次世代の触感フィードバック技術をイマージョンが解説


 イマージョンは、次世代のハプティック(触感・触覚)技術をAndroid端末で簡単に利用できるようにする「HD Integrator」を発表した。端末メーカー向けに提供され、これを利用した次世代の“HDハプティクス”搭載スマートフォンは、2012年中に登場する見込みになっている。


「HD Integrator」の概要“HDハプティクス”ではハプティック技術の使われ方を根底から覆すとした

 

 イマージョンはハプティック技術で多数の特許を保有しており、タッチ操作に対するフィードバックの技術としてスマートフォンの端末メーカーに技術やソフトウェアを提供している。イマージョンの技術とは別に、Androidではごく基本的な振動フィードバック機能が標準で搭載されているが、繊細なものや高度なもの、ダイナミック(動的)に振動・触感を生成する技術はほぼ、イマージョンの技術が用いられている。

 同社は振動を発生するデバイス(アクチュエーター)にピエゾ素子を用いたものを、次世代の“HDハプティクス”技術と位置づけており、2012年中にもスマートフォンで搭載モデルが登場する見込み。新技術を積極的に採用する日本のメーカーの端末も登場する見込みだ。一方、タブレット端末では、韓PantechがAT&T向けに提供しているタブレット端末が、アクチュエーターにピエゾ素子を採用しているという。

 すでにイマージョンの技術を採用している端末では、2011年12月の段階でサムスンやLG、富士通の「F-12C」などが挙げられていた。新たに、「ARROWS Tab LTE F-01D」では、ハプティック効果の自動生成のアルゴリズムを搭載しているほか、「MEDIAS ES N-05D」ではさらに、アクチュエーターとして採用したLRAにピーク特性のぶれを無くすオートチューン技術を組み合わせ、旧来型アクチュエーターのERMとピエゾ素子の中間の性能を実現していることも明らかにされた。

 次世代のデバイスとしてピエゾ素子を採用することで、単純な振動のオン・オフではなく、強弱や、ニュアンスまで再現するような高度な制御が可能で、ユーザーインターフェイスと連携してさまざまな場面で活用することが想定されている。例えば、コメントが多く付いているSNS上の写真を表示したときに振動が大きくなったり、重要というフラグを立てたメールがスクロールさせているリスト上に現れると、振動が強くなったりする、というもの。また、ゲームなどでは発砲や爆発といったさまざまな種類の音を触感で再現することもできる。

 ソフトウェア側でのサンプリング数が高速になっていることで、操作に対して瞬時に反応したり、タッチ操作に追従して振動の強弱やテンポを変えたりといった、高度な制御が可能になっているのも、ピエゾ素子を採用するアドバンテージになるとしている。今後はピエゾ素子を小型化する課題が残っているものの、量産化によるコスト削減のメリットは期待できるという。

 新たに発表された「HD Integrator」は、Androidにハプティック技術を自動適用できる「Integrator」を発展させたもの。同社が提供するAndroid用「TouchSense 5000 ソフトウェア」と組み合わせることで“HDハプティクス”世代の高度な制御が可能になる。メタリック、あるいはソフトといった質感に近い感覚を簡単な設定として選んで利用できるほか、加速度センサーなどと連携してジェスチャーがサポートされ、振ると同時に振動するといった、インタラクティブな利用が考えられる。また、画面上のアニメーションによる遷移などにも連携させられる。

 「HD Integrator」ではこのほか、「HDリバーブ」として、音声をハプティック効果に変換する機能を提供する。これにより、映画やゲームなどで、出力される音や残響音に応じて端末も振動するといった、ハプティック効果を生成することが可能になっている。また、「レイヤード・ハプティクス」として、複数の異なった効果を同時並行で実現することもでき、爆発と発砲といった複雑なシーンの再現も実現する。加えて、Android 4.0の端末では画面アニメーションやユーザインターフェイス、標準搭載のアプリケーションなどOSと緊密に連携したハプティック効果の提供が可能になる。


UIと連携し、より直感的なユーザー体験を担うオーディオから自動的にハプティック効果を生成できる

 

次世代の触感フィードバックで「UIの在り方を一新できる」

米イマージョン マーケティング担当 バイスプレジデントのデニス・シーハン氏(右)、イマージョンジャパン 代表取締役の小林剣護氏(左)

 22日に開催された記者向けの説明会で登壇した米イマージョン マーケティング担当 バイスプレジデントのデニス・シーハン氏は、「レスポンス型のダイナミックなエフェクトを実現でき、UIの在り方を一新できる」と、次世代のハプティック技術の可能性を語る。

 同氏は、触感などの感覚には期待感を創出するメンタルモデルがあるとし、繊細な効果が可能になるHDハプティクスにより、重要かどうか、注目すべきかどうかといった識別を、触感から得ることが可能になるというデモを紹介。「ハードウェアによる端末の差別化は困難になっており、差別化できるのはソフトウェアやユーザー体験になる」と、新たな差別化のポイントとしてハプティック技術を紹介するとともに、高級な自動車はドアを閉める音にこだわり、統一性をもたせているといったエピソードを交え、「ブランドの差別化に大きなポイントになる」とアピールした。

 また、次世代のハプティック技術は「ハプティクスそのものを再考する機会になる」とし、「これまでは操作の確認のためだった。これからは、流れるような情報伝達で、ユーザーにとってダイナミックな情報を提供する」と、触感フィードバック技術が新たなフェーズに入ることを印象付けた。同氏はまた、「これから、考えてもいなかったような体験が生み出されるだろう」と語り、少なくとも今後数年はアプリやソフトウェアでの活用や発展が中心になっていくとの見方を示している。

 イマージョンジャパン 代表取締役の小林剣護氏は、日本市場での同社の戦略を転換し、現在はスマートフォンなどモバイル分野に集中している様子を紹介した上で、富士通やNECカシオなど、日本メーカーが同技術を採用し発展させている事例を紹介。「日本市場では今後3倍の伸びを見込んでいる」と、今後同社の技術を採用した端末が急速に拡大すると予測した。また、「かなり近い将来、世界初のようなものが日本のメーカーから出てくる。テクノロジードライバーとしての日本メーカーは、積極的な姿勢を忘れていない。日本で最初に採用されたものが、メーカーを通じ世界に伸びていくような展開もできるだろう」と、日本市場に期待を寄せている様子を語った。


次世代のハプティック技術は技術そのものを再考する機会とした日本市場では採用メーカーが拡大中

 

会場のデモ展示

ジェスチャーと連携したデモ。端末を振るとマラカスが動き、音ともに触感が伝わってくる。振る勢いによって触感も変わるスター付きの重要なメールがリストの画面に現れると、振動によるフィードバックが大きくなる。その際、振動のテンポはスクロール速度に追従する
音と触感が連携するデモ。爆発や各種銃の発砲音がそれぞれ異なる触感で表現されている動画のアクションシーン。効果音が振動などの触感でも伝わってくる。触感が音や映像の一部になったような感覚
ゲームのデモ。地形の特殊なポイントや、アクションでさまざまな種類の振動が伝わってくる

 




(太田 亮三)

2012/3/22 16:11