ケータイ用語の基礎知識

第607回:NGH とは

 NGHとは、“次世代ホットスポット”を意味する英語「Next Generation Hotspot」から来ています。その名の通り、次世代の公衆無線LANの仕組みのひとつで、無線LANの接続の仕組みです。

 現在、スマートフォンの普及によって通信ネットワーク上の通信量(トラフィック)が非常に増えてきています。そこで、街中にある公衆無線LANサービスへ通信量をある程度、振り分ける“オフロード”(負荷分散)を各通信事業者は進めています。

 一方、基本的な無線LAN(Wi-Fi)の仕組みでは、接続するために、まず無線LANのSSIDとパスワードを登録し、接続後、認証を経てからインターネットへ繋がります。最近の国内の携帯電話事業者では、このあたりの手順を、スマートフォンのアプリなどで工夫していることもありますが、基本的に手間がかかる手順になっている、というのが現状です。

 また、公衆無線LANには、より一層のセキュリティの強化という重大な課題もあります。

 これらの課題を解決するであろうと期待されているのが「NGH」で、携帯電話の国際ローミングのように、ユーザーが意識することなく、各社の公衆無線LANサービスを使えるようになることを目指した規格です。

自動的に接続すべきホットスポットを探す

 「NGH」は、Wi-Fi関連の業界団体、Wireless Broadband Alliance(WBA)とWi-Fi Allianceが共同で推し進めてきた規格です。事業者間のローミングの精算などはWBAが規定した「WRIX」という仕様で、モバイル端末の認証やネットワークへの接続の仕組みは、Wi-Fi Allianceが規定した「Hotspot 2.0」という仕様に基づいています。

 NGHが含む、「Hotspot 2.0」では、SSIDやパスワードを入力する代わりに、「IEEE 802.11u」というユーザーが接続先を選ぶことなく、最適なネットワークと接続が始められるようになっています。IEEE 802.11uは、外部ネットワークなどへのアクセス仕様を規定した世界標準のプロトコルで、無線LANのアクセスポイントから送信されている情報をモバイルデバイスが理解し、接続できると判断して、ユーザーが操作することなく自動的に繋ぐようになります。

 これにより、ユーザーは、手動で操作しなくても、端末が自動的に適切なアクセスポイントを選択して接続することができるようになっています。この仕組みが日本だけではなく、世界中で広まれば、海外渡航先などでもスムーズに公衆無線LANサービスが利用できる、と期待できます。

 そして、端末の認証については、SIMカード(USIMカード)を利用した「EAP-SIM」「EAP-AKA」といった仕組みを導入しています。特にユーザーから画面上で認証させるようなことをせずに、自動的にユーザー認証ができるようになります。

 EAP-SIMおよびEAP-AKAは、ネットワークに接続するユーザー認証手順の1つです。従来の認証よりもセキュリティが強固になり、認証にかかる時間を劇的に減らせるようになります。つまり、スマートフォンがアクセスポイントに繋がった段階で、スマートフォンのユーザーが“ログインした”ことになって、すぐインターネットへ接続できるのです。これは、正しいユーザーかどうかチェックする認証の手順で、携帯電話サービスの契約者情報を使うわけですから、利用しようとしている人が正規のユーザーかどうかという確認も同時に済んでいることになるためです。

 このほか、無線LANのセキュリティとして、NGHでは、WPA2エンタープライズでありサーバーを使って認証する「IEEE802.1x」を使用しており、無線LAN環境のセキュリティ強化がなされています。セキュリティ上も、NGHは非常に強固なレベルにあるといえるでしょう。

 これらの仕組みによって、携帯電話の海外ローミングを、自宅や国内の街中と、ほぼ同じような手軽さで、安心して利用できるのです。料金面でも、事業者間で清算できる仕組みが用意されていますので、ユーザーにとっては、もっとお得に利用できるアクセスポイントへ接続する、といった使い方も実現できます。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)