石川温の「スマホ業界 Watch」

来春登場「iPhoneにマイナカード」、政府に求められる次の一手

 アップルと日本政府は5月30日、ティム・クックCEOと岸田文雄首相がテレビ会談を行い、来春後半にもiPhoneにマイナンバーカード機能を搭載することを確認した。

 iPhoneのマイナンバーカード機能の搭載については、それこそティム・クックCEOが来日した2022年12月に岸田首相から要請があったとされているが、すでにその前から関係者の間では水面下で準備が進められていると噂されていた。

 実際のところ、2023年のiPhone 15シリーズ発表前には「2024年春にはスタートするのではないか」とも言われていた一方、今年春には「2024年中にはスタートさせたい」という声も聞かれるなど、着々と準備が進んでいたとされている。

 しかし、突如、行われたテレビ会談の結果「2025年の春後半」ということで、関係者が予想する以上に開始が大幅に遅れた印象だ。
 河野太郎デジタル大臣も当初は確定申告に間に合うような雰囲気を醸し出していたが、5月31日の会見において「残念ながら確定申告に間に合わない。すいません」と陳謝するなど開発の遅れは想定外だったようだ。

 これまでもiPhoneを使ってマイナポータルなどにアクセスできたものの、お世辞にも使いやすいものとは言えなかった。手続きをするのにも、暗証番号を打ち込み、iPhoneでマイナンバーカードを上手い位置でかざして読み取るというのがとても面倒だった。しかも、短い時間に何度も同じ事を繰り返す必要があったりと、本当に煩雑だったのだ。

 来年春以降、iPhoneのウォレットアプリにマイナンバーカード機能を取り込むことができるようになるため、オンラインでの手続きが飛躍的に簡便になることだろう。

 ちなみに、プラスティックのマイナンバーカードを情報をiPhoneに取り込んでも、プラスティックのマイナンバーカードは継続して利用可能だ。

 ウォレットアプリはiPhoneだけでなく、MacやiPad、Apple Watchにも提供されているが、法令上、1人1端末ということで、当面はiPhoneでしか使えないようだ。

 マイナンバーカード機能のiPhoneへの搭載、個人的には本当に大歓迎だ。

 実は昨年、会社を設立したのだが、法人設立に関する役所への書類提出などは、すべてマイナンバーカードとスマートフォンを使い、オンラインで済ませたのだった(税務署に関しては税理士さんにお願いした)。

 また、個人としての税金の還付に関する通知もマイナンバーカードと紐付いているため、スマホのアプリでやってくる。いちいち、はがきを待つ必要なく、還付の金額がわかるというのは本当に便利だ。

 健康保険証も持ち歩かず、すべてマイナンバーカードにしたいところだが、大きい病院だと「マイナ保険証が受け付けられるのは1階の総合受付だけ。2階にある内科のカウンターは物理的な健康保険証しか受け付けない」なんて塩対応だったりもする。来春のマイナンバーカード機能のiPhone搭載までに、設備投資をぜひお願いしたい。

スマホだからこその安全性

 今回の日本政府とアップルのリリースをSNSにアップしたところ「スマートフォンにマイナンバーカードを内蔵させるなんて理解できない」という声が結構、飛んできた。

 マイナンバーカード自体への不信感もあれば、さらにセキュリティ面に不安のあるスマートフォンとの組み合わせに、相当、恐れを感じているのだろう。

 しかし、この業界に長くいる人間とすれば「プラスティックのカードを持ち歩くより、iPhoneに入れてしまった方が絶対に安全だ」という気がしてならない。むしろ、現金や様々なクレジットカードを持ち歩く方が、不安ではないのだろうか。

 今回のニュースで、特に多かったのが「スマホを無くしたら大変ではないか」というコメントだ。そんなもの、iPhoneであれば紛失した際は「探す」アプリを起動すれば、すぐに見つけられるではないか。取りに行けそうにない場所であれば、遠隔操作でデータを消去してしまえば良い。

 プラスティックのカードを紛失してしまったら、見つけた人の善意に期待するしかない。

 また、反応の中には「iPhoneを水没させたらどうするんだ」というヒステリックな声もあった。iPhoneはすでにiPhone 7以降から防沫、耐水、防塵性能が備わっており、ちょっとやそっと、水に落とすぐらいであれば、全く問題ない。

 ほかにも「iPhoneにマイナンバーカード機能を載せるぐらいなら、Androidに乗り換える」なんて意見もあった。

 そもそも、マイナンバーカードの内蔵に関してはAndroidのほうが先行していた。実際、Androidは2023年5月からスマホ用電子証明書を搭載できるようになっている。

 ただし、iPhoneでは電子証明書に加えて、マイナンバーカードの「券面記載事項(氏名、生年月日、住所、性別、マイナンバー、顔写真など)」も搭載できるようになる。まさにiPhoneの画面を提示することで本人確認ができるようになるというわけだ。将来的には国家資格証明書などもスマホの画面上で見せることが可能になるとしている。

 同様の機能をAndroidにも展開するようだが、対応時期について未定のようだ。

 一般的な人たちには「マイナンバーカード機能をスマートフォンに載せるメリット」がイマイチ、理解されていないのかも知れない。いまだにマイナンバーカードへの不信感があるなか、来春以降、iPhoneへの取り込みを促進するような施策が日本政府には求められるかも知れない。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。