小型のコンピューターで構成されており、Linux系のシステムが動いていると推測される。「Music Player Daemon」はLinux/Unix向けに従来から提供されている音楽再生のプログラムであり、「Poly」では、起動しているMPDにアクセスすればSDカード内の音楽を管理・再生できる、ということらしい。

 そう、つまり「Poly」にアクセスするにはMPDクライアントが必要であり、それってスマートフォンのアプリですよね、ということなのだ。Chordからクライアントアプリが提供されるのかどうかは不明だが、MPDクライアントのスマートフォンアプリは、(Polyとは無関係に)すでに市場にいくつかが存在している。恐らく、再生方法やプレイリストといった、直接的な使い勝手の部分は、このアプリに依存するものと思われる。

 これらの仕様は、推測を含めた上記の内容がすべて当たっていれば、「ネットワーク系の機能たくさん積んだし、操作? スマホですれば便利じゃん」とでも言うかのような、潔い割り切り方といえる。音源再生のロジックでも我が道を行く姿勢が特徴の、Chordらしいアプローチといえる。

 筆者といえば「Mojo」+「Poly」で単体プレーヤーのように運用できると想像していたので、ちょっと意外だったが、あまりネガティブな印象は抱いていない。結局のところ、スマートフォンはいつも持ち歩いているし、懸案になりがちなスマートフォンのバッテリーについても、MPDクライアントアプリであればプレーヤーアプリほどにはバッテリー消費は問題にはならないと予想される。スマホがまるごと高性能なリモコンになると考えれば、アプリ次第では自由度はかなり高まる。

 というわけで、まだ推測の域を出ない部分は残っているものの、気が早い筆者はAndroidのMPDクライアントアプリの選定に着手している(笑)。ハイレゾ・ポータブルプレーヤーというジャンルの製品は、ある意味でスマホと袂を分かってきたような印象があるが、「Poly」のようなネットワークやスマホありきで設計された製品というのも興味深いところではないだろうか。