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“いろんなラッキー”で満足度向上、進化するauスマートパスとは
(2013/10/24 14:00)
KDDIは24日、コンテンツ使い放題やクーポン配信、iPhone向け補償サービスなどを組み合わせたau会員向けの「auスマートパス」を拡充すると発表した。ショッピングや旅行で、その分野の大手と協業して取り組む内容となっており、「auユーザーだけの特典」が用意されるという。
その内容は、三越伊勢丹とOrigamiとの協業、エイチ・アイ・エスや一休との協業など。それぞれの内容を紹介する記事も参照いただきたい。
進化するauスマートパス、1000万会員目指す
「auスマートパス」は、9月に800万会員に達した、月額390円の有料サービス。10月3日の冬モデル発表会では新機種やネットワークについて紹介されたが、今回の発表会は、そうしたネットワークや端末の上で利用する、いわゆる“上位レイヤー”である「auスマートパス」の進化する方向についての発表となっている。
KDDIが展開する3M戦略は、さまざまなサービス・コンテンツを用意する「マルチユース」、モバイル通信だけではなくWi-Fiや固定回線、CATVなど、どの通信ネットワークでも利用できるようにする「マルチネットワーク」、そしてテレビやタブレット、スマートフォンなど、どの機器を使ってもいい「マルチデバイス」という、“3つのM”で構成されている。auスマートパスは、そうした戦略の上で、「コンテンツ使い放題」などを目玉にスタートしたサービスだ。
既に800万会員に達し、さらには今年度中に、1000万会員を目指すと、KDDI代表取締役執行役員専務で、新規事業統括本部長の高橋 誠氏は語る。そして、そのために必要な取り組みが、今回のサービス拡充であり、ユーザーの満足度向上を図るのだという。
auスマートパス関連の取り組みについて、高橋氏は「スマートフォン時代になって、ユーザーとの接点が薄くなった。そこをぜひとも取り戻したい。しっかり原点に返って、満足してもらえるものしなければならない」と意気込む。その進化の方向としては「ますます安心」「いろんなラッキーを」「もっとタイムリーに」という3つのワードで表現。今回の発表内容は、そのうち「いろんなラッキー」にあたり、特典の充実を目指している。
“差別化要素”を育てる
国内でのスマートフォン市場は、iPhoneが大きな存在として君臨し、他メーカーではソフトウェアプラットフォームがAndroidでほぼ統一されている。Androidの登場は、世界で展開できるメーカーの立場を強め、安価に端末を開発、提供する企業の登場を促した。そして、国内メーカーのなかにはスマートフォン事業から撤退するところも出てきた。さらにはiPhoneがNTTドコモでも取り扱われるようになった。
こうした動きにより、国内3キャリアのスマートフォンは、供給するメーカーが限られ、ほぼ同等の機種が同時期に揃う傾向になった。つまり、キャリアにとっては、1つ1つの機種で違いを打ち出していたこれまでと異なり、端末ラインアップで差別化ポイントを作り上げることが難しくなっている。
そうした時代を見越して、auでは「auスマートパス」を差別化要素の1つに位置付ける。さらに、ITリテラシーの高い層にはある程度スマートフォンが普及し、これからはスマートフォンに初めて触れる層、いわゆるレイトマジョリティのスマートフォンへの乗り換えが進むという時期でもある。今回の拡充で提供される、三越伊勢丹、H.I.S.、一休との協業による特典はauスマートパス会員だからこそ、という性格を強めるものであり、なおかつ、レイトマジョリティにとって魅力ある特典になるよう配慮されたものだ。
高橋氏は「“スマパス”(auスマートパス)構想は、他社と差別化できないということで、2年半ほど前から進めてきた」と紹介。コンテンツを差別化のポイントにする方針ながら、スマートフォンではアプリが都度課金となってしまい、アプリを開発するコンテンツプロバイダにとっては、フィーチャーフォン時代ほどの収入が期待できなくなる。それでも差別化要素として、コンテンツ、サービスを掲げるauとしてはコンテンツプロバイダの積極的な参入を促進する必要があった。そこで、auスマートパスは、レベニューシェア(収益分配)型となったが、さらに会員がいない初期段階でもKDDI側がコンテンツプロバイダに対して、毎月8億円拠出して、収益の柱になるよう努力したのだという。
次は“リアル”
当初はKDDIにとっては赤字の事業だった「auスマートパス」だが、400万会員に達した頃から損益分岐点を超えて黒字化しはじめた。ただ、次の課題は「デジタルコンテンツだけでいいのか」(高橋氏)という点だった。いくら使い放題とはいえ、進化しなければユーザーに飽きられてしまう可能性がある。さらにスマートフォンを活用した動きとして、“O2O”として、オンラインとリアルを結びつける販促活動が広がりつつあった。
“いろんなラッキー”として今回提供される特典は、いずれも実店舗、施設など、リアルな場所での利用が可能。これまでもコンビニなどで使えるクーポンが配信されていたが、さらにauスマートパスがO2Oとの連携を深める施策だ。リアルな店舗・施設を運営する側にとっては、auスマートパスは送客装置として機能することになる。
