ケータイ用語の基礎知識

第668回:Quick Charge 2.0 とは

 スマートフォンを使っていくうえで、よく問題になるのがバッテリーやその充電です。スマートフォンは、これまでの携帯電話(フィーチャーフォン)よりも画面が大きく、一般的により多くの電力を使います。そのため、多くのスマートフォンには大型のバッテリーが内蔵されています。しかし、大型のバッテリーを使えば電話の使用可能時間は延びるものの、充電時間も長くなってしまいます。

 今回紹介する「Quick Charge 2.0」は、米国のクアルコム(Qualcomm)という企業が開発した、スマートフォンやタブレットなどを高速に充電する規格です。Quick Charge 2.0は、対応チップセットを内蔵するスマートフォンで利用できます。NTTドコモやauの2014年夏モデルでは、多くの機種で、このQuick Charge 2.0が採用されました。ドコモでは「急速充電2」という名前を付けて、周知を図っています。

 スマートフォン側だけではなく、Quick Charge 2.0に対応した専用のACアダプタも必要です。サードパーティ製のACアダプターとしては、たとえばエレコムから、家庭用コンセントに接続する充電器「MPA-ACQA1518WH」が発売されています。

充電電圧を上げることで、短時間充電を可能に

 スマートフォン用の充電として、従来も「急速充電」をうたうものは利用されています。これまでは、スマートフォンの充電コネクタへ電流を多く流すことで、実現しています。

 多くのスマートフォンでは、充電コネクタとしてmicroUSB端子が利用されています。本来、USBの規格では、供給電力に上限があります。電圧は5V、電流はUSB 2.0で500mA、USB 3.0で900mAが上限です。また最近ではもっと多くの電流を供給できる規格も整備され、たとえばドコモ純正のACアダプターも5V/1A、5V/1.8Aで充電できるものがあります。

 しかしこのまま電流をどんどん多くする方向で進化させてしまうと、発火などの危険が増します。そこで、Quick Charge 2.0では、「電圧」を上げることで、充電用の電流を大きくしています。つまりこれまで5Vという電圧だったものを、Quick Charge 2.0では、9V、または12Vの電圧にしているのです。

 スマートフォンには、充電回路からバッテリーの間に電圧を下げるための降圧回路が組み込まれており、バッテリーには4.2Vの電圧が供給されます。ここで、Quick Charge 2.0対応スマートフォンでは、ここで、5V→4.2Vだけでなく、9V→4.2Vの降圧にも対応しているのです。電圧を下げた分、多い電流に変換することができるので、結果的にバッテリーにはより多くの電流を流して充電させることができるようになったわけです。

 ちなみに、Quick Charge 2.0対応充電器には専用チップが搭載されており、充電開始時には5Vの電圧で電流を流すと同時に、充電先のスマートフォンがQuick Charge 2.0に対応しているかどうか確認します。相手が対応機種であれば、あらためて9Vでの充電を開始するのです。

 もし非対応のスマートフォンだった場合、従来の5Vのまま充電を継続するので高電圧な電流で充電されることはありません。つまりQuick Charge 2.0対応の充電器に、非対応の機器を繋げても壊れることはないのです。また、Quick Charge 2.0対応のスマートフォンも、従来の充電器を使って充電することもできます。

さて、9Vで充電すると、どの程度、スピーディに充電できるのでしょうか。ドコモが5月に開催した2014年夏モデルの発表会では、そのデモンストレーションが披露されました。スマートフォンの画面上に「充電してください」という表示が出たタイミングから画面を消灯し、充電しはじめると、60分で1800mAh以上充電できます。これは、従来の1.25倍以上です。「GALAXY S5」の場合、バッテリー残量が15%(420mAh)から1時間で、約2150mAh充電され、約92%にまで充電されます。

ドコモの発表会で披露されたデモンストレーション。従来のACアダプターとの違いが示された

 Quick Charge 2.0でも、従来の充電と同じく、バッテリーが満タンに近づくと、電流を少なくして、少しずつ充電を行うようになっています。このため、あまり電力を消費していない状態からの継ぎ足し充電では、急速充電の効果はあまりありません。Quick Charge 2.0の効果を実感するには、できるだけバッテリーが空に近い状態からの充電を行ったほうがいいでしょう。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)