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通信規格世代別・レイヤー別に変化する携帯会社の競争軸

 政府による携帯料金引き下げの要請や5G投資の本格化、楽天による東名阪以外の1.7GHz帯の新周波数割り当てやiPhone取り扱いなど、市場の変化のスピードはコロナ禍でも緩む気配がない。

 今回は携帯会社の競争力について、世代別・レイヤー別という観点から整理してみたい。

1.携帯会社の通信規格世代別・レイヤー別の競争軸の変化

 下記の図は、3Gや4Gなど通信規格世代別の携帯電話産業におけるコンシューマビジネスについて、携帯会社の各レイヤーの競争力を評価したものだ。ここでは「周波数」「サービス・コンテンツ」「プラットフォーム」「料金プラン」「インフラネットワーク」「端末」という6つのレイヤーを取り上げているが、弊社では3Gから4Gそして5Gへと世代が進化する毎に、携帯会社間の競争は「同質性」が高くなってきていると考えている。

図:携帯会社の世代別・レイヤー別の競争力評価
出典:MCA

 3G時代は、それまでの2Gで培ってきたPDC技術をベースにNTTドコモが独自のプラットフォームであるiモードを開発し、端末の設計や調達も携帯キャリア自身が手がけるなど、相対的に各レイヤーで差別性を発揮することが可能だった。当時は、インフラネットワークも携帯会社によってカバー率、品質などで差があり、ある携帯会社の営業は接待でゴルフ場に行くときには自社ネットワークでは圏外となることから、別の携帯会社の端末を持って出かけていたと言われるほどだった。

 携帯会社間の差別性が生まれにくくなったきっかけはスマートフォンの登場だ。正確に言うと、スマートフォンに搭載されるAndroid OSとiOSの存在である。これらのOSを搭載した端末が主流になっていったことで、「サービス・コンテンツ」「プラットフォーム」レイヤーは次第に携帯会社からグーグルとアップルの管理下へと移り、その結果、携帯会社間では同質性が高まった。一方、インフラネットワークに関しては、ガラケーからスマートフォンが主流となる中、通信トラフィック量が一気に増加。それに対応するため各社、LTEのエリア整備や高速化を一気に加速させたことで、大手3社の差は縮まった。端末では、携帯会社がガラケーのようなOEM型の端末開発を放棄し、海外からグローバル端末を調達するスタイルへとスイッチしたことで、同質化へ向かう。象徴的なのは、取扱時期こそ違え、横並びでiPhoneをラインナップ化したことだった。

2.5Gは差別性の余地狭まる一方で、新たなレイヤー創出の可能性

 5Gでは「差別化」の余地が更に狭まりそうだ。携帯会社は5Gの設備投資増強を総務省へ届け出る一方で、「儲けすぎ」との批判から料金引き下げを要請されるなど、大幅なコスト削減が求められている。その点で、これまで独自路線だったインフラ整備について、KDDIとソフトバンクが共同会社「5GJapan」を立ち上げたように、インフラ共有化の動きが出てきている。

 携帯会社のビジネスモデルが端末開発からプラットフォーム、インフラ、流通と一気通貫で手掛けてきた垂直統合型からレイヤー毎に他社と連携する水平分離型へと変化するなか、今も携帯会社の「打ち手」として差別性が高いのが、「周波数」と「料金プラン」となる。

 「周波数」に関しては、どの周波数をどれくらいの束で獲得できるか、まさにそれによって携帯会社のやれること、使うお金が決まってしまう。5G周波数の割当において、唯一4.5Ghz帯を獲得できたNTTドコモが新周波数帯向けの5G投資を強化しているのに対し、他社は4G周波数帯の5G転用(NR化)を急いでいる。また新規参入の楽天は先に述べたように1.7GHz帯の新周波数を獲得した。最近では新たにプラチナバンド希望についても発言しているが、これについては本来であれば、もっと早い段階でロビー活動すべきテーマだったのではないかと思ってしまう。そのくらい重要な問題だ。

 「料金プラン」に関しても同様に差別性は高い。他社に追随されやすいという側面はあるものの、昨年のahamoに見られるように、斬新な中身であれば、一定の先行者メリットを享受できる。今後、BtoBtoXやDX(デジタルトランスフォーメーション)などが主流となる5Gでは、例えば重機会社が提供するクレーンの遠隔プラットフォームのサービスの中に通信料金が内包(ビルトイン)され、最終ユーザーには見えなくなってしまうようなサービス一体型の料金プランも登場してくると想定される。そうなれば料金プランによる差別化は今以上に携帯会社にとっては重要な「打ち手」となっていくはずだ。

 5G時代は、携帯会社にとって新たなビジネスモデル創出が課題となっているが、その点で従来のものだけでなく、新たなレイヤーが追加され、その上で競争していくことにもなっていきそうだ。

IT専門の調査・コンサルティング会社として、1993年に設立。 主に「個別プロジェクトの受託」「調査レポート」「コンサルティング」サービスを展開。 所属アナリストとの意見交換も無償で随時受け付けている。 https://www.mca.co.jp/company/analyst/analystinfo/