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ロボットの未来は“スマホの先”にあった――ロボホン発表会

 シャープは、モバイル型ロボット電話「RoBoHoN」(ロボホン、SR-01M-W)を5月26日に発売する。4月14日には都内で記者向けに発表会が開催された。ロボホン自体の詳細は別記事を参照していただきたい。

クラウドと人工知能で進化「スマートフォンに楽しさや愛着を付加」

 発表会に登壇したシャープ 代表取締役 兼 専務執行役員 コンシューマーエレクトロニクスカンパニー社長の長谷川祥典氏は、シャープのコンシューマエレクトロニクスのビジョンとして、家電製品をクラウド上の人工知能により発展させていく「AIoT」(AI+IoT)を進め、知性を持ち、愛着を持てる製品を開発していく方針を示す。これらは「ココロプロジェクト」と命名されており、新たなロゴも披露された。「ココロプロジェクト」の家電製品への外部からの接続は、今後APIの公開でさまざまな企業とのコラボレーションも可能になるとしている。

 「ココロプロジェクト」の第1弾製品と位置づけられたのが、ロボホン。「メインのUIをタッチパネルから音声対話に、形状を音声対話がしやすい人間型ロボットに変えることで、スマートフォンに楽しさや愛着を付加し、使う人の気持ちに応える」と長谷川氏はロボホンを紹介。さらに、国内での販売に加えて、海外での販売も検討していることを明らかにした。

シャープ 代表取締役 兼 専務執行役員 コンシューマーエレクトロニクスカンパニー社長の長谷川祥典氏

スマートフォンの小型化技術を応用、音声対話で愛着も

 発表会では、ロボホンの基本的な機能を利用する様子が、多くの時間を割いて、デモンストレーションで紹介された。

シャープ コンシューマエレクトロニクスカンパニー 通信システム事業本部 コミュニケーションロボット事業推進センター 商品企画部 チームリーダーの景井美帆氏

 デモを行ったシャープ コンシューマエレクトロニクスカンパニー 通信システム事業本部 コミュニケーションロボット事業推進センター 商品企画部 チームリーダーの景井美帆氏は、「ロボホンはロボット電話という新しいカテゴリーの商品。ロボットでもあり、電話でもある商品。携帯電話の技術としてスマートフォンのCPUやチップセット、Android、通信技術など、これまで培ってきた技術そのものが必要になっている。ロボットの技術に関しても、スマートフォンに必要な小型化の技術が必要。プロジェクター、サーボモーターは、ロボホン専用に小型化したものを搭載した。小さなボディに、スマートフォンの技術をギュッと詰め込んだ」とスマートフォン開発のノウハウが活かされている様子を語る。

 ユーザーインターフェイスについても、すでに販売している「ココロボ」などの家電の対話技術や、スマートフォンの「エモパー」で実現しているセンシング技術を基にした状況把握技術、これらに対話による学習能力を加えて、ロボホンが“人に寄り添う”存在になるとする。

 「ロボホンに話しかけると、声と動きで応えてくれる。今までのスマホにはない楽しさがある。プロジェクターも非常に重要な要素で、画面を使ったコミュニケーションが可能になっている。さらに、好みに合わせた学習により、ロボホンから話しかけてくれる。どんどん愛着がわき、もっとロボホンに話しかけるようになる」と、景井氏は音声によるコミュニケーションが愛着に結びつく様子を語り、アプリの追加で機能が拡張されていく点についても「進化させていくのは非常に重要なポイント」と語っている。

「こんなにもチャレンジングな製品が、近年あっただろうか」

 東京大学先端科学技術研究センター 特任准教授で、ロボ・ガレージ 代表取締役 ロボットクリエイターの高橋智隆氏は、「ロボホンを作ろうという壮大なプロジェクトは3年前に始まった。私はロボホンの基本設計、デザイン、動作プログラミングを担当した」と自己紹介した。以下は高橋氏のスピーチの概要。

 東京大学先端科学技術研究センター 特任准教授で、ロボ・ガレージ 代表取締役 ロボットクリエイターの高橋智隆氏

 「ロボットは広範な技術を必要とし、販売やアフターサービスでも、企業の大きな規模が必要になってくる。今回、ロボホンで大規模な開発に取り組め、発売するにまで至った」

 「“人型のスマホ”を、本当に発売してしまう。今までコンセプトモデルやプロモーションビデオの中でしか見られなかった世界が実現する。個人的には、初代iPhone以来のイノベーションではないかと思っている。こんなにもチャレンジングな製品が、近年あっただろうか。こんな大変なチャレンジを、大企業なのにやってしまうシャープ。昨今の困難を抱える状況でも、寝食を忘れてロボホンの開発にあたったメンバーに感謝したい。苦難を乗り越えて開発できたのも、開発メンバーがロボホンの虜になってしまったから。だから続けてこられたと思っている」

