石川温の「スマホ業界 Watch」

ソフトバンク「ペイトク」やKDDI「auマネ活プラン」の狙いは? 通信と金融の融合へ

 ソフトバンクは新料金プラン「ペイトク」を10月3日よりスタートさせる。

 データ容量が無制限、50GB、30GBという3つから選べ、スマホ決済サービス「PayPay」の支払いに対して、最大5%のポイントが付与されるという仕組みだ(データ容量が無制限、ポイント付与は月間4000ポイントが上限)。

 基本料金だけで従来プランと比較すれば、ハッキリ言って「値上げ」だ。

 しかし、この世の中で、ほとんどのモノやサービスが値上げ基調となる一方、2020年からの官製値下げによって、スマホの通信料金だけ値上げが許されないというのも変な話だ。携帯電話のネットワークを運用するには電気が必要であり、電気料金の値上げ影響をもろに受けている。各キャリアの値上げ基調は無理もないと言えるだろう。

 ペイトク無制限は、5%還元なので4000ポイント上限を受けるには、月間8万円分をPayPayで支払う必要がある。

 ソフトバンクの寺尾洋幸氏は、二人以上の世帯では、月間の平均消費支出が約29万円であり、PayPay加盟店を利用すると、約18万円の決済が可能だとしている。

 コンビニやスーパー、ファストフードやクリーニングなど、身の回りの出費をPayPayにしまくることで、8万円は不可能ではないようだ。

 ただ、ソフトバンクでは2月20日決済分まで15%還元のキャンペーンを実施するため、月額2万7000円の支払いで4000ポイントをゲットできることになる。2万7000円であれば、かなり現実的な金額かもしれない。

金融軸の拡大競争、加速へ

 今回のペイトクを受けて、スマホ業界は「金融を軸にした経済圏の拡大競争」がさらに加速した印象がある。

 9月からはKDDIが「auマネ活プラン」をスタートさせており、まさに金融と通信料金の融合での顧客獲得合戦が本格化してきたのだ。

 もちろん、ソフトバンクはKDDIがauマネ活プランを発表する相当な前からペイトクを仕込んでいた。図らずも、ほぼ同じタイミングで金融を絡めてきた戦略を2社が打ち出してきたのが興味深い。

ソフトバンクの強みは

 特にソフトバンクは、PayPayという、すでに5900万IDを抱える国民的スマホ決済サービスを軸にしてきたのが強いと言えるだろう。

 PayPayは、サービス開始当初は誰でも始められるオープンな位置づけで普及を狙ってきた。大盤振る舞いな還元キャンペーンの効果もあり、NTTドコモやauのユーザーでもPayPayを使っている人は本当に多い。

 PayPayは「ソフトバンクユーザーのためのサービス」でもなければ、あえて名前にもソフトバンクを匂わせることなく、「誰でもデビューできるスマホ決済サービス」というポジションをスタート時に貫いていた。

 一方のKDDIは「au PAY」、NTTドコモは「d払い」といったように、名前からしてauやドコモユーザーが使うスマホ決済サービスというイメージが強かった(実際はオープンなサービスだが、ドコモユーザーでd払いではなくau PAYだけを使っている人とかは珍しいのではないか)。

 もはや、通信サービスや料金プラン、端末ラインアップで他社からユーザーを奪える時代ではなくなってきている。

 かつて、ソフトバンクはiPhoneを独占的に扱うことで、NTTドコモやauからユーザーを奪ってきた。最近では「LEITZ Phone」や「BALMUDA Phone」、Xiaomiの神ジューデンなど、MNOとしては独占的にスマートフォンを扱う機種を増やすことで、差別化を図ろうとしているが、iPhoneのように他社からのユーザーを大量に獲得するまでには至っていないようだ。

 そんななか、国民に圧倒的に普及しているPayPayをフックに「ペイトク」という新しい料金プランを投下してきたことで、NTTドコモやauでPayPayを使っているユーザーが「お得になるかも」と飛びついてくる可能性は十分にありそうだ。

 最近になって、ソフトバンクは「PayPay使うならソフトバンク」というアピールに切り替えている。かつてはオープンな雰囲気を見せていたPayPayはすっかりソフトバンクのサービスと二人三脚なのだ。

auマネ活プランはいかに? 他社の動向にも注目

 一方で、ペイトクに先駆けて始まっているKDDIの「auマネ活プラン」も面白いのだが、いかんせん、トクするまでの道のりが長すぎるし、わかりづらい。

 auマネ活プランで徹底的にお得を実感するには、auの通信契約のみならず、「au PAY カード」「auじぶん銀行」「auカブコム証券」の口座を開設する必要がある。

 すでにauを契約している、あるいはいずれかの口座を持っているユーザーからすれば、かなりお得に感じる仕掛けだ。

 「auを辞めずに使い続けよう」という解約抑止、ユーザーの囲い込みには最強のプラン設計だが、他社ユーザーから見れば、ハードルが高すぎて、「クレジットカードと銀行、証券に口座を作ってauマネ活プランにしよう」とはなりにくいのではないか。

 来年から始まる新NISAを始めようという人にとっては魅力的な料金プランかも知れないが、「わかりやすくて手軽に始められる」という点においては、ソフトバンクのペイトクのほうが遥かに上手(うわて)だ。

 KDDIとソフトバンクが金融と通信料金の融合を進める中、今後、楽天モバイルとNTTドコモがどんな対抗策を打ってくるのかが注目だ。

 楽天モバイルは、グループ内に銀行や証券などを持っており、可能性を感じるのだが、いまのところ金融と通信料金のシナジーはほとんど描けていない。すでに楽天銀行が株式市場に上場し、さらに楽天証券も続くとなると、金融会社と楽天モバイルがどこまで一体的なサービスを提供できるのか、かなり不安視せざるを得ない。

 一方、NTTドコモが圧倒的に強いのは、1000万を超える発行枚数を誇るdカードGOLDだろう。年間1万1000円の会費を支払う「優良顧客」をさらに満足させ、お得に感じさせる料金プランを提供できれば、ユーザーの囲い込みにつながるのは間違いない。

 いずれにしても、金融と通信料金を絡めると「解約率が下がる」という目に見えた効果があるだけに、各社とも、メインブランドに関しては金融連携が前提になっていきそうだ。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。