ケータイ用語の基礎知識
第877回:NIDD とは
2018年10月17日 12:38
データをIP化せず伝送
「NIDD(Non-IP Data Delivery)」とは、「IP化しないデータ伝送」のことです。IP(Intenet Protocol)はこれまでデータ中継の基礎となっていた重要なルールのことです。
日本では、2018年9月、ソフトバンクが、IoT向けの通信規格である「NB-IoT」で、商用環境でのNIDDの接続試験に、世界で初めて成功しました。
モノのインターネット(IoT)の時代では、さまざまな製品にセンサーが取り付けられ、各種情報が得られるようになります。以前に比べて爆発的に端末が増えてきたわけですが、それらデータをどうハンドリングするか、そのひとつの回答が、3GPP Release 15から記載されるようになった規格で、今回ご紹介する「NIDD」です。
IPのデータ転送とは
NIDDを説明する前に、まず、従来型とも言えるIPを使ったデータのやり取りを振り返ってみましょう。
IP(インターネットの手順)では、発信元と着信先がIPアドレスを持っています。データにはそれぞれのアドレスが書いてあり、一定の大きさでパケット(包み)になっていて、中身に間違いがないかどうかの確認用データなども付いています。
発信側はゲートウェイに向けて“データを届けてください”と送るわけです。
IoT時代に向けた課題
こうした手法は、IoT時代を前に、いくつかの課題が指摘されていました。
ひとつは、機器への設定をする手間がかかること。数千台、数万台の機械を扱うことを考えれば、できるだけ簡単に済ませたくなります。
もうひとつは、セキュリティ上の問題です。IPアドレスを割り振ることは、クラッキングの対象になり得ます。IPv4であれ、IPv6であれ、ローカルであれ、グローバルであれ、アドレスが割り振られられば、その機器の脆弱性があれば、外部から攻撃される可能性があります。
最後は、データをやり取りする際の消費電力です。ユーザーデータを、パケット化する際、データはどうしても多くなります。数byte~十数Byte程度のデータを送る場合などは、パケットを作るロスの方がデータそのものより大きくなることもあり得ます。データを全て確実にやり取りするためには、その分電波も発信し、結果、電池も消費します。
Non-IPで課題をクリア
これらの問題を解決するのが「NIDD」という技術です。NIDDは、携帯電話の通信のコントロールプレーンのみを使ったデータ通信です。
普通、携帯電話回線の通信は制御を行う「コントロールプレーン(C-plane)」と音声データやパケットデータが入っている「ユーザープレーン(U-plane)」から構成されています。この手順はIoT向けに制定されたLTE-M1やNB-IoTでも基本は同じです。
たとえば、通常のNB-IoTの場合、制御信号がコントロールプレーンに、パケットデータがユーザープレーンに乗せられます。
一方、NIDDでは、NB-IoTの通信でコントロールプレーンの中に通信したい内容も埋め込んで通信するのです。そしてユーザープレーンは使いません。こうすることで、小さいデータを効率よく伝送できるのです。
NIDDに適した利用ケースとして、たとえば、温度センサーからのデータ取得といった形があり得ます。取得した現在の室温を分刻みで送ってくるというような場合、データそのものが小さいですので、一般的なIP通信よりも、NIDDを利用するメリットが多いでしょう。
NIDD対応端末からコアネットワーク内のSCEF(Service Capability Exposure Function)という装置までを非IPデータでやり取りします。そこから先、たとえば取得したデータをグラフにするなど、応用する場合は、IPデータに変換してクラウドサーバーとやり取りすることになります。
NIDDでは、端末の設定も、SIMカードを刺す、あるいはeSIMを書き換えるといった操作だけで完了することになります。
さらに、NIDDのメリットは、既にできあがっている携帯電話会社のコアネットワークや、基地局~端末といった物理的な要素をほとんど手を加えずに、セキュアになることです。各端末が持つのはIPアドレスではなく、個体識別番号(IMSI)といったものですから、外部からのクラッキングは困難とされているためです。