第525回:TPU とは

大和 哲
1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我 ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連の Q&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)


 携帯電話やスマートフォンのアクセサリー、特に保護ケースなどの原材料欄を見ると、「TPU」と表示されていることがよくあります。今回紹介する「TPU」とは、“熱可塑性ポリウレタン”という素材のことです。英語で表すとThermoplastic Polyurethaneとなります。

 熱可塑性ポリウレタンとは、ウレタンゴム、ウレタン樹脂とも呼ばれる、プラスチックの一種です。一般的に“プラスチック”と聞けば、プラモデルに使われる素材のように、硬めの素材というイメージを持つかもしれませんが、熱可塑性ポリウレタンは、ゴムのように柔らかい高分子素材です。

 そして「熱可塑性(ねつかそせい)」とは、一定以上の温度まで加熱すると柔らかくなって、狙い通りの形状へ簡単に加工でき、冷えると固まる、という性質のことです。ちなみに他の熱可塑性の素材には、SBS(スチレン系エラストマー)、TPO(オレフィン系エラストマー)などが存在します。エラストマーとは、ゴムのように柔らかい素材の総称として使われる用語です。こうした「ゴム状の弾力性を有する工業用材料」はさまざまなものが存在し、それらをまとめてエラストマーと呼びます。そのため「TPU」もTPUエラストマーと呼ばれることがあります。

応用分野広く、ケータイの外付けカバー、ケースにも。

 TPUは、さまざまな分野で利用されています。たとえば、スポーツシューズの靴底や、カートのキャスター部分、自動車のコンソールボックスの表面、医療用の輸液バッグやカテーテルの素材などです。TPUは、熱を加えて柔らかくなるため、射出成形、圧延や押し出し、転造など、さまざまな方法で加工できるので、同じ寸法で同じ形の製品を大量生産しやすいのです。丈夫で弾力があり大量、安価さが求められる製品によく利用されます。

 こうした“作りやすさ”という特長のほか、TPUには、軽量、着色も容易、リサイクルしやすいといった特性もあります。

 携帯電話の分野に焦点を当てると、TPUを使った携帯電話・スマートフォン用ケースがよく販売されています。TPUは、ゴムのように弾力がありますので、携帯電話に装着しやすく、ある程度、携帯電話を傷から保護でき、こうしたケースに向いているのです。

TPU製品の一例。スマートフォン(001HT Desire HD)用ケース。ゴムのように弾力があり携帯電話にも取り付けやすく、また強度もあるため、ある程度傷から保護できる

 ところで、TPUのほかの特性としては耐油性、耐オゾン性も優れています。
 たとえば、灯油、軽油といった飽和炭化水素に接触した場合、固体であるTPUが液体である灯油を吸収する「膨潤」という現象が起こります。結果的に体積と重量が増えてしまい形がふくれあがり、ゴムのような粘る力は低下してしまうのですが、ただし、この灯油が蒸発してしまうと膨潤はなくなり、ゴムのような粘る力、衝撃への強さ、傷のつきにくさは戻ってきて、最後にはほとんど元の水準に戻ります。

 一方、TPUにも弱点はあります。熱可塑性という点からもわかるように、耐熱性はあまりなく、火に近づけたり熱いものに触れたりする場面、たとえばドライヤーやファンヒーターなどに近づけすぎてしまうと変形してしまいます。

 TPUは、耐油性に優れていますが、苦手な液体もあります。たとえばマニキュアの除光液、接着剤のはがし液などで利用されるアセトンなどのケトン類は、TPUを徐々に溶かしてしまいます。もしTPUで作られたケースに汚れがつけば、水でうすめた中性洗剤で拭き取るのがベターでしょう。柔らかいので、ブラッシングすると少しずつ削れてしまいます。

 このほか、TPUには、2つの系統が存在します。化学結合の種類によって違いがあり、1つはポリエステル系TPU、もう1つはポリエーテル系TPUと呼ばれます。これらは似ていますが微妙に性質が異なります。

 どちらも熱に弱いのは同じですが、ポリエステル系TPUは100度弱、ポリエーテル系TPUは70度ほどまでの耐熱性になっています。また、ポリエーテル系TPUは、菌や微生物に対して強い耐性をしめし、また比較的耐酸性、耐アルカリ性もあります。そのため、医療関係で多く使われています。

 逆に、ポリエステル系TPUは、高温多湿状態に長時間さらされるなど微生物の働きが激しくなった場合、微生物が出す酵素により分解されます。

 ちなみに、溶媒などにつけた場合、TPUは全表面が同じように解け始めるのに対して、微生物による分解の初期の段階で局部的に発生します。つまり、TPUが樹脂ではなくなり、ポロポロと崩れてくるのです。

 素材に「TPU」と書かれたカバーを購入した場合、通常の使用では強いゴムのように衝撃吸収、傷にも強く、スマートフォンのボディを守ってくれると期待できます。しかし、高温多湿になるような条件、たとえばガスコンロの近くにおいてしまったり、炎天下の車の中に放置したりする、といったことは避けたほうがいいでしょう。

 




(大和 哲)

2011/7/26 12:29