WPC、無接点充電の「Qi」普及に向けた取り組み


Qiのロゴマーク

 無接点充電規格「Qi」の標準化を進める業界団体ワイヤレスパワーコンソーシアム(WPC)は、都内で記者会見を開催した。プレゼンテーションには、QPCの議長や会長のほか、三洋電機やNTTドコモの担当者らが登場した。

 「Qi」は、WPCが普及促進を目指している無接点充電規格。日本語では気(キ)、英語ではチーと発音する。電磁誘導方式の無接点充電規格となり、モバイル機器やデジタルカメラなどでの利用が想定される5Wクラスの小電力の規格標準化を進めている。

 WPCには、国内では三洋電機がレギュラーメンバーとして最初の会議から参加している。フィリップスやオリンパス、サムスン電子、テキサス・インスツルメンツ、Research In Motion(RIM)、ノキア、ホシデン、ロームなど現在までに世界68社が加盟しており、メンバーではないが、今年10月の展示会「CEATEC JAPAN 2010」において、ドコモがQiのロゴが入った無接点充電のデモンストレーションを行っている。

 WPCのPWG議長であるカミール・タン氏は、2008年12月の設立について振り返り、「我々は無接点充電の標準を作るために集まった。今年8月には準備段階を終了しており、コンソーシアムの立ち上げから標準化までが非常に早かった」などと語った。Qiの発表後、すでに対応製品が提供されており、今回は16のQi対応製品が紹介された。同氏によれば、2カ月前に香港でデモを行った際の倍の製品が紹介できたという。


カミール・タン氏メンノ・トレファーズ氏


 WPC会長のメンノ・トレファーズ氏は、調査会社の資料を元にして無接点充電市場は2013年に2400万台市場になるとした。こうした市場の拡大は業界標準があればこそだと述べた。

 また同氏は、「無接点充電があれば携帯電話の充電は非常に楽になる。友人の家や列車、ホテルなどあらゆるところで充電できる。業界としてさまざまなソリューションが増えることが重要だ。標準化されなければニッチな製品にしかならないが、標準化されることであらゆる家庭で商品が使いやすくなるだろう」などと語り、標準化の必要性を説いた。

 なお、WPCではQiの技術仕様を一般にも無料で公開している。メンバーになると、「Qi」のロゴが無料で使えるようになる。トレファーズ氏は5Wの充電規格について、普及拡大を優先するためコンソーシアムとして受信機のライセンス料を得るつもりはないと説明。送信機側(トランスミッター)についてパテント取得もありうるとし、「将来的にロイヤリティが発生する場合、市場参入、市場成長の妨げにならないような位置にしなければならない」と話している。

 WPCでは、無接点充電市場の拡大について、まずは充電台とスマートフォン向けのスリーブやドングルを交換用バッテリーと共に販売し、その後、充電台と携帯電話のセット販売、充電台のみの製品化、オフィスや自動車、電車、ホテルの客室など大規模システムへの展開を図りたい考え。



三洋電機の無接点充電の取り組み

遠矢氏

 三洋電機の充電システム事業部 事業部長の遠矢正一氏は、同社の無接点充電への取り組みを説明した。同氏は三洋電機について、総合家電メーカーから環境先進メーカーに変わったと話し、“エコ”の観点から無接点充電に取り組んでいるという。

 「使う機器の数だけアダプターがある。それではあまりエコではない。フラットな平面にのせるだけで充電できたらいいよね、そんなところから開発を進めてきた」そう語った遠矢氏は、こうした開発の成果を発表していく中でトレファーズ氏とフィリップスの担当者が来日し、立ち上げメンバーとして参加を要請されたとした。

 三洋電機では、WPCに参加するにあたり1つだけ条件を出したという。それは充電台に端末を置くと、接点を合わせることなく充電できる「フリーポジショニング」ということだった。電磁誘導式の無接点充電は送信コイルと受信コイルを重ね合わせる必要がある。三洋電機が開発し、ドコモがCEATECで展示した試作モデルは、充電台の上に携帯電話を置くと、送信側のコイル自動的に受信コイルの位置に移動するギミックが用意された。

 遠矢氏は、5W充電のメインターゲットは、携帯電話やスマートフォンだと語る。コイル充電の課題となる、体積と熱処理についても克服の目途がたっており、コイル自体も薄型化が可能という。三洋電機では、携帯電話にコイルを載せるスペースを用意するのではなく、携帯電話のバッテリーに受信コイルを搭載することで無接点充電を実現していく方針。発表会終了後の囲み取材の中で遠矢氏は、携帯電話などへの対応については明言を避けたが、2011年初春にも話題の製品の充電用として製品投入するとした。

 三洋電機は今後、120Wクラスのミドルパワーの無接点充電についても開発進めていく。このクラスのターゲットとなるのはノートパソコンなどになるという。同社は大型蓄電の事業部を設立しており、この事業部でより大充電が必要な自動車などへの無接点充電についても検討していく方針。



無接点充電にドコモが注文

金井氏

 今回のプレゼンテーションには、WPCのメンバーではないNTTドコモも登壇した。ドコモの移動機開発部 技術推進担当課長である金井康通氏は、無接点充電について「携帯電話に少なからずインパクトがあるもの。積極的に関わっていこうと考えている」と話した。

 携帯電話が無接点充電に対応することで、より手軽に充電が可能になるほか、機械的な摩耗が少なく、耐久性の向上につながり、防水性能も実現しやすくなるとした。金井氏はWPCの標準化によって、普及の下地ができたする一方、ドコモが導入するためには課題があるとする。

 金井氏は、WPCの技術仕様が充電の部分に規定されており、通信への干渉について考慮されていないと指摘。携帯電話が使う800~2000MHz帯の受信感度の劣化を抑えるために3GPP基準の受信感度を保って欲しいとする。こうしたドコモ側の注文は、仮にドコモが無接点充電を導入した場合、ドコモのユーザーが海外のQi対応製品で充電した場合には通信できなくなる、そんな自体を防ぎたいためだ。

 金井氏はこのほか、充電台のスイッチングコンバーターが発するノイズ放射が、400~800MHz帯を使うワンセグなどへ影響が出る可能性があるとしたほか、方位センサーなど磁器センサーやホール素子への影響を軽減するよう要請した。

 ドコモでは、WPCの規格がドコモが求める商用レベルに耐えうるものか、現在評価している段階という。商用化が可能なものと判断すれば、WPCへの参加も含め、より意見しやすい立場をとるようだ。

 発表会後、ドコモ側のこうした注文について、金井氏、三洋電機の遠矢氏に直接質問したところ、両氏ともにメーカー側がクリアできるレベルの課題とした。無接点充電を提供するためにはアンテナ位置などを若干工夫するとのことだが、端末プラットフォームの変更に合わせて実施可能とした。

 発表会では、Qi対応の無接点充電製品が並んだ。三洋電機のように送信側のコイルが移動する製品のほか、複数の送信コイルを搭載し、複数機器の充電に対応したモデルなども紹介された。



 



(津田 啓夢)

2010/12/2 17:37