「(リアルな事業者の)口説きは簡単ではない。しかしスマパスから送客するから、代わりにクーポンなどを提供して欲しいと交渉する際、先方からは『それにはいくらかかるのか』と聞かれる。ところがそれはKDDIとのレベニューシェアであり、“お金を差し上げます”という形になる」と高橋氏は語る。
KDDIの利幅が薄い、あるいは一方的に損失をこうむる形になるようにも思えるが、高橋氏は「400万会員を超えて利益が出て、それを原資にO2O方面で特典を加えていくなら、陣取り合戦を考えていくことになる。壮大なコンセプトだと、実は思っている」と吐露した。
タイムラインの強化目指す
auスマートパスのユーザーインターフェイスには、今夏から「タイムライン」と呼ばれる機能が導入された。Twitter、Facebookのような形で、最新情報がどんどん流れてくるものだ。
進化の方向の1つである「もっとタイムリーに」という点で、今回、iPhone向けに新たなアプリが提供される。プッシュ通知できなかったiPhoneでも、そのアプリをインストールすると、臨時ニュースなどが配信されれば画面上に通知が表示されるようになる。これまでは、時間限定のクーポンなどの配信は1日20件程度だったが、40~60件に増加されるとのことで、おおよそ30分に一度、“ラッキー”な特典が、タイムリーに流れてくるのだという。
今年度内には、子育て中の女性向けなど、ユーザーの属性にあわせてタイムライン上の情報をマッチングさせて配信する形にする。具体的なセグメント(分類)は検討中とのことだが、ユーザーにより合致する特典を提供できるようにして、満足度を高める。このときには、地域性も採り入れられる方向とのこと。
ビデオパス、うたパス、ブックパスは?
auにはスマパス以外にも、映像配信サービス「ビデオパス」、ラジオ風に楽曲を配信する「うたパス」、電子書籍の読み放題などを提供する「ブックパス」が用意されている。これらのサービスはあわせて200万会員(ビデオパスが100万強、うたパスが100万弱とのこと)に達しているとのことだが、こちらもサービスの改善が今後進められる。
たとえば、「ビデオパス」では現状、自宅のテレビで楽しむようなコンテンツが中心とのことで、YouTubeなどが競合となる中で、スマートフォン向けのコンテンツの拡充など「大きく変革させたい」(高橋氏)という。
「うたパス」は、新たにフィーチャーフォン時代に購入した楽曲を再ダウンロードできるようになった。KDDIでは、3キャリア対応の楽曲聴き放題サービス「KKBOX」を展開しているが、高橋氏は「日本では難しいのではないか」と分析。月額315円のうたパスは、ラジオのような聴取スタイルで、ユーザーが選曲できない。このことはレコード会社にとってプロモーションサービスとして受け止められ、より安価なサービスにできた。この価格差が大きな要因となっているという。このほか高橋氏は、NTTドコモの「dヒッツ」が急激に成長しているとして、先行者である「うたパス」のアドバンテージを保つ決意を示す。
ブックパスでも、幻冬舎と協力してオリジナル作品の配信がスタートするなど、新たな取り組みが進められている。高橋氏は「編集権はKDDIが持つ。どういうコンテンツをどう届けるかが最大のキーポイント」と述べ、今後もこだわりの姿勢を貫くとした。
無料期間は1カ月、店頭での取り組みは改善目指す
auスマートパスなどのサービスは、1カ月無料で利用できる。こうしたことを背景に、スマートフォンを購入しようとするユーザーに対して、auの店頭ではオプションサービスをなかば無理強いするかのように勧めている、という声がある。
高橋氏は「頭を悩ましてる。auスマートパス自体は解約率が低く、一度使っていただければ満足してもらえると思う。若干、雑になって販売しているケースもあるようで、解約の手段についても、きちんと丁寧に案内していくと良いモデルになると思う。カスタマーサポートの部門、営業部門ともやり合っている。改善していきたい」と述べて、サービスを開発する部署である高橋氏側から、店頭での対応の改善を図るとした。
ドコモのオープン化戦略は?
KDDIの動きに対して、NTTドコモは冬春モデル発表会で、docomo IDのキャリアフリー化、つまり、ドコモ以外のユーザーでも利用できるようにする方針を示した。
高橋氏は「auスマートパスは、完全にauユーザー向けに閉じて、差別化要素としてやっていく」と語る。ドコモの方針自体は、1つの在り方としつつ、サービス部分は他社との違いを打ち出し、auならではの部分にしていくのだという。
ただし同氏は、ドコモのサービスがauでも使えるといった表現で果たして利用が広がるのかどうか、と懐疑的な見方も示す。KDDI自身も、かつてDuogateという会社を設立して、au以外のユーザーもメールなどを利用できる環境の提供を目指した。そのサービスは「au oneメール」「au one ID」と変貌を遂げたが、うまく発展せず、メールは終了し、au one IDはauユーザー向けの「au ID」になった。こうしたことからも、ドコモの動き方とは、距離をとって見ているようだ。