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登山中の現在位置をLPWAでシェアできる「TREK TRACK」
山梨県の瑞牆山で9月1日サービス開始
2017年8月8日 14:37
博報堂アイ・スタジオは、LPWAを活用した登山者向けインフラ「TREK TRACK」を山梨県北杜市の瑞牆山(みずがきやま)にて、9月1日に開始する。
サービス利用料は1日当たり990円~。デバイスは郵送でレンタルされる。10月1日まではキャンペーン期間として、無料で提供される。
「TREK TRACK」は、登山者が専用デバイスを持ち歩くことで、登山中の位置情報をリアルタイムで記録するサービス。本人や家族などはWebサイト上から位置を確認したり、軌跡データを登山の記録として保存できる。GPSを搭載し、数分に1度データを送信する。専用デバイスの電源は単4電池2本を使用し、3~4日間の連続稼働が可能。
山岳遭難時には位置情報データを救助に活用できる。また、非常通報のための「HELP」ボタンを搭載。押すと、TREK TRACKのコールセンターから、あらかじめ登録した緊急連絡先の番号へ連絡される。緊急連絡を受けた家族などが、必要に応じて警察への 捜索願いの届出などを行う形となる。
なお、Bluetoothなど、「TREK TRACK」デバイス自体が直接スマートフォンと連携する機能は持たない。取得したログデータは、TREK TRACKのサイトにログインして、ブラウザ上で閲覧できる。グループで行動している場合、グループメンバーの位置も表示可能。ブラウザ版とは別に、登山中に位置を把握するためのアプリも用意される。アプリ版では、スマートフォン本体のGPS機能を用いて地図上の位置を表示する。
LPWAを活用、1山を8万円でカバー
「TREK TRACK」は、デバイスとゲートウェイ(基地局)との間の通信に、LPWA(Low Power Wide Area)と呼ばれる、IoT向けの無線技術を利用している。LPWAを活用したエンドユーザー向けサービスとしては、日本初の提供としている。
通信方式は920MHz帯を使用するLoRa変調方式を採用。見通しのよい場所では、1つのゲートウェイ(基地局)で半径10kmをカバーする。瑞牆山の場合、2つのゲートウェイで全山をエリア化する。
通信速度は数十kbps程度となるものの、3G基地局よりも低コストで設置可能。瑞牆山の規模なら、8万円程度の設置費用でカバーできるという。
ゲートウェイから先の通信回線として、ソラコムのLTE/3Gサービスを利用。電源は山小屋から引いたり、ソーラーパネルで発電したりしてまかなう。
当初は夏山登山向けのサービスとして、瑞牆山で展開。冬シーズンには、バックカントリースキー場にて提供される。2017年の冬シーズンには、2~3カ所での拠点展開を目指すとしている。
GPSの精度は一般的なスマートフォンと同程度となる。雪崩に巻き込まれて、3メートルの積雪がある状況でも、ある程度正確な位置把握が可能としている。
登山整備やマーケティングに活用
「TREK TRACK」を開発したのは、博報堂アイ・スタジオの川崎順平氏(事業統括、技術統括)と笹垣洋介氏(クリエイティブ責任者)を中心とした10人程度の開発チーム。
博報堂アイ・スタジオは、デジタルに特化した広告代理店として、Webやモバイルでのマーケティングや広告の企画制作を受託してきた。広告代理店の独自の発想に加え、受託制作で培ったデジタルでの知見を生かし、社会課題の解決に取り組むプラットフォームとして、「TREK TRACK」を開発したという。
「TREK TRACK」によって、突然の天候悪化や“道迷い”といった登山のリスクに備え、初心者から上級者まで、より多くの人がアウトドアを楽しめるようなサービスを目指した。
「TREK TRACK」は、登山中の多くの人の行動履歴を取得できるサービスとなる。将来的には、この行動履歴を活用した新たなサービスの提供を目指すという。川崎氏は、登山道整備や観光産業向けのマーケティングに活用できると紹介した。
登山道整備においては、「TREK TRACK」の行動履歴データを解析することで、人が滞留しやすい場所や“道迷い”が起こりやすい場所をつきとめられる。課題を踏まえた上で、よりスムーズな登山道の整備や、道迷いが起こりやすい場所に看板を設置するといった形で活用できる。
また、登山者の年齢性別、使用ルート、所要時間などの属性を把握できることから、観光産業向けのマーケティングサービスの提供が可能となる。たとえば、登山者に20~30代の男性が多い場合は、麓の温泉街などが20~30代の登山者をターゲットとしたキャンペーンを実施すれば、効果的に誘致できる。
登山のライフライン、携帯電話では不十分
発表会にはアウトドアプロデューサーの長谷部雅一氏が招かれ、登山者と遭難リスクの現状について紹介した。
長谷部氏は遭難者の多くがスマートフォン、携帯電話を所持していたが、それだけでは不十分だったと指摘。電波が不安定になりがちな登山中は、バッテリー消費も多くなり、モバイルバッテリーだけでは備えきれないという課題がある。
「TREK TRACK」はそうしたリスクに備えるために生まれた登山用デバイスだ。長谷部氏は多くのメーカーから登山用ツールが登場している状況を紹介し、「まずは日本のスタンダードが確立されてほしい」と期待を語った。
一方で、こうしたツールを使う前に、正しいアナログの知識を身につけることも重要と、長谷部氏は指摘する。地図やコンパスを使い、自分の体力の限界を知り、しっかりとした計画を立てた上で、登山用デバイスを使ってより安全な登山を楽しんでほしいとした。
【お詫びと訂正 2017/08/10 13:17】
初出時、長谷部氏のお名前を誤って記載していた箇所がありました。お詫びして訂正いたします。