ケータイ用語の基礎知識

第678回:DSEE HXとは

 今回紹介する「DSEE HX」は、ソニーの音質向上技術です。MP3やAACなどの圧縮音源、CD音源などを再生するとき、音を補正してハイレゾ音源に近い音質にします。

 「DSEE」とは、“デジタルサウンド拡張エンジン”を意味する「Digital Sound Enhancement Engine」の略です。

 DSEEは、ウォークマンシリーズなどに搭載されていて、MP3、AACといった非可逆圧縮楽曲データを楽しむとき、圧縮によって失われた音楽情報を予測演算によって補完し、音質向上を図ることができるという技術です。

 そして、「DSEE HX」は、DSEEの技術に加えて、“ビット拡張技術”を追加して進化させたバージョンです。MP3やAACといった、CDに相当する楽曲データを対して、SEEでの補完に加え、最大192kHz/24bitのハイレゾ音源相当にアップスケーリングを行い、音質を向上させます。

 ソニー製のハイレゾ対応のウォークマン「NW-ZX1」や「NW-F880」、同社のアクティブスピーカーやシステムステレオ、そしてソニーモバイル製のAndroidスマートフォン「Xperia Z3」「Xperia Z3 Compact」「Xperia Z3 Tablet Compact」にもこの技術が搭載されており、これらの再生の際に、従来より高品質な音楽鑑賞が可能になっています。

圧縮音源をハイアップスケーリング、ハイサンプリング・ハイビット化

 音楽をデジタルデータにした楽曲データは、特に加工せず、そのままデジタル化すると非常にファイルサイズ(容量)が大きくなってしまいます。そこで、データ量が少なくなるように「圧縮」と呼ばれる加工を行います。MP3やAACなどの楽曲データは「非可逆圧縮」とも呼ばれる種類の加工が施されており、楽曲内での音の細かな違いを無視することで、よりデータを小さく圧縮しています。

 圧縮で無視されるのは、主に高音域や、音の消える際の微小な音です。DSEEでは、消えてしまうこの部分を、その前後のデータの特徴などから推測し、再生の際に再現することで、音を補正します。そして、その音を聞いたとき、高音域をクリアに、そして微小な音も自然にフェードアウトする、ハイレゾ音源のような音だと、人に認識させることができるのです。

 また、DSEE HXでは、主に2つの特徴があります。

 1つは、サンプリング周波数の拡張です。ハイサンプリング技術とも言われる手法です。サンプリング周波数とは、簡単にいえば1秒間あたり、どのくらいの時間間隔で音をデータ化するかを表しています。数が大きくなればなるほど、時間あたりの音のデータがを多く含まれていることになります。たとえばCD音源の場合、サンプリング周波数は44.1kHzです。DSEE HXが用いられると、そのサンプリング周波数が、4倍の176.4kHzへアップスケールします。ちなみにDSEE HXでは、内部的に最大192kHzまで音情報を持つことが可能です。

 このアップスケーリングによって、再生音の周波数帯域が広がります。特に、これまでは表現できなかった高音域がクリアに表現できるようになるのです。

 そしてもう1つの特徴は、量子化ビット数の拡張です。量子化ビット数とは、サンプリングで音を取り込んでデジタルデータにする際に、そのデータを何段階で表現するかを意味しています。CD音源では16bitとなっているのですが、HSEE DXでは内部的に24bitで表現します。これにより「消えかかる繊細な音」といった微妙な音表現も再現できるようになります。

 量子化ビット数は、その楽曲データのダイナミックレンジに比例しており、一般的に“量子化ビット数×6”がその音楽データのダイナミックレンジとなります。つまり一般的なCD音源ではダイナミックレンジは96dB(デシベル)、DSEE HXの場合は144dBということになります。ダイナミックレンジが広くなることは、音においては諧調表現力が豊かになることを意味します。たとえばオーケストラのダイナミックレンジは120dB以上あることが知られていますので、CDでは収録しきれない、このようなサウンドを再生するのに適しているというわけです。量子化ビットを増やすという発想は「ハイビット化」などと呼ばれることもあります。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)