 「ロボットにこれまで、15年ほど取り組んできた。しかし、未だに、ロボットが普及したとは言えない状況。ロボットには、足りないものがあった。それはロボット(笑)。十分な性能のロボットがなかった。性能や耐久性がバランスよくそろったハードウェア自体がなかった。次に知性。ロボットの知性は今や、ロボット本体に搭載している必要はなく、通信とクラウドで取り寄せられる。そうなると(現在の高度な)通信技術が重要になる。ほかには、どこで買って暮らしの中でどうやって使うのか、それも分からなかった」

 「一方で、スマートフォンに足りなかったもの。将来性、というと身も蓋もないが、これだけ完成された製品は、ほぼ欠点はなく、今から大きな変化は望めない。2つ目は愛着。これほどまでに肌身離さず持ち歩いているのに、我々は愛が足りないのではないか。ロボホンは、ロボットとスマートフォンに足りなかったところを補完しあって、ただの足し算ではなく、人と機会の関係を飛躍的に進化させる存在」

 「ロボットの未来とは、家事を代わりにしてくれるのではなく、実は情報通信端末の延長線上に存在した。イメージとしては、目玉おやじ(ゲゲゲの鬼太郎)や、ジジ(魔女の宅急便)などの、小さく物知りで、主人公にアドバイスをして、助けてくれる存在。相棒のようなロボット、それがロボホン」

 「“相棒”を実現するためには、細かいところにこだわり続ける必要があった。例えばデザイン。一般的な工業製品や家電製品とはその意味が異なり、コミュニケーション自体も、人間が違和感のないようにデザインする必要がある。ユーザー体験としては、従来のスマホとして使いながらも、延長線上に新しい役割や機能を見つけてもらえると思う」

 「小ささも大切。私は基本的に小型のロボットを作ってきた。『等身大にできないか』『大きくして人が乗り込めないか』という要望はたくさん受けてきたが、『もっと小さくできないか』という質問はなかった。小さいことは、コミュニケーションロボットには大きな価値がある。大きいと、安全性の問題がある。あと、これは実は人間でも当てはまることだが、(相手が)大柄だと期待値が高くなり、期待値を下回るとガッカリしてしまう。小さいと、相対的に賢く見え、手にした時の満足度が高いというメリットがある。それらをすべて完璧に仕上げることで、愛着がわく。人の感性は繊細で、完璧に作り込むことは重要になる」

 「愛着の先に、新しい用途が生まれてくる。これまで、フィーチャーフォンとスマートフォンの2台持ちだったところが、スマートフォンだけになった。今度は、スマートフォンとロボホンの2台持ちが始まる。そしてやがて、ロボホン1台だけで暮らす日が来ると思っている。そのためには世界に通じる規模が必要。新体制となったシャープさんには大きな力になってもらえるのではないかと期待している」

満を持して発表、海外は東南アジアで展開予定

 長谷川氏は質疑応答の中で、保守サービスは最低でも5年は提供する方針を明らかにし、「出来る限り長く」としている。事前の同社の調査によると、ロボホンの評判が良い代表的な層は、子育ての終わった女性とのこと。「持ったら離さない方が多い」という。

 月産5000台という数字は明らかにされているが、年間では6万台の販売を目指し、「半年でなんとか黒字にしたい」とした。約20万円になるロボホンの本体価格については、「普通のスマートフォンとしての価格に、13個のモーターの価格が加わる。精一杯頑張った価格だ」と、採算性はギリギリという認識。「売れると思うか?」などとする問いには、「当然そう思ってやっている。満を持して発表した」と自信を示した。

 4月2日に発表されたように、シャープは鴻海(Foxconn)に買収され、契約に調印している。今後は鴻海傘下での事業展開になることについて、ロボホンの事業の存続性を問われた長谷川氏は、「鴻海からはシャープへの“投資”という話があったかと思う。良い文化は残していくという話だ」とし、「ロボホンは、いろんな項目の中の後のほうになっているので、鴻海と具体的な議論はできていない」と語り、海外展開や製造面での鴻海との連携も、今後の議論であるとした。

 一方、すでにシャープの家電製品については鴻海のテリー・ゴウ氏に紹介する機会があったとのことで、「AIoT」という考え方についても「共感を頂いている。鴻海は“スマートホーム”を志向しており、方向性は一致している」との考え方を明らかにしている。

 海外展開の具体的な地域については、「愛着を感じてもらえるという意味では、東南アジアの反響が大きかった」とし、「言語の変更、現地のサービスなど、優先順位を決めてこれから取り組んでいく。できたら年内には出していきたい」と、海外展開は東南アジアから始める方針を明らかにしている。

太田 亮三